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EP8. 【終業礼式での出来事】


あれから約一か月ほどが過ぎた。

ココルルはあれきり、部屋から姿を現すことはなく、授業もずっと欠席している。

担任の教員や校長たちには、体調不良と申告しているようだが、果たしてそれがいつまで続くものか…。

現に、黒陽の生徒はもちろん、白月の生徒にまでその噂が流れ始めていた。

あのことがあって以来、黒陽の守護者たちは、以前にも増して顔を合わせることがほとんどなくなっていた。

特に黒陽側の白月への対抗心が強くなる一方で、互いの守護者同士があれきり顔を合わせることはなかった。


透き通ったステンドグラス越しに太陽の光が差し込み、七色に光る祭壇の前へとライアンはやって来た。

「………」

祭司の姿が模(かたど)られたステンドグラスを黙って見上げるライアンの表情は、どこか寂し気で切なかった。

しばらくすると、胸の前で指を組み、静かに目を閉じた。

その一瞬、七色の光は揺れ、ライアンの身体を包み込んだかのように見えた……。



夏の長期休暇が間近となったある日のこと。

休みを故郷の田舎で過ごそうと、オズはここへ来た時に持って来た大きなカバンをクローゼットから引っ張り出し、その支度にかかっていた。

「じーちゃん、元気かな。久しぶりだし、都会の土産でも何か買っていかねーとな」

オズは、久々に会えるおじいさんのと懐かしい田舎の風景を思い出し、胸を弾ませた。

クローゼットの中にかけてある私服を何着か取り出すと、一番隅にかけてある白月の制服に目をとめた。

「……ここに来てから、いいことなんてなかったな…。白月の奴らはいいヤツらだけど…。…やっぱオレには、ここでの暮らしは性に合わねーや。…いい土産話が出来ればよかったけど…、すまねーな、じーちゃん」

オズは、休暇の間はクアトロ・コートのことは忘れようと、バタンッとクローゼットを閉じた。

ベットに広げた服を一枚ずつたたみ、カバンに入れている作業の最中、オズはココルルの事を思い返していた。

「……ココルル…。部屋から一歩も出てないみたいだけど…、大丈夫なのか……?」

オズは、いつか黒陽の庭園で、彼女と話をしたのを思い出した。

「あんなにみんなの事を想っていたのに…。裏切られた気分だろうな……。でも、嘘を知ったオレたちも黙っていたわけだし、…同罪か……」

オズは寂しい表情になって手を止めた。

「彼女の事を想って嘘をついたテンの気持ちも分からなくはない…。けど、裏切ってしまった今、彼女に一体何をするべきなんだ…?ココルルにとって今一番必要なのは……」

オズは、顔を上げて窓の外の澄み渡る空を見つめた。

すると、キッと顔を強張らせ、窓の方へと歩いた。

「こんな時に、一体何をやってんだ⁉本当の救世主はっ‼いるんなら、さっさと姿を現せってんだよっ‼」

苛立ちながら言うと、オズはグラウンドにいる人物に気が付いた。

「…ん?…あれは…、マクースト…?」

オズは下にいるマクーストを覗き込むように見た。

マクーストは辺りをキョロキョロして、普段よりも挙動不審さが増した様子だ。

「………?」

オズは眉を顰(ひそ)め、不思議に思ってその様子を見ると、クローゼットの方に向かい、制服を出して、それに着替え始めた。


「まずいなぁ…。どうしよう……」

グラウンドの隅を歩きながら、マクーストは不安な顔で呟いた。

「おい!何してんだ?マクースト!」

「っっ⁉」

後ろから声を掛けられたマクーストは、ビクゥっとして振り返った。

声の主であるオズを見ると、マクーストは少し安心した表情になった。

「…あ…、オズ…!……えっと…、…あの……」

マクーストは言葉を詰まらせ、オズから視線を反らせた。

いつもと様子違うマクーストにオズは疑問を抱いた。

「…?どうしたんだよ?……ん?」

オズはマクーストをじっと見つめた。

マクーストは手を前に組み、もじもじとしている。

「………?」

頼りない感じの彼にも、王に選ばれたことで、少しの威厳さを感じていたが、今日は妙にそれがない。

いつもと何かが違うと感じていたオズは、その違いに気が付き、ハッとした。

「…っ⁉あっ!お前…っ⁉」

オズが声を上げ、マクーストはまたビクッと驚いた。

「お前!胸の勲章、どうしたんだよっ⁉」

オズは慌てた様子で、マクーストの左胸のポケットを指さして聞いた。

「バレてしまった」という表情で、マクーストは観念したようにショボンと視線を落とした。

「…じ、実は……気が付いた時には無くなってて……」

マクーストの言葉に、オズは驚いた。

「なっ、無くなったって…っ、失くしたってことかっ⁉」

オズが問い詰めると、マクーストはたじろいで答えた。

「……あ…の…。そ、それがその…。ココルルさんがあんなことになってしまって…。…代わりに僕が庭園の花に水をやろうと思ったんだ。…それで、この気候だし暑いから、勲章を付けたまま、ジャケットを脱いで、庭園のテーブルに置いてたんだけど……」

自分が王でありながら迂闊(うかつ)だったと、マクーストは正直にオズに話した。

「…マクースト……」

ココルルの代わりを果たそうとしたマクーストに、オズは感心し、彼のことを見つめた。

「水をやり終えて、じょうろを片付けに行こうとジャケットを手に取った時に気が付いたんだ……」

「その時には、もう無くなってたのか?」

マクーストは頷いた。

「周りは?落ちてなかったか?」

マクーストはまた頷いた。

「……そうか…。ん?でも、何でこんなとこまで来て探してんだよ?」

今いる場所はグラウンドで、庭園は校舎を挟んで反対側にあった。

「じょうろに水を汲みに来るのにここを通ったから。とりあえず、心当たりのある場所を探してみようと思って」

マクーストの言葉に、オズは「なるほど」と納得した。

「……ここまで探してないってことは……もしかすると……」

オズは人差し指と親指を顎に当て、探偵のように何かを考えた。

「も、もしかすると…?」

神妙になって考えるオズに、マクーストは恐る恐る聞いた。

オズはキッとマクーストの顔を見た。

「黒陽の守護者だよ。今日は休日だし、他の生徒ってのは考えにくい。…アイツら、このところ姿も見ねーし、もしかしたら、お前の勲章を盗むための作戦を練っていたのかもしれねーな…」

「ま、まさか、そんな…」

マクーストの願いを封じた勲章が、敵側の黒陽の手に渡ってしまえば、王の願いが知られて敗北となり、白月は一巻の終わりだ。

確かに相手側の勲章を盗むのは手っ取り早いことなのだが、それは姑息な手段として団の評価を下げ、タブーとする暗黙のルールとなっていた。

「オレだってそんなこと考えたくねーよ。あんな奴らでも、今まで正々堂々と勝負をしてきたんだ。…けど、ココルルのことで、今アイツらがバラバラになっているのは確かだ。このままじゃ勝てないと焦った挙句、最後の手段を取ったのかもしれねぇ…」

「………」

信憑性(しんぴょうせい)のあるオズの考えに、マクーストは妙に納得して黙った。

(……ココルルが思っていた奴らの本性は、やっぱり違うのか……?)

