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あさみ  作者: 梅子


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13/23

魅了

 僕は、彼女にキスをした。とても短く、それでいて、肩まで抱いた。彼女は、少し女らしくなって、口を離すと、恥ずかしそうに下を向いた。意外な様子にかわいさを感じられずにはいられなかった。

 僕は、胸を見つめた。すると、明らかに、豊かになっていた。そうか、朝登を産んで授乳をするうちに…。僕は、何だか、そんなことに昂る自分の異常性をふと感じてしまった。しかし、熱は冷めやらなかった。それでも、僕は、何とか胸を触りたいという欲求を抑えて、「戻ろう。」と言った。あさみは、珍しく素直に、「うん。」と頷いた。僕の心には、少しくらい何かできなかったのか、という変な自責と、よし、抑えた、という満足感が奇妙に混ざっていた。


 朝登は、ぬいぐるみを抱いていた。

「それ、どうしたの?」

あさみは聞いた。

「おばあちゃんから、もらった。」 

「良かったね!お礼言った?」 

「え?」

きょとんとする朝登に、言い聞かせるように、あさみは言った。 

「ありがとうございます。」 

「あ、ありがとうございます。」

朝登は、あさみを見ながら繰り返した。 

「いいのよ…朝登くん、ちゃんとありがとうって言えてたわよ。」 

「そうですか。この子、人見知りするから…」 

「しっかりした子よ。」


 あさみが、挨拶をして家を出ていく時、「送ってやりなさい。」と、母親が言った。「またね、朝登くん!」と、かがんで言う母親に、朝登は、恥ずかしそうに手を振った。

 しばらく歩くと、あさみは、「はー疲れた…。」と、また、伸びをした。そして、

「ご褒美くれるのよね?」

と、僕を覗き込むようにして言った。僕は、その瞬間、彼女に求められていると感じた。

「ご褒美って?」

僕は、無意識に期待を込めつつ、白々しく聞いた。あさみは、「うーん…」と言って、珍しく僕を焦らした。僕は、あさみがひどく魅力的に思えた。彼女は、幼児的なのに、こういう駆け引きは、なぜかうまいのだ。いや、僕が下手すぎるのかもしれない。あさみを見ると、近付いてはだめだ、と、分かっているのに、何か引き寄せられる。ただ、好きではないし、好みでもないのだ。

 朝登が、「眠たい。」と言うので、僕はおんぶをした。駅まで着くと、「じゃあね。」と、あさみは、小さな身体で朝登を受け取って、行ってしまった。

 僕は、何だか寂しいような気持ちになって、テストだとか、受験だとか、勉強だとか、塾だとか、そんなものがどうでもいいような気持ちになった。

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