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EP4. 【どちらの王がお好き?】


体育館の横の小さな建物の前で、オズはソワソワしながら辺りを見回した。

建物は表側に二つの扉があり、左右対称となっていた。

オズはドアノブに手をかけると、扉を開けてそーっと中を覗いた。

(誰もいないみたいだな)

オズが思い切って中に入ろうとした時だった。

「あら、なんだオズじゃない!」

後ろから呼びかける声に、オズはビクゥッと驚いた。振り返ると、そこにはティオラが立っていた。

「な、なんだ、お前か…。びっくりさせるなよ…」

オズは、ホッとした様子でため息をついた。

「なんでそんなコソコソしてるのよ。あなたも投票しに来たんでしょ?」

ティオラは、オズが手に持っている投票用紙を見て聞いた。

「そ…そうなんだけど…。なんか女子更衣室って…、オレが入っていいもんなのかなって…」

恥ずかしそうに言うオズを見ると、ティオラは噴出して笑った。

「キャハハハっ!何言ってるのよ!あなたは女なんだから、気にすることないじゃない!ほら、早く入って!」

ティオラはオズの背中を押して、中へと強引に入れた。

女子更衣室の中は誰もいなかった。

扉から入ってすぐにある机の上に、投票箱が備え付けられていた。

「…人目を気にする生徒もいるからって、なにも更衣室にしなくてもね…。でも、こうすると、相手の王にも入れることも出来るし、結構デリケートな問題なのかもしれないわ」

ティオラは手に持った投票用紙を、箱の上の隙間に差し込んだ。

ティオラは、くるっとオズの方へ身体を向けた。

「さ!オズも早く!」

オズはハッとして、手に持った投票用紙に目を向けた。

オズが少し力を入れて紙を握ったのを見て、ティオラは疑いの眼差しを向けて、彼女に歩み寄った。

「なぁに?あなたもしかして、相手の王座に入れるつもりじゃないでしょうね?」

オズはすかさず言い返した。

「そ、そんなわけねーだろっ⁉マクーストに入れるに決まってんじゃねーか‼」

オズはズカズカと前に出て、投票用紙を箱に入れた。

「ま、言い出しっぺはあなただものね…。っていうより、向こうのペイジか。…あなた達、家柄同様に犬猿の仲になっちゃったのね」

「オレはなんとも思ってねーのに、あっちが仕掛けてくるんだよ!」

「あんまり向こうの言うことを真に受けない方がいいわよ?ただでさえ、黒陽(こくよう)は手段を選ばないんだから…」

ティオラの言葉で、オズは、以前から引っかかっていたことを思い出した。

「……披露式で、校長がやたらと「例のことがあったから」って口にしてたな。白月(はくつき)黒陽(こくよう)の間で、過去に何かあったのか?」

聞かれたティオラは、少し驚いた様子でオズを見た。

「あなた、ここに入る時に聞いてるんじゃないの?クロスアルド家に関わることなのに」

「どういうことだ⁉」

オズが何も知らないことに、ティオラは「しまった」と手で口を(おさ)えた。

「言えよ!お前から聞いたってことは秘密にするから!」

詰め寄るオズに、ティオラはたじろいだ。

「………で、でも…。校長も言わないのなら、私の口から言っていいのか…」

何か意図があって校長が黙っているのだと思い、ティオラは言うのを(こば)んだ。

「…クロスアルド家の息子が、不慮の事故に遭って入院していることは聞いてる。この学園で起こった事らしいな」

オズは視線を落として、お爺さんの言葉を思い出した。

ある程度の事情を知っているオズに、ティオラは少し悩んで話し出した。

「……オルマンダ家のエースにやられたらしいわ……」

「…っ⁉」

オズは顔を上げて、驚いた表情をティオラに向けた。

「二年前、クロスアルド家の長男とオルマンダ家の次男は、共に三年生でエースを担っていたの。それこそ絵にかいたような犬猿の仲で、互いの慈善活動をことごとく妨害し合っていたらしいわ」

「…それは、やっぱり家が対立してるせいなのか?」

オズが聞くと、ティオラは頷いた。

「それは大いにあると思うわ。でも、お互い共通して言えるのは、やっぱり家の人に…父親に認めてもらいたかったからでしょうね」

「だからって、相手を入院させるほどの怪我を負わすなんて!やりすぎにも程がある!…それで父親に認められたからって、世間が認めるわけがねーよ‼」

正論を述べるオズにティオラは目を向けると、少し言いにくそうに口を開いた。

「…それが、オルマンダ家のエースが一方的に仕掛けたわけじゃないみたいなのよ…」

「え…っ?」

「クロスアルド家がこのことを大事(おおごと)にしないのは、クロスアルド家の長男にも非があるからみたいなの」

「どういうことだ?」

「……そんなこと、私が知ってると思う?…校長先生が話してくれるわけがないわ。一生徒である私たちなんかに……」

ティオラはいつになく、少し寂しそうな表情でオズから視線を反らせた。

たとえエースに選ばれても、結局は学園を盛り立てるための一つの駒にすぎないことを、彼女は理解しているようだった。

すると、ティオラは、くるっとオズの方に身体を返した。

「さっきのこと、約束だからね!私から聞いたって言うのは、秘密にしてよ!」

「…あ、ああ…」

いつもの様子に戻って忠告するティオラに、オズはただ頷いて返した。

「それより、あれからマクーストの様子はどう?こんなことになって、彼、動揺してない?」

「式の次の日から様子は見てるけど、いつも通りだ。ただ、やっぱり自分が黒陽の王に勝てる自信はないみたいだ」

「そう…。やっぱり、あっちの王の方が人気かしら?モテそうだもんね」

「えっ⁉そうかぁ?」

そういったことに(うと)いオズは、首を傾げた。

「あら?オズはタイプじゃない?ああいうの。…内気なマクーストの方が良かったりして?」

「そんな風にマクーストのこと見てねーよ!ったく、女って考えることみんな一緒だな!」

「何よそれ…。あなたも女でしょーが…」

「オズは脳筋のビーゼルがタイプなんだってさ!」

二人の間に、ひょこっと割って入って来たのは、ネルだった。

オズとティオラは驚いて振り返った。

「ネ、ネルっ⁉な、何言ってんだ⁉ビーゼルはただの幼馴染ってだけだっ‼」

「でもさー、オズを想って、ここまで追ってきたんでしょ?向こうはそう思ってないかもよ?」

「確かに、それはあるわね」

ティオラもネルの意見に賛同した。

「まぁ、でも、私はビーゼルもマクーストも無いけどね」

「私も無いわ。なんかどっちも別の意味でお子様なのよね」

「わかるー」

「…お前らな……」

意外なところで気が合うティオラとネルを見ながら、オズは呆れ果てていた。

「ティオラはやっぱりアレ?黒陽のエースがタイプなんでしょ?」

「えっ⁉」

ネルに指摘され、ティオラは分かりやすく顔を赤らめた。

「あ、やっぱそうなんだな!分かりやすいな、お前って」

オズにまで茶化され、ティオラはかぁ~っと赤くなりながらも否定した。

「ち、違うわよっ!た、確かに、白月の生徒の中には、あんなにしっかりして自立した大人な美男子いないけど…っ、って、あっ!美男子なんか思ってないわよっ!で、でも、はたから見たらそうなのかなぁとか思ったりしたからっ…、そ、それに、あの人は憎き黒陽のエースなんだし、恋心なんて抱いたら、任務を全うできないじゃない!って、恋心なんて抱いてないったら!私ったらっ!」