そう考えていると、オズは、ふとエンジーにの事を思い浮かべた。

「っ⁉」

ハッとすると、オズは首を横に振り、今考えていても仕方ないと、顔を上げてマクーストに目をやった。

「とりあえず、庭園に戻って、もう一度探してみようぜ!同じ動作をして、思い当たるとこをもう一度探してみるんだ!」

オズの提案に、マクーストは表情を明るくさせて頷いた。

「うん!」


校舎を抜け、オズたちは庭園へと足を向けた。

「水の入ったじょうろを持って、ここを通って来たんだ」

マクーストはオズに説明した。

「その時はジャケットを着てたんだな?」

「……うん…」

オズはマクーストが通った辺りを、身をかがめてキョロキョロ探した。

そうしていると、二人は庭園にたどり着いた。

「……ないなぁ…。……あれ…?」

先ほども見た辺りをマクーストが探していると、中央の噴水に目を向けて、何かに気が付いた。

下を向いていたオズは、マクーストの声に反応し顔を上げた。

「どうした?」

「……あそこ……」

マクーストは視線の先にある噴水を指さした。

「……?」

オズもそちらに目をやると、噴水の向こう側に、誰かが座っているのが分かった。

二人は目を合わせて、そちらに近づいた。


噴水には、見たこともない小さな女の子が座っていて、咲いていた花を摘み、花束にして持っていた。

「こんなに綺麗なお花が咲いていたので、どうか姫に受け取っていただきたくて、たくさんつんで参りました!」

「まぁ!なんて綺麗なお花さんたちなのでしょう!これを私に?嬉しいわ!あなたにはご褒美として、舞踊会で一緒に踊ってあげますわ!」

「光栄でございます!お姫様‼」

「ウフフっ!そうよ!私はお姫様なの!だってこの……」

「何してんだ?」

突然オズに声を掛けられ、一人二役を演じていた女の子は驚いてそちらへ振り返った。

「…えっ⁉……あ、あの……っ!」

女の子は赤くなり、慌てて花束を後ろにやった。

すると、オズとマクーストは、女の子の胸元のリボンに勲章が付いていることに気が付き、同時に声を上げた。

「あーーーーっ‼」

女の子は驚いて、二人に目をやった。

「お、お前、それっ!」

オズは構いなしに、ズカズカと女の子に近寄り、勲章を指さした。

「っ⁉こ、これは……っ」

女の子は泣きそうな顔で、勲章を隠した。

女の子が怯えてることに気が付いたマクーストは、彼女の身なりを見ながら聞いた。

「…あの…、キミ、初等部の子?…その制服、初等部のだよね?」

身をかがめて聞くマクーストに、女の子はコクンッと頷いた。

「そうなのか?…なんだよ。じゃあ、コイツ、忍び込んだってことか?」

オズがジロッと女の子を見ると、女の子はまた怯えて、マクーストに助けを求めるように目をやった。

見兼ねたマクーストは、女の子が付けている勲章を見ながら聞いた。

「それ…さ、…どうしたの?…実は、僕、同じものをこの辺りで失くしてしまったんだよね…。…キミ…、もしかして拾ってくれたのかな?」

マクーストは、穏やかな表情で女の子に聞いた。

女の子は勲章を見ると、戸惑いながら頷いた。

「……お、落ちてたの…。だから、拾って……」

女の子の言葉を信じられないオズは、彼女を問いただした。

「本当か?こいつのジャケットから取ったんじゃないか?」

小さい子だからといって容赦のないオズに、女の子は萎縮して黙った。

「オ、オズっ!そんな言い方したら怖がっちゃうよ!」

「だって、ジャケットに付けた勲章が、そう簡単に落ちるわけねーだろ⁉誰かが取ったとしか考えられねーじゃねーか‼」

「オ、オズ~~~っ⁉」

マクーストがたじたじになっていると、女の子は突然立ち上がった。

「ごっ、ごめんなさいっ‼」

女の子は頭を下げ、二人に謝った。

二人は驚いて女の子に目を向けた。

「……きれいだったから…、つい…付けてみたくなったの…。迷惑かけて、ごめんなさいっ!」

女の子は、慌てて胸のリボンから勲章を外し、マクーストにそれを差し出した。

「………」

オズとマクーストは素直に謝る女の子を見て、互いに顔を合わせた。

「…中は、見てないだろうな?」

オズに聞かれ、女の子は怯えながら頷いた。

すると、マクーストが女の子に歩み寄り、勲章を受け取った・

「大丈夫だよ。本当の事を言ってくれてありがとう。僕も、大事なものなのに無防備に置いてしまったのが悪いんだ」

マクーストは女の子の前でしゃがむと、照れ笑いをして見せた。

「………」

オズはそんなマクーストの姿を、微笑んで見つめた。

「きみ、名前、なんていうの?初等部の何年生?」

マクーストが聞くと、女の子はもじもじしながら答えた。

「…ミルフィー。初等部の三年二組……」

「ミルフィー⁉へぇ、洒落た名前だな!」

名前を聞いたオズが、関心したように言った。

「可愛い名前だね」

マクーストに言われ、ミルフィーは頬を赤らめてはにかんだ。

「どうして中等部にいるの?誰かに用事?」

マクーストが聞くと、ミルフィーは首を横に振った。

「…ここのクイーンになりたいから……」

ミルフィーの言葉に、オズとマクーストは反応した。

「え?」

「クイーン?」

ミルフィーは頷いた。

「前、ここで綺麗なお姫様を見たの。…リボンにね、この綺麗な飾りを付けてた!」

ミルフィーはマクーストに渡した勲章を指さして言った。

「でも、その子が付けてたのは、これの色違いのだった。…時々このお庭が綺麗に光って、ドレスを着て踊ってたの!」

ミルフィーの言葉に、マクーストが察した。

「これの色違い…?もしかして、以前の黒陽のクイーンのこと…?」

「…えっ⁉」

オズはマクーストの方を見た。

「すっごく綺麗な女の子だったの!…だから、私もあの子みたいに、ここのクイーンになって、あの子と同じように、綺麗なドレスを着て、キラキラ光るお花の中で踊りたいの!」

