15 宝探し 鍵のかかった部屋にて
-02 ログB
好きなものは特にない。
なかったのだ。
好きになってしまった。
君に貰った、それだけの理由で。
何故だ、私は何に、浮かれている?
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「イズミはお母さん似なんやなぁ。」
黒渕眼鏡をかけた友人が、独特の喋り方でしみじみと呟くように言った。
「……よく言われる。」
「髪も目も、ライちゃんと同じ金色。
並ぶと姉弟みたいだぞ!」
「…………よく言われる。」
もう1人の背の小さい少年は目をキラキラと輝かせながら報告してきた。
本当に、よく言われる。
「そうでしょうか?」
真っ直ぐな、本気でそう思ってますと言うような声で。
「先輩は、お父さん似だと思いますよ?」
後輩は俺にそう言った。
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「これまた無機質な空間に出たな。」
四方は壁に囲まれ、辺り一面には鍵が散らばっている。
2つしかない扉は一方が自分達が入ってきたもの、もう一方は鍵のかかった、進むべき扉だ。
扉は無機質で、なぞなぞのひとつもなく。
地面に転がる鍵の群れから探さなければならないのだろう。
「なに、一致する鍵をはめれば外に出られる。面倒だが単純作業な分ハードルは低いほうだぞ?」
冬永はあくまでも楽しげに、鍵を手に取った。
「なんせ難しい問題に出会って解けなければ、頭を抱えるくらいしか私には出来ん。
……ああいや、別に諦めてお前の首をはねて抱えるわけではないぞ?」
「物騒な発言はそこまでにしてくれ!」
「ははは、すまない。」
冬永は上機嫌だ。
これまで数日(現実では数時間らしい)共に過ごしたが、冬永はずっとふざけたような態度を崩さない。
何を考えているのか。
「おや、こちらの鍵はクッキー製。
こっちの鍵はおもちゃだ。」
「……お前はクッキーが好きなのか?」
「私の好きなもの?」
冬永は目を細めた。
「そりゃあ、好きなものなら沢山あるさ。
断末魔、窮鼠猫を噛む、なしのつぶて、藁にもすがる懸命さ、鬼ごっこ。
楽しいことはなんでも好きだ。」
「物騒なのは、なしにしてくれと言った。」
「そうだったか?
ははは、すまない。」
冬永の言うとおり、鍵は様々な形がある。
魚の形をしているもの、動物の形をしているもの、植物の形をしているもの。
真っ黒なものやほんのり輝いているもの。
そのどれもが外れだった。
「好きなものか……。」
冬永は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。
「もう忘れてしまったな。」
正解の鍵はシンプルなもので、たい焼きのキーホルダーがついていた。
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「父さんが影の席を得たのは、いつですか?」
「18の時だ。」
「記憶を失ったのは?」
「18の時だな。」
カチコチ、時計の音だけが部屋に響く。
父の部屋には趣味らしいものなどなく、必要最低限なものしか置かれていない。
父は仕事に必要な書類をまとめて鞄にいれた。
視線は一切向けられることなく、世話しなくコートを羽織った。
「では、影の席の試練の際に、落としてきてしまったのですか。」
「そうかもしれない。
だが、どうでもいいことだ。」
蘭丸が父から鞄を受けとる。
使用人の1人がドアを開けた。
「記憶がなくとも私の生活に支障はない。
五体満足であり、仕事が出来る。
ならば取り返す必要などどこにもない。」
「母さんは泣いていました。」
「……彼女には、私を好きでいる必要などないと伝えてある。
上手くやってさえくれれば、他に男を作っても構わないとも。」
もう話すことはないとでも言うように部屋を出る。
その背中を追って廊下へ出た。
「貴方は仕事ばっかりだ、
効率、必要の有無ばかり優先して、母さんを屋敷に残してばかり!」
「私はこれから仕事がある。
今夜は帰らない。
彼女にもそう伝えてくれ。」
目をあわせる事すらせず、父親は一切の迷いなく家を出ていった。
「イズミ。」
優しい声にはっとする。
また俺は余計なことをしてしまったのだろうか。
「イズミ、いいのよ。
構ってくれなくても、私から行けばいいんだもの。」
「母さん……。」
それでも、母さんが悲しんでいるのを知っている。
父親は、稀音家 氷室はずっと仕事にばかり時間を割く。
というより、仕事しかしていない。
眠る必要があるときだけ家に帰ってくる。
「ヒムロも、あれで私に譲歩してくれているのよ?
潔癖性のくせに、私とはキスもハグも許容してくれるの。」
ちょっと分かりづらいけれどね。
母さんはくすくすと笑った。
「あの人は、優しいから臆病なとこがあるの。」
懐かしむような声だった。
普段とても明るい母さんも、こうして父親の話をするときは、寂しそうな顔を覗かせた。
「母さんはあの人のどこが良いんですか?」
困ったような顔で、母さんは秘密を教えるように囁いた。
「一度愛されてしまったら、
もう忘れられない。」