あからさまな態度を見せ、一人語りするティオラを差し置いて、ネルはオズに話しかけた。

「今回の人気投票、こっちが相当不利みたい」

「えっ⁉」

ネルの言葉に驚き、オズはとっさに彼女を見た。

「あの金髪ぱっつん、こっちの女子生徒にもかなりの人気らしいよ。私の学年でも、禁断のファンクラブが出来てるってウワサ」

「………」

オズは顔を曇らせた。ネルは構わず続けた。

「どうするの?続けるの?この投票。私無意味だと思うんだけどなぁ」

オズはギロッとネルに目を向けた。

「無意味っていうか、負け確定って感じだし、こっちが恥かくだけだと思うんだけど…」

「まだ負けるなんて決まってねーだろっ‼決着の前にそんな弱気なこと言ってたら、勝てるもんも勝てなくなるじゃねーか!俺たちは守護者なんだぞ⁉」

オズの言葉にネルとティオラはハッとした。

「守護者って、王の守るのが役目なんだろ?だったら、王の力になることだって、俺たちの役目なんじゃねーのかよ!」

「そうよ…!その通りだわ!私たちで、マクーストの良いところを見つけて、白月の生徒達にアピールしなきゃ!」

オズに賛同し、ティオラが前に躍り出た。

「…でも、私たちだって、最近マクーストのこと知ったばっかりなのに…。すぐにみんなに分かってもらえる?」

ネルは、眉を(しか)めて二人に聞いた。

「オレたちが感じたことを素直にみんなに言えばいいんだ!マクーストはああ見えて、いいとこいっぱいあるしな!」

「ええ!まずは彼の事をもっと理解することが第一の課題ね!」

乗り気な二人に対し、人を褒めたりするのが苦手なネルは、顔を渋らせていた。

「でも、くれぐれも呪いの話は避けないと。投票は(おろ)か、みんなマクーストに怯えて逃げてしまうわ」

オズは頷いた。

「よし!これから実行だな!一週間頑張ろーぜ!」

オズとティオラが気合を入れて廊下を歩いて行くのを、ネルは黙って見ていた。

「……そんなに黒陽に勝ちたい?……あ、オズが勝ちたいのは、黒陽のペイジにか……」

ネルはそう呟くと、くるっと身体を返して廊下を駆けて行った。


翌日。

オズはマクーストの行動を見張るために、早めに教室へと向かった。

教室に入ると、既に何人かの生徒が来ていた。

オズは、すぐにマクーストの席がある窓際に目をやった。

「あ」

オズは声を発した。視線の先には席に座るマクーストと、彼の机に座っているビーゼルがいた。

「おす!今日は寝坊しなかったみてーだな!」

ビーゼルはヒラヒラとオズに向けて手を振った。

「おはよう、オズさん!」

マクーストもニコッと笑ってオズに挨拶をした。

「おはよう。…ビーゼル。どうしたんだよ?マクーストになんか用事か?」

二人の所へと歩み寄ったオズは、マクーストに挨拶を返すとビーゼルに目をやった。

「なんだよ。用がねーと来ちゃいけねーのか?」

ビーゼルはムッとしてオズに返した。

「別にいーけどよ」

そっけなく返事をして、自分の席に向かおうとするオズを、ビーゼルが引き留めた。

「オズ、ちょっと待て」

「?なんだよ?」

すると、ビーゼルはオズに近寄り、マクーストに聞こえないように耳打ちした。

「…二組の奴らが、マクーストの呪いのことについて聞いて来やがった。…結構ウワサが広まって来てるみたいだぜ」

「っ⁉」

オズは驚いてビーゼルの顔を見た。

ビーゼルは続けた。

「投票の最中だぜ?ったく、運がわりーにも程がある」

ビーゼルは、「はあっ」と肩を落として、頭をかいた。

「………」

オズは視線を落として考えた。

「…なんで急にウワサが広まったんだ?マクーストは、まだ俺たちの前でしか、化けたことがねーんだぞ。俺ら守護者以外の奴らは知らねーはず…」

オズは、チラッとマクーストに目を向けた。

「自分から話したとも思えねーしな…」

ビーゼルも、マクーストに目を向けた。

「……?」

オズとビーゼルが、なにやらコソコソと話していることに、マクーストは、若干の不安を抱いた。

「誰かが話したってことか……」

オズは「うーん」と考えて言った。

「まさか、ティオラかネルのどっちかがってことか?」

ビーゼルは、驚いてオズに言った。

「それはねーだろ。今まさに投票の最中だってのに、こっちが不利になることはしねーはず。どっちかが裏切者なら話は別だけどな」

オズは、ジロッとビーゼルを見た。

「………っ」

ビーゼルは、「まさか」と言った表情で、オズを見返した。

「…それよりも、一番疑わしいのは黒陽(あっち)の連中だ。ウワサを流すことで、マクーストの人気を下げようとしてやがるに違いねぇ」

オズは、黒陽のある一人の人物を思い浮かび、敵対心を(あら)わにさせた。

「いずれにしても、このままだと、こっちが不利になる一方だぜ。こっちもなんか手を手を打たねーとな」

ビーゼルがそう言うと、オズは何かを思いたったように、ビーゼルを見上げて言った。

「今は証拠もねーし、オレがまず、敵に探りを入れてくる!手を打つのはそれからだ!」

オズの言葉を聞き、ビーゼルは慌てた。

「えっ⁉なら、俺も行くぜ!お前ひとりで行かせちゃ、何しでかすか分かんねーしな」

「オレ一人で大丈夫だ!……あっちも一人なんだから…」

オズは、視線を反らせて、フッと笑った。

「け、けどよぉ……」

ビーゼルが心配そうにしていると、二人の様子を見ていたマクーストがやって来た。

「…どうしたの?何かあったの?」

二人はマクーストに顔を向けた。

オズは、マクーストに歩みり、彼の肩に手を置いた。

「心配ないからな、マクースト!オレが…。いや、オレたちが、お前を勝利に導いてやるから!安心してろ!」

「……え?」

オズは、自信あり気に、自分の席へと駆けて行った。

「………」

マクーストは、呆然とオズの姿を見つめた後、ビーゼルに顔を向けた。

ビーゼルは、ため息をついて、また頭をかいた。


放課後、オズは庭園へとやって来た。

「こんな汚ねぇマネするヤツ、アイツしか考えられねーんだよ!」

オズは、怖い形相(ぎょうそう)で、ある場所へと一目散に向かった。

黒陽の庭園には、オズの目的の人物であるエンジーが、定位置の椅子に座って本を読んでいた。

「てめぇっ!やっぱりいやがったなっ‼」

エンジーを見つけた瞬間、オズが怒鳴った。

その声に驚いたエンジーは、何事かといった顔で、そちらに目をやった。

「急になんだよ!礼儀もわきまえずに…。それに、またここへ入って来たな!」

エンジーはオズを見ると、煙たそうに言い放ち、また本に目を戻した。

オズは、怒りを募らせ、構わずズカズカと敵の陣地へ入って行った。

「お前なんだろっ⁉マクーストの呪いのこと、こっちの生徒に言いふらしてんのはっ‼」

エンジーの前に来たオズは、手を腰に当てて問いただした。

エンジーは、パタンと本を閉じて、オズを睨んだ。

「そんなことする訳ないだろ?そんなことしなくても、ライアンの勝ちは目に見えてるんだ。……それに、もし(きみ)たちを(おとしい)れるなら、もっと利口な方法を選んでるよ」

