EP6. 【偽りの正義】
「最近は、問題ないみたいだな」
庭園の中を歩きながら、オズはマクーストに話しかけた。
「うん。記憶が無くなって、気が付いたらベッドの上なんてこともないよ」
マクーストは笑顔をオズに向けて言った。
「そうか。…それで、そのお礼をしに、チャペルへ行くのか?」
「うん。…あ、オズさん、なにか、他に用事があったかな…?」
マクーストは若干不安な表情をして、オズに聞いた。
「いや。なにもねーよ」
(オレも礼をしねーとな…)
オズは心の中で思った。
どうやら、このところ何も起こらないことへのお礼をしに教会へ行くのに、マクーストはオズを誘ったようだった。
「なら良かった!」
マクーストはホッとしたように笑顔で言った。
「……あのさぁ…」
すると、オズは何か腑に落ちない様子でマクーストに話しかけた。
「…え?」
「ずっと言おう言おうと思ってたんだけど、「オズさん」って呼ぶの、やめてくれないか?同じ歳なのに、さん付けで呼ばれんの、なんか気持ち悪くてよぉ」
「え…」
「気持ち悪い」のワードにショックを受けたマクーストは、あからさまに顔に出してオズを見た。
「あっ!い、いや、気持ち悪いっていうか、なんか慣れなくてさ…」
オズは慌てて言い換えた。
「そ、そうだよね…。じゃ、じゃあ、オズ…でいいのかな…?」
マクーストは、赤い顔で戸惑いながら聞いた。
「ああ!みんなそう呼んでるから、お前もそうしてくれよ!」
「……っ!」
満面の笑みで言うオズに、マクーストは、ぽぉっと赤くなって彼女を見つめた。
チャペルに着いた二人は、開いている扉をくぐり、中へと入った。
すると、カトデラの前に誰か立っているのに気が付き、二人は足を止めた。
制服から黒陽の女子生徒だということが分かったが、顔が見えないため、だれかまでは分からなかった。
だが、長いウェーブのかかったロングヘアーに、二人は見覚えがあった。
「…あれって…確か……」
「あ、オズさ…、じゃなかった、オズ…!」
マクーストが躊躇するも、オズはそのまま、その人物の方へ足を向けた。
「……っ!」
カトデラの前で指を組んでいたココルルは、ハッと目を開けた。
「…誰かいるの?」
オズは、ココルルが気付いたことにハッとしたが、構わず近寄った。
「…えっと…。確か、黒陽のプリンセスだったよな?」
「……?…え、ええ…。あなたの声、聞いたことがあるわ……。確か…白月の……」
「ペイジのオズだ。オズ・クロスアルド!」
「…っ!」
一瞬驚いた表情を見せたココルルは、オズの声がする方へ身体を向けた。
「お話しするのは初めてね。ココルル・ハイネです。どうぞよろしく」
ココルルはふんわりした笑顔をオズに向けて、右手を差し出した。
「えっ!」
オズはココルルの差し出した手を見ると、慌てて自分の右手をジャケットで拭いて彼女の右手に添えた。
「っ!」
ココルルは驚いた顔をすると、クスクス笑い出した。
「?ど、どうした?」
オズはココルルの反応に困惑して聞いた。
「…いえ…。随分たくましい声だけれど…。やっぱり女性だなと思って」
ココルルはそう言って、オズからゆっくり手を離した。
「ごめんなさい、変な事言って」
「…いや…。オレ、そんな女らしいこと言ったか?」
「手を握れば分かるわ。柔らかくてとても暖かくて…。とても女性らしいわ」
「……そ、そうか…?」
慣れていないことに素直に喜んで良いものか分からず、オズは頬を染めて自分の右手を見た。
「あら、もう一人、誰かいるわね…?」
ココルルは、マクーストの気配に気が付き、そちらへ顔を向けた。
マクーストはドキッとして、照れながらココルルの方へ歩み寄った。
「こいつはマクーストだ」
オズは、照れるマクーストを面白がりながら、ココルルに紹介した。
「まぁ!白月の王座の方ね!ココルルと申します。よろしく」
ココルルは顔をぱぁっと明るくさせ、マクーストの方に手を差し出した。
「えっ!あっ…、マ、マクースト・ゼイルと言います。よろしくお願いします」
マクーストは慌ててココルルと握手をした。
ココルルはニコニコとマクーストに笑顔を向けている。マクーストはそ笑顔に癒されたのか、ぼーっと彼女を見つめていた。
オズは辺りを見回すと、ココルルに顔を戻して聞いた。
「それはそうと、こんなところに一人でいたのか?いつも一緒にいるアイツは?…そっちのエースの……」
「…テンさん?…テンさんには黙って来たのよ。……きっと止められるから…」
ココルルは祭壇の方に向き直し、ステンドグラスを見上げて言った。
「……?」
オズとマクーストは、頭に「?」を浮かべて、顔を合わせた。
「そういえば、ここへ何しに来たんだ?」
オズの質問にココルルは顔を向けた。
「…祭司へ…願いを受け取ってくれたお礼をしていたのよ」
「願い?…何を願ったんだ?」
「だ、駄目だよ!そんなこと聞いたら失礼だよ!」
「あっ…、わ、悪い…っ!」
オズのデリカシーのない言葉に、マクーストは慌てて止めた。
二人のやり取りを聞いていたココルルは、クスクス笑って答えた。
「いえ、大丈夫よ。……実は…このところ、ライアンとエンジーとの間に何かあったみたいで、お互い避けてるみたいだったの…」
ココルルの言葉にオズはハッとした。
(…アイツの元気が無かった原因は、王と喧嘩したからだったのか……)
少し視線を落としたココルルを見て、オズは返した。
「そっちの王…ライアンが怒るのも無理はないんじゃないか?投票はアイツの勝手な判断でやった事なんだし、自業自得だぜ」
手を腰に当てて言うオズの方に、ココルルは顔を向けた。
「いいえ。ライアンはそんなことで怒る人じゃないわ。…きっと別のことが、あの二人の間で起こったんだと思うの。……私、仲のいい二人を見ているのが好きなのよ…。見えなくても、固くつながっている絆があるんだろうなって…。だから祭司に、あの二人の仲を元に戻して欲しいとお願いしたの…」
「………」
再びステンドグラスの方に顔を向けるココルルを見て、オズとマクーストもそれを見上げた。
「お礼をしに来たってことは…、二人は……」
オズが言うと、ココルルは頷いた。
「以前のように絆を取り戻したみたい」
「………」
ココルルは安心した笑顔をオズに向けた。オズはその笑顔を黙って見つめた。
「こんなこと、テンさんには言えないから…」
クスッと笑って言うココルルにオズは聞いた。
「なんで?」
「…どうしてって聞かれると困るんだけど…。…私が他の男の子のことを心配すると、テンさん、機嫌が悪くなってしまうのよ」
照れ笑いを浮かべて言うココルルに、オズとマクーストは目を点にして呆然とした。
「……あ……そう……」
「…そういえば、あなた達も礼拝をしに来たの?ごめんなさい、邪魔をしてしまったわね」
ココルルはハッとして、その場を退いた。
「あ、いや、いいんだ」
慌てて返すオズに、ココルルは振り返って行った。
「ごゆっくりどうぞ。…私は、これで失礼するわ」
すると、ココルルは、扉の方ではなく、祭壇から見て左手最前列の一番隅の椅子へと足を向けた。
椅子の背もたれにかけた布巾を手に取ると、再びオズたちの方へ身体を向けた。
少しおぼつかない足取りなのが気になり、オズはそちらに歩み寄って声をかけた。
「送って行こうか?」
「いえ、ここまで一人で来られたんだもの。大丈夫よ、ありがとう」
「……この布巾は…?」
オズは、ココルルの持っている布巾を見て聞いた。
