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欲探しの花嫁  作者: X


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3/8

第3話 「任務完了」

 東京駅の喫茶店から駅構内まで。

 崩れた案内板が火花を散らし、割れたガラスが足元で砕ける。

 黒い球体をもつ顔の異形との戦いは激しさを増していた。

 

 コーラル第二形態——()()()()()

 骨は軋みを上げて肥大化し、二本だった腕は四本へと裂けるように増殖した。背中を突き破って黒い棘が幾重にも伸び、雑巾のようだった外皮は、赤黒い肉膜へと変質して粘液を(した)らせた。幽霊だった面影は、もうどこにもない。

 

「ワガァァァァァァッ!」

 

 その一声だけで駅構内の電光掲示板に亀裂が走る。私は次なる攻撃に対処するため、腰を落とした。

 

「来る」

 

 センシンスが床を蹴る。目で追えるかどうか、その限界の速度だった。

 

「速っ――!」

 

 反射だけで身を(ひね)るが、間一髪で回避。さっきまで私が立っていた床が拳一撃で陥没した。

 砕けたコンクリートが散弾のように飛び散る。

 

「まだ! まだ! 足りない!」

 

 瓦礫を踏み台に跳び、私は右拳を振り抜き、センシンスの頬らしき部位へ命中。普通の人間なら首が吹き飛んでいても、おかしくない一撃だった。だが「硬い」拳が何かに阻まれて沈まない。

 

 皮膚は何層にも束ねられ、鋼鉄の塊を殴ったような感触だった。狂った人形のようにセンシンスの四本の腕が一斉に迫る。

 一、二、三――四撃。連続で飛んでくる拳を紙一重で避け、風圧だけで頬が裂けた。

 

「なら!」

 

 懐へ潜り込み、肘をみぞおちへ叩き込む。続けて膝。回し蹴り。休む間もなく打撃を浴びせる。それでも倒れない。

 

 何度も打ち込むうちに、黒い棘だけが、ゆっくりとうごめいた。

 

「再生……?」

 

 砕いたはずの胸骨が、音を立てて元へ戻っていく。これでは(らち)が明かない。私は深く息を吸った。

 

「……終わらせる」

 

 左足を一歩。右足を半歩。拳を静かに引く。世界から音が消えた。

 

「――穿(うが)て」


 全身の力を一本の拳へ集約し、踏み込む。肺の底から湧き上がる欲望を、そのまま叫んだ。


「早く、良い男の花嫁になりたい——!」

 

 拳はセンシンスの胸を貫き、その背中から黒い肉片が噴き出す。巨体が宙へ浮き、私は追撃のため跳躍し、空中で体を捻り、踵を脳天へ叩き落とした。駅の床が爆発したように陥没する。

 

 土煙が舞い上がる中、黒い棘が一本、また一本と砕け散っていく。

 

「私の旦那様は、ここには、いない!」

 

 私は静かに右手を掲げた。黒い塊が掌へ集まり、小さな黒槍へと形を変えた。

 

「これで、最後——sono assetata d'amore (ソノ・アセタータ・ダモーレ)()()()()()

 

 黒い欲の槍を振り下ろす。

 どす黒いオーラが駅全体を包み込んだ。

 センシンスの身体は声にならない断末魔を上げ、黒い灰となって風に溶けていく。

 その中、崩壊した東京駅には、私の荒い息と白いオスのアヒルだけが残っていた。


「クワクワ……クワクワ……任務完了、おめでとう」


 視界に『任務完了』の表示が浮かぶ。今日も無事任務を達成できたみたい。少し窮屈なフルフェイスを外し、ようやく息をつく。


「どうしたんだい?」


 黒眼鏡の白衣を着た研究員らしき男が、温かい紅茶を手渡してきた。


「お疲れ様、自分の使命と名前はわかるかい?」


 実験終了を告げる、いつもの定例質問。

 私はその白いカップを受け取り、一口含み、喉を潤し、静かに名乗った。


「私は、12年後の未来を救うため、過去から干渉する花嫁修業中、18歳の本庄(ほんじょう) 美奈(みな)です」

  

この作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。

自分らしく納得のいく形で執筆を続けるため、毎日更新ではなく、自分のペースで更新してまいります。

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なお、感想への返信はできませんが、一つひとつ大切に拝読いたします。ご感想をお寄せいただけましたら、とても嬉しく思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。なろう様でも同作品を展開しております。

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