そう言い放つと、エンジーは腕を組んで、オズからフイっと顔を反らした。

「~~~っ⁉てめぇ…っ‼」

その態度に、オズは怒りの限界を迎え、わなわなと拳を震わせた。

「あ。けど、そういえば……」

何かを思い出したのか、エンジーは、わざとらしくハッとする素振りを見せた。

「君が披露式で口にした、そっちの王の呪いのことについて、こっちの生徒の何人かに聞かれたから、詳しく教えてあげたけどな…」

エンジーは、オズの反応をうかがうように、ジロリとそちらに目を向けた。

「な……っ⁉」

挑発してくるエンジーに、オズは言葉を詰まらせた。

「でも、こっちの生徒がそっちに言いふらすなんてこと、あり得ない。黒陽と白月の生徒が話しているところなんて、君、見た事ないだろう?」

「………っ⁉」

エンジーに問われ、オズは何も言い返せなくなった。

「…それとも」

エンジーは、椅子から立ち上がりながら言った。

「君たちの中に、王を(おとしい)れようとしている人物がいるんじゃないのか?まずは、そちらの裏切者を見つけることが先決かもな」

オズの横を通り過ぎ、エンジーは笑みを浮かべながら嫌味を述べると、庭園から出て行った。

「~~~~っ‼」

何も言い返せず、悔しくてたまらなくなったオズは、目の前のテーブルに、握っていた拳を叩きつけた。


次の日の昼休みのことである。

ピークを越したこともあり、食堂内は、いつものように混んではいなかった。

入り口から見て一番手前の窓際の席に、オズ、ビーゼル、マクーストが、横並びに座っていた。

三人は昼食を食べ終え、カラになった食器が、テーブルに置かれたままだった。

「お前、最初から犯人がアイツだって、目星を付けてたんだな?」

ビーゼルは頬杖を付きながら、オズの方を見て言った。

「………」

ビーゼルとマクーストの間に座っているオズは、あからさまに機嫌が悪い態度で黙っていた。

「で、自信満々に繰り出して行ったものの、言い負かされて黙って帰って来たってことか」

ビーゼルは、「やれやれ」といった顔で呆れて言った。

(かん)(さわ)ったオズは、眉をぴくっとさせた。

「ビ、ビーゼルさんっ!そんな言い方良くないよ!オズさんは、僕たちを代表して確かめに行ってくれたのに」

マクーストは、慌ててオズを(かば)った。

「だから俺も行くって言ったじゃねーか!一人で無鉄砲に敵に向かう奴があるかよ!」

「お前が来たところで、アイツに言い返す程の脳みそ持ってねーだろーがっ!」

オズの酷い言いように、ビーゼルはたまらず立ち上がって怒鳴った。

「あんだとぉっ⁉黙って聞いてりゃいい気になりやがって‼やる気かこのチビっ‼」

「やってやるぜっ!この脳筋野郎っ‼」

オズも立ち上がり、今にも取っ組み合いを始めようとするのを、マクーストはオロオロしながら止めようとした。

「あんたたち、いい加減にしなさいよ!こんなところでみっともない!」

三人は、その声にハタッと動きを止めた。

「…ティオラさん…」

マクーストは、少しホッとしたように、声の主であるティオラを見て言った。

ティオラの後ろには、ネルが立っていた。

「私たちは白月の守護者なのよ!みんなの代表として選ばれてるの!そういうことをもう少し自覚して、学園生活を送って欲しいわ!」

ティオラは三人の元に歩み寄った。

オズとビーゼルは、また小うるさいヤツが現れたと言わんばかりに、露骨に苦手な顔を出して顔を背けた。

「マクースト、あのさぁ…」

すると、状況に構わず、ネルがマクーストに話しかけた。

「…?なに?ネルさん」

マクーストは疑問に思ってネルに聞いた。

「ちょっと言い辛いんだけど…、クラスの子から、最近マクーストってヤバいヤツなのかって聞かれるんだよね」

「え……っ」

マクーストは驚いた。

「実は…、私もよく聞かれるのよ…。あなた、自分で呪いのこと、話したりしてないわよね…?」

ティオラも、申し訳なさそうにマクーストに聞いた。

「し、してないよ!そんなこと!」

マクーストは慌てて首を横に振って返した。

「みんなに知られるのは覚悟してたけど…、こんなに早く広まるなんて……。なんか妙ね……」

ティオラは、指を(あご)に当てて考え込んだ。

「じゃあ、やっぱりお前たちじゃないんだな?」

「…え?」

オズの言葉に、ティオラとネルはきょとんとした。

「俺のクラスでも広まってんだ、その話題。だからオズに相談したんだけどよ、俺達しか知ってるやつがいないってことは、この中にそれを広めたヤツがいるんじゃねーのかって…。なぁ?」

ビーゼルが説明し、オズに同意を求めた。オズは少し罰が悪そうに頷いた。

「な、なんですってっ!あなたたち、私とネルのどっちかを疑ってるって言うのっ⁉」

案の定、ティオラは二人に食って掛かった。

「絶対ないし!私が、そんなめんどーなことするわけないじゃんっ!」

ネルは腕を組んで、二人を睨んだ。

「オレ達だってそんなこと思いたくねーよ!…だから、アイツに会って確かめたんじゃねーか…」

オズは、フイっと視線を反らせて言った。

「…どういう意味?」

「コイツ、ウワサを広めたのがあの黒陽のペイジだと思って、本人に確かめに行ったんだぜ?」

ティオラの質問に、ビーゼルが答えた。

「あ、あなたっ!何勝手なことしてるのよっ!行動を起こすときは、まずエースの私に相談しなさい!」

ティオラはオズに忠告するも、オズはあしらうように顔を背けた。

「…で、どうだったの?」

ネルが聞いた。

「………」

オズは、ふてくされたように黙った。

見兼ねたビーゼルが代わって答えた。

「…俺たちを陥れるなら、もっと利口なやり方をするんだとさ。そんなことしなくても、向こうは勝つ自信があるみてぇだ。…オズの奴は言い負かされて、黙って帰って来たってわけだ」

ビーゼルがそう言ってチラッとオズを目にすると、オズは、頭から湯気を出す程の怒りを奮い立たせていた。

話を聞いたティオラは、呆れてオズに目をやった。

「勝手な事するからそうなるのよ!…けど、一体誰の仕業かしら…?」

そう言うと、ティオラは食堂内にいる生徒達を見渡した。

他の四人も同様に食堂内に目を向けた。

「………っ⁉」

すると、オズは何かに気が付いてハッとした。

「……そういうことか……。やっぱり……」

険しい顔で呟くオズに、四人は顔を向けた。

「なんだ?どうした?オズ」

ビーゼルが心配してオズに聞いた。

「やっぱりアイツがウワサを広めた張本人だっ!」

オズは声を張り上げて、四人に向かって言った。

「…え?…どういうこと?」

四人はきょとんとして、ティオラがオズに聞いた。

「アイツが黒陽の生徒に話したせいで、黒陽内でウワサが広まったんだ。…普段、黒陽と白月にいくら接点がないとはいえ、この食堂は別だ!ここは学園のヤツなら誰でも利用できる。直接話はしなくても、ウワサの内容を耳にする機会はいくらでもあるんだ!」

