Act 5
地表の温度は繁茂する植物にさえぎられて日の射さない分、さらに下がって氷点下二十五度であった。
アルンとゲイスンは、地面から生えるフォ・リフ・クローバの幹を根元から見上げる。上空から見るとわからなかったが、近くに立つと大きかった。幹の直径は一メートル、高さは七、八メートルはありそうだ。そのくせ枝は細く、垂れ下がっていた。葉は巨大な数枚が傘のようにてっぺんにあるだけだ。その葉が紫色なので、上空からは一面の紫に見えたのだが、葉の下は、幹も枝も日焼けしていない人間の肌と同じく生白い。
すぐ近くには、錆びて朽ちた小型の無人飛翔船が骨組みをさらし、まるで動物の死骸のように打ち捨てられていた。
「ロドリゲス《あのオヤジ》はこのへんだと言っていたが、どれが実の成っている木なんだ?」
ゲイスンはキョロキョロしてしまう。周囲三六〇度、どちらを向いてもフォ・リフ・クローバが生えていた。
「かぐや姫みてぇに幹が光ってる、ってのはないのかい?」
ゲイスンの軽口を無視し、アルンはロドリゲスに通信を送る。
「こちらアルン、目標の正確な位置を知りたい」
「これ以上はわからない。健闘を祈る」
素っ気ない返事だった。
「──だとよ」
アルンはゲイスンを振り返る。
「ケッ」
「だがまぁ、ここまで絞り込めたんだ。一本ずつ、根元を掘り返していこうぜ」
「しょうがねぇ、始めるか。一本目で当たりがでますように……」
二体のLSHロボットは手近なフォ・リフ・クローバの下を掘り始めた。
通常なら、根を掘るなどの危害を加えようとすると、たちまち防衛機能が発動したフォ・リフ・クローバに襲いかかられるのだが、アルンたちには秘策があった。
「さぁて、出番だぞう」
ポケットから取り出したのは、握り拳大の機械だった。円筒形で、上下に穴があいている。
アルンはそれをそばのフォ・リフ・クローバの根元に置く。するとその機械は回転し、地面を掘って潜りだした。小型の穴掘りロボットなのである。これだけ小さいと、フォ・リフ・クローバも脅威だとは感知せず、攻撃してこないという寸法なのだ。地中に潜ったロボットは「実」を発見すると根から切り取り回収する。目標となるフォ・リフ・クローバがわかってこその方法であり、だからロドリゲスの案内なしではこの方法は使えないのだった。
アルンはロボットの潜っていった穴を見つめ、朗報を待つ。どれぐらいの大きさの実を採ってくるか楽しみであった。実の大きさによってその価値は変わる。要はグラムあたりの値段なのだ。単純に重さに比例するのではなく、ダイヤモンドと同じように、大きいことによる希少性がそこにプラスされる。標準サイズで百二十万MQRだというのが相場だから、期待が膨らむというものだ。
だが浮かれてばかりもいられない。アルンが穴掘りロボットの帰りを待っている間、ゲイスンは油断なく周囲を警戒している。いつフォ・リフ・クローバが、アルンたちを敵と認識して牙をむいてくるかわからないからだ。両腕に装着されたヒートガンをいつでも撃てるように準備した。
穴掘りロボットが地中から戻ってきた。期待しながらアルンがそれを取り上げたが、実は持っていなかった。
「だめだ、ハズレ。他の木を調べる」
一回目でビンゴを当てられる確率は低いだろうと、アルンはすぐ隣のフォ・リフ・クローバに移動する。そして同じ手順で穴掘りロボットを送り込んだ。
「アルン、まだか?」
ゲイスンが背後で作業中の仲間に声をかける。経過していく時間が不安を増大させていく。このまま何事もなく仕事を完遂できればよいが……。
穴掘りは何度もやり直し、五回目を終えようとしていた。そろそろ実が見つかってもいいころだ。もっとも、ロドリゲスの見立てが確かなら──ではあるが、今さらそこを疑っても詮無い。
やきもきしながら周囲に異常はないか見張っていると──、
「ん? なんだ……?」
ゲイスンはつぶやく。なにかがフォ・リフ・クローバの森のなかからやって来るのである。目を細めて見ると、それは二体のLSHロボットで、しかも歩みよってくるそれらは、まぎれもなくアルンとゲイスンだった。着ている防寒服まで同じだった。
ゲイスンは色をなした。
「まずい、バレたようだぞ」
アルンに知らせ、二丁のヒートガンを構える。
アルンとゲイスンのコピーは、フォ・リフ・クローバが生み出したものにちがいなかった。どんな攻撃をしてくるのか、いくつかのパターンをきいてはいたが、これは想定外だった。
そのとき、
「やったぞ、ゲイスン!」
アルンが小躍りしている。片手にはフォ・リフ・クローバの実が握られていた。宝石のような結晶体で、かなりの大きさだ。
「これなら百五十万MQRもかたいぜ」
「アルン、そいつはけっこうだが、さっさとずらかろうぜ!」
ゲイスンは二丁の銃を乱射する。
コピーの二体が走り出す。ゲイスンの射撃の腕は確かだったが、直撃しても怯まない。
「なにっ!」
あっという間にコピーが目の前に至った。コピーゲイスンの拳がゲイスンの顔にヒットする。後方へ弾き飛ぶゲイスン。見て呉れは同じだが、パワーは本物以上だった。
いっぽうのアルンは、実を取り返そうとするコピーアルンの腕をかいくぐる。
そこへ救援が来た。
飛翔アタッチメントを取り付けたロボットが降下してくる。
「アルン、そいつ投げよこして!」
だがそれはワシェンゴではなかった。
「ミコネフ!」
アルンは驚いて叫ぶ。
「どうしてここに!?」
「ロドリゲスの船にいるの。詳しい話はあとよ。フォ・リフ・クローバは実を持っている対象に襲ってくるから、早くそれをよこして!」
「待て、アルン! ワシェンゴが来る手はずだろ!」
ゲイスンが反対した。
「しかし……!」
コピーはあきらめることなく実を取り返そうとする。アルンは抵抗するが、パワーにまさるコピーに圧倒されそうである。なんとか実を取られないでいたが、きわどくかわし続けるにも限度がある。
コピーのパンチに数メートル飛ばされたアルンは、ワシェンゴの到着まで待てない。
「しかたない。それ!」
空中にいるミコネフに実を放り投げた。ミコネフは見事にキャッチ。
「じゃ、ね」
ミコネフはロドリゲスの飛翔船に戻っていく。
コピーの注意がアルンとゲイスンから離れるかと思ったが、なおも攻撃してきた。
「待てよ! 実はもう持ってないんだぜ!」
予想と反するコピーの挙動にアルンは面食らう。
そこへワシェンゴが、アルンとゲイスンを回収するため降下してきた。コンパクトカーの変形ユニットを身につけ、ミコネフと入れ替わるように。
「遅れてすまぬ。機器の調整に手間取った。──む?」
だがワシェンゴは目の前の展開に瞠目する。
「アルンとゲイスンが二人とな……! 区別がつかん」
くんずほぐれつのアルンとゲイスンを前に、ワシェンゴは困惑した。