「少しお掃除しようと思って…。目が見えていた頃は、ここへよくお掃除しに来ていたの。……とても大好きな場所だったから……」
ココルルは意味深な表情で、辺りを見渡した。
「目が見えないことにも慣れて来たから、また始めようかなと思って。…今日は鏡を拭いたのよ」
辺りを見ていたマクーストは、綺麗に光る、銀色の縁の鏡に気が付いた。
「…あ、この鏡だね!本当だ、ピカピカになってる!……へぇ、ちゃんと見たことなかったけど、随分年季の入った鏡だね」
ステンドグラスを真ん中にして、その両サイドの下辺に、左右対称に飾られた二つの姿見があった。
マクーストは、ココルルとオズがいる方とは逆の鏡に目をやっている。
「あ…!この鏡、クロスアルド家の人がこの学園に寄贈したみたいだね」
「…えっ?」
オズは、すかさず近くに飾られた金色の縁の鏡の前に移動した。
「……そっちの鏡は、オルマンダ家の方が寄贈したもののはずよ」
ココルルは少し言い辛そうにオズに言った。
「っ⁉」
オズは振り返ってココルルを見ると、またすぐに鏡に目を戻した。
「こんなことにまで対抗意識を燃やしてやがんのか…。…ん?」
オズが呆れ顔でその鏡を見ていると、豪華に装飾された縁に彫られた印を見つけた。確かにオルマンダ家からこの学園への寄贈品だと記されている。
そこには送られた年月日が記され、オズはそれを見て首を傾げた。
「……これ…、去年送られたのか…?」
マクーストの方にあるクロスアルド家が寄贈した年季の入った鏡に比べて、オズの目の前にある鏡は、とても新しいものだった。
ココルルは、ゆっくりとオズの方へ足を向けた。
「…二年前、ここが火事になった時に焼けてしまったのよ…。あっちの鏡は無事だったんだけど…」
オズは驚いてココルルの方へ振り返った。
「えっ⁉ここ、火事になったのか⁉」
「………」
ココルルはうつむいて黙った。
すると、ゆっくりと歩いて来たマクーストがオズに説明した。
「……二年前の創立祭の前夜に、聖菩樹に謝って火がついてしまったんだ。それが火種になってしまって、このチャペルにまで火が回ったそうだよ……」
「……聖菩樹……?」
「創立記念に、生徒の健やかな成長を願って植えられた木のことだよ。とても大きな木でね、このチャペルのすぐ隣に立っていたんだ。創立祭の日には、その木にたくさんの装飾を付けて、盛大にお祝いしていたみたいだよ。…僕も見てみたかったんだけど……」
マクーストはチャペルの窓から、聖菩樹があったであろう場所を見つめて、寂しそうに言った。
「……そんなことがあったのか…。…っ⁉」
オズは何かを思い出し、目を見開いた。
(まさかっ、校長が言ってた二年前のあのことって、火事のことか…っ?…だとしたら、ココルルは……っ⁉)
オズはすかさずココルルに目を向けた。
「っ⁉」
オズは驚いた。
ココルルは、とても悲しそうに、今にも泣きだしそうな顔でうつむいている。
「………っ」
察したオズとマクーストは、どう声をかけていいものか分からず、顔を見わせた。
「…っ…ごめんなさい…。やっぱりあの時のことを思い出すのは、とても辛いわ……」
ココルルは指で涙を拭うと、鏡の縁に指を添えた。
「…でもね、この鏡は私にとって…、いえ、私達にとって、とても大事なものなの…。これが…、私の心の支えなのよ…」
「………」
ココルルは、鏡に添えた手に力を入れた。オズは、黙ってそれを見ていた。
ココルルは、スッと鏡から手を離した。
「それじゃあ、失礼するわ。また会いましょう」
そう言ってココルルが身体を返すと、オズが呼び止めた。
「な、なぁ!」
ココルルは振り返った。
「…お前…、他の黒陽の奴らとは、違うんだな…」
オズの言葉を、ココルルは疑問に思った。
「違うって…?」
「…その…、なんていうか…。他の守護者の奴らは、偉そうっていうか、…その…、思いやりなんか一かけらも無い奴ばっかだけど、…お前は…、ココルルは…いい奴だ……」
オズは恥ずかしそうに言った。
そんなオズの言葉に、ココルルはクスッと笑って返した。
「どうもありがとう。……でもね、勘違いしているわ、オズ」
「…え?」
オズは疑問の顔を向けた。
「テンさんもファウスもエンジーも…、みんな優しくていい人よ」
ココルルは、にっこり笑ってオズに言うと、身体を返して、椅子の背もたれを伝いながら、扉へと向かって行った。
「………」
マクーストは、心配そうにココルルを見届けていたが、オズは、内の強さを見つめるように、彼女にじっと目を向けていた。
放課後。
食堂コメドールは、昼食時の賑わいはなく、数人の生徒が、談笑や授業後のティータイムを楽しんでいた。
白月と黒陽の生徒がいるものの、やはり派閥のせいでエリアはしっかり分かれていた。
「黒陽と白月…、やっぱりまだみんな仲良くって訳にはいかないかぁ…」
カウンターの椅子に座り、食堂の風景を眺めながら、片づけを終えたカウシュが呟いた。
「仕方が無いわよ。そんなにすぐに解決できるものじゃないわ」
手を拭きながら、一段落着いたノスティモも、カウシュの近くに来て言った。
「でも見て。あの子、来てくれるようになったわ」
ノスティモは、食堂の隅に座っているエンジーとライアンに目を向けて、嬉しそうにカウシュに言った。
「ああ、エンジーだね。ほんとだ…。彼も、お兄さんみたいに自信を付ければ、窮屈な思いしなくて済むのにな…」
「あの黒陽のエースは優秀過ぎたわ…。自信過剰になって敵を作りすぎたのよ…。…あの子も大変だわ。余計に委縮してしまってる……」
ノスティモはエンジーを見つめて、寂しそうな表情をして言った。
「…でも、少し自信を取り戻したから、彼はここにいるんじゃないか。きっと、オズがこの間連れて来てくれたからだよ。……あ、僕の大食いイベント作戦のおかげかな?」
呑気に笑うカウシュを見て、ノスティモは呆れ顔で奥へと下がって行った。
エンジーとライアンは隣どうしに座り、お互いの目の前には、カフェラテの入ったカップを置いていた。
「……珍しいね。エンジーが食堂に誘うなんて」
少し気まずそうにライアンは聞いた。
「あ、ああ…。この間来てみたら、それほど悪くもないかなと思って…」
エンジーもぎこちない様子で答えた。やはりまだ二人の間には蟠りが残っているようだ。
「………」
「………」
いつものような会話が戻らない二人は、気まずい雰囲気の中で黙った。
誤魔化すように、エンジーが目を背けながらラテを飲むと、こちらにチラチラ目を向けてコソコソ話をしている黒陽の生徒が何人かいることに気が付いた。
(………またか……)
エンジーは怪訝な顔で眉間に皺を寄せた。
すると、今度は、数人の女子がライアンを気にしながらコソコソ話していることに気付いた。
エンジーは、すかさずライアンの様子を気にした。
ライアンはというと、そのことにとっくに気が付いていたようで、視線を反らせてうつむいた。
「…ライアン…。ごめん。やっぱり、別のとこに行こう」
そう言ってエンジーが立ち上がろうとするのを、ライアンは顔を上げて止めた。
「いいよ、ここで。…エンジーの方こそ、ここはやっぱり嫌なんじゃない?」
今度はライアンがエンジーに気を使って聞いた。
エンジーは椅子に座り直して答えた。
「いや。僕はもう慣れた」
「なら、僕ももう慣れたよ。…このところ教室と部屋の往復しかしてなかったから、気分転換になってちょうどいいや」
ライアンはエンジーに笑顔を向けて言った。
「…それならいいけど…。あんまり無理するな。何かあればすぐに言ってくれよ」