それを聞いた四人は驚き、同時に納得した。

「そうか…!ここは満席の時は、嫌でも互いに密になるからな…。テーブルが近けりゃ、話も聞こえるってわけだ…」

ビーゼルは、満席時の状態を思い出しながら、食堂を見渡した。

 ー (きみ)たちを陥れるなら、もっと利口な方法を選んでるよ ー

エンジーの言葉を思い出したオズは、沸々と怒りをわき出たせた。

「そうだとしたら、たとえ疑われても、相手側には直接話していない…、自分は聞かれたことに対して答えただけと言い逃れが出来るのもね…。黒陽の生徒に話すことで、白月側にもすぐにウワサが広まると、最初から踏んでいたんだわ」

ティオラは「やられた」といった表情で、手をおでこに当てて言った。

「きったなー。いかにも、オルマンダ家の人間がやりそー」

ネルが、露骨に煙たそうな顔を表に出して言った。

みんなが不快に思う中、マクーストは、自分がみんなに迷惑をかけていることに、罪悪感を抱いてうつむいた。

すると、そこへ食器を下げに来た料理長「ノスティモ」が現れた。

「ごめんなさい…。…ここは、派閥なんかに(とら)われず、みんなが楽しく過ごせる場所にしたくて、開放した場所だったんだけど…。裏目に出てしまったみたいで…。申し訳ないことをしたわ…」

ノスティモは、食器をお盆に乗せながら、視線を落として()びた。

「そ、そんなっ!ノスティモさんのせいじゃないです!」

ティオラは慌てて言った。

「…ノスティモ…さん…?」

ノスティモとは初対面のオズは、彼女の顔をじっと見つめて聞いた。

「ええ。私はここの料理長のノスティモよ。どうぞよろしくね、オズ・クロスアルドさん」

ノスティモは、オズに笑顔を向けた。

「……っ」

オズは、ノスティモが自分の名前を知っていることに驚いた。

「料理長ってことは、カウシュのかーさんか?」

オズの隣にいたビーゼルも、彼女とは初対面で、身を乗り出して聞いた。

「ええ、そうよ。あなたは、ビーゼル・トロウね。カウシュから聞いてるわ」

ノスティモは、ビーゼルの方を向いて答えた。

カウシュが自分たちの事を話したのだと分かり、オズとビーゼルは納得した。

「私の計らいのせいで、みんなに迷惑かけちゃったみたいね。…ごめんなさいね…」

ノスティモは、再度、申し訳ない気持ちを示して謝った。

「そ、そんな事ないって!ノスティモさんは、善意を持ってここを共用の場としてくれたんだっ!悪いのは、それを利用した、あの黒陽のペイジだっ!」

オズは、ノスティモの前に出て力強く言った。

「…アイツだけは許せねぇ…っ!」

拳を握りしめ、オズは怒りを露わにした。

「………」

ノスティモは、そんなオズを黙って見つめた。

「いつまでも怒ってても仕方が無いわ!私たちも、何か策を練らないと。投票の締め切りまでもう時間がないのよ⁉」

ティオラが考えながら言った。

「私たちも、アイツらに何か仕返しする?」

ネルは、ワクワクしながらティオラに聞いた。

「駄目だ!そんな事したら、アイツと一緒だ!…オレ達で出来ることを考えるんだ!」

オズは、険しい表情でみんなに言った。

「…私たちで、出来る事って…?」

ネルは、()に落ちない表情をオズに向けて聞いた。

オズは、くるっと身体の向きを変えて、マクーストに視線を向けた。

「っ⁉」

マクーストは鼓動を高鳴らせ、驚いた表情をオズに向けた。

「この戦いに勝つために、ティオラとも初めに話していたんだ。俺たちは、まずマクーストのことをもっと知らなきゃならねーって」

オズは、今度は全員の方を向いた。

「それで、コイツの良いところを、みんなにアピールするんだ!出会って間もないけど、オレはコイツにはたくさんの良いところがあるってわかる。…だから、みんなにそのことを分かってもらうために、お前たちが思うことも、白月の生徒達にアピールして欲しいんだ!」

オズはみんなに力強く訴えた。

「…オズさん…」

マクーストは、そんなオスをじっと見つめた。

「…いいとこって言われても……」

ネルは、そう呟くと、じーっとマクーストを見た。

「…まぁ、人当たりはいいな」

ビーゼルも、マクーストを見て言った。

「…あとは……」

他にいいところを述べようとし、ビーゼルは、じーっとマクーストを見つめた。

他の四人も、同様にマクーストを見つめた。

「っ⁉」

マクーストはたちまち恥ずかしくなり、かぁ~っと顔を赤くしてうつむいた。

「彼の、昔からのお友達に聞いてみてはどうかしら?」

すると、ノスティモが、四人の間に入って提案した。

「っ⁉」

四人はハッとして、互いの顔を見合った。

「お友達なら、彼のことをよく知っているはずでしょう?」

ノスティモは、笑顔をマクーストに向けた。

「……っ」

マクーストは、その笑顔にどう返していいのか分からず、照れ笑いをした。

「そうだな!ノスティモさんの言う通りだ!よしっ!」

オズは、マクーストに歩み寄った。

「この学園で、お前と親しいヤツ、教えてくれ!」

「…えっ!…う、うん……」

マクーストは、勢いに押されながら、オズに頷いて返した。

「手分けして聞き込みに行きましょう!」

ティオラも、提案してみんなに言った。

オズ、ビーゼルは、それに対して頷いた。

ネルも、みんなが乗り気ということで、反論できずにしぶしぶ頷いた。

そんな白月の守護者たちを、ノスティモは笑顔で見つめていた。


教室の前の廊下で、マクーストの友人の一人である白月の男子生徒から、ビーゼルとネルは話を聞いていた。

「え?マクーストの良いところ?」

カールのかかった髪の男子生徒は、目を丸くして聞いた。

「そうだぜ!ぱっと思いつくことがあったら、教えてくれよ!」

ビーゼルは、陽気に笑いながら言った。

「無くても、嘘でもいーから一つは出して!」

ネルは、その男子生徒をジロッと見て言った。

男子生徒は、冷や汗をかいてたじろいだ。

「あのな、それじゃ意味ねーだろ!まったく…。なぁ、友人なんだから、いいとこの一つや二つは知ってんだろ?」

呆れた顔でネルを見た後、ビーゼルは、再度その男子生徒に聞いた。

「…そうだな…。僕は中等部の一年の時から知ってるけど、なんせ、内気なヤツだな。出会った時の印象は、まずそれだった。…あとは…、人に言われるがままで、自分の意見を持たないヤツだとも思ったな。…あんまり自分を出さないっていうか…」

「あ…、そう…」

あまり参考にならない発言ばかりに、ビーゼルとネルは落胆した。

「あ!それと、授業のノートをよく貸してくれたな!苦手な授業でよくサボってたから、あれは助かったよ!アイツ、話しかけやすいだろ?人が良いから、頼み事もしやすいんだ!」

「………」

(コイツ、本当に友達か?)

