17 涙、黄金の麦畑にて
-04 ログD
この絶望を、君は理解できないだろう。
私は理解できなかった、今までの人生で。
当たり前で、だれもが持つものを持っていなかった。
壊れても、壊しても、何の感情も持たなかった。
知らないままだった。
君を愛したからこそ、君が壊れてしまう恐怖を知ったからこそ、私は自分の欠陥を理解できた。
私の狂気は君にすら矛を向ける。
けれど、それは駄目だ。
私は君を愛してしまったから、
君が壊れてしまうのは、絶望以外のなにものでもない。
私は人にはなれない、なれなかった。
化物のまま、君を愛してしまった。
だから私は、私を壊すのだ。
影、私の影。
狂気を捨てなければならない。
だがこの刹那的な興奮も、私の一要素。
私の心。私の精神。私の感情。私の欲求。
悲しいも嬉しいも愛しさも含めて、私。
美しい花たちは絶望と一緒に棺へ。
さぁ、私は死ぬのだろう。
私は君を愛したから、悲しみを覚えてしまった。
悲しみを覚えたから、自分の欠陥を痛感した。
その欠陥がなくなるのだ、喜ばしい話だ。
ライ、君は美しい。
君は私が居なくても大丈夫。
君なら誰の手をとっても、幸せになれる。
だからどうか、君を愛した化物のことは忘れて欲しい。
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「ライ・シャレット……だと。」
明らかに、冬永は……。
いや18歳の稀音家 氷室は動揺を見せた。
「なんだそれは、なんだ!
そんな、なぜ、どうして、」
氷室はふらふらと一歩二歩後ろへ下がり、どさりと地面に座り込んだ。
「それでは、殺せない」
「君がライの息子なら、殺すことは出来ない」
氷室の顔から狂気はすっかり抜け落ち、そこに残っていたのは。
「君を殺したら、ライが悲しむ。」
1人の女性を今も愛する、等身大の人間だった。
「彼女は……ライは……、
まだ私の隣にいると言うのか?
なぜ、どうして。
私は、空っぽになったのに。
君が愛した私はもういないのに、なぜ。」
男は顔を手で覆った。
泣き出しそうな声だった。
「帰りましょう、父さん。」
「……それは出来ない、
帰るならお前一人でだ、イズミ。」
父は首を横に振る。
弱々しく自分を見返す瞳は、潤んでいた。
「母さんが待ってます。」
「私はいつか人を殺してしまうぞ!」
助けてと、叫ぶような悲痛な声だった。
自信が化物だと気付いて、その罪悪感に押し潰されて死んでしまいそうな、そんな人間の叫びだった。
「そんなことにはなりません。」
「俺が止めます。」
ぽたり、涙が頬を伝って落ちた。
「…………君は母親似だな、」
「だが、駄目だ認められない。お帰りは君一人さ。ほら。」
ぱかっと間抜けな音がして、地面が開いた。
「……!? 帰りはあの扉じゃ……。」
「まさか、帰そうと思えばいつでも帰せたさ。」
男は笑みを作った。
どうやら失敗のようだ。
助けてほしいのに、我慢している顔だ。
「さよなら、泉。
短い間だが、楽しかったよ。
それじゃあ、表の私の事を……、」
「待て、お前は氷まで扱えたのか!?
待て待て待て、私は帰るつもりはー」




