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魔法使い、今後の方針を決める

 翌朝。

 孤児の集会所である路地に、ガウスと多くの孤児達が再び集まっていた。


「再び集まってもらってすまない。俺が今後どうするかの方針が決まり、みんなにも伝えたいことがあって、わざわざ集まってもらった」

『ガウス様に呼ばれたら、何が何でも来るに決まってますよ。それで伝えたいことってなんですか?』


 ハールバウは緊張が少し解けたのか、昨日とは一変、笑顔でガウスに答えた。


「まあ、焦るな焦るな。聞くところによると君たち孤児は碌な食事もしていないみたいだね。俺もちょうどお腹が減ったから、みんなで食事にでもしよう。詳しい話は食べた後にでも話すよ」

『それはいい提案なんですが、食事をするための食材を僕たちは碌に持っていないんです。だから……そのー……』

「食材の事は気にする必要はないよ。俺が出すよ。まだ朝だけど肉でいいな。異空への扉よ、我が前に開け!空間系統魔法、【無限(インフィニティ)収納(・ストレージ)】」


 魔法を詠唱すると出現した真っ黒な空間。そこに躊躇なく手を突っ込みガウスが取り出したのは、魔物の肉や牛肉、鶏肉などなど。まるで先程捕まえて切り分けたかのように、新鮮そのものだ。

 なぜならガウスの魔法【無限収納】の中では時間が止まっている。そのため食材は、その新鮮さを損なうことがないのだ。


『『『『『おぉおおおおおおおー!!』』』』』


 天地を揺るがすのではないかと思うほどの、孤児達の歓声。


「まずは食べやすいように切る。吹きつく刃にその身を切り裂け! 風系統魔法、【風刃(ウインドカッター)】。そしていい具合に焼く。燃え盛る炎に、その身を焦がせ! 火系統魔法、【業火の火炎(ヘルファイヤー)】。……さあ、ちょうどいい感じに焼けてきたかな」


 魔法を惜しげもなく繰り出すガウス。ガウスがいた時代は普通だった光景だが、この時代では目にすることがない驚くべき光景だった。孤児達は畏怖の念を抱きながらも、ガウスの魔法から目が離せなかった。


 威力を最小限に抑えた魔法により、瞬く間に肉は食べ頃になり、辺りに香しい匂いが立ち込める。


『ガ、ガウス様……こ、こんな高級な肉、僕たちみたいな孤児が本当に食べていいんですか?』

「もちろんだとも。さあ、遠慮しないで食べるんだ。まだまだ子供なんだから遠慮なんかするな」

『こんな美味しそうな匂いがする肉、初めて見るっす! やばいっすよ、これ! 涎が止まらないっす! あっ、この身体でも涎はでるんすね』


 すでに人形の身体で一生生きていこうと気持ちを決めていたヌンは、また一つ人形の身体の神秘に気がついた。実はまだまだその人形には秘められた力があるが、それはおいおい気づくことになるだろう。


『わ、わかり……ゴクッ……ました。みんな……せーの!』

『『『『『いっただきまーす!!』』』』』


 ハールバウの掛け声で食事がスタートする。我先にと肉に群がる孤児達。その光景は肉に群がるハイエナに見える。それほど彼らにとって新鮮な肉は普段食べることができない、いや一生かけても食べれなかったかもしれない物なのだ。


