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兵たちは始め、声をあげイヨ軍に突進していった。
しかし、その勢いはイヨ軍の目前で止まった。
兵たちが見たのは、門の上から見るよりもはるかにひどい民の姿。
国民がここまでやつれ、ここまで飢えていることを彼らは知らなかった。
彼らも民である。
戦争時のみ徴収される、農民である。
仲間がこんな姿になって苦しんでいる。
その事実は兵たちの心に突き刺さった。
中には、イヨ軍の中に親戚を見つけ、その姿に涙した者までいた。
「イキマ軍の戦意は地に落ちた。」
軍の先頭に立っていたイヨはそう思い、兵たちに声をかける。
「こちらに手を貸してくださる人は、武器を捨てこちらに来てください。そうでなければ敵とみなし、我々は戦います。」
この言葉で兵たちは揺れた。
そんなことをすれば、軍令違反で罰を受ける。
しかし、国民を相手に戦うこともできない。
兵たちは固まった。
その様子を見ていたイキマが罵倒する。
「何をしているか!早くその小娘の首を獲れ!」
一人の兵がその言葉を聞いてイキマに怒鳴った。
「貴様がこの方を小娘扱いするな!この方は民のことも考えてくださる、邪馬台国の次期王だ!」
そう言ってこの兵は武器を捨て、イヨ軍に投降した。
その様子を見ていた兵たちは、我先にとイヨ軍に投降し始めた。
イキマが何かを必死に怒鳴っていたが、兵の投降を止めることは出来なかった。
イキマの下には、イキマについて甘い汁を飲もうとした官僚しか残らなかった。
勝負は着いたのだ。
イキマ達はイヨについた兵によって簡単に捕らえられた。
「命までは取りません。しかし、国外に追放します。」
イヨはイキマ達に言った。
この判断にナカテが反対した。
「この者たちを生かしておけば将来の禍根になります。ここで殺しておくべきです。」
イヨは首を振った。
「せっかく誰も傷つかず、勝敗が決したのです。ここで死者を出すことは愚かでしょう。」
イヨの言葉にナカテは口を出すことはしなかった。
「イヨ様は強くなられた。王としての威厳もついた。」
ここまで苦難を共にしてきたナカテとホミキは感動した。
イヨは首都の蔵という蔵をあけて民に分け与えた。
このことを知ったミマト・ミマワキ連合軍は進退に迷った。
イヨが本当に首都をとったなら、攻めたところで勝ち目はない。
一万五千の兵力に対抗する力は持ち合わせていないのだ。
この軍は数日間動くことが出来なかった。
イヨからの親書が届くまでは。
「話し合いの席を持ちたい。」
それがイヨの要望であった。
この三人は首都において会合した。
ミマトもミマワキも、イヨを見違えた。
「この国を出る前は確かに小娘であったのに、今ではまるでヒミコ様のお姿を見ているようだ。」
と二人ともが思った。
もちろんミマトもミマワキもヒミコの姿を見たことはない。
しかし、イヨにはヒミコ様はこんな姿だっただろうと思わせる威厳に満ちていた。
すっかりイヨの風格に尊敬を抱くようになった両名はイヨに降った。
邪馬台国は一年続いた内乱の終結を迎えた。
邪馬台国は再び一つにまとまったのだ。
イヨという新しい指導者を得て。
この国の誰もがイヨに敬意を示し、その善政を期待した。
イヨは国を取り戻す過程で国民の信望をも手にしたのだ。
イヨもホミキもナカテも、イヨを邪馬台国まで護送するのみの役目だった投馬国軍の復命を聞いたイマジもが、カヒトの策の凄まじさを知った。
一度も戦うことなく、イヨ様を王の席に就けた。
それどころかバラバラであった国民の心を、イヨを信望させ、団結力さえももたらした。
もちろんイヨ自身の才や、ホミキやナカテの努力の甲斐あってである。
しかし、この策を思いつくということがカヒトの凄さだった。
そのカヒトは狗奴国にいる。
それも国王の公子である。
この存在は邪馬台国にとって不気味としか言いようがなかった。




