07 決闘、アイビス中央広場にて
「お前か? 決闘の申請書なんてもの送り付けやがったのは!」
「教会は受け付けた。
神の名の下に正々堂々戦うと良い。」
「馬鹿馬鹿しい!
神はここ百年空席じゃあねえか!
いねぇ神に何を誓うってんだ!」
教会から派遣された立会人の顔がぴくりと歪む。
「それは違うな。空席なのは神の代行者だ。神は変わらず世界を守護している。」
「そんなもの、大した違いはないだろう!」
イライラとオズバートは捲し立てたが、背後に立っている男が何事か伝えて、勝利を確信したようににやりと笑った。
「ふん、決闘だがー、ルールでは代わりに戦う者を用意して良いんだったな?
くく、ならばお前に勝てる可能性は万が一にもないだろう!」
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「ヒムロ!」
友人から話を聞いたライはアイビス中央広場まで急いで向かった。
ヒムロは潔癖過ぎるほど完璧主義者だ、身体能力や戦闘について心配こそしていないが、相手は今まで卑怯な手を尽くしてきた相手だ。
油断ならない。
ライは髪が乱れるのも厭わず広場への階段を駆け上がった。
わぁあと歓声があがる。
どうやら決着がついたようだ。
「ひぃぃ! どういうことだ、相手は水の席だぞ! どうして勝てない、どういうことだ!」
席……?
その単語を聞いて歴史の授業を思い出す。
確か優秀な神秘術士に贈られる5つの称号、それが席だったはずだ。
オズバートは対戦相手に席持ちを用意していたことになる。
だが……。
「勉強不足だな、そいつは席持ちではない。」
「馬鹿を言うな! 席を持っていると嘘をつくものは罰が与えられる、偽物なものか!」
「いいや、水の席なんて席はない。だから水の席だと名乗っても問題は起こらないさ。」
「なっ!」
そう、席は花、陽、月、影、星の5つ。
水の席なんて席は存在しない。
「さて、まだやるのか?
私が殺しをしないと思っているなら、その評価は訂正すべきだ。
ここで降参しないのであれば、相応のことはしなくてはな。」
「やめてくれ! 俺は金で雇われただけだ!」
「貴様、騙しておいて何を……!
逃げるな! 勝てば報酬はたんまりと弾んでやる!」
「報酬? 払えるかな、今のお前に。」
ヒムロの声はいつも以上にひややかで、たった一言で相手を凍りつかせた。
「バカめ! うちの財力を忘れたか!
覚えていろ、勝つにしろ負けるにしろ貴様はーー」
「先日、空中都市ムムーの竜車隊と契約を交わした。」
それは、つまり。
「ハルカ家も共同で進めた話だ。
王都……いやこの国の移動および運搬のメインはムムーの竜車に依頼することとなる。」
彼は有利に立てる材料を失うばかりか。
「今まで弱みを握られ仕方なく従っていた者達も証言したよ。君の悪事を。」
オズバートの顔が真っ青になり、次第にその場に座り込んだ。
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報酬が貰えないと理解した自称水の席は騒ぎに紛れて逃亡し、決闘はヒムロの勝利となった。
オズバートはまだ捕まっていないが、
情報が提供された今となっては時間の問題だろう。
「まさかこんなにあっさり解決するなんて……。」
「前々からムムーとの交渉はしていたみたいだなー。準備のいいことで。」
「ツムグ!」
人のまばらになった広場で、気付けばツムグが隣にやって来ていた。
「ツムグ、ありがとう。ツムグも手を回してくれたのよね?」
「バーカ、お礼は俺よりアイツに言えよ。」
「え?」
意味が分からず首を傾げると、やれやれと言いたげな顔をされた。
なによ、やる気?
「ヒムロの奴がよりによって俺や親父さんに頭下げたんだ、頑張ったのはアイツだろ。
いやぁ、お前愛されてんな~。」
広場で教会の立会人と話すヒムロを見る。
冷たかった表情はいつものクールな無表情に戻っていた。
「行ってやれよ。」
いてもたってもいられなくなって、私はタイトなスカートの裾を破り、広場の観客席から飛び降りた。
後ろからツムグの驚く声が聞こえたが構ってられない。
「ヒムロ!」
「ライ!? 待て、私はハグは嫌いだと……そもそも今は汗が、ライ!」
助走をつけてヒムロの胸に飛び込む。
ヒムロは支えきれずに地面に倒れ込んだ。
ヒムロは最初から助けるつもりだったんだ。
助けてと、一言があればそれで。
なにが嫌われるだ、1人で勝手に怖がって馬鹿だ。
馬鹿だ、私は!
「ひむろ、」
押し倒されたせいで、いつも整えられているヒムロの髪はぐちゃぐちゃだ。
顔は涙でよく見えない。
けど、笑ってる気がした。
「好き、大好きよヒムロ。」
「ずっと傍にいて。」
ひゅ、と息を飲む音がした。
それから、仕方がないとでも言うように。
大きくな手が背中をなでた。
「当たり前だ、君は私の婚約者だからな。」
その声は、優しいものだった。




