09 再開、ヒムロの部屋にて
『最近のヒムロ様、表情が穏やかになって笑うことも増えたのよ。』
それは友人の手紙が発端だった。
手紙を読んだライが思うことは1つ。
なんとしても見たい。
ヒムロに会いたい。
それだけである。
それだけの動機で彼女は竜車へ飛び乗った。
片道分の切符だけを持って、後先は考えずに走り出したのだ。
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「なんでいないのよーーー!」
「そりゃアポなしだとそうなるよ。」
そのうち帰ってくるんじゃない? と無責任な言葉を投げ掛けて、ランマルはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
話し相手にもなるつもりはないらしい。
「せっかく来たのに。」
不貞腐れてヒムロのベッドにダイブする。
清潔に保たれている布団からは、ヒムロの匂いはしなかった。
……ヒムロはちょっと神経質過ぎると思うのよね。
広いベッドをごろごろと転がる。
ギシリと僅かに軋む音がした。
家主のいない部屋は静かだった。
「……ヒムロ。」
ヒムロは身長伸びたかしら?
ライの身長は170を越え、ヒールを履けば悠々とヒムロの身長を追い抜く。
今日はぺたんこの靴を履いてきているが、ヒールを履いて身長を追い抜けば拗ねた顔を見せるかもしれない。
想像してみたら思った以上にキュートで、ライは笑ってしまった。
「早く帰ってこないかしら。」
ヒムロに出会ってから様々なことがあった。
今でこそ周囲の人達はライを褒めるが、変われたのはヒムロがいたからこそだ。
ヒムロが無条件に私を信じてくれて、俯いたときは手を引いて歩き、その背中で見本となって歩いてくれたからだ。
だからだろうか、どれだけ相手がヒムロで本当にいいのか? と聞かれてもピンと来ない。
ライにとってヒムロは特別で、替えの利かない唯一無二の存在だ。
きっとヒムロほど優しい人にはもう出会えないだろう。
「ヒムロが笑顔……笑顔かぁ。」
退屈で再度手紙を読み直す。
元々営業用の作り笑顔は出来ていたが、それを見せるのも稀だった。
いつも無表情な彼が周囲に愛想を振り撒く。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
ライはベッドから起き上がって、本棚を見た。
読みやすそうな冒険小説が数冊、反転属性についての考察本と五席の試練に関する本、聖典部門、天使学は存在するかなどの神秘学にまつわる本から数学書や歴史書、人体解剖書や魔獣資料集など、なにやら見てて頭の痛くなる難しそうな本が並んでいた。
何を考えているか全く分からない。
本棚を眺めていると、静かなキネヤ邸に、ばたばたと騒がしい足音が響いた。
ヒムロかと考えて、すぐにその思考を否定した。
……ヒムロがこんな騒がしく廊下を走るはずがない。
しかしその想像はドアが勢いよく開かれる音と共に否定された。
「ライ。」
そこには、ヒムロが居た。
はぁはぁと息をはずませて、走ったせいで乱れた髪をそのままに部屋の主は一歩二歩とライへ近寄った。
「ヒムロ。」
まさかヒムロだと思わなかったライは反応が遅れた。
ヒムロの珍しい姿に見惚れてしまったのもある。
いつも身だしなみを気にするヒムロが、髪が乱れるのも厭わずに自分の元へ走ってきた事実がどうしようもなく嬉しく、ライはヒムロの行動を見守った。
「ライ……。」
「…………抱き締めても、いいだろうか。」
ほんのりと色づいた頬。
どこか不安そうで、それなのに情熱的な熱量を秘める瞳。
どれもらしくなくて、だからこそどきどきする。
「うん。」
声はどこか他人行儀だ。
いつもなら、もっと笑顔で腕を広げられるのに。
ふわりと、ヒムロの香水の匂いがした。
……身長、伸びたな。
ヒムロの身長は180を越えたのだろうか。
ぼんやりそんなことを思いながら、背中へそっと手を回した。
「会いたかったわ、ヒムロ。」
「……ライ。」
「私もだ、ライ。」
とろりと、蕩けるような声だった。
甘やかでそれは誰もがきっと、心がないと言われた少年のものだとは思えないような。
たっぷりと毒を持った蜜のような甘さだった。
「私も、……っ!」
「きゃっ!」
バシッ、と。
ヒムロはライを突き飛ばした。
「あ、…………。」
「ヒムロ?」
ライはどうにかバランスをとって、よろけただけですんだ。
だがヒムロの様子が明らかにおかしい。
ライはおそるおそるヒムロへ近寄った。
「ライ、すまない。
なんでもないんだ。
……なんでもないんだ。」
まるで自分に言い聞かせるように、ヒムロはその言葉を繰り返した。
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……このまま細い首を絞めてしまったら、どんな顔をするのだろう?
何を考えているんだ、私は。
なにをかんがえているんだ。
そんなことは、あってはならないじゃないか。
ちょっとここから不穏になる。
よーし来いや!な人はこれからもよろしくね!




