体裁
あさみは、さすがに気まずく思ったらしく、「朝登、ご挨拶。」と言った。すると、朝登は、しぶしぶ出てきて、「こんにちは…」と言った。
その時、空気が変わった気がした。母親と父親は、朝登を見て、何か共通の感慨を覚えたようだった。二人は、何とも言えない、驚きとも喜びとも、困惑とも取れる表情で、顔を見合った。母親などは、涙さえ浮かべているようだった。この時、僕には、両親の気持ちが、全く分かり得なかった。
「卓人の小さい頃にそっくり…。」
母親は、ついに、言葉を漏らした。父親も頷いた。これを聞いた時、僕は、強烈な疎外感を覚えた。生きながらにして、故人となったかのような、そんな、不思議なほどの寂しさを感じた。僕は、僕の小さい頃のことなど知らないのだ。あさみは、その母親と父親の様子を見ると、この人たちなら怒らない…という、少し安心した顔をしている。僕は、ほっとしつつ、何か大きなものを失った気がした。
「あ、あさみさん…」
「はい?」
「良かったら座って。」
「あっ、ありがとうございます。」
「朝登くんも、ほら…」
「……。」
朝登は、恥ずかしそうに、椅子の陰に隠れた。その姿にさえ、母親は、「人見知りするとこも、似てるわ〜。」と、漏らしていた。
あさみは、何とか話を合わせていた。母親が、「高校には?」と聞くと、「通信で…」と、口ごもった。普段のあさみなら、「お母さんに行かされてる!」とか、「勉強きらい!」とか、そんなことを言うのに、今日は必死で良い子ぶっていた。僕は滑稽に思った。
一方で、母親も父親も、あさみと僕がどう出会い、どう関係を持ったのか、気にしているようだった。しかし、朝登が存在している以上、その詮索の辿り着くところは、センシティブな話になるので、父も母も、確信に迫れずに、その周辺を、はがゆそうにぐるぐる回っていた。




