Act 2
ベイリー星系第四惑星、ベイリー・デルタ。開発クラスはカテゴリーE。ほとんど未開といっていい、入植者も少ない惑星である。それでも名前がついているぐらいだから、本格的な開発が計画されている惑星だといえる。
衛星軌道上より俯瞰する惑星ベイリー・デルタの地表は、毒々しい紫色であった。海はなく、陸だけの地表全体に植物が繁茂しているのだ。
「大気組成は窒素四〇%、メタン二〇%、アンモニア十五%、二酸化炭素一〇%、酸素五%。地表大気圧〇・五atm、地表平均気温摂氏マイナス二〇度。自転周期は九・五三時間」
マーヤはベイリー・デルタの環境を確認する。
「テラフォーミングの最中ってとこかな。まだ住みやすいレベルとは言えないな」
ゲイスンが感想をもらした。この惑星に住む人間が少ないのもうなずける。完全気密された居住棟内でしか生活できないとなれば、大勢の人間は暮らせない。
「だがおれたちはLSHロボットだ。人間とちがってこんな環境下でも行動に不自由はない」
アルンは、自らの念願とは矛盾する発言をしたが、だからといって人間の肉体を持つメリットは霞まない。それは仲間たちも同じだ。生存環境の柔軟性など、とるに足らない小さなことなのだ。
「じゃあ、邪魔者に妨害されることなく、目的は達せられそうだな」
ゲイスンが陽気に言うと、
「いや、そう楽観視はできぬぞ」
ワシェンゴが重々しく口を開いた。操船をしながらも、マーヤの調べた資料に目を通していた。
そうなんです、とマーヤが説明する。
「簡単に手に入るならオークションで高値はつきません。すごく見つかりにくいので希少価値が高いんです」
「希少価値もさることながら、本来の価値は若返りと不老と精力絶倫にある。高値もつくってもんさ」
アルンがあとを受けた。
マーヤはうなずいて、
「でも問題はその植物、フォ・リフ・クローバの実がどの時期にどの環境下で成るのか、まったくのランダムだってことなんです」
「なんだ、そりゃ?」
ゲイスンはあきれた。
「それじゃ探しようがねぇ」
フォ・リフ・クローバ──四つ葉のクローバーと呼ばれているその植物は、いま、眼下に見えている紫色であった。つまり、惑星ベイリー・デルタのほぼ全域わたって繁茂しているのだ。そう聞けば、「なんだ、そんなにあるなら、見つけられるじゃないか」と、なんとかなりそうな気がするかもしれないが、広大な地表のどこを探せばよいかの手がかりがなければ、鉱脈にそって金銀を探すようにはいかない。そして、その手がかりというのが、なかった。
名前は四つ葉のクローバーだが、現物は似ても似つかぬ樹木で、実と呼ばれる部分は永久凍土に深く突き刺さる根の部分にあった。
それだけでもけっこうなハードルの高さであるが、困難はまだあった。
フォ・リフ・クローバは反撃してくるのだ。掘り返そうなどとしたら、周囲はすべて敵となって襲いかかってくる。植物だからといって油断できないのだ。フォ・リフ・クローバの実は、手に入れるのが難しい、まさに幻の一品なのである。
「こいつはやめたほうがいいんじゃないか?」
説明を聞いたゲイスンが難色を示すのも無理ない。
「ベイリー・デルタは、テラフォーミングの途中というよりも、開発しはじめたものの、フォ・リフ・クローバのせいで開発が進まないという、いわゆる不良物件のひとつだな。探す手だては考えてるんだろうな?」
試すような視線をマーヤに向ける。
「はい、もちろんです。簡単、というわけにはいかないでしょうけど」
「オークションではどれくらいの値がつきそうなのだ?」
ワシェンゴが肝心なことをぼそっと尋ねた。
「過去の記録によれば、四五〇〇万SGBで競り落とされています」
「四五〇〇万SGBか……少し過去の主要通貨だな。MQRに換算すると、百二十万──」
アルンが補足する。
「ほんとうかよ!」
ゲイスンはたまらず叫んだ。これが手に入れば、経費を差し引いても、目標金額に余裕で達する。俄然やる気も出てくるというものだ。
「自転周期は九時間半といったな。もたもたしていたら夜になっちまう」
「ということで──」
実行決定とばかりに、アルンは言った。
「マーヤの作戦でミッション・スタートだ」