純粋な瞳を輝かせて言うミルフィーを、オズとマクーストは見つめた。

マクーストは、自分が今手に持っている勲章に目を向けた。

「少しの間だけなら、これ、貸してあげるよ」

「……えっ⁉」

笑顔を向けて言うマクーストに、ミルフィーは目を丸くさせた。

「ね?少しの間なら、いいよね?オズ」

マクーストはオズの方を向いて聞いた。

「…マクースト…。…ああ!いいと思うぜ!」

オズは笑顔で頷いて返した。

「…いいの?…あっ…」

ミルフィーが聞くと、マクーストは彼女の前にしゃがんで、リボンの中心部に勲章を付けてあげた。

「どうぞ、クイーン。とてもお似合いです!」

「……っ」

マクーストがにっこり笑って言うと、ミルフィーはかぁっと顔を赤くさせた。

二人の様子を、噴水の縁で座って見ていたオズは、何かを閃いて立ち上がった。

「そうだ!どうせなら、一緒に踊ってやれよ!マクースト!」

オズの言葉に驚き、マクーストは慌てて振り返った。

「ええっ⁉で、でも、僕踊れないよっ⁉」

「いいじゃねーか、それでも。…ミルフィーだって、まだ上手には踊れないだろ?」

オズはミルフィーに聞いた、

ミルフィーは赤い顔でコクンと頷いた。

「な?上手く踊れない同士、いいじゃねーか!」

オズはマクーストの背中を押し、ミルフィーの方に寄せた。

マクーストは困った顔でミルフィーの方を向くと、ぎこちなく聞いた。

「……じゃ、じゃあ…、お、踊っていただけますか?」

マクーストは恥ずかしそうに手を差し出した。

「……はい!喜んで!」

ミルフィーも恥ずかしそうだが、嬉しそうに返事をし、マクーストに手を添えた。

身長差もあり、やはりぎこちない踊りだったが、花の中で踊る二人を、噴水の縁に座ったオズは、頬杖を付いて見つめていた。

「………」

二年前の黒陽のクイーンを見たことが無いオズも、きっとこんな風に踊っていたのだろうと想像していた。

「…ダンスか…。貴族って感じだな…」

オズは呟いた。

自分には縁がないことを悟り、今ここにいることが不思議に感じられ、オズは、目の前で踊るマクーストとミルフィーをじっと見つめ続けた。


ミルフィーを見送る為、オズとマクーストは、正門まで来ていた。

「気を付けてね」

マクーストは、かがんでミルフィーに行った。

ミルフィーは、手に持った花束を大事そうに持ち、マクーストに笑顔で頷いた。

「うん!」

「あんまり中等部に忍び込むなよ!怒られるぞ!」

オズに忠告され、ミルフィーは、まだ若干残っているオズへの苦手意識を表情に出した。

「…はーい…。気を付けます…」

「じゃあ、またね!」

マクーストは手を振ってミルフィーを送り出した。

「うん!またね!」

ミルフィーは手を振ると、走って初等部の方へと向かって行った。

すると、立ち止まって、くるっと二人の方に身体を向けた。

「ありがとう!お兄さんたち!」

ミルフィーは大きく手を振って、オズとマクーストにお礼を言うと、再度、身体を返して走り出した。

マクーストも大きく手を振って返した。

「…やっぱり男だと思ってやがったな……」

腕を組んだオズがミルフィーを見ながらボソッと呟くと、それを聞いていたマクーストが苦笑いを返した。


「良かったよ。勲章が無事に戻ってきて。…失くしたらティオラさんになんて言われるか…」

気が強いティオラに怒られずに済み、マクーストはホッとしたように言った。

「アイツのことだ。見つからなかったら、きっと一晩中説教くらってたかもな!」

「そ、そんなぁ~!」

からかうオズの言葉をマクーストは真に受けて返した。

白月の校舎に戻った二人は、自室に向かうため、階段を上がっていた。

「でもお前、子供にやさしいんだな」

「…そ、そうかな…?…多分、妹がいるから、小さい女の子の扱いに慣れてるんだと思う」

マクーストは少し照れて返した。

「へぇ、妹が。何歳なんだ?」

「今は五歳。来年初等部に入るよ。ミルフィーは先輩になるね!」

マクーストは嬉しそうに言った。

「そうかぁ…。…オレは、子供はどうもダメだな…。口わりぃし、すぐ怖がられんだよ」

オズは笑いながら言った。

「オズの事を知れば、すぐにみんな寄って来るよ!だって、オズはとても優しいし頼りになる。…妹だって、すぐに懐くと思うな」

「………」

自分の事を褒めてくれるマクーストを、オズはじっと見つめた。

「っ⁉な、なに?僕何かいけないこと言ったかな?」

マクーストはかぁっと顔を赤らめ、慌ててオズに聞いた。

オズは首をゆっくり横に振った。

「いや。…お前の方が優しいよ。…ミルフィーに対してもだけど、今日の花の水やりのこと。…ココルルに代わってやったんだろう?…黒陽の奴らには、そんな考えなんて一ミリも無いみたいだ…」

オズは穏やかな目でマクーストを見た。

マクーストは顔を真っ赤にして慌てて否定した。

「そ、それは、僕が勝手にやっただけだよっ!…水やりは、本来なら庭の選定の人や清掃の人がやってくれることだからさ!」

「オレは自分から進んでやる姿勢の事を言ってんだよ!お前、もっと自信持っていいと思うぜ!いいヤツなんだから、もっと誇らしくしてろよ!」

オズはマクーストに活を入れるため、背中をバシッと叩いた。

マクーストは痛がりながらも、無邪気に笑うオズを見て、自身に芽生えた恋心を大きくさせていた。

「あっ!オズっ!」

すると、階段の上から声を掛けられ、二人はハッとした。

上からパタパタと駆け下りて来たのはティオラだった。

「あら、マクーストも一緒だったの?」

ティオラはマクーストを見てオズに聞いた。

マクーストは勲章の事がバレたのではないかと、オズの後ろに隠れると、それに気づいたティオラは若干ムッとした。

「二人、いつも一緒にいて、随分仲がいいのね」

「そうか?まぁ一緒のクラスだしな…。それより、なんだティオラ?オレになんか用か?」

嫉妬され、嫌味を言われたことに気が付いていないオズは、しれっとした態度で聞いた。

ティオラは気を取り直すように、髪を翻(ひるがえ)して言った。

「校長先生がお呼びよ。あなたに話があるんですって」

「…へ?オレに?」

呼び出される心当たりのないオズは、きょとんとして聞いた。

「そうよ。終業礼式のことで、ペイジの二人に話があるんですって」

ティオラの言葉に、オズはハッとした。

「…二人…。ってことは…アイツも……?」

「ペイジの二人っていったら、白月のあなたと、黒陽のエンジーに決まってるじゃない?」

ティオラが言うと、オズはすぐさま階段を駆け上がって行った。

「な、なによ!もう……‼」

ティオラはふくれっ面で、走って行ったオズを見届けると、その場に残ったマクーストにジロッと目をやった。

「……っ⁉」

睨まれたマクーストは、ビクッとたじろいだ。

「…そんなに、オズの方が頼りになるの…?」

「…え?」

マクーストは聞き返した。

「白月のエースはこの私なのよ⁉なのに、マクーストったら、何かにつけてオズオズって!…あんな野蛮な子のどこがそんなにいいのよ!ズボラで図々しいだけじゃない!」

不満をぶつけられたマクーストは、珍しく怒った顔でティオラに言い返した。

「オズの事、悪く言わないでっ!」

「っ⁉」

まさかマクーストが言い返して来るとは思っていなかったティオラは、驚いて一歩後ろへ下がった。

マクーストは続けた。

「オズを悪く言うと、いくらティオラさんだって、僕、許さないよ!…オズは凄くいい人だ。…ティオラにさんだってそんな事、とっくに気付いてると思ってたのに……」

「っ⁉……わ、私は…っ、私だって…っ!」

ティオラは必死に言い返そうとしたが、言葉を詰まらせた。

すると、途端に目に涙を溜め始め、それを堪えようと、顔を強張らせた。

それを見たマクーストは、ぎょっとした。

「…っ⁉えっ!あ、あのっ!ぼ、僕っ、そんなつもりじゃっ!」

マクーストは、慌てて弁解しようとしたが、彼女にかける言葉が見つからなかった。

(ま、参ったな…。どうしよう…)