『うめぇーよー! 肉汁って存在したんだな!』

『これ夢じゃないよね! 夢じゃないよね!! 頬を冷たい雫が……』

『なに泣いてんのよー! 私まで……私まで泣けてくるじゃないの……うぇーーん』

『生きててよかったー! あの時死ななくて……本当に良かった……』

『本物の肉なんて初めて食べたよ俺! 一生分食ってやる!!』


 各自思うことを口走っている。ある者は泣きながら肉を食べ、ある者は無言でひたすらに食べる。手を取り合って喜ぶ者もいた。


 彼らにとって生まれて初めてお腹いっぱい食事をする機会だった。


 それから数時間後。


『お腹いっぱいって……こんなに幸せな感覚だったんだね。私、このまま天に召されそうよ』

『うぷっ。俺……もう死んでもいいかも。けどいつかケツから食べた肉が出ると思うと……俺当分う◯こしない!』

『なに汚いこと言ってんのよ!』

『ガウス様、俺一生ついていきます』

『俺も俺も! こんな食事を食べさせてもらったんだ! 恩を返さなくちゃ孤児として名が廃るってもんよ』


 孤児たちは食事を終えると、歓喜が顔いっぱいに広がっていた。昨日までのガウスに対する恐怖の感情など何処吹く風だ。


 昨日は俺をボコボコにしようとしてたのになー、と頬をぽりぽり掻きながら、孤児達の急激な変わりようにガウスは驚く。


「このくらいの肉でそんなに喜ばれるとは……しかし感謝されるというのもやっぱり嬉しいな」


 頬をかきながら、嬉しさに表情を緩める。


「では食事も終わったし話を始めようと思う。まずこれからの方針に関してだが、魔法使いの育成と魔法使いの地位向上を二本柱として活動しようと思う。魔法使いの育成に関しては、昨日話があったように学園で魔法使いを育てる。魔法使いの地位向上に関しては冒険者活動をしようと考えている。この時代にもまだ冒険者ギルドはあるよね?」


 ガウスはハールバウの顔を見やり、質問をする。


『はい、もちろんあります。街に行けば冒険者ギルドの登録やクエストの確認・受理ができます』


 冒険者ギルドはいわば、何でも屋だ。その名の通り未知のダンジョンや魔物の討伐、身の領域への挑戦など、いわゆる冒険をする。しかしそれ以外にも、材料の採取依頼や護衛、街の見回り、家の補修など様々な依頼をこなす。


「よし、それなら大丈夫だな。今日にでも冒険者ギルドに出向き、冒険者登録をしないとな」

『しかし魔法使いの育成だけでなく、地位向上も行なっていたら、彼女さんを探すのが遅くなってしまうのではないですか?』


 ハールバウはふとした疑問をガウスに尋ねた。


「うむ、それに関してだけど、元々すぐに彼女が見つかるとは思っていなかったんだ。何十年か掛かると思っていたくらいだ。さすがにこの広大な土地で人一人を探すのは難しいだろ。だからこそ魔法が使える人や魔法使いが多く必要だ。それで行うのが魔法使いの地位向上と魔法使いの育成だ」


 ガウスは話しながらも周りの反応を見る。ヌンだけは頭にクエスションマークを浮かべているが、ガウスは話を続ける。


「魔法使いの地位を向上することにより、今よりも魔法使いになりたいと思う優秀な者が増える。その者たちに魔法を教えれば、彼女を探す駒が増える。俺の望みから遠いことをしているようで、近道をしているということだな」

『ガウス様、さらっと話してますが、話してる内容はとてつもなくぶっ飛んでますよ。今の時代の魔法使いの悪いイメージは、そう簡単に払拭できないと思います』


 この時代の魔法使いに対する悪いイメージは根強い。学校教育や宗教、家庭において、魔法使いを下にみなすような教育を行なっているのだ。物心がついた頃から教えられていたことを根底から変えることは難しい、とハールバウは考えていた。


「まあ、君達にしてみればそうかもね。しかし俺にしてみればそんなに難しくないと思っている。まぁそういうことだから、俺はこの時代の魔法使いの地位を向上し、使える魔法使いを増やしたいんだ」

