Act 6
ロドリゲスの飛翔船に帰還したミコネフは、気閘を抜けて船内に入るなり、
「発進して!」
ロドリゲスは不審な表情で操舵席から振り返った。
「あいつらを待つんじゃないのか?」
「いいのよ。ここで上昇して逃げないと、フォ・リフ・クローバに飛翔船を落とされてしまうわ。あの植物の脅威がどれほどのものか知っているでしょ? かれらにはあとでわたしから分け前をわたしておくから、今は安全の確保が大事よ」
「そ、そうか……」
ロドリゲスはエンジンをアイドリングからドライブに切り替え、すぐ横に停船している長岡天神丸をおいて移動を始める。七〇メートル級の宇宙船が見る見るうちに小さくなっていった。
それを確認すると、ミコネフは取り出されたばかりのフォ・リフ・クローバの実を窓からの陽光にかざして愛おしげに見ている。
「これでどれぐらいの値打ちがあるのかしら……?」
「どれ、わしが鑑定しよう」
操船を自動に切り替えたロドリゲスが、ミコネフから手に取った実にルーペを近づける。
「大きさは申し分ないが、あとは質だな……」
「質もいいことを願ってるわ」
若返りや不老という実の効果は、LSHロボットには関係ない。ミコネフにとっての関心は、その対価しかなかった。
といっても、アルンたちのように、人間にしてもらう魔法術師を求めているわけではなかった。そんな、存在するかどうかわからぬ夢物語は追いかけない、もっと現実的な思考をもっていた。
LSHロボットが人工物である以上、メンテナンスは必要で、それには交換部品がなければならない。だがメーカーが補給部品を保証している期間は二十年がいいところで、それをすぎれば原則、修理はできない。以降、電子脳のソフトウェアも含めて、パーツを個別に揃えていくにはかなりの費用がかかる。しかもミコネフの気持ちは現状維持ではない。最新の技術を取り入れた自身へのバージョンアップを常に望んでいた。そのために、ミコネフもまた大金を必要としていた。
アルンたちとは意見が根本的にちがっていた。アルンには悪いが、この実の半分はわたしのものよ、とミコネフはつぶやく。
「こいつはだめだな……」
ロドリゲスがルーペから目をはずし、深いため息をついた。
「だめ……って、どういうことなの?」
ミコネフは動揺する。ようやく手に入れたというのに──。
「不純物が多くて、せいぜい人間二人分の量にしかならない。見てみな」
ミコネフは実をひったくりように手に取った。
「おまえさんらと分けてしまっては、たいした値段はつかんだろうよ。それでも協力はしてくれたんだ、きちんと分配はしよう」
「待って!」
レーザーカッターを取り出そうとするロドリゲスを、ミコネフは制した。
「二人分なんでしょ? だったら、ちょうどいいじゃないの。あなたが全部もらっておけばいい」
「しかしそれでは……」
「LSHロボットなんかに気遣いはしないで。昏睡状態の奥さんと人生をやり直したいんでしょ?」
ミコネフはロドリゲスの骨ばった手を取り、そっと実を握らせる。
「二人で若返って、幸せになりなさいな。船名のバルンフラワー──桔梗の花言葉は『変わらぬ愛』だったかしら?」
「…………」
思いがけないミコネフの言葉にロドリゲスの目に涙が光った。十五年前の事故からずっと意識不明でベッドに横たわったままの妻の顔が思い浮かんだ。
「ありがとうよ……」
「さて。わたしは用がなくなったので、ここで失礼するわ。後部格納室のボートはもらっていくわね」
「ああ、いいとも。そういう約束だったからな」
ミコネフは、ロドリゲスの視線を背中に受けながら操舵室から出て行った。どこへ行くのか、ロドリゲスは訊かなかった。