マクーストが困り果てていると、ティオラは、顔を上げ、キッとマクーストを睨んだ。

「あなただって、ココルルに秘密をバラした私の事、どうせ軽蔑してるんでしょっ‼」

ティオラは、マクーストに言葉をぶつけると、そのまま体を返して走り出そうとした。

「軽蔑なんて…っそんなこと…、っっ⁉」

マクーストは、ティオラの肩を掴み引き留めたが、彼女の横顔を見て驚いた。

いつも強気なティオラの目からは一筋の涙がこぼれ落ち、頬を伝っている。

「……っ」

マクーストは驚いたまま、それをじっと見つめた。

ティオラは慌てて涙を拭くと、マクーストの手を振り払った。

「離してっ!」

ティオラはその場を走り去って行った。

「………っ」

マクーストは、走って行くティオラの後姿を、黙って見つめた。


最上階まで走って来たオズは、ハァハァと肩で息をしながら、校長室の前で立ち止まった。

息を切らしたままでは失礼と思い、オズはしばらく目を閉じて、呼吸を落ち着かせた。

ぱっと目を開けると、意を決したように校長室の扉をノックした。

「どうぞ」

中からは校長の声が聞こえ、オズは、金色の取っ手をぎゅっと握った。

「失礼します……!」

オズは重たい扉を開けて、会釈をしながら中に入った。

オズが目を向けた先には、自身の机の前に立った校長と、その前には、既に来ていたエンジーの姿があった。

「……っ⁉」

「………っ」

エンジーは、オズと目が合うと、フイっと顔を校長の方へと戻した。

校長は手招きをして、笑顔でオズに言った。

「ああ、オズ。きてくれたね。さ、こっちへおいで」

「………はい…」

返事をすると、エンジーの相変わらずな態度に、オズは彼を睨みながら部屋の中へと歩いた。

校長の前まで来たオズは、エンジーと少し距離を取った場所で立ち止まった。

校長はいつものようにニコニコしながら話し始めた。

「二人に来てもらったのは、終業礼式の時に、あることを行ってもらいたいからなのだよ」

「…?なんですか?」

オズが聞いた。

察しがついているのか、エンジーは黙って校長を見ている。

校長は、机の上に置いた二つの箱に手を置いた。

「これだよ。…エンジーは、これがなんだか分かっているね?」

校長はエンジーに目を向けて聞いた。

「はい」

エンジーは頷いて返した。

「……?」

オズは二人のやり取りを見た後、その箱をじっと見つめた。

箱には蓋が付いており、表には鍵穴がある。何かを大事に保管するものだということが、それだけで分かった。

その二つの違いは色だけで、オズの方に置かれた箱は、金と銀の装飾がされ、中央の鍵穴の辺りは緑と黄色の布張りがされていた。

一方エンジーの方に置かれた箱は、金色とまた違った濃い金色の二色の装飾がされ、布張りの色は赤とオレンジだった。

どこかで見覚えがある……。オズは首を傾げて思った。

オズはそれが分かった瞬間、とっさに声を発した。

「…っ⁉勲章……?」

校長とエンジーは、オズの方に顔を向けた。

「その通りだよ。さすが、オズは鋭いね」

校長はニコッとして言うと、エンジーの方に顔を戻した。

「オズに説明してもらえるかな?エンジー」

「えっ⁉」

校長に言われ、エンジーは驚いた。

校長はニコニコした顔でエンジーを見ている。

エンジーは、仕方なくオズの方に身体を向けた。

「これは、王の勲章を保管するための「メダルセーフティ」っていうんだ」

「…メダル…セーフティ…?」

聞きなれない言葉に、オズは聞き返した。

エンジーは頷いた。

「年度の終わりや今回のように長期休暇に入る時は、勲章は一度ここにしまうことになる。…休暇の間は、一時休戦ってことでね」

オズは「なるほど」と相槌(あいづち)を打った。

「そこで、今度の終業礼式の際に、ペイジである君たちに、このセーフティの儀式を頼みたいんだ」

「ええっ⁉」

校長に大役を任命され、オズは驚いた。

「そ、そんな責任あること、オレ、やれる自信ないですけど…っ!」

オズの慌てぶりを見兼ね、エンジーが言った。

「僕たちは、ただ王から勲章を受け取って、メダルセーフティの鍵を閉めるだけだ」

「…へ?そ、そうなのか?」

校長は、オズの新鮮な反応を楽しそうに眺めながら話した。

「段取りとしてはまず、王と一緒に壇上に上がり、彼らから勲章を両手で受け取るんだ。そして、蓋を開けたメダルセーフティに置き、蓋をして鍵を閉めてもらう。鍵は、当日リヨンドから受け取ってもらうことになる」

大事な内容なため、オズとエンジーは、校長の話を黙って真剣に聞いた。

「鍵をかけた後、その鍵は、またリヨンドに返してくれたまえ。…その後で、王から、休暇に入る生徒達に一言ずつ挨拶をするため前に出てもらう。その時、君たちが彼らを誘導して欲しい」

「………」

慣れないことなため、オズは頭の中でシュミレーションをした。

「…以上だ。何か聞きたいことはあるかな?」


「…失礼します」

オズとエンジーは用を終え、校長室の扉を閉めた。

オズはブツブツ言いながら、先ほどの段取りのおさらいをしていた。

「そんなに真剣にとらえなくても。失敗したって怒られたりしない」

エンジーに言われ、オズはムッとして返した。

「みんなの前に出るんだぞ!お前は慣れてるかもしれねーけど、オレは苦手なんだよ、こーいうのっ!」

そう言うと、オズは、またブツブツとおさらいを始めた。

「……別に慣れてはないけど…。………」

エンジーはボソッと呟くと、オズの様子をじっと見つめた。

見られていることに気が付いたオズは、ハッとして顔を向けた。

「な、なんだよっ⁉そんなに滑稽(こっけい)に見えるかっ⁉見せもんじゃねーぞ!コノヤロウっ‼」

オズに詰め寄られ、エンジーはたじろいだが、相変わらずな彼女に若干呆れて返した。

「違うって!…以前にも、同じこと言ってるやつがいたなと思って…」

「…へ?…以前…?」

オズは、ハタッと表情を変えて聞いた。

「二年前の黒陽のペイジ。彼も、今回みたいに儀式を任されたんだ。彼もその時、君と同じこと言ってたなと思って」

エンジーは、思い出すようにオズに言った。

「そのペイジとお前、仲が良かったのか?」

オズが聞くと、エンジーは少し迷いながら答えた。

「というより、僕の兄さんとかな。エースの兄さんを、彼は凄く慕っていたんだ。休暇中も家に遊びに来たりしてた。…僕のことは、弟みたいに良くしてくれてたけど」

エンジーは遠くを見つめ、懐かしさに浸るように話した。

「…二年前の黒陽のペイジとエースか……」

オズが呟くと、何かを思い出してハッとした。

「そういえば、二年前、そっちはクイーンだったらしいな?」

オズに聞かれた途端、エンジーは顔を強張らせ、彼女の方へ振り返った。

「……誰に聞いた?」

突然怖い顔をするエンジーに、オズは少し戸惑った。

「…え?隣の初等部の子だけど…?…女の子が憧れる程、美人なクイーンだったらしいじゃないか」

オズの言葉を聞き、エンジーは怪訝(けげん)な顔をして視線を背けた。

「……憧れる…か…」

エンジーはそう呟くと、フッと笑ってスタスタと歩き、そこから去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待てよっ!」

オズに呼び止められ、エンジーは振り返った。

「何?」

オズはスタスタ歩み寄り、キッとエンジーを睨んだ。

「ちょうどいい機会だ。…ずっとお前に聞こうと思ってた……。聞いても、お前のことだ。どうせ教えてなんかくれないだろうと思ってたけど……」

「……?」

エンジーは疑問の表情をオズに向けた。

「今だから聞く!二年前のこっちのエースのこと、何か知ってるんだろ⁉」

「………っ」

エンジーは言葉を詰まらせた。オズはじっと彼を睨んだまま、腰に手をあてている。

「知らないとは言わせねーぞ!白月の間のウワサでは、お前のアニキが怪我を負わせたらしーじゃねーかっ!」

「っ⁉…ちっ、違うっ‼」

オズに問いただされ、エンジーはとっさに否定した。

「どう違うんだよっ⁉説明してみろっ!弁解する理由あるなら、今ここではっきり言ってみろっ!」

まくしたてるオズの気迫に、エンジーは何も言えずに後ずさった。

「このままじゃ、お前のアニキが悪者扱いされるだけなんだぞっ⁉…それに…っ……っ!」

オズはそこまで言うと、言葉を詰まらせた。

「………っ!」

エンジーは、オズを見て目を見開いた。

オズは身体を震わせてそれに耐えるように、こぶしを力強く握っている。

「…っ…それにっ…、オレはそのエースの代わりにここへ連れて来られたんだっ!何も知らないまま…、ただ、訳も分からずに……っ!……こんなとこに…っ、こんなとこなんかに、来たくなかったのに……っ‼」