『ほうほうなるへそ。……それで俺達はなにをすればいいのでしょうか?』


 ギルググは頷きながら、自分たち孤児の今後の行動について確認する。


「まずはこの街から変えていこうと思っているんだ。そのために君達の中から才能がありそうな数名に魔法を教える。そしてこの街の魔法使いの地位向上の為に働いて欲しい」

『そ、それはいいですけど……俺たちの中にそんな魔法の才能がある奴なんていますかね?』


 孤児である自分たちに魔法の才能なんてあるのか、と考えるハールバウは訝しげな表情で問いかける。


「それはおいおい探すよ。まず今日は冒険者ギルドの登録と街の散策をしようと思う。この時代の情報も、もっと得る必要があるからね。街に行くのはハールバウとギルググ、それとヌン。残りの者は、そうだな……それぞれ訓練を行っててくれ。いずれは冒険者になってもらい、魔法使いの地位向上に役立ってもらうからね。わかったかな!?」

『『『『『イエッサー!』』』』』


 孤児達はまるでどこぞの軍隊のように、一糸乱れぬ動きで敬礼をする。


「うむ、いい返事だ。それでは孤児を代表してハールバウとギルググ、あとは……ヌン。三人は一緒に街へ行くぞ」


 ヌンをみると、全く話を理解していない表情だったので、一瞬連れて行かなくてもいいかな? と考えたが一応連れて行くことにした。


『『はい!』』

『はいっす!』


 ハールバウとギルググを連れて行くのは孤児のリーダー、副リーダー的ポジションであったから。ヌンを連れて行くのはその戦闘能力からだ。ヌンの人形の身体は人の域を逸脱した身体能力を発揮する。まだそれにヌン本人は気づいていないが。


 ガウスとしては不測の事態はまず起こることはないと思ってはいるが、未知の場所に行くため、万が一に備えて戦えるヌンを連れていこうと考えた。


『私も連れて行ってちょうだい!』


 話がひと段落し、出発しようとしたその時、サラが現れた。心なしか昨日よりも一段と美しさに磨きがかかっている。少し乱れていた髪が綺麗にセットされ、薄くではあるが化粧もしている。他の孤児達と比べて来るのが遅かったのは、そういうことだ。


「もちろんですよ、サラさん。これから呼びに行こうと思っていたところですから、ちょうどよかった。それにしても今日は一段と綺麗ですね。ずっと見ていたいくらいです」

『あ、ありがとう。その……サラさんって呼び方辞めてくれない。……サラって呼んで』

「……わかりました。サラも街に行きましょう」


 ガウスはその瞳に優しい色を宿し、サラの要望に答えた。



―――



 晴れ晴れとした青空の下、路地を出てからガウス達五人は並んで歩いている。


「まずは冒険者ギルドですが、どこにあるかはご存知ですか?」

『もっちろん! 私にわからない場所なんてこの街にはないわ。まあ、入ったことはないけどね。どこの店も孤児とわかった途端に追い出されるからね』

「それは酷い。サラにそんなことをする輩がいたら、私はそいつのことを殺してしまうかもしれない」

『そんな殺すまではしなくてもいいけど……だけどそう言ってくれてありがとう。けど街に行ったらそういうことをする人達は多いわよ。まず良い目では私達は見られないわ』

「そうですか。今まで辛い目にあってきたんですね。ですがこれからは安心してください。サラは私が守りますので」

『……私、本当にあなたに頼っていいの?』

「当たり前じゃないですか。私の言葉に嘘偽りはないですよ」

『じゃ、じゃあ……頼らせてもらうわね』


 先頭を歩くガウスとサラ。その後ろには男子三人がついて行く。

 前で繰り広げられる男女の羨ましい光景に三人は居心地の悪さを感じていた。


『なんか……なんか、すっごく羨ましいっす! 僕サラさん好きだったのに……。あー、自然と涙が出るっす。……この身体、涙もちゃんと出るっすね』

『ばーか。弱虫ヌンにサラが惚れるわけないだろ。それに孤児の男子ほとんどがサラに惚れてたしな。……かく言う俺もな』

『あーそうだね。僕もついに気持ちを伝えることがなく、失恋をしてしまったか。さすがにガウス様に勝てるなんて思わないからな。潔く諦めよう』


 ハールバウ、ゲルググ、ヌンは前を歩く二人が知らぬ間に、失恋を経験し、新しい恋に向け頑張ろうと気持ちを新たにしていた。


『ところでガウス……さん』

「ガウスでいいですよ、サラ」


 三人の前方を歩くガウスとサラはなにやらぬ雰囲気を醸し出しながら会話を続けている。


『ありがとう。じゃあガウス。冒険者登録するのにお金は掛かるけど、お金は持っているの?』


 冒険者登録にはある程度の金銭が必要だ。それくらいのお金も稼げないようではギルドで出している依頼をこなすことができないため、登録するための最低ラインとして定められている。