エンジーはライアンを心配しながら言った。
「うん」
ライアンは頷いて返した。
「……僕に、もう隠し事なんかするなよ…?」
「………」
エンジーの真剣な眼差しに、ライアンはじっと目を向けた。
「……うん」
ライアンは頷くと、視線を反らせた。
「………」
時折見せる、感情が読み取りにくいライアンの反応に、エンジーはどこか不安を抱いて彼を見つめた。
だが、エンジーも視線を反らせ、今はライアンを信じようと決めた。
「へぇ!自分からここへ来るなんて感心だな!」
突然の活気の良い声に、エンジーとライアンはハッと顔を上げた。
二人の席の近くへと、マクーストを連れたオズがやって来た。
エンジーは露骨に「ゲッ」という顔をして返した。
「…君か…。別に君に影響されたからじゃないないけどね」
プイッと顔を背けて言うエンジーに、オズはムッとした。
「相変わらず素直じゃねーヤツ。…またシャレたもん飲みやがって。ラテ仲間でも増やしてんのか?」
二人の前にあるカフェラテを見て、オズは笑いながら茶化した。
オズの様子を、マクーストは、たじたじになって見ている。
「どうせ君の口には合わないよ。牛乳たくさんのカフェオレでも飲んでろよ!」
いつものように、オズの茶化しに乗っかったエンジーは負けじと嫌味を返した。
「カフェオレをバカにすんな!」
「カフェオレのことは別にしてない!」
「じゃあ何のことだよっ⁉」
「さぁ⁉自分で考えてみろよ!」
「~~~~っ⁉」
頭に血を上らせたオズは、すかさず隣にいるマクーストに顔を向けた。
怖い顔で突然睨まれ、マクーストはビクッとした。
「マクーストっ!お前、カフェオレとカフェラテ、どっちが好みだっ⁉」
「………へっ?」
マクーストは目を丸くさせた。
それを見ていたエンジーも、隣のライアンに顔を向けて聞いた。
「ライアンはカフェラテ派だろっ⁉」
「…っ⁉…え…、ぼ、僕……?」
自分に回って来たライアンは、驚いて目の前にあるカフェラテに目をやった。
「………」
ライアンは、じーっとそれを見つめると、少し気まずそうにしながら口を開いた。
「…ほんとはほうじ茶ラテが好きなんだけど…、この食堂にはないから……」
「……っ⁉」
申し訳なさそうにするライアンの答えを聞いたエンジーは、ショックを隠せず固まった。
「ハハハハハっ‼だとさ!さすがに王の好みまでは把握しきれてなかったか!残念だったな黒陽のペイジさん‼」
オズは、勝ち誇ったように腰に手を当てて、声高らかに笑った。
エンジーはキッとオズを睨んだ。
「マクースト、お前も苦いラテよりオレ派だろ?」
くるっと身体を向けて、オズはマクーストに聞いた。
「……っていうより……あの…、ぼ、僕……」
マクーストは指で頬を掻きながら続けた。
「…僕、コーヒー飲めないんだよね…。牛乳入れても…なんか苦くってさ……」
「…………」
「へへッ」と照れながら言うマクーストの答えは、問題とする以前のもので、三人は呆然としてマクーストに目を向けた。
オズは気を取り直し、エンジーとライアンの方に顔を戻した。
「……お前ら、ケンカしてたんだって?」
二人はハッとしてオズに目を向けた。
「………」
二人は気まずそうに黙った。
そんな二人の様子を見ながら、オズはエンジーの前の席に座って話を続けた。
「最近お前が元気無かったのって、そのせいだったんだろ?」
マクーストもオズの話を聞きながら、ライアンの前の席に座った。
「……なんでそんなことを…?…誰かに聞いたのか…?」
ライアンの秘密について、敵のオズに知られるわけにいかないエンジーは、どこから情報を手に入れたのかが気になり、探りを入れた。
「そっちのプリンセス。ココルルが言ってた」
「っ⁉」
オズの言葉に、エンジーとライアンは驚き、目を合わせた。
「最近、お前たちの間に、以前のような絆が見られないって…。すごく、寂しそうに言ってた…。祭司へお前たちが仲直り出来るように願ってたらしいぞ。…なぁ?」
オズは隣のマクーストに振り、マクーストは黙って頷いた。
エンジーとライアンは、驚いたままオズの話を聞いていた。
「…あんないい子に心配かけるなよ。黒陽になんて他にいないだろ?あんな純粋で心の優しい生徒」
「………」
聞かれた二人は、下を向いて黙った。
「以前にもしていたからって言って、チャペルの鏡も磨いてたよ。目が見えないのに凄いね、ココルルさんって」
「…えっ⁉」
マクーストの言葉に、先ほどよりも驚いた表情で、エンジーとライアンは顔を上げた。
「…あの鏡、彼女にとっては大事なものらしいな。……二年前の火事と関係があるのか?」
「…っ⁉…火事のこと…、ココルルが君に話したのか?」
エンジーはとっさにオズに聞き返した。
話に食いついて来たエンジーに、オズは首を横に振って返した。
「…詳しくは聞いてない。あまり話したく無さそうだっだしな…。だから、こうやってお前たちに聞きに来たんじゃねーか」
「………」
エンジーは眉を顰めて目を反らせた。
「そのことを聞かれると困るのか?何か黒陽側で不利になることでもあるのか?」
オズは詰め寄った。隣でマクーストは冷や汗を掻いて見ている。
「…そんなことはない…」
エンジーは目を反らせたまま答えた。
「なら話せよ!二年前、創立祭の前夜に起こった火事に事を!校長の言ってたあのことって、その火事のことなんだろっ⁉ココルルの目が見えなくなったのは、その火事のせいなんだろっ⁉」
この学園で起こったことについて、未だ何も分かっていないオズは、皆が隠そうとすることに苛立ち、声を荒げてエンジーに追求した。
周りの生徒は何事かといったように、そちらに顔を向けている。
「………っ⁉」
ヒートアップするオズに、エンジーは押され気味になりながら彼女に目を向けた。
「…私も知りたいのよ。黒陽のプリンセスのことについて」
すると、突然話に入ってくる人物の声に、四人はハッとして目を向けた。
そこには、話に割って入った張本人のティオラと、その横にはビーゼル、ネルの姿があった。
オズはティオラを見ると、怪訝に眉を顰めた。
「オレが今聞いてんだよ!邪魔すんな!」
「あら、同じことを聞いてるんじゃない」
ティオラはスタスタ歩いて、四人のいるテーブルの前に立った。
「私も黒陽のプリンセスのことについて知りたいのよ。それとも、あなた達内々で内緒にしたい話なのかしら?」
ティオラはオズとマクーストを、まるで裏切者を見るような目で、ジロッと睨みつけた。
マクーストは途端に萎縮し、チラッとオズに目をやった。
怪訝な顔をしたままのオズは、ビーゼルを睨んだ。
「えっ!お、俺は何も知らねーぜ!このティオラさんが、お前たちを探してたから、着いて来ただけだぜ!」
ビーゼルは慌てた様子で、アタフタしながらオズに言い訳した。
すると、そんなビーゼルの前に、ネルがヒョコッと現れて、ティオラを指さした。
「この人が聞きたいのは、黒陽のプリンセスのことじゃなくて、プリンセスにいっつもべったりくっついてる、黒陽のエースのことだと思いまーす!」
ネルの言葉を聞き、全員ティオラに目をやった。
「な…っ⁉」
ティオラはかぁ~っと顔を赤くさせ、言葉を詰まらせた。
「…ハッ。なるほどな。そーいやお前、ホレてるんだっけ。黒陽のエースに」
オズは、ほくそ笑んでティオラをジロッと見た。
「……えっ?」
オズの言葉にエンジーが反応を見せた。
「ち、違うわよっ!な、なんで私が宿敵である相手のエースに好意を持たなきゃいけないのよっ‼」
ティオラは真っ赤になりながら、あからさまな動揺を見せた。
