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魔法使い、孤児を手懐ける

 スラム街にいる孤児達の集会所に現れたガウスは孤児達を瞬殺する。すると現れた金髪の美少女。彼女の質問に対してガウスは答えた。


「私はですね」


 ガウスはそういうと、続けてヌンに説明したようにサラにも事の経緯を説明する。

 サラは何ともいえない目をしながらガウスの話を静かに耳を傾け、説明が終わると口を開いた。


『全く信じられない話だけど……さっきのあんたの実力を見たから、満更嘘じゃなさそうなのよね』

「すぐに信じてもらわなくても構いません。これからたっぷり時間を掛けて、お互いのことを知っていきましょう」

『……ちょっ! あ、あんた何言ってるのよ! それって男性が気がある女性にいうセリフじゃない! わ、わ、私みたいな女にふざけていても言っていいセリフじゃないわよ!』


 うろたえているサラに対し、ガウスは容赦なく口撃を続ける。


「ふざけている? まさか、本気に決まっているじゃないですか。あなたほどの美人の人はそうはいません。もしあなたがよろしければ、共に人生を歩みませんか?」


 サラは唖然とした表情で、動きを止めた。数瞬の後、固まっていたサラははっとなって動き出した。


『……そんないきなり言われても……まだ心の準備もできてないし……それにあなた、彼女に会うためにこの時代に来たって言ってたじゃない! 彼女のことはいいの!?』

「もちろん彼女のことは探します。しかし彼女、もとい奥さんは一人しか持ってはいけないものではないです。そして私がこの時代で探している女性は、私が多くの妻を持つことを良しと考える人なんですよ。だから彼女と会った時に、私の周りに誰も女性がいなかったら悲しむでしょう。ちなみに過去では十人ほどの妻を娶っていましたよ」

『じゅ、十人!?』

「まあ、今すぐに答えは出さなくていいですよ」

『え、あ、う……う、うん』


 サラは言葉に詰まった後、恥ずかしそうに頷いた。「(女性はああやって口説くんすね。勉強になるっす)」


 ヌンは一人存在を無視されているが、普段から無視されているヌンには平常運行だった。

 そんな照れているサラを見ながら、満面の笑みを浮かべていると、こちらに向かってくる多くの足音がガウスの耳に入ってきた。


「……おっと、なにやら大勢の集団が走ってこちらにきていますね」


 前方を見据えたガウスの言葉に、サラとヌンも同じ方向を見る。

 ほどなくして、ガウス達の目の前には鎧を着た兵士達が現れた。


『騒ぎが起きていると通報があったから来てみれば……またお前たちか!! 毎度毎度騒ぎを起こしやがって! 今日という今日はただじゃおかないからな! お前達全員牢屋にぶち込んでやる!』


 スラム街の路地に兵士の声が響き渡る。兵士の数は五人。それぞれ武器を構え、『これは脅しではないぞ』と別の兵士が叫ぶ。


「あのーすみません。わざわざ来てもらって申し訳ないですが、もう終わったんで帰ってもらって大丈夫ですよ。私が全員片付けたんで」


 ガウスは兵士の側まで歩き、ことのてん末を伝えようとするが、


『はぁー? 孤児のくせに、お前なに言ってんだ? お前も一緒に連れて行って、牢屋にぶち込むに決まっているだろ。さぁ! こっちに来い!』


 兵士は最後まで話を聞こうとせず、ガウスの手を掴もうとする。しかしガウスは華麗に兵士の腕を避け、バックステップで彼我の距離を取る。


「……私の話を最後まで聞かないで、いきなり実力行使とは。本当に街の治安を守る兵士なんですか、あなた方は。私の話を聞かないのであれば、ここから出ていってください。さもなくば……魔法を使います」

『『『『『『ハハハハハハハハハハハハハハ!!』』』』』』


 兵士達の笑い声が、路地の中に響く。


『なにを言うかと思えば魔法だって! はひー、はひー……わ、笑い過ぎて腹が痛い』

『こ、こいつ、笑いのセンスがあるなー』

『まさか、なりたくない職業ナンバーワンの魔法使いだったとはねー』

『魔法を使うってどんな魔法を使うんだよ。火種を作るショボい魔法か? それとも桶一杯分の雑巾かけ用の水を作るのかな?』

『違うって。タンスの裏に溜まったホコリを取るための風を出すんじゃないか』

『『『『『ハハハハハハハハハハハハハハ!!』』』』』

「……はぁー……」


 兵士達の笑い声を聞き、深いため息がガウスの口から漏れる。


「もう笑い済んだかな、兵士諸君。さすがの俺もお前たちの馬鹿さぶりには腹が立ったよ。相手の力量もわからない兵士はこの世界に必要はないだろう。本当はお仕置き程度に済ませてやろうと思ったが……やめた。ただの怪我じゃ済まないかもな……いくぞ!!」


 瞬時に雰囲気が変わったガウスを見て、兵士達は自分達のしたことの愚かさを痛感する。しかしそれはすでに遅かった。


「風の猛威に切り刻まれ、汝の行為に悔い改めよ! 風系統魔法、【残虐なる無刃竜巻(ブレード・トルネード)】」

『『『『『うわぁあぁあぁああああー!』』』』』


 路地の横幅いっぱいに巨大な竜巻が発生し、兵士五人を飲み込む。

 竜巻内では、鎧が刃により切り裂かれる音が鳴り響き、内部の残酷な光景が脳裏に浮かぶ。


『(す、すごい……なんだこの光景は。あれが魔法……僕も練習したら、できるようになるのかな……)』


 ハールバウは誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。他の孤児達もだいたい同じようなことをこの時考えていた。


