06 涙、ヒムロの部屋にて
『この服を着て俺に会いに来るように。』
趣味が悪い。二重の意味で。
自宅に届いた荷物と添えられたカードに奥歯を噛み締める。
なんて下品な男だ。
だが逆らうことも出来ない。
家族や友人は人質のようなものだ。
苦々しい気持ちで袖を通す。
気持ち悪いほどサイズはぴったりだった。
「お嬢様……。」
ばあやが心配そうに私を見上げる。
いつの間にかばあやの身長を悠々と追い抜いてしまった。
大丈夫だと笑う元気はなかった。
鞄を引っ掛け部屋を出た。
「お嬢様、ヒムロ様から……!」
廊下からメイドの1人が慌てて駆け寄ってくる。
お嬢様が真似するからと毎回怒られて、なのにやめられないお馴染みのメイドだ。
こんなときなのに、おかしくなって小さく笑みが零れた。
「ヒムロ様が、部屋に置いている私物を引き取るようにと。」
最後までヒムロは淡々としている。
当たり前なのに、なんだか心はすかすかになった。
---
結局、オズバートの元へ行く前に、ヒムロの屋敷を訪ねることにした。
婚約は後々正式に破棄される予定で、今はまだ婚約者としてこの門をくぐることが出来る。
これで最後だと思うと、扉を開けるのがとてつもなく勿体ないことのように感じた。
このまま時間がとまってくれたらいいのにな。
「君の荷物は一ヵ所にまとめてある。」
ランマルに案内されて部屋に入った後も、ヒムロはいつも通りだった。
表情はいつも通りの無で、いつも通りに本を読んでいた。
それでもどうにか部屋の滞在時間を長引かせたくて、本の内容を聞いた。
本は神秘学のもので、3属性の火、水、土とは別に反転属性と呼ばれるものがある、とのこと。
それなりに教養は身に付けたはずなのにちんぷんかんぷんだ。
会話も途切れて、ぎこちなく私は部屋に置いていっていた本やら小物を鞄に詰め込んだ。
黙って部屋を出よう。
そう思っていたのに、ヒムロはいつもとは違った。
「君らしくない服装だな。」
私らしくない?
それはそうだ、私が選んだんじゃない。
誰が好き好んで、こんな、こんな……!!
たった一言だったのに。
悔しさからかぼろぼろと涙が瞳から溢れて頬を濡らした。
止まらなくなってしゃがみこむ。
もう行かなくちゃいけないのに。
「ライ。」
「来ないで!」
ヒムロが席を立つ音が聞こえた。
泣いてる場合じゃない、私は乱暴に目元を拭った。
「もう行かなきゃ。」
「どこへ。」
「待たせてるの」
「行くな!」
部屋を出ようとする私の腕をヒムロが掴む。
……自分は触られるの嫌いなくせに!
「ヒムロには関係ないじゃない!」
「それでも。
私はどうしても君を行かせたくない。」
「……離して、」
「駄目だ。」
珍しく怒った顔のヒムロと向き合う。
星空の瞳は真っ直ぐに私を見ていた。
「君にそんな顔をさせる男のところになど行くな!」
恥ずかしいことに、涙腺は決壊してしまった。
泣き顔なんて可愛くないから見せたくないのに。
「ライ、3日……いや1日だ。
1日でなんとかしてみせる。
だから、行かないでくれるか?」
私はヒムロの言葉に、こくりと頷いた。