(……これはどう見てもホレてるな……)
ティオラの慌てようを見た場の全員がそう思った。
「………」
エンジーとライアンは、黙って目を合わせた。
「~~~~っっ!もういいわよっ‼単刀直入に聞くわっ‼あの二人、付き合ってるのっ⁉」
バンッとテーブルに両手を付き、ティオラはエンジーとライアンに向かって聞いた。
「………」
二人は直ぐには答えず、今度は困った表情で目を合わせた。
「…?なによ…?まさか、あんたらも知らないってわけ…?」
二人の反応を見たティオラは、眉を顰めて聞いた。
「…いや、そういう訳じゃ……」
はっきりしない態度に苛立ったティオラは、エンジーに詰め寄った。
「じゃあどうなのよ!答えなさいよ!」
エンジーが困っている様子を見て、ライアンは彼にコソッと言った。
「…エンジー。あの火事のことも含めて、話してもいいんじゃないかな」
エンジーは驚いてライアンを見た。
「…っ⁉なんだ?黒陽のエースも、二年前の火事に関わってるのか?」
ライアンの言葉を聞いたオズは、驚いて聞いた。
「…なんだよ、火事のことって…?」
話が理解できないビーゼルが口を挟んだ。
「後で説明するわよ!あんたは黙ってて!」
ティオラはビーゼルを黙らせた。
あしらわれたビーゼルは、「なんだよ」といった顔ですねる素振りを見せた。
横ではネルが面白がって見ている。
「…で?二年前の火事で、何があったの?」
ティオラは話を戻した。
聞かれたエンジーは、ライアンと目を合わせると頷いて返し、ティオラの方に顔を向けて話し出した。
「二年前、創立祭の前夜に火事が起こったことは、もうここの生徒はみんな知ってることだ。…けど、その夜に起こったことは、校長の意向で詳しくは伝えられていない。当事者であるココルル本人を、早く立ち直らせたいっていう心遣いがあってのようだけど…」
エンジーは視線を下に向けて言った。
「やっぱりその火事で、彼女の目が見えなくなったんだな…。けど、どうしてココルルは夜のチャペルにいたんだ?」
オズが聞くと、エンジーは視線を上げてオズと目を合わせた。
「彼女が言うには、誰かに呼び出されたらしいんだ」
「呼び出された?」
オズに聞かれ、エンジーは頷いた。
「彼女は手紙で呼び出されたらしいんだけど、そこには名前が書いてなかった。…ただ、日にちと時間を指定され、チャペルに来て欲しいとだけ…」
エンジーがそこまで言うと、ティオラは指をパチンッと鳴らした。
「分かった!その呼び出した人物が、火事を起こした犯人よ!」
「なんでそうなるんだよ?」
オズはティオラを見上げて聞いた。
「だって、そんな偶然ないじゃない!犯人はココルルに恨みを持っている人物だわ!彼女に痛い目に遭ってほしくて、チャペルに呼び出した後に火を着けたのよ!」
「そんなバカな話あるかよっ!」
ティオラの冗談でも許されない発言に、オズは怒鳴った。
「ココルルさんを恨む人物なんているかな…?」
ココルルと話した感じでは、とてもそんなことは考えられないと、マクーストはみんなを見回して言った。
「………」
マクーストの言う通り、そんな人物など思い当たらず、白月側四人は黙った。
「…その火事って、何が原因で起こったんだ?…人為的なものか?」
オズはエンジーに目を戻して聞いた。
「……いや、どうやら聖菩樹の装飾だったライトの電線が原因らしい。古いものだったみたいだし、損傷していたようなんだ」
「ほら、やっぱり犯人なんていねーじゃねーか」
オズはティオラに意地悪な目を向けて言った。
「それを早く言いなさいよね!」
ティオラは腕を組んでフイっとそっぽを向いた。
「それで?そこでなんで黒陽のエースが絡んでくるんだ?」
オズは話を戻した。
「火事の中で、ココルルを救い出したのがテンなんだ」
エンジーの言葉に、白月側は驚いた。
「オイオイ、そんなタイムリーに現れる救世主がいるかぁ?ドラマじゃあるめーし」
後ろで話を聞いていたビーゼルがすかさず割って入った。
みんなはビーゼルと同意見のようで、話の続きを促すようにエンジーを見ていた。
「ココルルを呼び出したのが、どうやらテンだったらしい。テンは、ココルルのことを以前から慕っていたようで、前夜に彼女を呼び出して、想いを告げようとしたんだ」
エンジーの話を聞き、ティオラはショックを受けて青くなった。
「…ってことは、黒陽のエースの方からアタックしたってことだ!」
ティオラが玉砕したことを可笑しく思ったネルは、「ククク」と笑って言った。
「どおりで二人がいつも一緒にいるわけが分かったぜ」
オズは腕を組んで納得したように言った。
「…あの鏡がココルルさんにとって大事なものっていうのは、どういうことなの?」
マクーストは、ココルルの言葉を思い出しながらエンジーに聞いた。
エンジーはマクーストの方に顔を向けると、険しい表情をして答えた。
「それは……。きっと、彼女の最後の瞳に映ったのが、あの鏡だったからだ」
「⁉」
エンジーの答えに、全員がハッと顔を向けた。エンジーは続けて言った。
「チャペルが焼け落ちる最中、恐怖で足に力が入らなくなった彼女は、その場にうずくまることしか出来なかった…。そんな中、彼女を呼ぶ声がどこからか聞こえてきたらしいんだ。炎が立ち上る中、その声はどこから聞こえてくるのか分からず、彼女は必死で辺りを見渡した。…そうしたら、鏡の中に黒陽の制服を着た一人の男子生徒が映ったんだ。ただ、既に鏡は上半分が割れてしまっていて、顔までは映らなかった。その人物がいったい誰なのか、ココルルが確かめるために振り返ろうとした瞬間、崩れてきた天井が彼女の元へ落下した……」
そこまで言うと、エンジーはみんなが既に話の先を察したであろうと、黙って目を閉じた。
「………」
白月の五人は、二年前の出来事の真実を知り、言葉を失って黙った。
隣にいるライアンも、エンジーと同じように目を閉じて黙っている。
「…その人物が、後に黒陽のエースであるテンだとわかったのね?」
みんなが黙る中、ティオラが口を開いて聞いた。
「本人から名乗り出たんだ。ココルルの心を少しでも早く癒せるのなら、この際、隠すことはないって」
エンジーは頷いて答えた。
「……経緯は分かった…。……けど……」
みんなが納得する中、オズには何か気になることがあるようで、そのことを口に出そうとした。
「………」
だが、みんながいる手前、その話を切り出すのはどうかと考えた。
「……?」
エンジーは疑問に思ってオズを見た。
「…いや、いい…」
オズは首を横に振って言った。
一通りの話を終え、テーブルにはエンジーとライアンの二人だけが残っていた。
冷めたカフェラテを見つめるエンジーの姿を、ライアンは気にして、チラッと目を向けた。
「…全部話させてごめんね……」
エンジーはライアンの方に顔を向けた。
「いや、大丈夫だ」
エンジーは平気な素振りをしてライアンに言った。
「……僕から言っておいてなんだけど……、白月に話しても、平気だよね?」
ライアンは今になって不安な顔を見せた。
「…問題ないだろう。変に隠しても疑われるだろうしな。特にあっちのペイジは思ったよりも勘繰り深そうだ。……あのことさえ言わなければ、なんの心配もない」
エンジーは、またカップに目を戻した。
一方白月側の五人は、それぞれの自室に戻るために最上階へと続く階段を上っていた。
「やっぱりあの二人付き合ってたんだ。いくら目が見えないとはいえ、あの過保護っぷりは異常だもん。残念だったね、ティオラ」
