溝
あさみに電話をする。
「だーれ?」
「通知に出てるだろ?」
「たーくん!!」
あまりに嬉しそう名前を叫ぶから、僕は戸惑った。
「久しぶり…」
「たーくん、大好き!!」
「…。ありがとう。」
「えっと…大学生なるの?」
「うん。」
「すごい!!たーくん、頭いいもんね。」
「そんなことないよ…」
「朝登は、私に似てバカだから…」
「そんなことないだろ!」
「えっ、だって、お父さんが…」
「朝登は、馬鹿じゃない。そういうことは、言わないで。」
「ごめんなさい…」
「僕が、朝登を大学にやる。」
「えっ?」
「僕が父親なんだ。」
卓人は、時間ができた分、朝登と何度も会った。朝登を家に呼んで、勉強を教えた。ドリルを買って、できたページに、星や音符のシールを貼る。あさみは、その間、卓人の母親から、料理などの家事を習う。朝登は、飲み込みが早く、すぐに、あさみより頭が良くなりそうだった。そのうちに、あさみの言う変な言葉を、「ママ、うれしいんだよ。」とか、補足するようになった。
あさみたちは、実家より居心地がいいのか、こちらの家によく泊まるようになった。だんだんと遠慮がなくなるようだった。あさみにとって義父である、僕の父親が、僕に似ていると言って、騒ぎ続けたことがあった。朝登が、「そうだね、ママ。」と、いなそうとしても、ずっと言っていた。父親は、眉を顰めていた。
夜、あさみが、朝登と風呂に入ると、父親は、「あの子だけ引き取りたいくらいだな。」と言い出した。
「え?」
「朝登くんは、やっぱり石田の子だよ。頭がいい。でも…あさみさんは…」
「やめろよ…あさみは、朝登くんの…」
「分かってる。分かってる上で…母さんもそう思うだろ?」
「…。はぁ。正直ね。」
「母さん!」
「あさみさん、物覚えが驚くほど悪いの。包丁を人に向けちゃだめっていうのに、おしゃべりに夢中で突きつけてくるの、こんなふうに。ほんと、怖いんだから…」




