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第47話 奇跡の力

リアは、消えた映像の余韻に包まれたまま、しばらくその場から動けなかった。


自分の中にある“ルクシミウム・コア”。


それが、記憶や感情に反応し、世界を変えるほどの力を持っているという事実。

そして、それが“人を救うために”作られたというサンティスが託した希望。



「……だから君は、生きている」


男の声に、リアは、はっと振り返る。


そこにいたのは、静かに佇むセリオだった。

まるで、ずっとそこにいたかのように、静かに立っていた。



「……どういう、こと……?」


リアの声は、少しだけ震えていた。


セリオは彼女をまっすぐに見つめながら、まるで優しく諭すように語り出す。



「サンティスは止められなかった実験の失敗に責任を感じていた。実験後、すぐにノアレの町へ駆けつけた。光の中に消えた町の中で、サンティスは君を見つけた」


「わたし……」


「ルクシミウムの事故で、君の命は尽きかけていた。それでもまだ、かすかに生きていた──サンティスにとって、君は唯一残された希望だったんだ。皮肉なものだよな。町を消し去ったその光が、君の命を救ったんだから。君の中に埋め込まれた、“コア”によって」


リアは無意識に、自分の胸に手を当てる。


「……じゃあ、わたしは……」


「……ただの人間なんかではない。君は、特別な存在だ。その命も、心も、すべてに意味がある」


セリオの声は、どこまでも穏やかだった。


「けれど……あのとき、命をつなぐために、君の記憶や感情が代償として使われた。君がノアレで家族と共に過ごした15年間の記憶と積み重ねてきた感情は、コアの中にすべて、吸収された。生命を維持するために、コアのエネルギーとして消費されてしまったんだ」


リアの目が大きく見開かれる。


「……だから、私は何も覚えていないんだ……家族も、この町のことも……」


「君は、光そのものを宿している。それは素晴らしい奇跡だ。ただの人間なんかじゃなく、誰かの光になれるんだよ。君の中で眠る力さえあれば、この世界に平和をもたらすことだってできる」


セリオはゆっくりと歩み寄り、膝をついてリアの視線の高さに合わせた。


「消費された記憶は、確かに戻らない。だが、君の中に新しく生まれた記憶や感情は、すべてコアのエネルギーになる。この国に勝利をもたらす兵器として……それは、世界を平和に導く“抑止の象徴”となる存在だ! たとえ君がそれを望まずとも、君の中にあるその力が、世界を変える恐怖と希望になるんだよ!」



リアの瞳に、確かな困惑の色が浮かぶ。


背筋に走る寒気。

それでも、何かを信じたかった。



「私、ここに……この町を消し去ったあの“爆弾”を、抱えて生きてるの……?」


胸で脈を打つものに、震える手をそっとあてる。

彼女の中で、光と影が交錯していた。



「君はまだ使える! その力は、世界中に希望をもたらすんだ!」



セリオの瞳が揺れた。

だが、それを抑えるように、穏やかに微笑んで言う。


「私は信じているよ。きっと、サンティスもそうだ。君がこの世界を変えてくれると」


「私は……兵器として使われるために今、生きているんですか?」


リアは、自分でも気づかぬまま、恐る恐る問いかけていた。

セリオは唇の端だけで笑い、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……君が選ぶんだ。自分を“どう使うか”を。そのために、今こうして過去を知ろうとしているんだろう?」


その言葉は、冷たく、リアの胸に侵食する。

リアは、迷いの中で問いかける。


「……セリオさんは、わたしに何を望んでいるんですか?」


「……私はただ、君に可能性を、希望を感じているんだよ」


セリオの声がふと低くなる。



「私に協力してほしいんだ。君は奇跡であり、そして──戦局を変え得る力でもある」



リアの眉がわずかに動く。

セリオは少しの沈黙のあと、まっすぐに言った。



「アーゼルとヴァストラの冷戦は、限界を迎えている。いずれ必ず、戦火が再び燃え上がる。その前に、終止符を打たなければならないんだ。君自身で」


「……わたしの力で……?」


「君の中の光が目覚めた時、世界は大きく変わる。ヴァストラ帝国にルクシミウムの悲劇を味わわせてやるんだ。神の力を恐れた帝国は屈し、我がアーゼル共和国の平和が約束されるだろう。そうすれば、これ以上の犠牲を出さずに済む」


セリオは少し笑ってみせ、優しげな口調で語りかける。


「それが君の運命なんだよ。あの時死ぬはずだった君がルクシミウムの力で救われた。私は、君の力を信じている。それは、人の心と共鳴する力だ。きっと、この世界の痛みを終わらせることができる」


リアは目を伏せた。



自分が生きる意味……。



ノースフィアで過ごした大切な記憶や知ってきた感情が、

隣国の誰かの命を奪うのか。


生きているだけで、人を殺す兵器のためのエネルギーになるのか。



「……もちろん、記憶や感情が蓄積され、コアに充填された時、暴発の危険はある。だが安心してほしい。君の首にある装置には、暴走を防ぐ安定化機能を施してある」



リアは目を見開いて、首についている銀色の金属塊に手を伸ばす。


「もう少しなんだ。君はここで過去を知り、多くの感情と記憶を得た。それらは、知らず知らずのうちに、コアに充填されるべきエネルギーとして蓄えられてきた」


セリオは、勝利を確信したかのように、抑えきれない笑みを浮かべる。


「君の中で、コアを覚醒させるための記憶と感情が、すでに満ちつつある。

 ……あと、ほんの一押しだ。覚醒は、もう避けられない」


リアの呼吸が浅くなる。


今、自分の身に何が起きているのか。

なぜ光が脈打ち、なぜ記憶が戻るたびに苦しいのか──



すべて、仕組まれていたことだった。

セリオはリアに近づき、耳元で声を落とす。


「世界の平和のためさ。君には、その義務がある」


一歩引いてニヤリと笑うその瞳には微かな狂気を感じた。




部屋を後にすると、セリオは、通信端末を起動した。


「こちらセリオ・ヴァイス。制御装置によると、充填率は九十パーセントに達した。コアの覚醒はもうすぐだ。あと一歩でコアに接触できるようになるだろう。プロジェクトは予定通り進める」



研究室に一人残されたリアは、

胸に手を当て、その脈動を感じた。


そこに確かにある、熱のようなもの。


触れれば何かが目覚めてしまいそうな気配。



彼女は小さく息を吸い、そしてそっと、静かに吐き出した。



誰の声も届かないこの空間で、胸の鼓動だけが、確かに響いていた。




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