空気の読めないネルの言葉に、ティオラ以外の三人は冷や汗をかいたが、ティオラは一瞬ネルを睨むと、フッと寂しい顔をして視線を下げた。
「…私はテンの気持ちに共感するわ。大事に思っている人が傷ついたら、一生懸命守りたくなるのは当然のことよ……」
「ティオラ…」
オズは、ティオラの幼気な気持ちに同情した。他のみんなも、オズと同じ表情で彼女そ見ている。
「彼って根っからの紳士なのよ。…あーあ、私に似合う彼みたいな大人な男の人、他にいるかしら?」
ティオラは失恋の痛みを吹っ切るように、強気な態度をみんなに示した。
「………」
四人は切り替えの早い彼女の様子を、冷や汗をかきながら見ていた。
「それはそうと、オズ。あなた、さっきエンジーに何か聞こうとしていたけど、火事の話で、何か引っかかることでもあったの?」
ティオラは思い出したようにオズに聞いた。
「…えっ!?」
オズは、ハッと顔を上げた。
「ほら、さっき、話の最後で。…あなた、妙に勘が鋭いところがあるから、気になることがあるなら、黒陽じゃなく、私たちに話して欲しいわ!あっちが不利になりそうな話なら、特にね」
自分がエースであるためか、黒陽への対抗意識を露わにするティオラを見て、オズは少し呆れた。
「ねぇ!話してみてよ!私で分かることなら、何でも答えるわよ!」
ティオラに迫られ、オズは仕方なしそうに話し出した。
「…あ、ああ。いや、その…、火事って二年前に起こったんだよな?」
オズは、躊躇した様子で、みんなに聞いた。みんなは頷いた。
「オレ、この学園へ来る前に、クロスアルドの息子のことについて、じーちゃんから話を聞かされたんだ。…オレが代わりを頼まれたのは、その息子が二年前に、このクアトロ・コートで不慮の事故に遭ったからだって…。…その不慮の事故って、火事と何か関係があるのかと、ちょっと思っただけだ…」
みんなはハッとした。
「………」
その件について、校長から詳しく教えてもらっていないティオラは、自分が役に立てないと分かり、うつむいて黙った。
「…ぼ、僕は、よく知らないな…。校長先生は一生徒である僕たちには、話してくれないから」
マクーストが申し訳なさそうに言うと、ビーゼルが、ネルの方を向いて聞いた。
「お前は何か知ってんじゃねーのか?お前の家って、クロスアルド家と親しいんだろ?」
ネルは、ジロッと目を向けた。
「知るわけないじゃん。私、そういったことに一切関わりたくないから」
「お前よー。ほんと協力する気ねーな」
フイっとそっぽを向くネルを叱るように、ビーゼルが言った。
「…………」
ネルはムッと怒った顔で黙った。
「…知ってるのは、アイツだけなんだ……」
身近な存在で真実を知るのは、エンジーだけだと察し、オズは険しい顔で呟いた。
「けどよ、トラブルエンジンはそんな事、一言も話さなかったぜ?」
ビーゼルは、ネルから視線を離し、オズの方に顔を戻して言った。
「向こうが不利になることがあるなら、意地でも話さないでしょうね…」
ティオラは、怪訝な顔で目を閉じた。
「………」
オズは下を向いて黙って考えた。
(何か隠してやがる…。あの場で問い詰めればよかったか…?…けど、アイツのことだ。聞いたところで上手くはぐらかされるだろうな。安易に教える気がないなら、こっちが独自で探るしか手がないのか……)
神妙に考えるオズを、四人は黙って見つめた。
東校舎の最上階。部屋のソファに、ココルルとテンの二人が腰をおろしている。
「……テンさん、どう?」
「…う…ん…。もう少しです」
「…あっ!痛いっ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
どうやら髪飾りがココルルの細い髪に絡まっているようで、それをほどいてもらっているところのようだ。
「…大丈夫よ…。続けて」
「はい…」
テンは繊細な髪の毛を引っ張らないように、気を使いながらほどいた。
「……ねぇ、テンさん」
「何ですか?ココルル」
話しかけられたテンは、絡まっている髪の毛にずっと視線を向けて応えた。
「私、テンさんといる時が一番安心する」
テンは、手を止めてココルルを見た。
ココルルはずっと目を閉じている。
テンは笑顔になり、視線を戻して、再度手を動かしながら言った。
「そう?それは嬉しいです」
「………」
テンの声はいつもと同じで、彼女が喜んでいるのか分からないココルルは、探り探りでテンの足の方へ手を伸ばした。
ココルルの手がテンの足を触れたと同時に、髪の絡みがほどけた。
「…とれましたよ。ココルル」
テンはそう言うと、自分の足に触れているココルルの手を優しく取り、髪飾りを掌に乗せた。
ココルルは、身体をゆっくりテンの方に向けた。
盲目の為、視線は合わないが、ココルルは笑顔をテンに向けた。
「どうもありがとう。助かったわ」
「いいえ。困ったことがあれば、いつでも言って下さい」
テンもココルルに微笑んで言った。
ココルルは頬を染めてはにかんだ。
「…テンさん…。今日はゆっくり出来る?」
ココルルの手は、ぎゅっとテンの手を握っていた。
「あ…。わたし、今から先生の所に行かないと…」
手を握り返したテンは、申し訳なさそうにココルルに言った。
「…そう…」
ココルルは寂しそうにうつむいた。
「でも、終わったら必ず戻って来ますね」
テンは、ココルルの頬に手を添えて言った。
「…テンさん…」
ココルルは顔を上げた。
テンはココルルに顔を近づけ、そのままそっと唇を合わせた。
唇を離すと、ココルルは驚いたのか、目を開け、頬を赤らめてぼーっとしていた。
テンはクスッと笑うと、ソファから立ち上がった。
「では、また後ほど」
クルッと身体を回して、扉まで歩いた。
ココルルは、彼女の足音を頼りにそちらに身体を向けた。
バタンと扉の閉まる音を聞くと、身体を戻して、静かに胸に手を当てた。
テンは、閉めた扉を前にして、ふぅと小さくため息をついた。
そして、教室へ向かおうと身体の向きを変えた。
「これはこれは…。お忙しいテンがこの時間にこんなところにいるとは珍しいね。ココルルの所かい?」
反対側の廊下から声を掛けられ、テンはハッと振り返った。
「…ファウス」
テンの視線の先には、ファウスがいつもの涼しい顔で立っていた。
テンは少しバツが悪そうに、ココルルのいる部屋の扉の方に目をやった。
ファウスは、テンの表情から何かを察し、フッと笑みを浮かべた。
「お前こそ、こんなところで何をしてるんだ?」
テンは少し慌てた様子でファウスに尋ねた。どうやらファウスとココルルを会わせたくないようだった。
「部屋に戻るところだよ」
ファウスは、怖いほど満面な笑みを浮かべて言った。
「………」
その笑みを見たテンは、自分が去った後、ファウスがココルルに何か吹き込むのではないかと思い、妙にそわそわしていた。
「…そういえば、またココルルが嬉しそうに話していたよ」
「…えっ?」
ファウスの言葉に、テンが反応した。
「彼女の目が見えなくなった時の話。もう何百回聞いたことか」
「っ⁉」
テンの顔色が変わるのを、ファウスは心の中で面白く感じていた。
ファウスはその感情を表には出さず、涼しい顔で続けた。
「キミ…、いつまで隠し通すつもりだい?」
テンはパッと顔を上げた。
「よせ!その話はここでは…っ!」
テンは誰かに聞かれてはまずいと、辺りを警戒して言った。
「…こっちへ」
テンは、自分の部屋へファウスを誘導した。
「今日は、先生の所へはいいのかい?」
