↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンドロールは28年後に  作者: たな
イズミ編
15/19

15 宝探し 鍵のかかった部屋にて

-02 ログB


好きなものは特にない。

なかったのだ。

好きになってしまった。

君に貰った、それだけの理由で。

何故だ、私は何に、浮かれている?


---


「イズミはお母さん似なんやなぁ。」


黒渕眼鏡をかけた友人が、独特の喋り方でしみじみと呟くように言った。


「……よく言われる。」


「髪も目も、ライちゃんと同じ金色。

並ぶと姉弟みたいだぞ!」


「…………よく言われる。」


もう1人の背の小さい少年は目をキラキラと輝かせながら報告してきた。

本当に、よく言われる。


「そうでしょうか?」


真っ直ぐな、本気でそう思ってますと言うような声で。


「先輩は、お父さん似だと思いますよ?」


後輩は俺にそう言った。


---



「これまた無機質な空間に出たな。」


四方は壁に囲まれ、辺り一面には鍵が散らばっている。

2つしかない扉は一方が自分達が入ってきたもの、もう一方は鍵のかかった、進むべき扉だ。

扉は無機質で、なぞなぞのひとつもなく。

地面に転がる鍵の群れから探さなければならないのだろう。


「なに、一致する鍵をはめれば外に出られる。面倒だが単純作業な分ハードルは低いほうだぞ?」


冬永はあくまでも楽しげに、鍵を手に取った。


「なんせ難しい問題に出会って解けなければ、頭を抱えるくらいしか私には出来ん。

……ああいや、別に諦めてお前の首をはねて抱えるわけではないぞ?」


「物騒な発言はそこまでにしてくれ!」


「ははは、すまない。」


冬永は上機嫌だ。

これまで数日(現実では数時間らしい)共に過ごしたが、冬永はずっとふざけたような態度を崩さない。

何を考えているのか。


「おや、こちらの鍵はクッキー製。

こっちの鍵はおもちゃだ。」


「……お前はクッキーが好きなのか?」


「私の好きなもの?」


冬永は目を細めた。


「そりゃあ、好きなものなら沢山あるさ。

断末魔、窮鼠猫を噛む、なしのつぶて、藁にもすがる懸命さ、鬼ごっこ。

楽しいことはなんでも好きだ。」


「物騒なのは、なしにしてくれと言った。」


「そうだったか?

ははは、すまない。」



冬永の言うとおり、鍵は様々な形がある。

魚の形をしているもの、動物の形をしているもの、植物の形をしているもの。

真っ黒なものやほんのり輝いているもの。

そのどれもが外れだった。


「好きなものか……。」


冬永は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。


「もう忘れてしまったな。」


正解の鍵はシンプルなもので、たい焼きのキーホルダーがついていた。




---


「父さんが影の席を得たのは、いつですか?」


「18の時だ。」


「記憶を失ったのは?」


「18の時だな。」


カチコチ、時計の音だけが部屋に響く。

父の部屋には趣味らしいものなどなく、必要最低限なものしか置かれていない。

父は仕事に必要な書類をまとめて鞄にいれた。

視線は一切向けられることなく、世話しなくコートを羽織った。


「では、影の席の試練の際に、落としてきてしまったのですか。」


「そうかもしれない。

だが、どうでもいいことだ。」


蘭丸が父から鞄を受けとる。

使用人の1人がドアを開けた。


「記憶がなくとも私の生活に支障はない。

五体満足であり、仕事が出来る。

ならば取り返す必要などどこにもない。」


「母さんは泣いていました。」


「……彼女には、私を好きでいる必要などないと伝えてある。

上手くやってさえくれれば、他に男を作っても構わないとも。」


もう話すことはないとでも言うように部屋を出る。

その背中を追って廊下へ出た。


「貴方は仕事ばっかりだ、

効率、必要の有無ばかり優先して、母さんを屋敷に残してばかり!」


「私はこれから仕事がある。

今夜は帰らない。

彼女にもそう伝えてくれ。」


目をあわせる事すらせず、父親は一切の迷いなく家を出ていった。



「イズミ。」


優しい声にはっとする。

また俺は余計なことをしてしまったのだろうか。


「イズミ、いいのよ。

構ってくれなくても、私から行けばいいんだもの。」


「母さん……。」


それでも、母さんが悲しんでいるのを知っている。

父親は、稀音家 氷室はずっと仕事にばかり時間を割く。

というより、仕事しかしていない。

眠る必要があるときだけ家に帰ってくる。


「ヒムロも、あれで私に譲歩してくれているのよ?

潔癖性のくせに、私とはキスもハグも許容してくれるの。」


ちょっと分かりづらいけれどね。

母さんはくすくすと笑った。


「あの人は、優しいから臆病なとこがあるの。」


懐かしむような声だった。

普段とても明るい母さんも、こうして父親の話をするときは、寂しそうな顔を覗かせた。


「母さんはあの人のどこが良いんですか?」


困ったような顔で、母さんは秘密を教えるように囁いた。



「一度愛されてしまったら、

もう忘れられない。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。