拾壱
進軍中の狗奴国軍は進軍をとめ、会議を行っていた。
昨日、邪馬台国を追放されたイキマとその取巻きが狗奴国軍に投降してきた。
そのため、狗奴国軍は、鮮明に邪馬台国の現状がわかった。
新女王になったイヨは兵をそのまま自軍にし、ミマトとミマワキを仲間にした。
つまり、バラバラになっていた邪馬台国軍は一兵も損なわず再びまとまったことになる。
互いに兵を消耗しあい、最後に小娘が少ない兵で自軍に当たってくるだろうという狗奴国のあては外れた。
狗奴国からみれば、イマジの策が外れたように見えるが、実際はカヒトの策が見事に成った。
そんなことを狗奴国陣営は知らない。
「イマジの策が外れた。これからどうすべきか討論したい。」
この軍の総帥であるヒコミコが言う。
「どうせ邪馬台国は長きにわたる内乱で疲弊しています。このまま進軍して滅ぼしてしまいましょう。」
ホギが言う。
いや、その場にいる者は皆そう思っていた。
カヒトを除いては。
「話に聞く上では、イヨという娘は只者ではありません。邪馬台国将軍ミマワキも健在し、イヨに力を貸しています。ここは慎重にいくべきです。」
カヒトは自分の意見を述べる。
「臆病者だな。イヨなど所詮小娘だ。臆するに足りん。ミマワキも確かに一角の将軍であるが、今まで散々戦ってきたのだ。恐れることなどない。」
ホギが強い口調で言う。
この自信家が、とカヒトは心の中で皮肉った。
結局議論の結果、このまま進軍して邪馬台国と対峙することになった。
「それならば私に殿の役目を与えてください。」
カヒトは父上に直訴した。
「よかろう。カヒトは殿を務めろ。」
とヒコミコは言った。
「本当に臆病者だな。」
とホギが皮肉っていた。
殿は軍隊を引き揚げる際、最後尾で追って来る敵を防ぐ軍である。
つまりは負け戦の時しか出番はなく、戦闘中は後軍にいて戦うことになる。
しかしカヒトはあらかじめ殿として、つまり戦争開始前から退路の確保をさせて欲しいと進言し、その言葉は受け入れられたのだ。
軍中の誰もがカヒトを臆病者と思ってもおかしくない。
それはカヒトに配属となった兵たちも同じだ。
カヒトに配属になった兵たちもカヒトを臆病者だと思った。
そんな自分配属の兵にカヒトは言った。
「殿は敵を殺すための軍ではなく、味方を生かすための軍だ。戦争においてこれほど名誉ある軍はそうそうない。」
―邪馬台国―
イヨはミマワキ率いる邪馬台国軍を見送る席にいる。
イヨは始め自分も軍を率いて行くつもりだったが、周りに止められた。
「先代のヒミコ様とて戦争に参加されたことはありません。イヨ様は国にあって、国をお守りください。」と。
「私は、先代とは違う。兵と共に国を守りたいと」
イヨはそう思ったが、それに気付いたナカテが耳打ちして静止した。
「イヨ様の姿が狗奴国に知られれば、投馬国での宴での従女だとバレてしまいます。そうなれば、狗奴国でのカヒト殿の立場がなくなってしまう。」
この言葉でイヨは自ら兵を率いることを諦めた。
ナカテは不安に思っていた。
「カヒト殿が狗奴国を勝たせる気でいれば、ミマワキ殿では到底太刀打ちできない。」
ナカテはカヒトが戦場より一歩退いたところにいることを知らない。
将軍ミマワキ以下、兵たちは進軍を開始した。
今までの内乱とは違い、国を守る戦いである。
「イヨ様の下、我々は平和を取り戻した。狗奴国にその平和を侵されてたまるか。」
邪馬台国軍の士気は高い。
両軍は両国の国境から邪馬台国側に入ったところで対峙した。
兵力はほぼ互角。
3万人以上の兵が開戦の時を今や遅しと待っている。
倭国の二大国が雌雄をあわせるのは最初ではない。
しかし、この決戦で邪馬台国が負ければ、内乱で疲弊した邪馬台国は狗奴国に滅ぼされるだろう。
邪馬台国には後のない一戦である。
倭国中がこの戦いに注目した。
その戦場にイヨ・カヒトの両雄がいないことを皆は知らない。
その両雄が存在することさえ、知るものはわずかであろう。
それでもこの戦いの火蓋は切って落とされた。