ファウスは内心を表に出さず、微笑んで聞いた。
「…いい!」
テンは焦りを隠せない様子で、ファウスを促した。
ファウスはフフッと笑みを浮かべて、テンの後についていった。
その日の夜のこと。
週に三回は、学園内に設立された浴場が開放されており、深夜0時までは、生徒はもちろん、教員も自由に出入りできた。
時刻は23時25分。
その場所へと続く廊下を、ティオラは息を切らして走っていた。
右手には着替えの入った手提げかばんを持っている。
(宿題が思ったよりかかっちゃったわ!今日はお気に入りのラジオの放送があったから、どうしても
聞かずにはいられなかったのよね)
今日を逃すと、次の浴場開放日は3日後だ。
ティオラは何としても、今日のうちに風呂に浸かりたいようだった。
脱衣所の扉を勢いよく開けると、時間が遅いせいもあり、中には誰もいなかった。
「貸切ね!やった!遅い時間の方が正解かもしれないわ!」
ティオラは手でガッツポーズをとりながら、一番近い手前の棚の前へと歩いた。
そして、上機嫌で鼻歌を歌いながら、着ている部屋着を脱ぎ始めた。
長い髪をアップに纏めると、誰もいないことをいいことに、ティオラは特に裸体を隠すことなく浴場へと続く扉の方へ向かった。
扉の取っ手に手をかけようとした、その時だった。
「ガラッ」と浴場の方から来た人物が、ティオラより先に扉を開けた。
誰もいないと思っていたティオラは驚いた。
「えっ……⁉」
「っっ⁉」
その人物の顔を見たティオラは、目を見開いた。
ティオラの目の前に現れたのはテンだった。
テンも、思いもよらない相手が現れたことに、ティオラ同様に目を見開いて驚いた顔をしている。
ティオラはとっさにテンの身体に目をやった。
自分と同じ程のたわわに実った乳房が、テンの上半身についている。
「……っ⁉」
ティオラが言葉を失ってそこから目を離せずにいると、テンはカッと顔を赤くして、ティオラを押しのけて足早に脱衣所へと向かった。
一番奥の棚へと移動したテンは、身体にバスタオルを巻き、急いで着替えをカバンに入れると、そそくさとそこから出て行った。
「………」
ティオラはあっけにとられて、慌てるテンの様子に、終始目を向けていた。
夜は明け、次の日の朝を迎えた。
眠そうにあくびをしながら教室に向かうオズに気が付き、ビーゼルはニヤッと笑って、二弾飛ばしで階段を駆け上がった。
「オッス!オズ!今日も相変わらずな顔してんな!」
「スパーンッ」とオズの後頭部をはたいて、ビーゼルは恒例の挨拶をした。
衝撃でその場にしゃがみこんだオズは、頭を押さえながら、キッとビーゼルを睨んで怒鳴った。
「テメェっ!もっとフツーの挨拶が出来ねーのかっ!コノヤロウっ‼」
怒るオズと、それを笑いながらあしらうビーゼルの元に、マクーストがやって来た。
「あ、オズ!ビーゼル!おはよう!」
呼びかけるマクーストの方に二人は顔を向けた。
「よぉ!おはようさん!」
「おはよう!マクースト」
二人は駆け寄って来たマクーストに挨拶を返した。
そろって教室に向かう途中、オズとマクーストのクラスである「3ー1」の教室の前に、ティオラが腕を組み、片足を壁につけて立っていることに三人は気が付いた。
「あ、ティオラさんだ」
マクーストが言うと、ティオラもこちらに気が付いて身体を向けた。
「よぉ、どうした?なんか用か?」
オズは、扉の前にいるティオラの方へ歩み寄って聞いた。
ティオラはキッとオズに怖い顔を向けた。
その殺気じみた表情に、三人は背筋をゾクッと凍らせた。
「あなたに頼みがあるのよ……」
ティオラはじりじりとオズに歩み寄った。
オズは冷や汗をかいて、たじろぎながら聞いた。
「た、頼み…?い、一体なんだよ?」
間近まで迫ったティオラは、オズに顔を近づけて言った。
「…放課後、あの黒陽のペイジを呼んでくれない?」
「っ⁉」
オズは驚いて、ティオラに改めて目をやった。
「なっ⁉なんでオレがアイツを呼ばなきゃなんねーんだよっ⁉嫌に決まってんだろっ‼」
露骨に嫌な顔をして、オズはティオラの頼みを断った。
「あなた、アイツのいそうな場所、知ってんでしょ?」
「知らねーよ!アイツのことなんか知りたくもねー!!」
聞き捨てならない言葉に、オズは怒って否定した。だが、ティオラはめげなかった。
「お願い!どうしても聞きたいことがあるのよ!」
ティオラに一心に頼まれ、オズは眉を顰めた。
「…?なにをそんなに聞きたいことがあるんだ?アイツじゃなきゃダメなのか…?」
「………」
ティオラは目を背けて黙った。
その様子を見たオズとビーゼル、マクーストは、互いに顔を見合わせた。
「……じ、実は……」
ティオラは意を決したように、昨日の出来事を三人に話した。
「???はぁ?テンが女…?」
ティオラから話を聞いたオズは、信じられない様子で首を傾げた。
「本当よ!だって、私と同じくらい、立派な胸があったのよ‼」
ティオラはそう言うと、自分の胸に視線を感じ、じーっとそれを見つめるビーゼルとマクーストから、胸を隠しながら、赤い顔で二人を睨んだ。
ビーゼルとマクーストは、ハッと我に返り、隣で軽蔑の目を向けているオズに気が付くと、そそくさと視線をそらせた。
「だったら、ココルルと付き合ってるなんて、おかしくねーか?そもそも、黒陽側がそう言ったんだぜ?」
オズは気を取り直し、ティオラの話に異を唱えた。
「レズビアンってことかぁ?進学校でそんなことあんのかね」
ビーゼルは、妙にニヤッと笑みを浮かべた。
「…でもさ…、テンさんが男だとも言ってないよね……?」
マクーストは考えながら言った。
「だから!アイツ…。エンジーに直接問いただそうと思ってんのよ!火事のことだって、いろいろ知ってたんだし、そもそも同じ黒陽の守護者なら、テンが男か女かは分かってるはずでしょう⁉」
ティオラは気を高ぶらせながら三人に言った。
「確かにそうだけど…。そんなことアイツに聞かなくても、本人に直接確かめたらいいんじゃねーか?」
オズはしれっとした態度でティオラに言った。
オズの言葉に、ティオラは尻込みした。
「…うぅ。それはそうだけど…。…きっと、なにか理由があって、性別を隠してるはずでしょ?本人に聞いても、すぐに教えてくれないと思うのよ…。でも、あのエンジーなら、こっちが揺さぶれば、すぐに吐くと思うのよね!」
ただ、テン本人と直接話す勇気がないだけではないかと、オズは呆れた様子でティオラに目をやった。
「どうすんだ?オズ?」
黙って考えるオズに、ビーゼルは答えを促した。
「…まぁ、いいけど。あいつも簡単に話すかどうか…」
テンが女だとすれば、黒陽側全体で嘘をついていることになる。そこに何か秘密があるのだと察したオズは、火事の事をもっと詳しく知れるチャンスだと思っていた。
「頼んだわ!アイツに吐かせる準備はこっちでしておくから!」
ティオラはオズの肩をガシッと掴んで、力強い眼差しを向けた。
「あ、ああ…」
オズは、若干引き気味でティオラに返した。
放課後。
オズはティオラに言われた通り、エンジーに話を聞くため彼を探した。
食堂をヒョコッと覗いたが、姿はなく、すぐに次の場所へと向かった。
(食堂にいないとなると、あそこか…)
オズはそう考えながら校舎をで出ると、庭園へと足を向けた。
スタスタと黒陽の庭園の中に入り、目的の場所へとたどり着いた。
パッとそこへ顔を向けると、オズはフッと笑みを浮かべた。
オズの視線の先には、椅子に座って本を読むエンジーがいた。
(やっぱりいたぜ!)