 竜巻内部に吸い込まれた兵士達は、切り刻まれながら上空に投げ飛ばされ、遥か彼方まで飛んで行った。


「さて、邪魔者は肩ずいた。おい! 君たち! もう意識が戻ってるのはバレてるぞ」

『『「『『(ギクッ!!!)』』」』』


 孤児達は気絶したフリをするのはやめ、恐る恐るガウスに顔を向ける。

 ガウスは怯えながらも顔を上げた孤児達を見回している。

 孤児達はガタガタと恐怖から身体を揺らしながら、ガウスの次の言葉を待つ。


「君達に聞きたいことがあるんだ。場所を移動して話ができる場所に案内してくれ。あとこの街にいる君達の仲間も全員集めてくれ。いいな!?」

『は、はい! わかりました! こ、こちらにどうぞ!』


 孤児達はガウスの実力を目の当たりにし、彼我の力の差をこれ以上ないくらいに感じた。今彼らは緊張で顔が強張っている。

 リーダー格だった孤児、ハールバウが緊張のあまり声が上ずりながらも返事をする。



―――



 路地のゴミを退けると地下に通じる穴があった。そこを通り、今いる地下秘密基地に到着した。孤児達は普段はここで隠れながら生活をしているという。


 ちなみにサラは女性の孤児達と別の秘密基地で生活をしているらしい。


「全員集まったか? まずは俺のことから話すから、よーく聞け。(この話するの今日で二回目だな)」

『はい! お願いします』


 ハールバウは孤児を代表して返事をする。しかしまだその表情には恐怖が浮かんでいる。孤児達の中には震えだす者までいる。


 ガウスは先ほどサラに説明したように、自分がヌンではないこと、この時代に来た理由などを孤児達にも分かりやすく説明をした。

 サラは予定があるためこの場にはいないので、ガウスは普段通りの言葉遣いに戻っていた。


「ここまではわかったか?」

『は、はい。信じられないような話ではありますが、ガウス様がそう言うならそうなんでしょう。それにあの魔法を見た後ではガウス様の話を否定することなんてできませんよ。この時代の魔法使い、いやどんな人間でもあれほどのことはできないですから』


(こいつ青ざめた表情をしているわりに意外と冷静なヤツだな)


 ハールバウは伊達に孤児達のリーダーをしていたわけではない。冷静な判断や的確な指示ができるからこそ、このスラムの過酷な環境でリーダーとしてやってこれたのだ。


「ふむ。君はヌンと違って中々理解が早いね。とてもいいよ。それでこれからの事なんだけど、俺はどうすればいいのか途方にくれているんだ。まさか魔法使いの地位や能力がここまで堕ちているとは思ってもいなかったからね。そしてこの時代のことについても俺は全くわかっていない。そこでだ。俺の話を聞いた君達の意見を聞きたい。ヌンは君達らが知っているように馬鹿で全く使えないと思ったから、俺はわざわざここまで出向き、話をしたんだ」

『ちょっとちょっと! それどういうことっすか!? 僕だって良い案浮かびますよ! ……やっぱりなんでもないっす』


 ガウスがはるばるここまで来たのは、情報を得るためだ。子供の姿をした、ましてや孤児の姿をしているガウスでは街で情報を集めるのに苦労する。それならばまずは同じ孤児から情報を得ようと考えたのだ。


 ヌンはバカにされたことに騒ぎ出すが、何も案が浮かばないのですぐに大人しくなった。


『そういうことだったんですね。いや、本当にガウス様の事情を知っていれば、あんな馬鹿な真似はしなかったんですけどね』

「まあ、そのことは水に流そう。とにかく、俺は君達の意見を聞きたいんだ。何でもいいから聞かせてくれ」

『それじゃあまずは僕から』


 そういうと、ハールバウはまずこの国について説明をした。今いるのはマラビーラ王国の南部を代表する街の一つ、スレイザーク。現在の領主に変わってから、貧富の差が激しくなり、スラム街の人間も急速に増加しているという。


 魔法使いの現状に関しては、ヌンが話していたことと相違はなかった。


 ハールバウが説明を終えると、隣にいたゲルググが次に口を開いた。


『それなら新聞に記事を載せて、その彼女の情報を集めるっていうのはどうですか?』

「それは無理だ。この時代に生まれ変わった彼女の名前や情報は一切わからないから。ましてや、当たり前だけど前世の俺といた頃の記憶は持っていないんだ」

『そうなんですね。ちなみに彼女を見つけても彼女はガウス様のことをわからないんじゃないですか?』

「もちろん彼女は俺のことがわからないよ。だけど俺が持っている彼女の記憶を戻すことはできる。それにより、彼女は前世の記憶を取り戻し、晴れて俺と彼女はもう一度この時代で本当の再開ができるんだ」


 ガウスは胸を張りながら、孤児に説明をする。


『ほえぇー……』

「まあ、そんなことよりも、他に何かいい案はないか?」


 するとハールバウは、それならと言い、言葉を続ける。


『例えばですが、ここから少し離れた場所に学院都市があります。そこでは老若男女、学院で特定の分野を学んでいるのですが、その学院の魔法科に通い、生徒達に魔法を教えるなんてどうですか? ガウス様ほどの方であれば卒業後すぐに教師になれるでしょうし。そうすれば、魔法使いをガウス様自身で育成し、例の波長を感じることができる魔法使いを増やせるのではないでしょうか?」

「…………それだ!!!!!」


 ガウスは少し思案すると、ハールバウの意見に賛同し、ビシッと人差し指を向けた。

 有益な情報を得て、ガウスはニヤリと悪い笑みを浮かべる。


 それを見たヌンは背筋に冷たいものを覚え、とっさに距離を取る。

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