クッキー
僕は、朝登に話しかけた。
「朝登くん…」
「なーに?」
朝登は、スマホの画面を見たまま、答えた。
「何見てるの?」
「電車。」
「電車好きなの?」
「うん。」
「そうなんだ…。」
「うわーー!!」
突然、あさみの叫び声が聞こえた。
「どうしたんだよ?」
「何でもない!!」
僕は呆れて、朝登の耳元に口を寄せて聞いた。
「ママ、いつもあんな感じ?」
「いつもはね、クッキーなんて作らないよ。」
朝登は、電車を見たまま、面倒そうに言った。
「えっ?」
「パパが来るから作るって。」
「そうなんだ。」
「ママ、スマホ見ててねって。」
「……。」
沈黙が続いた。僕は、朝登の横顔を見ながら言った。
「…。朝登くんは、ママ好き?」
「うん。」
朝登は、やっと顔を上げた。
「どうして?」
「うーん…優しいから。」
「そっか…」
「あと、寝る前に、ぎゅーしてくれる。」
「そうなの?」
「うん。大好きって言ってね…ぎゅーって。」
「ママ、優しいね。」
「焼けた!!」
あさみの声は、キッチンから、リビング全体に響いた。
「えっ?」
「食べよ!!」
ガチャーン
「あっ…。まあ、いいや…食べよ!!」
「何か落とした?」
「ううん!」
朝登は、あさみの焼いたクッキーに興味を示さなかった。
「朝登、ママがんばったから、食べて!」
「お腹いっぱい…」
「ぐすんぐすん…たーくんは?」
「い、いるよ。」
「やったー!!もともとたーくんが遊びに来てくれるって言うから、作ったの!!」
「…。」
「ほら!食べて!!」
あさみは、僕の口に押し付けるようにクッキーを食べさせてきた。甘くて、ボソボソで、なのに水っぽくて…。でも、不思議と懐かしいような味がした。




