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兄弟子である王子殿下は秘密を抱える妹弟子に恋をする  作者: 岡出 れい
反旗の狼煙

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39/50

39. 決行日

その日は雲ひとつない青空だった。


普段と違うのは、セウェルス城下が賑わいをみせている事。セウェルス城に向けて並ぶ馬車の列が長く続いている事。そして慌ただしく動いている騎士団員や侍従、侍女達の姿だ。


決行日は”中央会議”だとオスカーは言った。

王が召集して行われるその会議はセウェルス内の貴族が登城するらしい。

フランドル公爵派含む全ての派閥が一同に集まるこの機会が、ティアの即位するのに最も相応しいそうだ。


そんなティアは侍女達に囲まれて支度をしている。

ローランは護衛として部屋の壁際辺りに控えながら、ティアが侍女達と言葉を交わしながら支度をしている様子を黙って眺めていた。


ローランの視界にティアの黄金色の髪が美しく結い上げられている姿が映る。

身に纏うドレスは、黒と金の糸で繊細かつ見事な模様が描かれた、燃えるような赤。首にはスチュワードが贈った妖精の石が嵌め込まれているネックレスをつけている。

ローランの色(そのすがた)を見るだけで鼓動は早くなり、耐えがたい幸福感が襲い、それが逆にローランを苦しめた。


今日が上手くいけばローランも役目を終える。

ティアが即位すればクルドヴルムとの和平が結べるだろう。オスカーが王配に…宰相に就けば、派閥間の争いを収め、腐敗した貴族や役人を一掃出来るだろう。

セウェルスの国民にとって、今日この日は忘れられない素晴らしい日となるだろう。

ローランは自分を納得させるように、何度も何度もあるべき未来を思い浮かべた。

…もちろん、そこにはローランは居ない。




「姫様!本当にお美しいです」


サラと他の侍女達が次々にあげる賞賛の声でローランは我に返った。


「殿下、口紅はいかが致しましょう」

「姫様は少し休憩します。紅茶も飲まれますので、口紅は最後で良いでしょう」


侍女の質問にサラが返した。ティアも「そうするわ」と同意する。

その時、部屋の外に控えていた侍女が入室し、エブリンの来訪を告げた。

ティアは頷くと


「久しぶりにゆっくりお話したいわ。サラ以外は退室して頂戴」


そう、侍女達に命じた。侍女達が頭を下げて退室するのと入れ替わるようにエブリンとその侍女が入室する。エブリンが連れた侍女は大きな箱を持っていた。


侍女が扉を閉めると、ティアは立ち上がってエブリンに微笑みかける。


「久しぶりね、エブリン」

「お久しぶりでございます。ティターニア様」


エブリンは優雅にカーテシーすると、連れた侍女に目配せした。


「ローラン様のお召し物をお持ち致しました」


エブリンの言葉で、エブリンが連れた侍女は恭しくティアへお辞儀した後、壁際に立つローランへ箱を差し出した。


「ありがとう」


ローランは侍女に礼を言ってその箱を受け取る。

「とんでもない事でございます」と侍女は顔を赤くしながら恐縮した。


「相変わらずでございますね」

「流石にわたくしも嫉妬するのに疲れてしまいました」


ティアとエブリンは少し呆れた顔をしながら囁きあう。

先程退室した侍女達も始めは大変だった。ローランの気持ちがティアへ集中してる事もありクルドヴルムのような事態は起きなかったが、それでも言葉を交わした侍女達は皆同じように真っ赤になるのを見ている。

平然としているのはサラくらいだろうか。サラは「姫様への愛が勝りましたから」と言っていたがティアには意味が分からなかった。


そんなティア達の視線に気付かないローランは、侍女から受け取った箱を開け、箱の中には近衛騎士の団服が納められているのを確認する。

護衛では会議会場に入れないから近衛騎士に紛れるようオスカーから指示されていた通りだ。

近衛騎士に変装するのは良いが、護衛姿をイーサンに見られている。それを指摘するとオスカーは平然と「あの方は下々の顔を覚えていないから大丈夫だ」と言った。それを聞いて呆れると共に、あの王は駄目だと強く感じたのを思い出しながら、箱の中にある団服に触れた。


(受け取ったはいいが何処で着替えようか)


スチュワードが居れば解決するが今はオスカーに付けているため呼び戻せない。ここで着替えるにしても、流石に女性の前では差し障りがあるだろう。


団服を見つめたまま動かないローランに気付いたサラが、魔法石をひとつ持って駆け寄ってきた。

サラはローランの足元に魔法石を置くと、スイッチのように魔法石を押す。

魔法石は小さく光ると、ローランの目の前に衝立が現れた。


「魔法石って便利だな」


ローランは感心すると、衝立から顔を出してサラに礼を言う。

サラはニッコリ微笑みティアの元へ下がった。


衝立の奥から服を脱ぐ音が聞こえたティアとエブリンは二人で顔が赤くなる。エブリンは耳を塞ぎながら、ティアは頬に両手をあてながらお互いを見合った。

ティアもローランが服を脱いだ姿を見たのは修行初日の一度きり。エブリンに至っては一度も無い。


「わ、私は団服をお届けする迄が役目でしたのでこれで失礼いたします。ティターニア様、ご武運をお祈り申し上げます」


エブリンは深々とカーテシーすると、ティアが挨拶する前に先程の侍女を連れて逃げるように去っていった。


「姫様。私は部屋の外で見張っておりますね」


そう言うと唯一平然としていたサラは、誰か側に居て欲しいと願うティアの思いも虚しく退室した。


ティアは衣擦れの音が聞こえる中、所在無く立っていると「手伝って」と、ローランから声が掛かった。

目を丸くしたティアは誰も居ないのに誰か居ないかとキョロキョロ辺りを見回すが、誰もいる訳が無いと顔を真っ赤にして溜息をついた。


(大丈夫、大丈夫)


自分に声援を送り衝立の前まで歩み寄ると、衝立に向かって「何を手伝えば良いの?」と声を掛ける。

衝立からローランの手が手招きしているので素直に従ってローランが招く方へ向かうと



そのままローランの胸の中へ引きずり込まれた。






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