オズはそちらへ近づいた。
人の気配に気が付いたエンジーは、顔を上げて、歩み寄ってくるオズに目をやった。
「…君…。また黒陽の庭園に入って来た…」
何度言っても忠告を聞かないオズに、エンジーは呆れ顔を見せた。
「変な縄張り意識持つなよ。…なぁ、ちょっと来てくれねーか?お前に聞きたいことがあるんだ」
「…?」
テーブルの前まで来たオズに、エンジーは疑ったような目を向けた。
「…何?ここで話したらいいじゃないか」
エンジーは、フイっと顔を背け、本に目を戻して言った。
「…あの火事のことだ。ここで話すと、誰かに聞かれるかもしれねーけど、いいのか?」
オズが手を腰に置いて言うと、エンジーはハッとして顔を上げた。
「…………」
「…………」
二人は黙って睨み合った。
「あんまり白月の校舎にいるところを見られたくないんだけど……」
オズの後に着いて行きながら、エンジーは辺りを警戒して、白月の校舎内を歩いていた。
「もう着く。…そんなに白月側と慣れ合うところを見られたくないか?あのテンに見つかると厄介なのかよ?」
オズは悪戯に笑って聞いた。
「別にそういう訳じゃない!」
エンジーは怒って返した。
テンに頭が上がらない様子のエンジーを、オズは面白がって微笑した。
「多目的室」のプレートが上がった教室の扉を、オズはガラッと開けた。
「連れて来たぞー」
オズがそう言うと、後ろのエンジーに部屋に入るよう促した。
部屋に入るなり、エンジーはぎょっとした。
目の前には、腕を組んだ白月の守護者三人と、申し訳なさそうにするマクーストが立っていた。
オズは黙って部屋の扉を閉めると、そこから出られないように扉の前に立ちふさがった。
「なっ⁉なんだお前らっ!全員で寄ってたかって…!一体なんのつもりだっ⁉」
敵側である白月の五人に対し、勝ち目のないエンジーは、あからさまに動揺していた。
「あら?オズから聞いてないの?私たち、あなたに聞きたいことがあるのよ!」
ティオラが一歩前に出て行った。
エンジーは警戒して一歩後ろに下がった。
「か、火事のことなら、昨日全部話したじゃないかっ!全員で一人を相手にするなんて、お前ら卑怯だぞっ‼」
慌てた様子のエンジーを見て、後ろにいるオズは「ククク」と笑っていた。
ネルも笑いを堪えるのに必死な様子だったが、マクーストは、ずっと申し訳なさそうな表情で立っていた。
見兼ねたビーゼルが、ティオラの横に立って話を進めた。
「まぁまぁ、落ち着けって。別に俺たち、お前をどーのこーのする気はねーんだ。…ただ、そっちのエース「テン」のことを聞きたいだけなんだぜ?」
ビーゼルの言葉に、エンジーはハタッと表情を変えた。
「…?…え?…テンのこと…?」
「そうよ!私、昨日、浴場の女湯でテンとバッタリ会ったのよ!」
「え…っ⁉」
ティオラが言うと、エンジーは驚いた表情を見せた。
「テンは…女だな?」
後ろにいたオズは、エンジーの方に歩み寄って聞いた。
「………」
エンジーは視線を反らし、下を向いた。
「なんで隠すの?」
ネルが聞くと、エンジーは答え辛そうに眉間に皺を寄せた。
「お前、知ってたんだろ?お前だけじゃない、黒陽の奴ら全員」
オズは、何も答えないエンジーを問い詰めた。
「あんたが答えないなら、他の黒陽のヤツに聞くわよ!…そうね、まずココルルに聞こうかしら?テンの事を一番よく知ってるみたいだし」
「っ⁉やめろっ‼」
エンジーは険しい表情をして、とっさに怒鳴った。
「っ⁉」
エンジーの様子に、五人は驚いた。
「……分かった。今更隠しても仕方がないから話す…。だから…、頼むからココルルにだけは、テンが女だということは黙っておいてほしい……」
エンジーの必死の頼みに、五人は顔を見合わせた。
「…どういうことなんだよ?ココルルは、テンが女だって知らないのか?」
オズの問いに、エンジーは頷いた。
「ココルルのためなんだ…。テンは、自分が救世主になることで、ココルルの負った心の傷を少しでも早く直したいと思ったんだ。そして、自ら進んで救世主を演じている…」
エンジーは顔を上げた。
「だから、僕たちにまで自分が男だと口裏を合わすように頼んできたんだ」
「………」
真実を知り、五人は黙った。
「…なんで、テンはそこまでしてココルルの事を気に掛けるの?」
疑問に思ったティオラは、エンジーに聞いた。
エンジーが答えに困っていると、後方から声がした。
「彼女の救世主が、火事を起こした張本人かもしれないからだ」
いつの間にか教室の扉が開いており、入り口には扉に手をかけたテンが立っていた。
「っ⁉」
中にいた六人は、話題になっている人物が現れたことに驚きを隠せずにいた。
「……テン…」
エンジーは罰が悪そうに、部屋の中へと入ってくるテンに目をやった。
「昨夜、白月のエースに会ったことで、嫌な予感がしていたんだ。真っ先に狙われるのがお前だと思って、見張っていた甲斐があった」
テンはジロッとエンジーに目を向けて言った。
「…すまない…」
「いや、バレたのはわたしの不注意だ。もっと警戒しておくべきだった」
テンはエンジーに言うと、白月の五人に鋭い目を向けた。
五人はビクッとたじろいだ。
「ここからはわたしが話そう。後は何を聞きたいんだ?」
テンは腕を組んで聞いた。
テンの威圧に五人は躊躇したが、ティオラが他の四人の前に立って聞いた。
「さ、さっきの続きよ!ココルルの救世主が火事を起こした張本人ってどういうこと?」
「エンジーから話は聞いたんだろう?ココルルは誰かに呼び出されて、あの夜チャペルへ行ったんだ。そうしたら聖菩樹から火が上がった。…こんな偶然があると思うか?」
「っ⁉」
五人は「まさか」と驚いた。
「じゃ、じゃあ、私の思った通り、ココルルを狙った誰かが、火を付けたってこと?」
「電線から発火したんじゃなかったのか⁉」
ティオラちオズが立て続けに聞き、オズは嘘をついたエンジーに目をやった。
「………っ」
エンジーはオズから目を反らした。
「正直なところ真相は分かっていない。わたし達生徒に対し、校長は詳しいことは黙秘しているからな。…だが、ココルルの気持ちを考えてみろ。盲目になった挙句、彼女が誰かに狙われていたと知ったら、絶望に打ちひしがれて、彼女の繊細な心は……」
テンは、眉間に皺を寄せ、苦痛な表情で下を向いた。
「………」
テン以外の六人も、ココルルの気持ちを察し、黙ってうつむいた。
「だからお前は、ココルルの心を救うために、彼女の救世主に成りすましてるってことか……」
オズがテンに聞くと、テンは目を合わせて頷いた。
「…あの優しいココルルさんを狙うなんて……」
マクーストは寂しげな顔で呟いた。
「犯人の目星はついてねーのか?」
ビーゼルはテンとエンジーに聞いた。
二人はチラッと目を合わせると、テンが答えた。
「…犯人と決めつけることは出来ないが…、ココルルを救い出した者なら……」
「えっ⁉」
「分かってるの?」
テンの発言に、白月の五人は驚き、すかさずネルが聞いた。
「…いや。だが、大体のことは分かっている。ココルルがその人物のことを覚えていたんだ」
「どんな人?」
ティオラが聞いた。
「黒陽の制服を着た男子生徒だ。…顔は分からなかったが、彼女を救い出すために負った火傷が、左腕にあったらしい……」
「左腕に…火傷……」
オズは呟いた。
「だったら、犯人を捜しだすなんて簡単じゃない!」
ティオラは人差し指をピンッと立てて得意げに言った。
「何でだ?」
ビーゼルは聞いた。
「だって、黒陽の男子生徒の中から、左腕に火傷のある人を見つければいい話でしょ?」