と、心の中で思っていたビーゼルとネルは、その少年にジローッと目を向けると、肩を落とした。


一方、オズとティオラは、事務室の隣にある放送室に来ていた。

扉をノックし、ティオラが中へと入った。

「失礼します。…あの、レイル・ブリッグさん、いますか?」

部屋の机に座って、こちらに背を向けている男子生徒に、ティオラは話しかけた。

白月の制服を着た、短髪の黒髪少年は、ティオラに気が付いて振り返った。

「っ⁉」

ティオラとオズを見た瞬間、その男子生徒は、驚いて立ち上がった。

「お、俺だけど…。エースとペイジが、一体何の用?」

レイルという男子生徒は、少し緊張した様子で、ティオラに聞いた。

「突然ごめんなさい。実は、私たち、王座マクーストの親友であるあなたに、お話を伺いたくって。放送部員って聞いたものだから、ここにいると思って来たのよ!」

「…へ?話…?」

レイルは、「ハテナ」を浮かべて聞き返した。

「マクーストのヤツ、なんかやったのか?」

レイルは、不安気に聞いた。

「いいえ。あなたに、マクーストの良いところについて、教えてもらいたいのよ!」

ティオラはクスッと笑ってレイルに言った。

「マクーストの良いところ?」

レイルは目を丸くした。

「そう!今度の投票で、ぜひ参考にさせてもらいたいのよ!白月のみんなに、彼のことをもっと知ってもらいたいの!」

ティオラの説明に、レイルは納得して相槌(あいづち)を打った。

「あ、ああ…。そういうことか…。…そうだな……」

レイルは考えた。

黙ってレイルの事を見ていたオズは、彼に聞いた。

「……お前、マクーストとは、いつからの付き合いなんだ?」

「…えっ⁉」

オズに話しかけられたレイルは、驚いてそちらに顔を向けた。

「お、俺とマクーストは、初等部の四年からだけど…」

レイルの答えに、信用できると判断したオズは、頷いて黙った。

「………」

レイルは、オズの様子を気にしながら、マクーストの良いところを考えた。

「…アイツの良いところは、たくさんあるけどなぁ…」

「うーん」と頭をかいて考えるレイルに、ティオラは話しかけた。

「何か具体的なエピソードがあるなら、それでもいいわよ!」

気が付くと、ティオラは手にメモ帳とペンを持っていた。

「…そうだな…。…あ……」

レイルは、何かを思い出すと、少し微笑した。

「何かあるのか?」

オズが聞くと、レイルはすぐに表情を戻した。

「…いや。……これは、マクーストにとっては、思い出したくないことかもしれない…。あんまり参考にならないかもな…」

レイルは首を横に振って返した。

ティオラとオズは目を合わせ、興味津々にレイルに聞いた。

「いいから言ってみろよ!」

「そうよ!参考になるかならないかは、こっちで判断するわ!」

「……そ、そうか…?…じゃあ…」

レイルは、躊躇いながらも話し始めた。

「あれは、初等部の六年の時だったかな…。生物学の授業で、解剖の実習をしてたんだ。その日の実験台はラットだったんだけど、先生がいない隙を狙って、クラスのある一人の男子が、気味悪がっている女子生徒達に悪戯しようと、麻酔をかけていないラットを手に持って見せびらかしていたんだ」

「…最低ね…」

「どこにでもいんだな。そーいうお調子もん…」

軽蔑(けいべつ)の眼差しをするティオラの横で、オズは呆れて呟いた。

レイルは話を続けた。

「その中のある一人の女子は、ネズミがもの凄く苦手で、いつも大人しい彼女も、それを見ると悲鳴を上げる程に嫌がっていたんだ」

二人はレイルの話の続きが気になって、黙って聞いた。

「最初は遊びのつもりだったみたいだけど、ずっと握りしめていたせいもあって、苦しくなったラットが、その男子の手から逃げてしまったんだ」

ティオラとオズは「ゲッ」という顔をして、レイルを見た。

「た、大変じゃないっ⁉」

レイルは、その時の事を思いだし、憂鬱そうに頷いた。

「ああ。実験室の中はパニックになって、騒いで逃げる女子生徒の悲鳴の嵐になった。俺ら男子も、普段あんまりラットなんて見たり触る機会なんてないから、どうしていいのか分からずにいたんだ」

「そのお調子もんに捕まえさせろよ!自分で()いた種だろ⁉」

オズは怒ってレイルに言った。

「…そう、その男子もことが大きくなってしまったことに責任を感じて、ラットを捕まえるために追っかけたんだ。……けど……」

レイルは、先を話そうとしたが、言葉を詰まらせた。

「…けど?」

ティオラとオズは、先を(うなが)した。レイルは目を閉じて頷いた。

「……その追いかけた先が、さっき言ってた、ネズミがものすごく苦手な女子生徒の所で、彼女はパニックに陥って……、その……」

レイルは、その時の事を思い出し、また言葉を詰まらせた。

「なんだよ?」

オズは構わず聞いた。

「…うん…。…近くにきたラットを何とかして追い払おうと、その場にあった椅子を放り投げたんだ…」

話を聞いて、嫌な予感がしたティオラは、顔を引きつらせた。

レイルは、真剣に聞いているオズに、話を最後まで続けた。

「投げた椅子は、ラットに直撃してしまった……。そのせいで、そのラットは……」

そこまで言うと、青ざめたティオラは、とっさに手を口に当てた。

「…死んじまったのか…?」

オズは、目を見開いてレイルに聞いた。レイルは目を閉じて、黙って頷いた。

「………」

三人は、少しの間沈黙した。

すると、オズがハッとして、レイルを見た。

「そ、それとマクーストと、何の関係があるんだ?」

オズに聞かれ、レイルは口を開いた。

「あ…、うん…。…ラットが無残な姿で死んでしまって、みんなどうしていいのか分からず、立ちつくしていたんだ。椅子を投げた女子生徒も、ラットを直視できずに震えていた…。そんな時、マクーストが彼女の方に近寄って行ったんだ」

「えっ⁉マクーストがっ⁉」

オズは驚いて聞いた。

「ああ。何の迷いもなく歩いて行くマクーストに、クラスのみんなは、不思議に思ってヤツを見ていたんだ。…そしたら、マクーストのヤツ、ラットの遺体をそのまま拾い上げたんだ」

「っ⁉」

ティオラとオズは驚いた。

そんな二人を見て、レイルは少し苦笑した。

「あの時のクラスのみんなも、きみたちのように驚いていたよ。…でも、マクーストは、誰よりもそのラットの死を悲しんでいたみたいなんだ。…だから、そんなことができた…。……けど、ラットの遺体を直視してしまった女子生徒は、今までに聞いたことのない声で叫んで、その場に泣き崩れてしまったんだ……」

