不安
「ほらほら、僕が買ってあげるから、外に出よう…周りの人が見てるし…」
「うわ~ん…」
「買ってあげるから、ね、朝登?くん。」
朝登は、僕を見上げて、僕の言葉を繰り返した。
「買って…あげるの?」
「う、うん。」
朝登は、今度は、あさみを見た。まだ、あさみは、いらいらしていて、
「朝登がわがままだから、パパ困ってるじゃん!!」
と怒鳴る。
朝登が持ち直した機嫌をまた崩しそうになるので、何であんな言い方しかできないんだよ、と思う。
僕たちは、スーパーに入った。
「ほら、どれにする?」
「これ、何て書いてあるの?」
僕は、小さな子供が、文字をすらすら読めないことを、その時、初めて意識した。少し驚きながら答えた。
「えっ…オレンジジュース。」
朝登は、ぱっと笑顔になって、満足そうに
「さっき飲んだね!」
と叫んだ。
「そうだったね。」
「これは?」
「りんごジュース。」
「お熱出た時に飲むんだよ。」
「そうなんだね。」
「これは?」
「ぶどうジュース。」
朝登は、僕の袖を引いて、指をさして、「これは?」と、何度も聞いてきた。本当に字が読めないのか、聞いて答えてもらうというやりとりを楽しんでいるのか、僕にはよく分からなかった。
「これは?」
「グレープフルーツジュース。」
「グレ、グレープ?」
「グレープフルーツは、すごく酸っぱい果物だよ…。」
「酸っぱい?」
「うん、だから、やめといた方が…」
「これにする!!僕、酸っぱいの大好き!!」
「よく、そんなん飲む気になるね。ママ、酸っぱいのきらーい。」
あさみが口を挟んだ。
僕は、酸っぱいもの大好きなんだよなあ。あさみが嫌いなのに、朝登が好きってことは、僕に似て…いや、そんなわけないんだ。あさみがどうせ、僕と別れた後に、誰かと作った子供なんだ。いや、でも、こんなやつを抱くのは、僕くらいじゃないか…?いや、体目当てのやつがいて…
「パパ、おもちゃ買って!!」
僕の膨らんだ頭の中を、容赦なく遮る声がする。
「ほら、すぐ調子乗る!!朝登、ママだって我慢してるんだから、だめ!!ずるい!!」




