Act 3
予定どおりの時刻、予定どおりの軌道で、その宇宙船は降下してきた。
LSHロボットたちの乗る長岡天神丸のシルエットは、最初空の小さなシミのようなものだったが、見る見るうちに大きくなり、やがてすぐそばまで降下してきて併走飛行すると、その大きさに、擦り切れて色褪せた青いツナギを着た禿頭の老人は目を見張った。
七〇メートル級の宇宙船は、恒星間船では小型の部類に入るが、大気圏航空可能船としては旅客機なみの大きさだ。揚力を発生させる主翼はあるものの、主機関はジェット噴射だろう。
長岡天神丸に比べれば、まるで親子かと思えるほど小さな飛翔船「バルンフラワー号」の操舵室で、老人が舵を操作しながら、窓の視界を覆い尽くす距離で併走する宇宙船を物珍しげに眺めていると、通信が入った。
「こちら長岡天神丸のアルン。ロドリゲスさんですか?」
「そうだ」
老人は白い髭を生やした見た目よりも若々しい声で返答する。
「では、案内を頼みます」
「わかった。発見したら、知らせる」
「よろしくお願いします」
通話が切れる。
「これで、いいんだな?」
ロドリゲスは後ろを振り返る。
ほんの数歩で横切れる、さして広くもない操舵室の隅にたたずむ人影がうなずいた。
「そう。それでいいわ」
人影──LSHロボットが返答する。美しい造形の高級セクサロイドとおぼしきそのLSHロボットは、完璧な体型をボディスーツで包み、男を惑わすオーラでも放っているかのような瞳で微笑んで、とてもロボットとは思えない。もとはどこかの富豪がオーナーだったのだろうが、どういうわけか、いまは〝野良〟だ。名はミコネフといった。
「本当に信じてだいじょうぶなんだろうな?」
今度の仕事で協力する相手はオーナーを持たない野良ロボットだ。責任をとる人間がいないというのは、信用すべき根拠が乏しいことを意味する。不安が頭をよぎるのも当然といえた。
「アルンなら心配いらないわ。実行力はあるほうよ」
ミコネフは請け負った。が、そのミコネフも野良ときている。
「ま、ロボットだからな……」
つぶやくように言うと、ロドリゲスは操船に集中する。
一週間ほど前のことだった。いったいどこで嗅ぎつけてきたのか、ミコネフと名乗るLSHロボットからアクセスがあった。「あなたに協力したい」という申し出だった。
ロドリゲスは、惑星ベイリー・デルタのフォ・リフ・クローバの実の採取に何年も取り組んできた。そして独自の観測と研究によってその生態を解明し、ようやっとフォ・リフ・クローバの実の成る条件にたどり着いたのである。百パーセントの自信あるわけではなかったが、かなりの確率で見つけられるだろうとの感触を得た。もちろん、このことはだれにも話していないし、どんなネットメディアにも書き込んでいない。にもかかわらず、ミコネフはそれを知っていた。尋ねると、フォ・リフ・クローバの実を探してベイリー・デルタにやってくる人は多いが、あなたの行動は他の人とちがっていた、とミコネフはこたえた。それだけでわかるものなのかと追及すると、わかるのだと、ミコネフはそれ以上を語らなかった。
ロドリゲスにしても、フォ・リフ・クローバの実のありかがわかっても、採取する方法をこれから考えようとしていたところだった。大規模な資本を投入して、襲いかかるフォ・リフ・クローバを、軍隊の如く力で駆逐するやり方では肝心の実まで失われてしまい、過去にだれも成功したためしがない。これまで市場に出てきたフォ・リフ・クローバの実は、いくつもの幸運が重なって採取できたものだった。
だからわたしに任せて、というミコネフの言葉に心が動いた。なによりロドリゲスには時間がなかった。高齢のため、あと何年活動できるかわからない。もうあまりゆっくりとしてはいられないのだ。まだ体の自由がきくうちにやりとげたい。だからミコネフの話に乗った。