話し終えると、レイルはため息をついた。

「マクーストにとっては、安らかに眠っていることを伝えたかったみたいだ。その表情から、「きみのことは恨んでないから大丈夫」と伝えたかったんだと思う…」

「……なんで、そんなことが分かるんだ?」

オズがレイルに聞いた。

「ラットを拾い上げた時、マクーストが彼女に向かって言ったんだ。「大丈夫だよ」って…。俺は、そう思ったんだけどな…」

レイルは、ふと微笑して続けた。

「……本当に優しいのね…」

マクーストを想い、ティオラは呟いた。オズも同意して頷いた。

「…けど、アイツの不運なところは、その優しさが相手に伝わらないところだ。…マクーストのヤツ、その女子生徒が初恋の相手だったんだよ」

「えっ⁉」

オズとティオラは驚いた。

「なんていうか…、(むく)われないヤツだろ?」

レイルは、やり切れない笑顔を二人に向けた。

「……そうだな。純粋で、優しいヤツだからこそ、王に選ばれるっていうのはわかる…。けど、呪いにかかったのは、アイツが不運で報われないからなのか…?」

オズが言うと、レイルは少し躊躇しながら聞いた。

「マクースト…。なにか良くない呪いにかかっているってウワサで聞いたけど…、本当なのか?」

オズは、ハッとしてレイルを見た。

「あ、ああ…。時々、山犬の霊が乗り移るんだ」

オズが言うのを、ティオラが慌てて止めた。

「オズっ!」

「いいだろ?本当のことなんだから、別に隠さなくても。それに、コイツ、マクーストの親友なんだし」

「…マクーストのヤツ、落ち込んだりしてないか?」

レイルは心配そうにオズに聞いた。

「ああ!変わりねーぞ!何だったら、時々見に来てやってくれよ!」

オズが言うも、レイルは少し戸惑って返した。

「け、けど、アイツは白月の王座だし…。なんか、今までみたいに気軽に話しかけ辛いんだよな…」

「関係ねーよ!王に選ばれたからと言って、偉そうにしてるわけでもねーし。アイツ、きっと喜ぶと思うぞ!」

オズは、明るい笑顔で返した。

オズに対して、思っていた印象とは違い、レイルは彼女に好感を抱いた。

「…あ、ありがとう…。あの…、きみ本当にクロスアルド家の……」

「…ん?」

「あ…、いや、いい」

レイルは、話を変えた。

「マクーストの事をみんなに知ってもらうんだよな?なら、手っ取り早い方法があるぞ!」

オズとマクーストの為に、何か協力したい気持ちが、レイルの中で芽生えていた。

「どんな方法だ?」

興味をそそられたオズが聞いた。

「この放送室を使えばいい。オズたち守護者が、ここでマクーストの事を話して、全校生徒にアピールするんだ」

「っ⁉」

オズとティオラは「なるほど!」といった顔で、互いを見合った。

「それはいい考えだわ!」

「よし!じゃあ、みんなから聞いたマクーストのいいとこを持ち寄って、さっそく放送しようぜ!」

オズとティオラは、生き生きした表情で、さっそく業務にかかろうと、放送室を後にしようとした。

すると、ティオラが振り返り、レイルにペコッと頭を下げた。

「どうもありがとう!とても参考になったわ!」

オズも、レイルの方に振り返った。

「いい提案してくれて、ありがとな!レイル!」

二人は、レイルに礼を述べると、放送室の扉を閉め、パタパタと駆けて行った。

レイルは笑顔で二人を見届けると、元の椅子に座った。


翌日の昼休み。

白月の守護者の四人は、放送室に集まっていた。

「いいわね?集めた情報を元に、順番にマクーストの事をアピールするのよ!」

ティオラは三人の前に立って仕切った。

「分かってるって!任せとけよ!」

「…あんまりこーいうの得意じゃないけど…、ま、やってみよっかな」

ビーゼルとネルがティオラに返した。

「そろそろ始めるか?レイル」

オズは、後ろを振り返って、今回の校内放送を任せているレイルに言った。

「いつでもいいよ」

レイルは親指を立てて、オズにウインクした。

「…よしっ!」

オズがティオラに合図すると、ティオラは頷いてマイクの方に向かった。


校内に放送を知らせるチャイムが鳴り響いた。

昼休みは、普段は校内に合った優雅な曲が流れているのだが、皆の注目を集めるキャッチーな曲が鳴り響き、生徒達は全員何事かといった様子で、スピーカーを見たり、辺りをキョロキョロしていた。

「皆さま、午後のひと時をいかがお過ごしですか?突然ですが、白月を代表する私たち守護者から、皆さまにお伝えしたいことがありまして、貴重なお時間をいただいております。放送の進行は、私、白月のエース「ティオラ・メーメル」が務めさせていただきます!」

ノリノリな様子でマイクに向かって話すティオラを、オズ、ビーゼル、ネルの三人は、呆れた様子で後ろで見ていた。

「そして、一緒に放送を盛り上げてくれるのは、この三人です!」

ティオラはマイクに向かってそう言うと、振り返って後ろの三人を手招いた。

「………」

三人は仕方なしそうにそちらへ歩み寄った。

「えー…、ナイトのビーゼルと…」

「ペイジのオズだ…」

「プリンセス担当のネルです…」

三人は恥ずかしそうにマイクに向かって言った。

多目的室で、一人で昼食をとっていたマクーストは、飲んでいた牛乳を噴出しそうになって、驚いて上方のスピーカーに目をやった。

(みんな…、いないと思ったら……)

マクーストは不安気な顔で思った。

「皆さま、この度の王の人気投票はもうお済でしょうか?近頃、私たちの王座、マクーストについての好ましくないウワサが広まっており、私たちも大変迷惑しております。今回のこの投票は、ぜひ平等に審査していただきたいと思います!」

ティオラは再びマイクの位置に戻って言った。

「と言うことで、私たちの王であるマクーストの事を、この機会に皆さまに知っていただきたいと思い、彼が一体どんな人なのか、みんなで発表していきたいと思います!」

「っ⁉」

スピーカーから聞こえるティオラの言葉に、マクーストは驚いた。

「では、まず私から見た彼の印象ですが…、出会った当初は、とても頼りなく思ったのは事実です。こんなことで、王の責任を果たすことが出来るのかな、と…。でも、それは彼の隠せない謙虚さからの印象だと気づきました。…彼のことを知って、まだ日も浅いけど、彼の親しい友人からの話も聞いて、友情も、愛も、そして、命を大切にする人だということを知りました。…私は、マクーストのことを、とても尊い存在だと思います……」

目を閉じて、心からの気持ちを述べるティオラを、周りの三人はじっと見つめた。

ティオラはハッとして、赤くなって慌ててマイクの前から退いた。

「つ、次はネルよっ!」

ティオラに言われ、ネルは慌てた。

「えっ!や、やだよっ!まだまとまってないってっ!」

必死に拒むネルを見兼ね、ビーゼルが(おど)り出た。

「仕方ねーな!俺が先に言うぜ!その間に、話まとめとけよ!」

ネルにそう言うと、ビーゼルがマイクに向かって話し始めた。

「じゃあ、次はお待ちかねの俺だぜ!えーっと、マクーストのことについてだよな?……アイツは、スポーツもやんねぇみてぇだし、俺とは気が合わねーのかなーと思ってたんだ。けどよ、毎日一緒に飯食ったりしてたら、呪いにかかるほど悪いヤツとは思えねーんだ。俺に飯分けたりしてくれるしな!惜しみなく人に物をやるマクーストは、むしろ、幸せになってもいいほど、めちゃめちゃいーやつなんだぜ!」

「………」

食べることしか言わないビーゼルに、他の三人は、呆れた顔を見せたが、彼なりにマクーストのことをしっかり見ていたことが分かると笑顔になった。

「俺からは以上だぜ!」

ビーゼルは、ネルを手招き、マイクの前に立たせた。

ネルは、しぶしぶマイクに顔を近づけた。

「…あ…、えっと…。私は、マクーストとは学年が違うし、あんまり話したことないんだけど…。みんなの言う通り、最初は、この人が王で大丈夫かなぁと思ってた。呪いにかかってるのを知って、なおさら不安しかなかったから、正直今でもそれは変わらない……」

