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心夢見て宇宙《そら》を翔《ゆ》く  作者: 赤羽道夫
第2話 ベイリー・デルタの奇跡の果実
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Act 5

 地表の温度は繁茂する植物にさえぎられて日の射さない分、さらに下がって氷点下二十五度であった。

 アルンとゲイスンは、地面から生えるフォ・リフ・クローバの幹を根元から見上げる。上空から見るとわからなかったが、近くに立つと大きかった。幹の直径は一メートル、高さは七、八メートルはありそうだ。そのくせ枝は細く、垂れ下がっていた。葉は巨大な数枚が傘のようにてっぺんにあるだけだ。その葉が紫色なので、上空からは一面の紫に見えたのだが、葉の下は、幹も枝も日焼けしていない人間の肌と同じく生白い。

 すぐ近くには、錆びて朽ちた小型の無人飛翔船が骨組みをさらし、まるで動物の死骸のように打ち捨てられていた。

「ロドリゲス《あのオヤジ》はこのへんだと言っていたが、どれが実の成っている木なんだ?」

 ゲイスンはキョロキョロしてしまう。周囲三六〇度、どちらを向いてもフォ・リフ・クローバが生えていた。

「かぐや姫みてぇに幹が光ってる、ってのはないのかい?」

 ゲイスンの軽口を無視し、アルンはロドリゲスに通信を送る。

「こちらアルン、目標の正確な位置を知りたい」

「これ以上はわからない。健闘を祈る」

 素っ気ない返事だった。

「──だとよ」

 アルンはゲイスンを振り返る。

「ケッ」

「だがまぁ、ここまで絞り込めたんだ。一本ずつ、根元を掘り返していこうぜ」

「しょうがねぇ、始めるか。一本目で当たりがでますように……」

 二体のLSHロボットは手近なフォ・リフ・クローバの下を掘り始めた。

 通常なら、根を掘るなどの危害を加えようとすると、たちまち防衛機能が発動したフォ・リフ・クローバに襲いかかられるのだが、アルンたちには秘策があった。

「さぁて、出番だぞう」

 ポケットから取り出したのは、握り拳大の機械だった。円筒形で、上下に穴があいている。

 アルンはそれをそばのフォ・リフ・クローバの根元に置く。するとその機械は回転し、地面を掘って潜りだした。小型の穴掘りロボットなのである。これだけ小さいと、フォ・リフ・クローバも脅威だとは感知せず、攻撃してこないという寸法なのだ。地中に潜ったロボットは「実」を発見すると根から切り取り回収する。目標となるフォ・リフ・クローバがわかってこその方法であり、だからロドリゲスの案内なしではこの方法は使えないのだった。

 アルンはロボットの潜っていった穴を見つめ、朗報を待つ。どれぐらいの大きさの実を採ってくるか楽しみであった。実の大きさによってその価値は変わる。要はグラムあたりの値段なのだ。単純に重さに比例するのではなく、ダイヤモンドと同じように、大きいことによる希少性がそこにプラスされる。標準サイズで百二十万MQRだというのが相場だから、期待が膨らむというものだ。

 だが浮かれてばかりもいられない。アルンが穴掘りロボットの帰りを待っている間、ゲイスンは油断なく周囲を警戒している。いつフォ・リフ・クローバが、アルンたちを敵と認識して牙をむいてくるかわからないからだ。両腕に装着されたヒートガンをいつでも撃てるように準備した。

 穴掘りロボットが地中から戻ってきた。期待しながらアルンがそれを取り上げたが、実は持っていなかった。

「だめだ、ハズレ。他の木を調べる」

 一回目でビンゴを当てられる確率は低いだろうと、アルンはすぐ隣のフォ・リフ・クローバに移動する。そして同じ手順で穴掘りロボットを送り込んだ。



「アルン、まだか?」

 ゲイスンが背後で作業中の仲間に声をかける。経過していく時間が不安を増大させていく。このまま何事もなく仕事を完遂できればよいが……。

 穴掘りは何度もやり直し、五回目を終えようとしていた。そろそろ実が見つかってもいいころだ。もっとも、ロドリゲスの見立てが確かなら──ではあるが、今さらそこを疑っても詮無い。

 やきもきしながら周囲に異常はないか見張っていると──、

「ん? なんだ……?」

 ゲイスンはつぶやく。なにかがフォ・リフ・クローバの森のなかからやって来るのである。目を細めて見ると、それは二体のLSHロボットで、しかも歩みよってくるそれらは、まぎれもなくアルンとゲイスンだった。着ている防寒服まで同じだった。

 ゲイスンは色をなした。

「まずい、バレたようだぞ」

 アルンに知らせ、二丁のヒートガンを構える。

 アルンとゲイスンのコピーは、フォ・リフ・クローバが生み出したものにちがいなかった。どんな攻撃をしてくるのか、いくつかのパターンをきいてはいたが、これは想定外だった。

 そのとき、

「やったぞ、ゲイスン!」

 アルンが小躍りしている。片手にはフォ・リフ・クローバの実が握られていた。宝石のような結晶体で、かなりの大きさだ。

「これなら百五十万MQRもかたいぜ」

「アルン、そいつはけっこうだが、さっさとずらかろうぜ!」

 ゲイスンは二丁の銃を乱射する。

 コピーの二体が走り出す。ゲイスンの射撃の腕は確かだったが、直撃しても怯まない。

「なにっ!」

 あっという間にコピーが目の前に至った。コピーゲイスンの拳がゲイスンの顔にヒットする。後方へ弾き飛ぶゲイスン。見て呉れは同じだが、パワーは本物以上だった。

 いっぽうのアルンは、実を取り返そうとするコピーアルンの腕をかいくぐる。

 そこへ救援が来た。

 飛翔アタッチメントを取り付けたロボットが降下してくる。

「アルン、そいつ投げよこして!」

 だがそれはワシェンゴではなかった。

「ミコネフ!」

 アルンは驚いて叫ぶ。

「どうしてここに!?」

「ロドリゲスの船にいるの。詳しい話はあとよ。フォ・リフ・クローバは実を持っている対象に襲ってくるから、早くそれをよこして!」

「待て、アルン! ワシェンゴが来る手はずだろ!」

 ゲイスンが反対した。

「しかし……!」

 コピーはあきらめることなく実を取り返そうとする。アルンは抵抗するが、パワーにまさるコピーに圧倒されそうである。なんとか実を取られないでいたが、きわどくかわし続けるにも限度がある。

 コピーのパンチに数メートル飛ばされたアルンは、ワシェンゴの到着まで待てない。

「しかたない。それ!」

 空中にいるミコネフに実を放り投げた。ミコネフは見事にキャッチ。

「じゃ、ね」

 ミコネフはロドリゲスの飛翔船に戻っていく。

 コピーの注意がアルンとゲイスンから離れるかと思ったが、なおも攻撃してきた。

「待てよ! 実はもう持ってないんだぜ!」

 予想と反するコピーの挙動にアルンは面食らう。

 そこへワシェンゴが、アルンとゲイスンを回収するため降下してきた。コンパクトカーの変形ユニットを身につけ、ミコネフと入れ替わるように。

「遅れてすまぬ。機器の調整に手間取った。──む?」

 だがワシェンゴは目の前の展開に瞠目する。

「アルンとゲイスンが二人とな……! 区別がつかん」

 くんずほぐれつのアルンとゲイスンを前に、ワシェンゴは困惑した。


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