オズは下を向き、ぎゅっと目を閉じて涙を堪えた。

「なんで…っ、…なんでっ、校長も副校長も先生たちも…、じーちゃんも……っ、誰も何も教えてくれねーんだよ……っ!」

うつむいて震えるオズを、エンジーは悲痛な表情で黙って見つめた。

すると、視線を下に向け、口を開いた。

「……知ってどうするんだ?…真実が君にとって不条理なことだから、みんな黙ってるんじゃないか。…君は察しがいいのに、そういうところは鈍いんだな…」

「な…っ、なにぃ…っ⁉」

オズは、カッとなって握った拳を上げた。

エンジーは遮(さえぎ)って続けた。

「みんな君のために黙ってるんだ!ここから早く出たいのなら、何も知らないまま何も詮索せずに、大人しく過ごしていればいいんだ!」

エンジーは強い眼差しをオズに向けた。

「……っ⁉」

オズは、その瞳から逃れられなくなたように、瞬きをせずじっと見つめた。

「…ど、どういうことだ……?」

オズがエンジーに聞くと、エンジーはくるっと身体を返した。

「…そのままの意味だ。…けど、クロスアルドの家とは、あまり関わらない方がいい。…今までの暮らしを望むのなら、何も知ろうとせず、あの家とも関わるな……」

エンジーはそう伝えると、スタスタと廊下の向こうへと歩いて行った。

「~~~っ⁉」

オズは、エンジーの言っている意味が分からず、そして、尚且つ何も情報が得られないことにいら立ちを募らせた。


「なんだよっ⁉いつもいつもすかしやがって…っ!バカヤローーーーっっ‼」


罵声を浴びせられるも、エンジーは振り返ることなく、そのままスタスタと歩いて行った。

叫び終えたオズは、こみ上げた力が身体から抜けるように、拳を握っていた手を、ぶらんと下に降ろした。


終業礼式の朝を迎えた。

本日は授業がなく、生徒達はその式に出席するためだけに登校しているのだが、これから長期の休みを迎える皆の表情は明るいものだった。

生徒達が教室で待機する中、白月と黒陽の王と守護者たちは、先に体育館に呼ばれ、壇上へと上がっていた。

壇上には、王が座るための装飾がされた豪華な椅子が、二つ置かれていた。

その椅子は、生徒達から見て向かって左側の白月のものは、金と銀の装飾がされ、右側の黒陽のものは、薄い金と濃い金色の装飾がされていた。

それは、以前のメダルセーフティの箱の装飾を思わせるようなものだった。

椅子を挟み、両団の生徒達は並んでいた。

ただ、黒陽には、ココルルの姿はなかった。

黒陽側は、そのことに触れないように、皆毅然とした様子で立っている。

「…やっぱり来てないね。ココルル……」

プリンセスという同じ立場であるネルが、ココルルの事を気にかけて、コソッと言った。

「あれから授業にも出てないらしいぜ。…まぁ、無理もねーけどな…」

ビーゼルがコソッとネルに返した。

二人の間に立ったオズは、その現況を招いたティオラの様子が気になり、チラッと目をやった。

「……どうせ、私のせいよ……っ」

案の定、責任を感じていたティオラは、そう呟いてうつむいた。

「………」

なんと声を掛けていいか分からないオズが困っていると、ティオラの隣にいるマクーストが、話を変えるように口を開いた。

「あ…。ぼ、僕、なんだか緊張するな!…でも、この勲章を預けるってだけで、なんだか肩の荷が下りた気がするよ!」

マクーストは、胸に付けた勲章を見ながら言った。

もう暑い時期のため、ジャケットは着ずに、上はシャツだけの者が多かった。壇上にいる生徒達は、皆、その恰好で、マクーストは、シャツの胸ポケットに付けた勲章を眺めていた。

「おいおい。今季最後の仕事がまだ残ってんだぜ?しっかりしてくれよ?マクースト!」

オズがマクーストに言った。

横にいるビーゼルは、「そうだぜ!」と言って、「ガハハ」と笑った。

ネルとティオラは呆れた様子で見ていたが、マクーストは頬を赤くして視線を反らすと、オズに応えた。

「…うん…。わ、わかってるよ……」


楽しそうにする白月側を横目で見ていたファウスは、隣にいるテンに話しかけた。

「…随分身勝手なもんだねぇ。…こちらの守護者を一人脱落させておいて」

「脱落」という言葉を聞き、テンは、キッとファウスを睨んだ。

「ココルルは、今、自分の心に迷っているだけだ!悲観的に捉えるな!…彼女はきっと立ち直る…。彼女は強い心の持ち主だ……」

「そうかい…。…で?そんな彼女を苦しめたキミは、自分の罪を許してもらうために、一体どんな言い訳をしたんだい?」

「い、言い訳など…っ!……ただ……」

テンはファウスから視線を背けた。

「…わたしが彼女に、どうして嘘をついたか…。彼女を苦しめるつもりなどなかったという…気持ちは伝えた……」

テンは寂しそうに言った。

「……っ⁉」

普段から強気な態度でいる彼女の意外な一面に、ファウスはもちろん、一緒に並んでいたエンジーとライアンも驚いて、彼女を見つめた。

ファウスは、それ以上テンを責めるような言い方は避けた。

「…キミ、ココルルに会ったのかい?」

ファウスに聞かれたテンは、首を横に振った。

「扉の外で、こちらから一方的に話しただけだ…。聞いてくれているのかも分からない……」

目を閉じて言うテンの気持ちを察したように、三人はテンから目を背けて黙った。

少し間を置いて、ライアンがエンジーに話し出した。

「エンジーが勲章を受け取ってくれるんだってね」

エンジーはライアンの方を向いて返した。

「あ、ああ。セーフティの儀式は、昔からペイジがやるって決まりだからな」

「さすがオルマンダ家の人間だ。儀式のことには詳しいねぇ。お兄さん達に聞いたのかな?」

ファウスはエンジーをからかうように、悪戯な笑みを浮かべて言った。

「………」

エンジーは、ジロッとファウスに目を向けた。

テンは、うつむいて黙ったままだった。

止める者がいないことに気付き、ライアンは慌てて話を戻した。

「エンジーが一緒に壇上に上がってくれるから、心強いよ。よろしくね!」

「…え…?…う、うん…」

ライアンに言われ、エンジーは返事を返したが、腑(ふ)に落ちない様子でファウスを睨んだ。

「一人の方が、何事もなく終えられると思うけどね……」

ファウスは、さもエンジーが役立たずというように、嫌味を吐いた。

「~~~っ⁉」

カチンッときたエンジーだったが、隣にいるライアンが彼を「どうどう」と宥めた。

そうしていると、校長が皆の前に姿を現した。

「みんなもう揃っているね。…今から式の段取りを簡単に話しておこう」

校長は、後ろにリヨンド副校長を連れていた。リヨンドは、両手にお盆のようなものを持ち、その上には、メダルセーフティの箱が二つ置かれていた。

みんなの視線は、それに集中した。

校長がリヨンドに頷くと、彼女はその二つの箱を静かに教壇の上に置いた。

お盆に一緒に乗せていた鍵を二つ手に取りと、リヨンドは、それを校長に手渡した。

「どうぞ……」

「…ありがとう。……オズ、エンジー。こっちへ」

校長は、ペイジの二人を呼んだ。

呼ばれたオズとエンジーは、ハッとして、校長の元へと歩いた。

「これが鍵だよ」

校長は、初めて見るであろう鍵を差し出し、オズに言った。

「……これが…。綺麗だな……」

オズは、柄の部分の、金と銀の装飾に埋め込まれた、青緑色に光る石を見つめてながら、鍵を受け取った。

「………」

瞳を光らせて、じっと鍵を見つめるオズに、エンジーはチラッと目をやった。

校長が笑みを浮かべると、今度はエンジーに鍵を差し出した。

「さて、こっちが黒陽の鍵だ」

「…はい…」

エンジーはそれを受け取った。

(……あっちのは朱色なのか……)

