16 戦い、黄金の麦畑にて
-03 ログC
それはほんの興味だった。
愛するものに殺されるとき、それはどんな色を魅せてくれるのだろうと。
殺人方法はいたって簡単だ。
麗らかな日差しに微睡む母、この急な高低差がある坂だ。
手を離すだけでいい。
それだけで、車イスはひとりでに転がり、そして……
ああ、私は狂っている。
この絶望を、私以外の誰も、知らない。
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「影の席を得たからかもしれませんよ?」
「え?」
「だって、先輩のお父さんは虚無属性神秘術の産みの親なんですよね。
なにかしらトラブルが起こって、影の席に心を落としてしまったのかもしれない、って。」
「あ、これはお兄ちゃんの受け売りなんですけど!」
「心を、落とした?」
「落としたのなら、拾えるかもしれませんね。なんて。」
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「ああ、すまない。
刺してしまった。」
黒いウサギはぴくぴくと震え、地面に転がった。
「……殺す必要はなかった。」
「すまないすまない、可愛らしくすり寄るものほど、壊したくなるんだ。」
冬永は反省など全くしていないだろう顔で、けろりと言ってのける。
「相思相愛であるほど、殺してみたくなる。
愛するものに殺される絶望は、どんなものだろうなぁ。」
「……相思相愛なら殺せないさ。」
「それはそうかな?」
「相思相愛なら、あんたのその性格もよく理解してるだろうさ。
そう簡単には殺せない。」
そう返せば冬永はきょとんと、幼い子供のような顔でこちらを見返した。
「そうか。一本とられたな。」
ケラケラ笑う姿は子供のようだ。
無邪気、そして壊れている。
それがこの冬永という男を作る要素なのだろう。
「そういえば。」
ざくざくと、森の中を歩く。
これまで空までどんよりした不思議な空間だったというのに、ここはほんのりと明るい。
「冬永と言う名前は自分でつけたのか?」
「うん? ああ、昔そう呼んだ奴がいたんだ。」
「どこぞの太陽みたいなクソッタレが言いやがったのさ。」
ボロクソな言いように少し驚く。
嫌いな人に言われた言葉を名前に?
不思議な感性だが、彼にとっては必要なことだったのかもしれない。
「それより、そら。道が開けたぞ。」
森が途切れた。
獣道と違い、舗装された歩きやすい道に出る。
「金の……麦畑。」
「ああ、どこもかしこも金色だ。」
「光は影の席である私にとって忌々しいものだが、この黄金は好ましい。」
「0と1の間に、この輝きこそ相応しいのだろうな。」
目を奪われるような、美しい景色が辺り一面に広がっている。
その金色に、なんとなく。
母を思い出した。
「さて、長いような、短かったような。
私と君の冒険ももう終局を迎える。」
「見たまえ、出口だ。あの黄金の扉を開けば、君はすぐにでも世界へ帰れる。」
黄金の道を進むと、前方に黄金の扉が現れた。
まさにここがゴールだと言わんばかりの輝きを放っている。
……胡散臭い。
「どうした、行かないのか?」
「貴方が言ったのでしょう。『私は殺されると理解した瞬間の、生きたいと言える精神が好きだと』」
「確かに。その要約するとそのようなことを言った。」
「さきほど、相思相愛であるほど、殺してみたくなるとも。」
冬永は笑っている。
「これまで仲良く横を歩いた俺に、出口という希望を与えてからなぶり殺す、それを楽しそうだと思うのが貴方だと思うが、違いますか?」
「く、ぷくく……」
手で顔を隠すが、その笑い声は徐々に大きくなる。
ひとしきり笑った後、男は明らかな営業用の笑顔を浮かべた。
「さすが、私の息子だ。」
「やはり貴方は」
「そうとも、永遠に終わらない冬が続いているようだ。そう評された、故に冬永。」
すっ、と。
男の顔から一切の表情が消えた。
「私の真の名前はキネヤ ヒムロ。その影。」
ちゃきり。
仕込み杖が抜かれる。
「人を愛したが故に絶望を得た、だから切り捨てた、一種の自殺とも言える。
私は魔物。人を殺したがる悪魔。ほんの気まぐれに、ほんの興味本意で、花を手折るように容易く、人を殺してみたくなる。」
くるりと、杖をまわす。
「そして、ふふ……なんてことだ! ここに迷い混んだのが我が息子とは!」
「ははは! ははははは! そんなの、」
「殺してみたいに決まってるじゃないか!!!」
狂気が向けられる。
その威圧に気圧されそうになる。
「……何故息子だと?」
「お前は私の顔を見てなにも思わなかったのな?」
「まるで生き写しのように顔立ちが同じじゃないか。」
刃が向けられる。
抗わなければ殺される。
ああ、これが殺意なのか。
こんなに楽しげに向けられる殺意があって、いいのか?
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「なるほど、水属性の神秘学が得意か。その年齢でそこまで使いこなせるのならさぞ親は鼻が高いだろう。……あぁ、私か!」
「実力差を理解し、戦略をたて、逃げ回るように見せて神秘術をしかける。」
「優秀だ、模範品のごとく。」
「だがお前は分かっていない。倒すつもりの攻撃と、殺すつもりの攻撃。」
「躊躇いがない分、私のほうが早い。」
冬永はよく喋る。
くるくる動き回りながら、こちらの罠を掻い潜りながら、その凶刃をこちらに向けながら。
「だが驚いたぞ。後方支援タイプに見えたが、身体能力が一段と高い。私より上の資質を持っているな、どうやらお前の母親はアクティブな方のようだ。」
「効率ばかりを気にする私のことだ、結婚相手など大人しく従順な者を娶るとばかり思っていたが……。」
「ぷくく、分からないものだな人生は。また父上の名指しで選んだ女か?」
「いいや、俺の母親はー、」




