拾弐
始めは接戦だった。
邪馬台国軍も狗奴国軍も互いに譲り合わず戦線は膠着していた。
しかし次第に邪馬台国軍が押し始める。
邪馬台国軍を侮って当たった狗奴国軍に対し、イヨの下で団結力を高め、ようやく内乱が治まり平和が見えてきたことで士気が高まった邪馬台国軍では兵の強さが違った。
それでも狗奴国軍は奮戦し互いの軍に多大な損害が出た。
これ以上の損害を出せないと思ったヒコミコはついに退却命令を出した。
狗奴国軍は退却していく。
その様子を見た邪馬台国軍は歓喜の声をあげた。
カヒトのいる殿を、敗戦の兵が自国へと向かって駆けていく。
「邪馬台国もかなりの損害が出たはずだ。追ってはこないだろう。」
とカヒトは予想していた。
実際、邪馬台国軍は狗奴国軍を退けたことで歓喜の渦にあり、追撃どころではなかった。
ただ一人、将軍ミマワキを除いては。
ミマワキは狗奴国軍の退却が始まったのを見ると、周りの兵を固めて追撃を開始した。
「ここで一兵でも多く戦力を削っておきたい。」
それがミマワキの考えであろう。
ミマワキは怒涛の追撃を続け、ついにカヒトの殿にまで到達した。
カヒトは殿軍の中央でミマワキを迎え撃った。
ミマワキは殿を見ると停止した。
「この男、腕が立つ。」
カヒトを見たミマワキに本能が教える。
カヒトはミマワキに向かって叫んだ。
「私は狗奴国第五公子カヒト。邪馬台国のミマワキ将軍とお見お受けした。お手合わせ願いたい。」
「こいつがカヒトか・・・」
ミマワキは邪馬台国での会話を思い出す。
「狗奴国公子のカヒト殿は危険です。もし、戦場で会うことがあれば消していただきたい。」
ナカテの言葉を聞いてミマワキは笑う。
「カヒトといえばこの前初陣を果したばかりの若者ではないか。恐れるに足りぬ相手でしょう。」
ナカテは首を横に振る。
「この度イヨ様が王の座に着けたのもカヒト殿に因るところが大きい。味方にいれば心強いが、敵に回れば厄介です。即刻消していただきたい。」
ナカテは今や邪馬台国の官僚の一番目にあたる人物である。
ミマワキは半信半疑ながら、了承した。
「お前が噂に聞くカヒトか。俺は命によりお前を消さなきゃならんのだ。丁度いい。手合わせいたそう。」
そう言ってミマワキは大斧をかざす。
カヒトは剣を抜いた。
互いの一撃目が空中で交わる。
激しい激突音がこだまする。
二撃目、三撃目、四撃目、刃物の交わる音のみがその場に響く。
両軍の兵は二人の戦いに見入った。
狗奴国の兵は驚いた。
戦場に出たがらない臆病者と思っていたが、その剣の腕は大国の将軍にも引けをとっていない。
それでも、やはり段々とミマワキが押していく。
二人には実戦経験に歴然の差がある。
それでも必死で戦ったカヒトは、ある場所に立つと動きを止めた。
「何故動くのをやめる!」
ミマワキが叫ぶ。
「私の任務は自軍を逃がすことだ。貴方を殺すためじゃない。」
そういって合図を送る。
その瞬間、カヒトとミマワキの間に木が倒れこんできた。
そしてその木はみるみるうちに燃え盛った。
邪馬台国軍と狗奴国軍の間を、一瞬にして火の壁が塞ぐ。
戦闘中、殿軍は遊んでいたわけではない。
「また会いましょう。」
カヒトの言葉のみがミマワキには聞こえた。
ミマワキは地団駄を踏んで悔しがったが後の祭りだった。
カヒトはなんとか一命を取り留めて殿の役目をこなした。
もし、もう少しでも仕掛けの場所にたどり着くのが遅れていたら殺されていたかもしれない。
そう思って冷や汗を掻きながら、カヒトは狗奴国への道を走った。
凱旋したミマワキはイヨに戦果報告をした。
両軍とも傷は深い。数年間は戦争をするゆとりはないであろう、と。
カヒトとの一戦の話を聞いて、イヨは驚いた。
「カヒト様と一戦を交えたのですか?」
ミマワキは「カヒト『様』」?といぶかしみながらも「はい」と答えた。
「そうですか。カヒト様はお元気でしたか?」
「えぇ。しかしカヒト殿は敵の将です。討ち取れなかったことを悔しまぬのですか?」
とミマワキは訊いた。
「カヒト様は恩人です。殺してはなりませんよ。」
とイヨは言った。
イヨはカヒトが生きていることを知ってホッとした。
もう一度カヒト様に会いたいとも思った。
イヨはナカテがカヒトを殺そうとしたことを知らない。