ネルの正直な気持ちを知り、その場にいた三人は彼女に顔を向けた。

「………」

放送を聞いていたマクーストは、寂し気な顔でうつむいた。

「…でも、優しくていい人っていうのは、分かるかな。正直、私、人見知りだから、出会って間もない人はあんまり信用しないんだけど…、マクーストは、ちゃんと話を聞いてくれるし、いろいろ話せるかなって思った…。お友達にも話を聞いたら、やっぱり、みんな話しやすいって言ってたし。……だから、みんなマクーストのこと、呪いがあるからって嫌いにならないでね!…終わりっ‼」

ネルは恥ずかしさを誤魔化すように、マイクからそそくさと離れた。

ティオラとビーゼルはそんなネルを微笑んで見届けると、オズに目を向けた。

「………」

オズは、黙ってマイクの前に立った。

「…オレは…。…オレは、マクーストが呪いにかかったこと、不運だとは思ってねぇ」

オズの話し出した言葉に、ティオラ、ビーゼル、ネルは、ハッとオズの方に視線を向けた。

「⁉」

聞いていたマクーストも、ハッと顔を上げた。

「呪いの元凶がなんだかわかんねーが、呪いにかかるってことは、その元凶が何かを訴えて来てる証拠だ。…マクーストが選ばれたのは、きっとヤツになら、それを変える…乗り越えられる力が備わっていると見込まれたからなんだ!」