オズは、エンジーが持っている鍵を見て思った。

「君たちの段取りは、この間話した通りだ。よろしく頼むよ」

「……はい!」

校長に言われ、オズとエンジーは頭を下げると、先ほどの場所へと戻った。

「へぇ!それが鍵なの!きれー!」

「初めて見るわ…」

「おめぇも大役つかまされたもんだな!」

ネル、ティオラ、ビーゼルは、オズが持っている鍵を見て、口々に言った。

みんなに笑顔を向けるオズを、マクーストはじっと見つめた。

「次に王座の二人だ!」

校長の言葉に、マクーストはハッと我に返った。

「は、はいっ!」

「ライアンとマクーストには、ワタシが合図をしてから出てきてもらいたい」

「…えっ?」

ライアンとマクーストが聞くと、校長は、王の椅子の方へと足を向けた。

「皆の前を通って、この椅子に座って欲しいんだ。…その方が、威厳がある王座らしいだろう?」

校長の言葉に、守護者たちは微笑した。

ライアンとマクーストは、顔を合わせて、恥ずかしそにうつむいた。

「ペイジの二人は王の横にいて、ワタシが合図をしたら、立膝をついて王の手を取り、椅子から立ち上がらせる。そして、王と共に祭壇の前へ移動する。祭壇の前まで来たら、王から勲章を預かるんだ。そして、祭壇にある、このメダルセーフティの中へ、勲章を入れる…。そして、鍵を閉める…」

校長は、実際に移動しながら、動作を四人に教えた。

「そのあと、王座の二人には、今学期を無事に終えられることの礼を、生徒達に向かって一言述べてもらいたい。…どうかな?四人とも、出来そうかね?」

校長は、王とペイジの四人に聞いた。

「はい」

ライアン、エンジー、マクーストが返事をする中、オズは頭の中に段取りをインプットさせようと、ブツブツ呟ていた。

「……オズ?出来そうかな?」

校長に聞かれ、横のビーゼルに肘を突かれたオズは、パッと顔を上げ、慌てて返事をした。

「は、はいっ!」

校長はオズに笑顔を向けると、全員を見回した。

「後の者は、王座の傍で整列していてもらいたい。この儀式を静かに見守っていてくれるね?」

「はい」

王座とペイジ以外の守護者は、校長に頷いて返した。

「…良かった…。今回は、何もしなくて済みそう……」

ネルは、ホッとしたようにため息をついた。

「あなた、苦手だものね、こういうの」

ティオラがネルに言うと、ネルはジロッとティオラに目をやって返した。

「そういうティオラは、出番がなくて物足りないんじゃないの?出しゃばるの好きだもんね~?」

「なっ!なんですってぇっ‼」

「あー、はいはい。そこまでにしとけって。もう式が始まるんだぜ?」

いがみ合う二人の間に、ビーゼルが割って入って宥めた。

苦笑いでその様子を見ていたオズに、マクーストが話しかけた。

「……あの……。オズ、よろしくね」

「ああ!オレ、ヘマするかもしれねーけど…、よろしく頼むぜ!」

頭をかきながら、ニコッと笑うオズに、マクーストは、ぼーっと見とれていた。


数分後。

体育館には、全校生徒が集まり、騒がしくなっていた。

壇上には重いカーテンがかかり、祭壇の様子は、生徒達からは見えない状態だった。

祭壇の上には、王座以外の守護者が並んでいた。

王座の二人は、左右それぞれの舞台袖で待機している状態だ。

「………」

暗闇の中で、一人待機しているライアンは、少し寂し気な表情で、胸に付けた勲章に目をやった。

反対側では、マクーストが緊張した面持ちで、式が始まるのを待っていた。

「…大丈夫だ…。大丈夫。……オズが傍にいてくれるから…。大丈夫だよ」

マクーストは自分に言い聞かせるように胸に手をあてて呟いた。

すると、リヨンド副校長の声が、館内に響いた。

「これより、終業礼式を行います。皆、静粛に願います」

生徒達は少しずつ話すのをやめ、次第に館内は静かになっていった。

「では、校長先生。お願いいたします」

マイクを持ったリヨンドは、壇上に上がる階段の前にいる校長に向けて言った。

校長はゆっくり頷くと、待機していた教員からマイクを受け取り、カーテンの閉まった壇上に上がって、中央まで移動した。

「それでは、これから終業礼式をとり行うため、黒陽、白月、両守護者に協力願いたいと思う。皆の前に姿を現してくれたまえ!」

校長が言うと、カーテンが勢いよく開いた。

煌びやかに光る王の椅子を中央に、両サイドに、エース・ナイト・ペイジ・プリンセスの順に守護者たちが並んでいる。

黒陽のプリンセスがいないことに、皆、察しがついているようで、そのことに対して、場がざわつくことはなかった。

校長は、白月側の舞台脇へと移動すると、舞台の方を見ながら楽しそうに次の段取りへと移った。

「それでは、黒陽・白月、両王座の二人、皆の前に出てきてくれたまえ」

校長に言われ、ライアンとマクーストは壇上に姿を現した。

二人は、互いの守護者の前を通り、椅子の前へとたどり着くと、生徒達の方へ身体を向けた。

「…どうぞ、かけておくれ」

校長の合図によって、二人は静かに椅子へと腰を下ろした。

「一学期の終止符ということで、この終業礼式をとり行うことが、このクアトロ・コートでの決まりとなっている。黒陽・白月、成長のために互いに対立し合う存在ではあるが、この休暇中は一時休戦し、心身を存分に休息させて欲しいと思う。…だが、宿題や課題は忘れてはいけないよ?」