 でなければ有象無象の輩が冒険者になり、冒険者の質が一気に低下してしまうのだ。


「そういえばそうだった。さすがサラ。いいところに気づきますね。過去の通貨なら山ほどありますが……【無限(インフィニティ)収納(・ストレージ)】。これは使えますか?」


 ガウスは小袋から数枚の通貨を取り出し、それらをサラ達に見せる。


『これって……まさか金貨! すごい……』

『えっ!? これが金貨っすか!? やばいっすね! やばいっすね!』

『僕、初めてみた……』

『うひゃーーー!』


 四人は金貨の美しい輝きにうっとりとした眼差しを向ける。


「それでこの金貨は使えるのですか?」

『もちろん使えるわ。昔のだから今とは柄が違うけど、問題なく使える。逆にこっちの方が希少性があるから価値は高いはずよ』

「そうなんですね。ちなみにこの時代だとどのくらいの価値があるんですか?」

『金貨一枚で十万ソル。私だったらこれ一枚で二、三年は暮らせるわね』


 この時代の通貨はガウスがいた過去とは変化はない。金貨一枚で十万ソル、銀貨は一万ソル、銅貨は千ソルとなり、その他に鉄でできた小銭がある。だいたい平民で一人一日百ソルほどで生活ができる。


「そうなんですね。貴重な情報をありがとうございます。そのお礼にその金貨はサラにあげますよ」

『なっ! なに言ってるのよ! こんな高価な物もらえないわよ!』

「ぜひもらってください。それに金貨は山ほど持ってますから」

『すごっ……じゃあ遠慮なく貰っておくわね』


 見るからにご機嫌になったサラ。その隣には会話を聞いていた、羨ましそうにその光景を見る少年達。


『『いいなぁー』』

『羨ましいっす!!』

「君達もいい働きをしたら金貨をあげるよ。だからサラのように俺のためになる事をしてくれたまえ」

『『『イエッサー!』』』


 まるで訓練された軍隊のように、『シュピッ』と敬礼を決める。


 孤児達が『街』と呼ぶ場所はスラムから歩いて三十分ほどで着いた。そこはスラムとは大きく変わり、街行く人々には顔に笑みが咲き、弾んだ声がそこら中に響いている。スラムとは真逆の世界だ。


 メインストリートには町の住人だけでなく、武具を身に纏った冒険者然とした者も多い。

 市場や露店で賑わう繁華街を抜け、街の中心地である冒険者通りを歩く一行。

 周りからは孤児を侮蔑するような声も聞こえる。この街では孤児の評判は良くない。盗みを働くし、汚い、臭い、と誰も近づこうとはしないのだ。


『さ、目的地に着いたわよ。ここが冒険者ギルド、スレイザーク支部よ』


 街の中心に存在する一際大きな建物。それが冒険者ギルドの建物だった。

 そんな一等地にあるのが意味するところ、それは冒険者ギルドが非常にこの街では重要な位置にあるということだ。


「ここか……思っていたよりも大きい建物だ。ではみんな中に入ろうか」


 依然としてご機嫌であるサラの声に続き、ガウスは冒険者ギルド内に入ることを彼らに促す。孤児達は少し入るのに躊躇したが、ガウスが中に入ると彼らもガウスに続いてギルド内に足を踏み入れた。


 彼らが躊躇していた理由。それは中に入るとすぐに現れた。

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