27. 竜の背
シリルから許可をもらった自由時間。
日頃の行いの成果か雲ひとつない青空が広がっている。
「おはようございます」
庭に出てティアをフレイに乗せる準備をしていると、背後から声が掛かった。
振り返ると、ティアは腰までの赤いジャケットに細身のズボン姿だ。また魔道具のリボンを結び、髪色と瞳を変化させている。修行姿とさほど違いはないがジャケットと同色のイヤリングが耳元で揺れている。
ローランは膝丈までの黒いジャケットを着用している。ジャケットの刺繍は全て金、ボタンやカフスは全て紫だった。髪色や瞳は変化させていない。
ローランもティアもお互いの色に気付き、双方とも顔を赤らめた。
「まるで初恋の男女みたいじゃないですか」
『初恋同士でございますよ。シリル様』
ふたりの様子を眺めていたシリルは呆れ、スチュワードは表情を変える事なくシリルに突っ込んだ。
「スチュワードはローランに似てるね」
『私がお育てした若君ですから。褒め言葉として受け取っておきます』
「ははっ、スチュワードは辛辣だね。他には優しいのに」
『そのような事は。しかしながらシリル様であれば全て解決できますのに、ただ見守られるだけなのが…』
「理解はしてるけど納得出来ないと言ったところかな?…だけど仕方ない。私は見守る事が役目だから」
お互い視線は合わせず、ふたりを見つめながら会話を続けている。
シリルとスチュワードの視線に気付いたローランはバツが悪そうに頭をガシガシ掻きながらひとつ息をつく。
「良く似合ってる」
「ローランも騎士様みたいね。とても素敵だわ」
実際騎士なんだけどな、そう思ったがローランは口に出さずにおいた。ティアはキラキラと瞳を輝かせフレイを眺めているので、早く乗せてあげようと手を差し出す。
ティアは満面の笑顔でそれに応えた。
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「すごいわ!見て、先生の家があんなに小さいわ!!」
ティアはローランの前に座っている為、ローランの腕の中にすっぽり収まっている。
竜に慣らすのもあるが、子供のようにはしゃぐティアが可愛くて、今は羽を広げてゆっくり高度を上げていた。
「あまり乗り出すなよ。危ないからな」
身体を乗り出すように周囲を眺めているティアに注意すると、少し身を捻るようにしてローランを見上げた後、何故?という風に首を傾げた。
「ローランが護ってくれるのでしょう?」
心から安心している。信頼していると、ティアの笑顔は言っている。
ただでさえ密着している状況下で、心からの笑顔を向けられてローランは頭が痺れるのを感じた。
「うん護る。絶対護るからとりあえず前向いて」
「ローラン?」
顔を背け、ティアと視線を合わさず赤い顔をして指示するローラン。何か具合でも悪いのかと、ティアはローランに近い方の手でローランに触れる。
ローランはピクリと身体を動かすと、思い切り顔を顰めた。
色々な感情と闘っている事を知らないティアはローランに顔を近付けようとするが…。
そのタイミングで顔に触れていた腕を取ったローランはティアの手首に軽く噛みつき、顔は背けたままティアに視線だけ向ける。
「ね、前を向いて。ティア」
ティアはローランが言いたい事を理解して同じように顔を真っ赤にした。ローランから手を引っ込めるとすぐに前を向く。手首を見ると噛まれたそこに薄く歯形がついていた。
ティアはそこをもう片方の手でギュッと抑えるが、恥ずかしさのあまり身が溶けそうになる。
口付けとは程遠いが、手首へのそれは
”欲望”。
「ご、ごめんなさい。ちゃんと前を向くわ」
「うん。ありがとう、ティア」
お互いの心臓が早鐘のように打ち、こんな調子で今日一日大丈夫なのか心配になった。
(ティアって小悪魔だ…)
そんなローランは生まれ持った色気をティアへ全集中させていたのだが、ローラン自身は気付いていない。
(ローランって…どうしてこんなに色っぽいの⁈)
ティアとローランは心の中でそれぞれ溜息をついた。
暫くそうしていただろうか。ふたりは無言だった。
一定の高度まで上がったフレイは今ゆっくりと羽ばたき森を迂回するように飛んでいた。
「ティア、少しスピードをあげるよ。口の中を噛まないように、きちんと閉じてて」
ティアの頭側からローランの声がした。
未だ赤いティアの頭が上下するのを確認すると、スピードをあげるよう手綱で指示を出す。
事前に言われていたとはいえ、そのスピードにティアの身体はのけぞった。するとローランの腕が伸び、ティアの身体を自分に引き寄せ密着させる。
「もう少しスピードをあげる。風を感じてみて」
ローランはそう言うと、フレイに対し更に加速するよう指示をだした。