校長の茶目っ気に、何人かの生徒はクスクス笑った。

「そういう訳で、王の二人から、一時勲章を預かることになる。メダルセーフティの儀式を行うので、ペイジの二人は、王を前に誘導してくれないかな」

校長は、オズとエンジーに、目で合図を送った。

エンジーはスッとライアンの方へ移動した。オズも慌ててマクーストの方へ移動した。

「…さ、ライアン…」

立膝をついたエンジーがライアンに手を差し出すと、ライアンは安心したように穏やかな顔をして手をとった。

オズも立膝をつき、マクーストに手を差し出した。

「マクースト、行こうぜ」

「……オズ……」

マクーストは赤い顔で、オズを見つめると、恐る恐る彼女の手をとった。

マクーストは、オズの手に触れている自分の手が、熱くそして震えていることに気が付いていた。

ライアンとマクーストが椅子から立ち上がると、そのまま祭壇の方へと向かった。

オズとエンジーも、その後に続いた。

「ペイジの二人は、王から勲章を受け取っておくれ」

祭壇の前に来たのを確認した校長が言うと、王座の二人は胸ポケットから勲章を外して、ペイジの二人に両手で差し出した。

オズとエンジーは両手で勲章を受け取った。

「メダルセーフティへと、勲章を収めてくれたまえ」

ライアンとマクーストが一歩後ろに下がり、祭壇の前に来たオズとエンジーは、校長に言われるがままに勲章をセーフティへとしまった。

「鍵を…」

二人は鍵を胸ポケットから出し、蓋を閉じて、それぞれ鍵をかけた。

しっかり閉まっているのを確認した二人は、校長の方へ顔を向けた。

「よろしい。それでは、鍵をリヨンド先生に預けてくれたまえ」

前もって段取りしていたのか、待機していたリヨンドが、タイミングよく壇上に現れた。

リヨンドはカラの盆を持ち、二人の元へ歩み寄った。

「……鍵をここに…」

リヨンドが言うと、オズとエンジーは、それぞれ鍵を盆の上に置いた。

二つの鍵を確認したリヨンドは、祭壇に置かれたメダルセーフティも盆の上に乗せ、手際よく回収し始めた。

祭壇の上に何もなくなると、リヨンドはその場から去って行った。

「…メダルセーフティの式はこれで終わりなのだけど、王の二人に、みんなへ一言ずつ挨拶してもらいたいと思う。…二人とも、前へ」

校長は、メダルセーフティの儀式を無事終えられたことに満足しているのか、満面の笑みを浮かべていた。

ライアンとマクーストは、顔を合わせると、祭壇よりも前に移動した。

オズとエンジーは、斜め後ろから二人の様子を見守った。

「では、まず黒陽のライアンからにしようか」

言われたライアンは頷くと、みんなの方へまっすぐ目を向けた。

「…ここまで無事に一学期を終えられるのは、守護者や、みんなの協力があってのことです。そして、儀式も無事に終えることができて感謝しています。…二学期もどうぞよろしくお願いします」

ライアンがペコッと頭を下げると、生徒達からは拍手が起こった。

勲章を預け、一時休戦となり、敵味方がなくなったせいなのか、白月の生徒も拍手を送っている。

黒陽の守護者はもちろん、白月の守護者もライアンに拍手を送った。

「…それでは次に、白月のマクースト。頼めるかな?」

校長に言われ、マクーストは、緊張した表情で、みんなの方に目を向けた。

「…あ…、あの……。ぼ、僕……っ……」

言うことが決まていなかったのか、マクーストは、言葉を詰まらせた。

「…大丈夫か…?マクーストのヤツ……」

すぐ後ろで見ていたオズが心配そうに呟くと、それを聞いていたエンジーは、マクーストに目を向けた。

「…ぼ、僕…、こんな頼りない奴だから、守護者やみんなに助けられてばっかりで……その………っ」

マクーストはぎゅっと目を閉じて、そのまま黙ってしまった。

「……??」

白月の守護者の三人は、互いに目を見合わせて戸惑った。

館内は、マクーストの異変に、徐々にざわつき始めた。

「………?」

隣にいるライアンも心配して、うつむくマクーストの様子をうかがった、

「っ⁉」

オズはハッとした。

(まさかっ!例の呪いが発動するのか……っ⁉)

そう思い、オズがマクーストに近寄ろうとした時だった。

マクーストは突然顔を上げ、決意したように言葉を発した。

「こんな僕だけど…っ!聞いてもらいたいんだっっ‼」

すると、マクーストは急に身体の向きを変え、オズの顔をじっと見つめた。

「…え?」

オズが驚く暇もないまま、マクーストは大声で言った。

「オズっ‼……僕…、僕っ、あなたの事が好きですっ‼」

「っ⁉」

「…うっそぉ…」

「マジか…っ」

まさかのことに、全員、度肝を抜かれたような表情で驚いた。

「…やるねぇ…」

「……っ⁉」

ファウスとテンも当然驚き、マクーストを見ていた。

間近でそれを見ていたエンジーが驚いていると、ライアンが驚いてこちらを見ているのに気づき、そちらへ目を合わせた。

マクーストによる突然の熱烈な告白を受けたオズは、一瞬何が起こったのか分からず真っ白になっていたが、だんだん理解しだすと、かぁーっと顔を赤くさせた。

「…は?…え?…お、お前…また…、何言ってんだよ⁉正気か?冗談もほどほどにしろよっ‼」

怒ったオズに、あしらわれそうになったマクーストは、真っ赤になりながら必死に訴えた。

「冗談なんかじゃないっ!僕、本気なんだっ‼本気でオズのこと…っ‼」

「っ⁉」

迫って来るマクーストのまっすぐな瞳に見つめられ、耐えられなくなったオズは、とっさに視線を反らせた。

「っっ⁉」

その瞬間、こちらを見ていたエンジーと目が合った。

「っ⁉」

エンジーは、気まずそうにとっさに目を背けた。

「~~~~っっ⁉」

今この瞬間がたまらなく恥ずかしく感じたオズは、耳まで真っ赤にさせてマクーストから距離をとった。

「こんなところでよせよ!お前、今、緊張で追いつめられてるから、自分の気持ちが分からなくなってるんじゃねーか?もっと冷静になって考えろよ!」

だが、マクーストはお構いなしにオズに迫った。

「分からなくなんてなってない!僕、ずっと前からオズのことが好きだ!以前の気持ちから……僕は変わってなんかないっ‼」

「っ⁉」

以前というのは、マクーストが呪いによって野獣化した際に、宥めたのがオズだと勘違いした時のことを言っているのだと、オズは理解した。

「……オレのどこがいいんだよ…?こんな…、こんな男みてーな口の悪いヤツなんて…。オレは…、お前とは釣り合わねーよ……」

少し落ち着きを取り戻したオズは、頬を赤く染めた顔を下に向けた。

「…………」

黙ってオズに目を向けているエンジーの隣へと、ライアンは移動した。

周りのみんなも、オズに目を向けた。

「……オズ……」

オズを見つめるビーゼルが呟いた。

自分を批判するオズに、マクーストはブンブンと首を横に振った。

「そんなことないっ!オズは、僕にないものをたくさん持っていて…。たくましくて、思いやりがあって…。僕の事をちゃんと見てくれてるから…っ!」

オズは顔を上げてマクーストを見た。マクーストは赤い顔で、じっとこちらをまっすぐ見つめている

「………っ」

マクーストの真剣な表情を見ていたライアンはその時、内から込み上げる何かを感じた。

「僕のこと、オズがちゃんと見てくれているの知ってるんだよ?…この間ココルルさんに、僕のことを話してくれているのも…、知ってた……」

オズはハッとした。

「…っ⁉聞いてたのか?…あ、あれは、白月のみんなの事を聞かれたからで…っ」

オズが理由を話そうとするのを、マクーストは遮った。

「それに、僕の呪いが発動しないか心配して、いつも僕の傍にいてくれる!……僕、…僕、自分だけがなんでこんな呪いにかかるんだって…、凄く不安だったけど…、オズのおかげで…、オズが傍にいてくれるだけで……心強いんだ……!」

「……マクースト……」

興奮を抑えきれず、肩で息をするマクーストを、オズは見つめた。

「………」

だが、すぐにオズは眉をひそめて目を伏せた。

他の守護者たちは、オズがマクーストにどう返事をするのか、二人に注目した。

舞台の端で、手を後ろに組んで立っている校長は、青春を謳歌する二人の若者を、満足気に笑みを浮かべて見ている。

マクーストからの大胆な告白を受けたオズを、エンジーはじっと見つめていた。

彼女の表情は、悩んでいるように見える…。

いつも一緒にいるマクーストから好意を抱かれたという嬉しさは見られず、まるで、今、この状況をどう打破しようか考えているようだ。

「………っっ」

エンジーがそんなオズの様子を見ていると、隣にいたライアンが、彼の腕を力強くぎゅっと掴んだ。

「っ⁉」

エンジーはハッと驚いて、そちらへ顔を向けた。

「…エ…っエンジ……っ!……ぼっ……ぼ…く……っ…っ」

ライアンは、もう片方の手で胸を押さえ、苦しそうに声を発した。

「ラ、ライアンっ……っ⁉」

エンジーは驚いて、ライアンの身体を支えるように、彼の肩を掴んだ。

「っ⁉」

ライアンの目を見たエンジーは、尚更(なおさら)驚いた。

彼の瞳は、自我を失くすかのように、徐々に赤みを帯びていった。

 - 呪いに支配され始めている -

エンジーは直感した。

「ライアンっ!気をしっかり持つんだ!自分を失うな‼」

ライアンの肩を力強く掴み、彼が呪いの力に飲み込まれないように、エンジーは必死に叫んだ。

エンジーの言う通りに、欲望に飲み込まれないよう、ぎゅっと目を閉じていたライアンだったが、襲い来る力に耐えられなくなったのか、苦しそうに首を横に振って、その場にしゃがみこんだ。

「な、なんなの?」

「一体どうしたんだ?」

白月の守護者たちは、その様子を見て困惑しているようだった。

近くに居たオズとマクーストも、驚いてそちらに振り返っていた。

(…あの様子…、もしかして、アイツもマクーストと同じように……?)

