玖
―邪馬台国―
イヨは邪馬台国の荒廃ぶりに愕然とした。
畑は踏み潰され、国民は痩せ、餓死寸前である。
イヨの中に怒りが込み上げる。
あの三人はこの国の惨事を見ながら、何もしなかったというのか。
イヨは思い知った。
あの三人には邪馬台国を治める器などないと。
怒りを覚えながら、イヨはカヒトの策を実行に移す。
―狗奴国―
カヒトは再び旅の仕度に入っていた。
しかし、今度は軍旅である。
狗奴国は邪馬台国侵攻の準備をすでに始めた。
前回の戦いよりも多くの軍勢を連れてゆくことになる。
投馬国の支援がないことも影響しているが、狗奴国はこの遠征で邪馬台国を滅ぼす魂胆である。
「果たして、邪馬台国軍はこの軍を討てるだろうか。」
カヒトの心中は暗い。
自分の策とはいえ、邪馬台国に攻め入らなければならないとは。
カヒトにとって、心苦しい時は続く。
「私と共に戦ってくれませんか?」
イヨは国民に訴え続けた。
長きにわたる内乱で、国民の生活は荒廃しきっていた。
国民は三勢力以外の、平和を築いてくれる王の誕生を熱望した。
その王にイヨがなろうというのである。
イヨにはヒミコの後継者という肩書きもある。
それをイヨ自身が言うだけでは、国民は、少女が何を言うかと笑うであろう。
しかし、イヨにはヒミコの言葉を国民に伝えつづけたホミキがついている。
彼の言葉なら、国民はヒミコが本当にイヨを指名したのだと考える。
実力者の一人、ナカテがついていることもイヨを後押しした。
それに何より。
今回の旅で、イヨには自信と威厳が身についた。
国民の目には、イヨはただの少女には見えない。
王としての風格が備わり始めていた。
イマジやカヒトに影響されたことも多いだろう。
国民は、イヨの中に希望の光を見た。
「私と共に戦ってください。武力のみをかざし、国民のことをかえりみない者が王を名乗る資格はないのです。」
国民の中に、イヨに従い共に行軍する者が現れた。
国王最有力の元長官イキマはイヨの入国を知っていた。
投馬国の援助を受けたことも。
しかしイキマはイヨを軽視した。
あんな小娘に何が出来ようか。投馬国軍もあれだけの人数では、すぐに蹴散らせよう。
問題はミマトとミマワキの方だ。
イキマは現在邪馬台国の首都を拠点としている。
政治の中心である首都を抑えるのは、王になるにとって重要なことである。
そのため、ミマトとミマワキは一時休戦し、共にイキマを攻める条約を交わした。
両者は首都進軍に向け、準備をしている。
イキマはこの二人を蹴散らすことばかりを考えていた。
ここを守りきれば、あの二人に明日はない。
王になれる。
しかし、負ければ・・・。
イキマはミマト・ミマワキ連合軍を止めるため、守備を強化した。
イヨに従う国民は日に日に増えた。
一人が従えば、我も我もとその村の民は皆イヨについた。
イヨにはそれほどの王としての風格と、民を愛する心があった。
イヨ一行は各村落で人を増やし、首都に登った。
イヨに従った国民の人数、およそ一万人。
邪馬台国の人口は七万人である
つまり北西から入ったイヨたちは、首都へと真っ直ぐに向かう道中の国民を皆引き連れて来たようなものである。
この人数の報告を聞いたイキマは狼狽した。
「兵は千人ほどだったはず。一万人の兵など、投馬国が出せるはずもない。」
イキマは高台に上ってイヨ軍を見た。
国民がクワやスキを構えているのが見え、イキマは安心するどころか笑った。
「あんな餓死寸前の民に何が出来ようか。」
確かにイヨの連れてきた国民は皆内乱のせいで餓死寸前だった。
逆にイキマ軍の兵は国民から徴収した食物により、体力もついている。
しっかりした武器も持たない餓死寸前の国民では、一万人いようが五千の兵には勝てないだろう。
「やはりただの少女だったか。」
イキマは笑いを抑えられなかった。
イヨは首都を固めるイキマや兵たちに向かって言った。
「我が名はイヨ。邪馬台国王の正当な後継者です。無駄な争いはしたくはありません。この門を開けてください。」
その声は高らかに響きわたり、首都中の人に聞こえただろう。
イキマは腹がよじれる思いだった。
そんなことを聞いて、門を開けるバカなどいるわけがない。
「戯言を吐くな、小娘が!」
「戯言を吐くのはどちらですか。アナタにこの国を治める資格などないではないですか。」
小娘にここまで反論され、イキマは怒った。
「開門して、打って出ろ。奴らを蹴散らせ!」
門が開き、イキマ軍の兵たちが打って出た。




