28. 丘の上で
緩急をつけながら飛び続けるフレイにやっとの思いでついていくティアは、ローランが何故わざわざ遠回りして飛んでいるのが理解できなかった。
(風は感じられるけど、だから何なの?)
最高速度までスピードを上げたフレイの上で、舌を噛まないよう食いしばるのがやっとで目を開けてもいられない。
ローランに支えられているから大丈夫と安心しているが、これが一人だったら絶対に振り落とされるとティアは内心ゾッとした。
(髪型もスチュワードに手伝ってもらって頑張ったのに)
好きな男性の前では可愛くいたい。だが暴風ともいえる風をあびて、髪はボサボサになっているだろう。
そう思うと、理由がわからないティアはむくれてしまう。
突然スピードを緩めたフレイ。ようやくティアが目を開くと、視界に大きな城と城下町が見える。
以前丘の上から見たクルドヴルム城は豆粒のように小さかった。遠回りしていた筈なのにもう着いたのかと、ティアはフレイのスピードに驚愕した。
「風はつかめた?」
ローランの穏やかだけど低い声が耳元に響く。
「俺が居ない間にティアは随分成長したと師匠から聞いた。あとは具体的にイメージ出来ればいいって。フレイに乗れば実際に風を切るイメージがしやすいと思った…けど」
そうしてほつれてボサボサになった髪を整えるように撫でてやる。
「折角俺のために頑張ってくれたのに、ごめんな」
ティアは驚かずにはいられなかった。ティアが理解出来ないとむくれた行動には意味があり、ティアが今朝一生懸命頑張った髪型もローランは気付いてくれていた。
耐えきれずティアは身体を捩るとローランに向けて飛び付いた。
身体ごと飛び付いたので、足先は鐙から外れている。落ちたら生命が無いくらいの高度はあるが、ローランなら大丈夫。実際ローランは驚いた様子だったが身体が飛ばされないよう支えてくれた。
真正面から向き合う形になったティアはローランの両頬を包み込むと、泣き笑いのような顔で「ありがとう」と囁く。そうして、そっとローランの唇に自らの唇を寄せた。
「それは反則だって…」
そう呟きローランは手綱を離すとティアの身体を強く引き寄せた。ローランの膝の上に乗るような体制になったティアを見つめる瞳は燃えるように赤い。少し怒っているような、戸惑っているようにも見えるローランの様子にティアは微笑むと、もう一度感謝のキス贈った。
「…降りたら練習に付き合ってくれますか?」
「仰せのままに。…でもまだ足りないから、ティアを感じさせて」
そうしてフレイがあえてゆっくりとした速度で降下が完了するまでの間、ティアとローランはふたりだけの世界でお互いを感じあった。
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フレイが降り立ったのはクルドヴルムの城下町から10分位の小高い丘の上。
ローランに抱かれたままフレイから降りたティア。
降下するまでの間、ローランからの愛を一身に受けていたティアは、頭が痺れるように麻痺してしまい身体に力が入らなくなった。今も気の抜けた顔でローランに身体を預けている。
ローランはといえば、腕の中でくったりとしているティアを見て幸せそうに微笑んでいた。たまたま丘の近くに人が通る様子は無かったが、もしローランの笑みを偶々見てしまったなら、腰を抜かすか、失神する程の破壊力を持ったものだった。
ティアが復活したのは降下して30分位たってから。
「あ、あんなのは反則です」と、我を取り戻したティアは耳まで真っ赤になって取り乱している。ローランはその様子を満足気に眺めながら「可愛いかったよ」と、答えにならない答えを返してティアに怒られた。
「〜っ!ローラン!!練習を始めましょう」
プリプリ怒りながら的となる適当な材料を探し始めるティアにローランは「材料ならここにある」と、自らを指差した。
「的は本物であった方がいい」
先程までの甘い表情は消え、ローランは真顔で言う。
ティアは少し驚いた様子を見せたが、すぐに微笑みが口角にうかんだ。
「怪我をしても知りませんよ」
「いいよ。俺は大丈夫だから全力で放つといい」
ローランは不敵に笑うと自らの指を揃えて、トントンと首元を叩いた。
ティアはローランの真正面に向き直ると目を閉じて集中する。
風を切る感覚はフレイの背に乗ったお陰で理解できた。
切り裂く感覚はシリルとの訓練で自ら傷を作る事で理解している。
後はそのイメージを組み合わせて創造するだけ。
そうティアは自らの魔力を額に集中させる。
だがまだ足りない。
このままでは的に当たるか分からない。
「俺の剣技を見ただろう。思い出せ、ティア」
ローランの言葉でティアは破れんばかりに眼を見張った。
ローランがその首を一刀両断した太刀筋。
真っ直ぐ振り下ろされた剣。
(風は剣に!!切断魔法!!!)
ティアの額から鋭い鎌鼬のような風がローランに向かい一直線に放たれた。
その凝縮された風の刃がローランの首元に届く直前、ローランは剣を抜くと切断魔法をあの猪と同じように一刀両断した。
風の刃は二つに分かれて、地面に生えた草を切り裂き着弾する。
ティアはポカンとした様子で見てから、両手を額に当て破顔した。そしてその両手を高く挙げ、大きな声で喜びの声をあげた。
「や、やりましたっっ!!!」




