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第58話 君がくれた時間


リアは、サンティスの記録に残された言葉を静かに受け止めて、小さく呼吸を整えた。



動揺は、もうどこにもなかった。



その隣で、イファの目に溜まっていたものが、一気にあふれ出す。

抑えていた感情が、もう止められなかった。


再生された映像の中のサンティスは、

真正面からリアを見つめるように、穏やかに語った。


『どうか、自分を信じて。君は、君のままでいい。そのままで、世界と向き合ってくれることを……私は、祈っている』


再生が終わると、部屋に静寂が落ちた。

リアはそっと瞼を閉じ、胸に手を当てる。

コアの鼓動が、遠くで響いているような気がした。


「……サンティス博士は、最後まで……わたしを信じてくれてたんだね」


彼女の声は、小さく震えていたが、その奥には揺るぎない意志があった。


イファは、そんなリアの横顔をじっと見つめる。

胸の奥からせり上がる想いが、言葉になってあふれた。


「こんなの……あんまりだよ……! こんな運命、リアが背負わなきゃいけないことじゃない! リアは……リアは、普通の、女の子なんだ……! ただ……それだけなのに……!」


その言葉に、リアは少しだけ、微笑んだ。


「イファ……ありがとう。あなたのおかげで、私は自分の未来を選べるようになったの」


リアが歩き出したそのとき、イファは思わずその手を掴んだ。


「リア、待って」


振り返ったリアの表情は、どこまでも静かで、

もう、すべてを受け入れたかのようだった。


イファの喉が詰まり、うまく言葉が出てこない。


「……リア……嫌だよ……行くなよ……!」


やっとの思いで搾り出した声は、かすれて震えていた。


「リア……!」


どうして。

どうして君がそんな決断をしなきゃならない。

どうして一人で全て背負うんだ。


守りたかった。

何気ない日々を、失いたくなかった。


「リアと一緒に帰ってくるって……母さんと、そう約束したんだ」


この手からこぼれ落ちないように。

今後こそって。


「まだ……リアと一緒に、笑っていたい……」


いつまでも隣で笑っていてほしかった。

その笑顔を守りたかった。


ただ、未来を夢見て。



「一緒に生きていきたい……!」



リアの瞳から、涙が一筋、こぼれ落ちた。


「俺……まだ、何も伝えてない……。どれだけ、リアに救われたかも……、リアのことが、どれだけ大切かも……」


震える声のまま、イファは、叫ぶように言った。


「……リアのことが、好きなんだ……!」


リアは、そんなイファに、やさしく微笑んだ。


「……ありがとう。わたしに、愛を教えてくれて。こんなにも、あたたかいものなんだって……。生きることも、幸せも、出会ったときからずっと、イファが教えてくれたから」


彼女は、そっとイファの手を取った。


「……大丈夫。泣かないで。あなたと過ごした時間が、わたしに選ぶ勇気をくれた」


その言葉を聞いて、イファはようやくわかった。


もう決めたんだ、と。

迷いなんてないのだ、と。


イファは手を強く握ったまま、目を伏せた。

そして深く、息を吸い込む。


「……わかった……。これは、リアが自分で、選んだ道なんだ……」


袖で涙を拭うと、イファは顔を上げる。

深緑の瞳がリアをじっと見つめた。


「リア……。リアと過ごした日々は、おれの宝物だ。リアが笑ってくれた瞬間、世界が明るくなった。リアと過ごした時間は、おれにとって……この世界の全てだった」


「うん……わたしも。イファと見たこの世界は、どこまでも優しくて温かかった」


柔く頬を緩めたその表情は、泣きたいほどに、優しかった。

触れたら壊れてしまいそうなリアを、イファは強く抱き寄せた。


「リアが選んだ道を、おれは最後まで、見届ける。だから、最後までリアのそばにいさせて」


「イファ……あなたと出会えて、本当によかった」


世界中の、誰よりも祈っている。


「あなたの生きる世界がきっと、これからも優しい世界でありますように」




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