第4話 「会えますよ」
「はじめまして、本庄 美奈さん」
これは、私がある河川敷、合格発表を受けて気分が良い日。
怪しげな紺スーツを着た禿げた爺さんが話しかけてきたのは、今から2ヶ月前——実験に携わる前の話。
私は「あなた、誰?」って、尋ねたら。
「あなたの未来を左右する者です」
なんて、胡散臭い言葉で返された。当然、18歳になりたてで、華のある大学生活を送ろうとする女子に対するナンパだろう。私は話を切り上げたかった。
「あら、そうですか、それでは、さよならですね」
未来なんて、誰にもわからない。それに金持ちそうで、白い顎髭を生やし目付きが鋭く、やや吊り目だ。こういう輩は、関わらない方が身のためだ。
「おや、あなた……。興味がありませんか?」
しつこく、ナンパしてくる。私が興味あるかって? あるわけない、ない、ないよ。父と母に合格発表を伝えたんだから、早く帰らせてほしい気持ちだけだよ。
最初はそう思っていた……。だけど、それは違うと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
「ここは、どこ?」
私は、この爺さんの説得を受け、彼の付き人が運転する車に乗り込んでしまっていた。親には携帯で、「少し遅くなる」と伝えてしまった。なぜかって、それは、「未来の旦那に会いたくないかい?」と言われたのが、きっかけだ。
車は市街地を抜け、人気のない山道へ入っていった。
窓の外を流れる景色は、住宅街から森へ、森から巨大なフェンスへと変わっていく。
「……こんな場所に何があるんですか?」
私が尋ねても、老人は目を閉じたまま微笑むだけだった。
「着けばわかります」
その一言だけ。
(やっぱり帰ればよかった……)
今さら後悔しても遅い。
やがて車は重厚な鉄門の前で停止した。武装した警備員が2人。ゲートには監視カメラが何台も並び、指紋認証らしき装置まで取り付けられている。
付き人が窓を開け、1枚の黒いカードを見せる。低い機械音が響き、鉄門が左右へゆっくりと開いた。
「えっ……」
私は思わず息を呑む。森の奥に、1本の巨大な白い塔が天へ向かって伸びていた。雲を突き刺すほど高い。
表面は雪のように白く、継ぎ目一つ見当たらない。まるで建物ではなく、1本の白い柱が地球に突き刺さっているようだった。
「すご……」
大学の研究施設なんて比べ物にならない。
白衣姿の研究員が何十人も行き交い、見たこともない車両が並ぶ。空ではドローンまで巡回している。
「(本当に研究施設なの……?) ここは国家機関……?」
「半分正解です」
老人は意味深に笑う。
「世界でも、ごく限られた者しか存在を知らない研究施設ですよ」
「えぇ……?」
車は塔の正面で止まった。自動ドアが音もなく開く。中へ入ると、壁も床も真っ白だった。消毒液の匂い。静かに響く電子音。病院にも似ているけれど、それ以上に無機質な空間。
私は案内されるままエレベーターへ乗り込む。表示された数字は――地下三十階。
「地下!?」
思わず声が裏返る。
エレベーターは信じられない速さで降下していく。耳が詰まり、身体がふわりと浮く感覚。やがて扉が開くと、そこには円形の巨大な研究室が広がっていた。
幾重ものモニター。青白く光る配線。中央には円柱状のガラスケースが並び、その中心に、異様な装置が鎮座している。
「……これ」
私の視線は、その装置に釘付けになった。
鮮やかな紅色。
工事現場で見るヘルメットに似た形をしているが、表面には無数の金属線が張り巡らされ、透明なケーブルが脳へ接続するように何本も伸びていた。
内側では青い光が脈動している。
「ヘルメット……?」
「ええ」
老人はゆっくりとうなずいた。
「正式名称は欲望の羅針盤」
そう言って、紅い装置へ手を添える。
「これを被れば、あなたは未来を見ることになります」
私は思わず一歩後ずさった。
「未来って……本当に?」
「未来の旦那さんにも、会えますよ」
老人は穏やかな笑みを浮かべる。
その笑顔が、なぜだか一番恐ろしく見えた。
この作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。
自分らしく納得のいく形で執筆を続けるため、毎日更新ではなく、自分のペースで更新してまいります。
「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、フォローや星評価で応援していただけますと、大変励みになります。
なお、感想への返信はできませんが、一つひとつ大切に拝読いたします。ご感想をお寄せいただけましたら、とても嬉しく思います。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。なろう様でも同作品を展開しております。




