Act 4
ほどなくして、ミコネフの言ったとおり、アルンらLSHロボットのチームから連絡が入った。しかしミコネフから聞いてやって来たわけではないらしく、ロドリゲスの背後にミコネフの影があることに気づいていないようだった。不可解であったが、なにか事情があるのだろうと、ロドリゲスはわざわざそこに触れなかった。
「おまえさんは、あいつらといっしょには行動しないんだな?」
ロドリゲスの問いに、ミコネフはどこか楽しげな含み笑いで返した。
「そうね……。アルンとは、いろいろあったからね……」
ロドリゲスは重ねて質問したりはしなかった。気にしないことにした。
ともかく計画はスタートしたのだ。あとはどうなるか、天のみが知るだろう。
ロドリゲスは立った姿勢で操船レバーを握りつつ、下方を映すモニターを見る。老人同様、年季の入ったバルンフラワー号の船体が軋みながら大気を切り裂いて進む高度は五〇メートルほどの超低空。フォ・リフ・クローバの紫色がモニターいっぱいに流れていく。
過去、実の成った場所にはなんら共通点はなかった。季節も関係ない。そういう環境が実の成る条件ではないのだ。別の条件があるのだ。
それをロドリゲスは探していた。そして長くかかって見つけた。
ベイリー・デルタに発生している生物は、フォ・リフ・クローバだけではない。種々雑多な生物が共存していた。ただ、地表一面を覆うフォ・リフ・クローバのせいで、それ以外の生命の存在がわかりにくくなっているだけなのだ。当然ながら、それらの生き物についての研究はほとんどすすんでいない。しかしロドリゲスはそこに注目した。
ベイリー・デルタで最大の飛行生物、生息数が少なくまだ名前さえつけられていない体長三メートルほどの翼竜がいた。おそらく食物連鎖の上位にいるだろうかれらは、薄い大気の極寒の空を翔ぶために特殊な物質で体を補強していた。彼らが死んで地上に落下し、フォ・リフ・クローバの養分となったとき、取り込まれた翼竜の物質が変化し、根に蓄積されて「実」となるのだ。
それで必ずしも実ができるわけではなかったが、過去の実の採取場所を丹念に調べた結果、どの採取場所にも翼竜の遺伝子が見つかった。それ以来、翼竜の姿を追ってきた。生息数が少なく、単独行動をするかれらは寿命が長く、どこで死ぬかもわからない──これが、フォ・リフ・クローバの実の発生がランダムにみえる理由なのである。
長岡天神丸と併走を始めてから二時間が経過した。ロドリゲスの目がある一点に釘付けになる。目印が見つかった。GPSのような便利なものはこの惑星にはなく、だから特定の場所に行くのも地道に目印を探す、というやり方をせざるを得ないのだ。
以前、この場所で翼竜の死骸を発見し、いつかもう一度来られるようにと置いておいた目印は、スクラップとして廃棄されていた小型の飛翔船をただ同然の値段で譲り受け、投下したものだった。何年も前に故障した無人機だから、だれかが見つけても顧みられる心配はない。
すでに翼竜の死骸は分解され、フォ・リフ・クローバに吸収されしまったらしく跡形もなかった。
バルンフラワー号を停止させ、ロドリゲスは通信を入れる。
「ターゲットに到着した。あの墜落した無人機の周囲のフォ・リフ・クローバに実はあるはずだ」
「了解しました」
との返事。
窓から見える長岡天神丸も空中停止した。ほどなくして、二つの人影が地表へと飛び降りていった。
ロドリゲスは、地面が見えないほど密生しているフォ・リフ・クローバへと飛び込んでいくロボットたちを見つめ、澄まし顔にもどったミコネフとじっくり待つことにした。