オズがそう思っていると、テンの声が舞台上に響き渡った。

「ファウス!幕を閉じろ!」

テンはそう言い放ち、ライアンの元へ駆け寄った。

ファウスはテンに言われた通り、急いで舞台袖に移動した。

「…テン…っ⁉」

ライアンの気を宥めようとするテンを、エンジーは驚いて見つめた。

「わたしがライアンの気を収める!今はそれしか方法はない‼」

テンはエンジーに言い放つと、取り乱すライアンをぎゅっと抱きしめた。

「……っ⁉」

その瞬間、ライアンは覚醒したように赤い目を見開いた。

すると、容赦なくテンの制服を引きちぎるように脱がし始め、素肌を貪るようにしゃぶりついた。

「きゃあっ!」

「な、なにあれっ⁉」

「こんなとこで、嘘だろっ⁉」

ティオラ、ネル、ビーゼルは、突然のことに驚いて、赤い顔でその様子に目を見張った。

「…なっ⁉」

近くで見ていたオズも当然驚いたが、オズはエンジーの様子が気になったようで、彼に目を向けた。

「……っ」

エンジーは言葉を失い、ただただその光景を驚いた様子で見ているだけだった。

幕が閉じた舞台上に、ファウスも姿を現し、その光景にじっと目をやった。

「……んんっ……っ!」

テンは、ライアンのいたぶりに耐えるように声を発すると、皆の目から離れるように、自力で舞台の上から移動しようと立ち上がった。

幕の外では、取り残された生徒たちが、何事かといった様子でざわついている声が聞こえている。

「………」

校長は目だけを動かし、舞台の様子を黙って見ていた。まるで皆の反応を観察するように…。

ライアンを担ぎながら、一人で舞台袖に行くのは困難なようで、テンは、ガクッと膝をついて息を切らした。

それでも尚、ライアンの興奮は続いていた。

見兼ねたファウスが手を貸し、三人はそのまま舞台袖へと消えて行った。

「………」

舞台上の白月の全員は、何が起こったのか分からず、呆然としていた。

エンジーは、苦痛な表情で、ライアンが消えて行った舞台袖の暗闇の方へと顔を向けている。

オズはじっとエンジーに目を向け、今の事を問いただそうと、彼に声を掛けようとした。

だがその時だった。

「…だ……、だめ…だっ……オ…ズ……っ‼」

「え…?」

隣のマクーストの異変に気が付いた時にはもう遅かった。

膝をガクンと床に付けたマクーストは、身体を震えあがらせて、それに耐えるように自分の両腕を強く掴んだ。

「マっ、マクーストっ⁉」

オズは驚いてマクーストに近寄り、彼の肩に手を置こうとした。

「っ⁉」

マクーストの様子を見たオズは驚いた。

マクーストは牙をむき出しにして、鋭い目を赤く光らせていた。

(発動した…っ‼)

オズは思った。

「お前ら離れろっ!例の呪いだ‼」

オズは、後ろにいるティオラ達に非難を命じた。

「そ、そんなっ!」

「ヤ、ヤバっ‼」

「一体どうなってんだよっ‼」

次から次へと起こる事態に、三人は困惑しながらその場を離れようとした。

「オズっ!お前もいったんこっちへ来いっ‼」

マクーストから離れようとしないオズを心配し、ビーゼルは呼びかけた。

「大丈夫だ!オレが宥めるから!」

オズはマクーストの背中をさすりながらビーゼルに言った。

「な、なに言ってやがんだ⁉出来るわけねーだろっ⁉」

ビーゼルは焦って返した。

「…マクースト!しっかりしろ!……この力はお前の優しさに甘えてるだけだ!お前がこの力になんて負けないって思えば、きっと離れていく!…だから、マクーストっ!」

オズはマクーストの両肩をぎゅっと掴んだ。

「っ⁉」

マクーストは顔を上げ、赤く光る目を一点に向けた。

「…っ⁉」

その場にいたエンジーは、その目を見ると一歩も動けなくなってしまった。

「…?」

オズはマクーストの視線の先へと顔を向けた。

マクーストは唸(うな)りながら、エンジーを睨みつけている。

「…っ⁉だ、駄目だっ!マクーストっ‼」

オズが忠告した瞬間、マクーストは四つん這いで、勢いよく走り出した。

「うぁっっ‼」

エンジーに襲い掛かったマクーストは、以前のライアンの時と同様に、右肩に噛みつこうとした。

その場に倒れ込んだエンジーは、間一髪のところでそれを避けたが、未だに食らいついて来るマクーストから必死に抵抗した。

マクーストはエンジーの制服のシャツを食いちぎり、まだ彼に噛みつこうとしている。

「っ⁉よ、よせっ‼」

オズは、マクーストに駆け寄り、エンジーから離そうと腕を掴んだが、自我を失ったマクーストには敵わず、腕を払いのけられて、その場に倒れ込んでしまった。

ティオラとネルがオロオロする中、それを見ていたビーゼルは、険しい表情でマクーストを睨みつけた。

「…っこの野郎…っ!」

すると、ビーゼルは、途端に走り出した。

一目散に二人の元へと走ったビーゼルは、マクーストめがけて拳を振りかざした。

「っ⁉」

「うそ…」

ビーゼルは、マクーストの左頬を思いきり殴り、マクーストはその場から吹っ飛んだ。

それを見ていたティオラとネルは驚き、手で口を塞いだ。

「…ビ、ビーゼル…っ⁉」

尻もちをついたままのオズも、驚いてその光景を見ていた。

「マクーストっ‼」

ティオラは、とっさにマクーストの元に駆け寄り様子をうかがったが、マクーストは気を失ったまま目を覚ますことはなかった。

「………っ」

ビーゼルは複雑な表情で、倒れているマクーストを見た後、身体を起こすエンジーの方に振り返った。

「…ったく、そっちの王といい、マクーストの呪いまで発動するなんて…一体どーなってやがんだ…、っっ⁉」

ビーゼルは、エンジーを見て驚きの表情を見せた。

マクーストに食いちぎりられたシャツの下から、火傷の跡がはっきりと見える。

それは、右肩から背中へと広範囲渡っていた。

「…お、お前…っ、それ…火傷か……?」

ビーゼルの言葉に、ティオラ、ネル、オズもそちらに顔を向けて驚いた。

「…う…、うそだ……っ」

エンジーの身体にある火傷の跡を、直(じか)に目にしたオズは、目を見張った。

「……っ」

エンジーはみんなから目を反らし、それ以上火傷の跡を見られないように、破れたシャツを着直すと、その場からそそくさと立ち去った。

「………」

その場に残った四人は呆然としながら、去っていくエンジーの後ろ姿を見ていた。



次回へつづく

最後まで読んでいただき、いつもありがとうございます!

次回「ある夏の日の告白 前編」もよろしくお願いします!!

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