ティオラの言葉に、ビーゼルは「なるほど!」と相槌を打った。
「…いたのか?そんな奴?」
オズはテンに聞いた。
テンとエンジーは目を合わせた。
すると、またも扉の方から声が聞こえて来た。
「今いる生徒の中には、少なくともいないかな」
全員はハッとしてそちらに顔を向けた。
扉にはファウスがもたれかかって、こちらに顔を向けていた。
「キミたちも結構なおしゃべりさんだねぇ。白月の奴らに大事な秘密を打ち明けるなんて」
ファウスはニヤッと笑いながら、テンとエンジーの方に歩み寄って言った。
「……うわぁ…」
露骨に苦手な顔をして、ネルはビーゼルの後ろに隠れた。
「…ファウス…。お前、聞いていたのか…」
テンは怪訝な顔をしてファウスを見た。
「…キミたちの姿が見えないから、おかしいなと思ってね。まさか白月の校舎にいるとは思わなかったなぁ!」
ファウスは妙に楽しそうに二人に言うと、ジロリと白月の五人に目を向けた。
「っ⁉」
五人はゾクッと背筋を凍らせた。
「二人がお世話になったみたいだね」
ファウスはニヤッと笑みを浮かべて言った。
五人が尻込みしていると、オズが意を決したように前に出た。
「火傷のある生徒を、お前たちが探したのか?」
威勢のいいオズを興味深そうに、ファウスはまじまじ見ながら答えた。
「そうだよ。っていうより、僕一人で探したんだ。男子更衣室とか、水泳の時間を覗き見してね。…あ、直接制服を脱いでくれって頼んだこともあるよ」
何の躊躇いもなく危ない発言をするファウスに、白月の全員は顔を引きつらせてドン引きした。
テンは額に手を当てため息をつき、エンジーは顔を濁らせ、視線を反らせた。
「でも、誰も火傷の跡なんかなかったけどね」
「二年前の事件だからな…。卒業生の可能性も考えられる。ファウスが探したのは、今いる生徒の中だけなんだ」
テンが付け加えて説明した。
「………お前たちは?」
オズは、ふと疑問に思って聞いた。
「…え?」
テンが聞き返した。
「そこにいる二人だよ!」
オズは、ファウスとエンジーを指さして聞いた。
「………っ」
ファウスとエンジーは互いに目を合わせて黙った。
「そうよ!黒陽の生徒なんだったら、あなた達の可能性も否定できないわ!」
「どうなんだよ?」
ティオラとビーゼルもオズに便乗して二人に言った。
テンは、ファウスとエンジーに目をやると、白月側に目を戻して言った。
「この二人のどちらかなら、とっくに名乗り出ているはずだ!私たちが必死に探す中、隠す必要がどこにある⁉」
テンは二人を信用しているのか、庇う素振りを見せた。
「そんなのわかんないじゃん!火事の犯人だったら罪になるし、ココルルの救世主だとしたら、今更ココルルの前に出るのを恥ずかしがって隠してることだってあるんじゃないのー⁉」
ネルが、ビーゼルの後ろからヒョコッと顔を出して言った。
「~~~っ⁉」
何も言い返せないテンは、戸惑いながら、ファウスとエンジーに目をやった。
「おい!どうなんだよっ⁉」
オズが二人に詰め寄った。
すると、ファウスはニヤリと笑みを浮かべて返した。
「…いいよ?なら、今ここで見せようか?」
ファウスはシャツのボタンに手をかけ、今すぐにでも制服を脱ぐ素振りを見せてオズに迫った。
「……え…」
オズは固まり、迫ってくるファウスから目を背けることが出来ず、ただじっと彼を見ていた。
「ねぇ?キミも平気だろ?ここで証明してやれば?」
ファウスはエンジーに言った。
「…えっ⁉」
エンジーは驚くと、少し考えた。
確かに言い訳するより見せた方が早いと思い、しぶしぶジャケットに手をかけた。
「……まぁ…、別にいいけど…」
「…なっ…っ⁉お、お前らっ…な、なんなんだよっ⁉」
オズは赤くなり、慌てた様子で後ずさりした。
ティオラもその状況に顔を赤らめ、ネルはすかさずビーゼルの後ろに隠れて遠目でその様子を見た。
ビーゼルとマクーストは、迫られるオズを見ながら、若干慌てた様子だった。
「キミから言ってきたんだろう?なに今更照れてるのさ?さっきの威勢はどうしたんだい?クロスアルドの人間なら、最後まで意思を貫き通しなよ……」
ファウスはシャツのボタンを全て外し、オズにじりじりと迫って行った。
「~~~~っっ⁉」
(なんだよコイツっ⁉気持ちわりぃっっ‼)
オズが顔を引きつらせていると、ファウスは追い打ちをかけるように呟いた。
「それとも、威勢のいいフリして、やっぱり中身は純粋な乙女なのかな…?」
「っ⁉」
カッと怒りを見せたオズは、今にもファウスをぶん殴ろうと、拳を握りしめた。
「いい加減にしろっ‼」
すると、テンの怒鳴り声が部屋に響き渡った。
ファウスはその声にハタッと動きを止めた。
全員テンに目をやると、彼女は顔を真っ赤にしていた。
「……こんなところではしたない行動はよせっ!黒陽の恥だぞっ!」
テンの言動を目にしたファウスは、クスッと笑うと、シャツのボタンを留め直しながら彼女の方に身体を向けた。
「…相変わらず、こういったことは苦手なんだねぇ。初心な優等生さん?」
ファウスはテンに歩み寄りながら、彼女を下から覗き込むように聞いた。
「………っ」
とっさに言葉が出て来ないテンは、赤い顔でキッとファウスを睨みつけると、くるっと身体を返して部屋の扉の方へと足を向けた。
ファウスは面白がってクスクス笑いながら、その後に続いた。
扉に手をかけると、テンは白月の五人の方へと振り返った。
「…ココルルには、わたしが正体を偽り、そして女だということを決して話すな。…もし話すものなら…お前たちも同罪だということを忘れるなよ」
「………」
白月の五人はテンの眼力の迫力に押され、彼女を見つめたまま、冷や汗をかいて黙っていた。
テンはそう言い残すと、フイっと顔を背けて教室を後にした。
後に続いたファウスも、白月の方へニヤッと笑みを浮かべると、教室から静かに去って行った。
二人を見ていたエンジーは、慣れたかのようにその様子を見届けると、白月の五人に目を向けることもなく、テンとファウスを追うように部屋から出て行った。
「………」
オズは、じっとエンジーの後姿を見つめていた。
「からかい甲斐のあるヤツがもう一人現れたなぁ」
自室に戻ったファウスは、部屋の明かりもつけずに、薄暗い中で不気味に笑って、燭台の方へと目を向けた。
そこには、鏡を隠すための小さなカーテンがかかっていて、ファウスはそれに手をかけた。
だが、カーテンをめくったそこには鏡などは無く、何枚かの写真が乱雑に張られていた。
その中にある一枚を手に取ったファウスは、又も不気味に笑って呟いた。
「フフフ。…面白くなりそうだね…。クロスアルドのお嬢さん…」
ファウスの手に持った写真には、学生証の写真のために撮られたオズの顔が映っていた。
それだけではなく、他の乱雑に張られた写真の中身は、自分以外の黒陽の王と守護者、そして白月の王と守護者の計九人のものだった。
ファウスは、オズの写真をそっともとに戻し、カーテンを閉めると、上機嫌でシャワー室へと向かった。
脱衣所の籠にシャツを脱ぎ捨てると、裸になった自分の姿を見て、ファウスはニヤッと笑みを浮かべた。
ファウスは自分の右手の指で左腕にそっと触れた。
そうして、左側の腕に巻いた包帯をゆっくりほどき始めたのだった。
次回へつづく
第六話、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!
次回「謎の救世主を突き止めろ!」もよろしくお願いいたします!