「……オズさん……」

マクーストは、湧き上がる感情を抑えきれずに呟いた。

黒陽の校舎にも、この放送は流れており、三年一組の教室で、課題に取り組んでいたライアンは、ペンを持つ手を一瞬止めたが、何事もなかったように続けた。

黒陽の守護者である、テン、ファウスも、それぞれ昼食をとりながら、黙って放送を聞いていた。

音楽室では、昼食を終えたココルルが、窓際の席に座っていた。

外からの穏やかな風を浴びながら、ココルルは目を閉じ、微笑んで放送を聞いていた。

放送はまだ続いた。

「…だから…マクースト……」

オズは、マイク越しにマクーストに語り掛けた。

「………」

マクーストは、耳に神経を集中させ、オズの次の言葉を待った。

「絶対に負けんなっ!お前は一人じゃないっ!オレたち守護者や友人が、お前の事を信じてるからな!だから、お前もオレたちを信じて、決してくじけるんじゃねーぞっ‼」

オズは、拳を握りしめ、力強くマクーストにエールを送った。

「呪いなんかに負けるな―――っ‼」

三人も、オズの横に並び、マイクの前でマクーストを応援した。

「………っ」

みんなの想いが校内に響き、マクーストは、目にためた涙を手で拭った。

「……みんな、いい連中じゃないか」

後方からの声に、マクーストは、ハッとして振り返った。

後方の扉から歩み寄って来たのは、レイルだった。

「…レイル…っ!」

マクーストは、驚いて立ち上がった。

「ウワサを聞いて、お前のこと心配してたけど…、あの仲間たちとなら、大丈夫そうだな」

マクーストの前に立ったレイルは、安心した顔をマクーストに向けた。

「…レイル……。っ⁉ま、まさか、きみが⁉」

レイルが放送部員だと知っているマクースは、今回の計らいが彼のものだと察した。

「エースとペイジが、お前のことについて知りたいと放送室まで訪ねて来たんだ。…あのラットの事件について、話してしまったんだけど…」

「ええっ⁉」

レイルの言葉に、マクーストは驚いた。

「悪かった。…けど、二人とも、お前の優しさに感心してたぜ!…特にペイジの方がな」

「っ⁉」

マクーストは、かぁっと顔を赤らめた。

「クロスアルド家の人間とは思えないな、オズって。それに、凄くたくましい。…しっかり守ってもらえよ!」

レイルは、マクーストの背中を叩いてからかった。

「よ、よしてよ~っ!」

マクーストは真っ赤になって返した。


黒陽の庭園で、定位置に座り、いつものように本を読んでいたエンジーは、放送が終わると、開いていた本をパタンと閉じた。

「………」

険しい表情をその本に向けていたエンジーだったが、フッと笑みをこぼすと、口を開いて呟いた。

「…無駄なことを……」

エンジーは椅子から立ち上がり、スタスタとその場から去って行った。


とうとう投票の結果が発表される日となった。

全校生徒は、体育館に集められ、発表の時を待っている。

白月の王と守護者、そして黒陽の王と守護者は、披露式の時と同様に、祭壇を挟んで対象に並んだ。

オズは、自信が無さそうに立っているマクーストと仲間に目をやると、彼らを元気づけるように明るい笑顔を見せた。

「やるだけのことはやったんだ!あとは、みんなを信じるしかねーよ!」

隣にいるビーゼルは、オズの言葉に頷いた。

「そうだな!呪いにかかってようがなんだろうが、マクーストが良い奴だってことは、みんなには伝わってるはずだぜ!」

ビーゼルの言葉に、ティオラはネルと目を合わせて笑顔を見せた。

「ええ!マクースト、どんな結果になろうと、自信を持つのよ!あなたの優しさは、きっとこれからみんなに分かってもらえるわ!」

ティオラは、うつむいているマクーストに、強い視線を向けて言った。

マクーストは、顔を上げてティオラを見つめた。

「……ティオラさん…」

ティオラ以外の三人も、マクーストを笑顔で見つめている。

「…あ、ありがとう……」

マクーストは、自信を取り戻し、四人に笑顔で礼を述べた。

「………」

白月の会話が微かに聞こえる位置で、ライアンは視線を落として立っていた。

「さぁ、果たしてどんな結果になるだろうねぇ?」

ファウスは、ニヤける顔を抑えながらも、楽しそうに言った。

「そんなのライアンの勝ちに決まってる。こんなことしなくても、結果は目に見えてるんだ」

自信にあふれた顔で立っているエンジーは、腕を組んでファウスに言った。

「へぇ、随分な自信だね。…ねぇ、テン?」

話を振られたテンは、驚いてファウスに顔を向けた。

「………っ⁉」

テンは黙ってファウスを睨んだ。ファウスは意味深な目をテンに向けた。

元気のないライアンが気になっていたエンジーは、ずっとうつむいている彼を心配し、横目で様子をうかがった。

ライアンの様子は変わらないままだった。

すると、舞台上に校長が現れた。

校長の後ろには、投票箱を持った二人の教員が続いて歩いた。

校長が祭壇にたどり着くと、二人の教員は両手に持った二つの箱を祭壇の上に置いた。

男女の更衣室に設置していた為、投票箱は計二つある。

校長はそれぞれの投票箱を確認すると、祭壇の上に設置されたマイクに近づいた。

「みんな、お待たせしたね。えー、それでは早速、投票の開票に参りたいと思う…」

校長が言うと、傍に待機していた先ほどの教員の一人が、箱を開封した。

もう一人の教員は、マイクを持った。

「読み上げます。…まずは男子の投票から」

マイクを持った教員が言うと、箱を開けた教員が、中に手を入れて、投票表紙を一枚開いた。

それをマイクを持った教員に渡した。

「マクースト!」

まず始めにマクーストに一票入り、白月側は「わぁっ」と盛り上がった。

当然、白月の守護者は驚いていたが、マクースト本人が一番驚いているようだった。

「マクースト!…ライアン!……ライアン!…ライアン!」

投票用紙が次々に開封されていくたびに、そこに書かれた名前が読み上げられていった。

「マクースト!……ライアン!」

五分五分のようだが、ライアンの名前が若干多く聞こえる。

名前が読み上げられるたびに、ティオラは目をぎゅっと閉じ、指を組んで祈った。

オズは、開封の様子から一度も目を離さず、ハラハラしながらそれを見守っていた。

ビーゼルとネルも、固唾を呑んで見守っている。

「ライアン!…ライアン!……マクースト!」

読み上げは続いた。

後半になるにつれ、ライアンの名前が多く響いた。

「…やっぱりね…」

ネルが呟き、白月側の守護者と生徒は、「これまでか」といったように、落胆の様子を見せ始めた。

それを察したマクーストは、震えながら四人に謝った。

「…ご、ごめんなさい…っ。僕のせいで…、みんなに迷惑かけて……っ」

ティオラ、ビーゼル、ネルは、ハッとしてマクーストに顔を向けた。

マクーストは目に涙を溜め、決して流さないように震えて我慢している。

「マ、マクースト…」

ティオラは、マクーストになんと声をかけていいか分からなかった。ビーゼルとネルも、困った様子でいると、オズが口を開いた。

「……まだ終わってねーだろ…。諦めてんじゃねーよ」

「……え…?」

四人はオズの方に顔を向けた。

オズは、開封の様子から目を離さず、じっとそれに目をやっている。

「まだ結果も出てねーのに、弱音吐くんじゃねぇ!泣くのは負けてからにしろ!今は、黙って待っていればいい」

「………」

四人はオズの言葉を聞くと、祭壇に目を向けて黙って見つめた。

「…ライアン!……ライアン!……ライアン!……マクースト!」

ほぼ黒陽の勝ちが確定した。

黒陽の守護者は、黙って開封の様子を見ている。

(あっけなかったな。…ま、当然の結果だろう。そもそも黒陽に楯突(たてつ)くのが間違いなんだ。あの田舎者に知らしめるには、いい機会だったかもしれないな)

不敵な笑みを浮かべるエンジーは、読み上げられる名前を聞きながら思っていた。

「ライアン!…マクースト!……ライアン!……以上です。………男子の票は、マクーストが124票、ライアンが198票で、黒陽の王座ライアンが優勢です」

黒陽が優位に立った。

黒陽の生徒達は、王であるライアンに拍手を送った。

守護者も同じく、ライアンに拍手を送った。

「………」

だが、ライアンの表情は晴れることなく、皆に会釈を返すも、うつむいたままだった。

「…ライアン…?」

エンジーは、ライアンの様子を不思議に思い、彼に顔を向けた。

「さぁて、問題はこれからだよ」

誰に言うわけでもなく、ファウスが呟いた。

「…え?」

エンジーが聞き返すと、どこからか大きな声が飛んできた。

「まだ決まってねぇ!次は女子の票だ!勝負は次で決まるんだからな!勝ったなんて思うなよっ‼」

声の方を向くと、あからさまに自分に指をさして吠えているオズの姿を目にし、エンジーはため息をついた。

「おいおい、落ち着けよ…。さっきの冷静さはどこ行ったんだ?ん?」

ビーゼルは興奮するオズを押さえつけて、彼女を(なだ)めた。

ティオラとネルは、慣れたように、呆れてその様子を見ている。

「何度やったって結果は同じだ!また恥をかくだけだと思うけど、まだ続けるか?」

エンジーは、構わずオズを挑発した。

「なにぃっ⁉このヤロウ~~っ‼」

オズの怒りが頂点に達しそうになったので、ビーゼルは慌てて教員に言った。

「す、すんません!つぎ、女子の投票結果、お願いします‼」

呆れている教員は我に返り、次の女子の投票箱を用意した。

校長の合図を確認すると、教員たちは先ほどと同様に発表の準備に構えた。

「では、次に女子の投票を読み上げます」

白月、黒陽の守護者たちは、静かに見守った。

生徒達も、シンッと静まり、読み上げられるのを待った。

女子の投票となると、圧倒的にライアンが有利だ。

みんなが固唾を呑んで見守る中、エンジーは、黒陽の王であるライアンの勝利を確信していた。

「………っ」

白月側が落胆の様子を見せる中、オズは最後まで諦めずに、じっと票が開封されるのを見ていた。

「では、一枚目……。……ライアン!……ライアン!…ライアン!」

やはり、女子の票はライアンが多かった。

マクーストは、ライアンの名前が読み上げられるにつれ、静かに目を閉じた。

ティオラとビーゼルも、視線を落とし、諦めの表情を見せ始めた。

「…白月にまで人気があるんだもん。仕方ないよね……」

ネルは「はぁ」っとため息をついて言った。

そんなネルの言葉など聞かないようにしているのか、オズは黙って名前を読み上げる教員を見ていた。

「マクースト!……ライアン!…マクースト…!」

マクーストの名前も、たまに読み上げられた。

「…少しはあっちの票も入らないとな。勝負になったもんじゃない」

エンジーは、相変わらず強気な姿勢で、フッと笑って呟いた。

隣で聞いていたファウスが、ニヤッと笑みを浮かべた。

「マクースト…!マクースト……!ライアン!……マクースト!」

だんだんマクーストの名前が多く読み上げられてきた。

(……?)

エンジーが異変を感じた同じころ、場内はざわつき始めた。

「マクースト!…マクースト!……マクースト!」

票を開けるたびに、マクーストの名前が読み上げられていく。

「…え…?ど、どういうことだ……?」

エンジーは動揺を隠せず、淡々と票を開けていく教員に目をやった。

「………っ」

テンとライアンは、苦痛な表情でその場に耐えていた。

驚くエンジーの隣では、ココルルが胸に両手を当て、静かに発表を聞いている。

「マクースト!…マクースト!…マクースト!」

場内のざわつきは大きくなる一方だった。

「ま、まさか…っ!逆転っ⁉」

ティオラは目を見開いて、他の守護者に言った。

「待てよ、待て待て!…今、同票くらいなんじゃないか?」

ビーゼルも興奮を抑え、ティオラに返した。

ネルは、驚いた表情のまま、その場に立っている。

オズはマクーストに目をやった。彼は信じられない様子で、頬を赤く染めて自分の名前が読み上げられる様子をじっと見つめている。

オズは、ホッと安心した表情で、そんなマクーストを見つめた。

「……マクースト!」

全ての票が読み上げられた。

「………」

「………」

全員は、教員が集計する結果発表を待った。

「……結果を発表します。女子の票は、マクーストが203票。ライアンが115票。……そして、男女合わせた結果ですが……、マクーストが327票、ライアンが313票。これにより、白月の王マクースト・ゼイルが多く支持を集めている結果となりました」

教員の結果発表に、白月の生徒達は歓声を上げ、マクーストに拍手を送った。

その中には、満面の笑みを浮かべて手を叩く、レイルの姿もあった。

「やったぁ!マクースト!やったじゃないっ‼」

ティオラは飛び跳ねて喜び、マクーストの手を握った。

「えっ⁉…あ、ありがと……」

「お前!やるじゃねーか!まさか女子からの人気が高いなんてな‼」

赤くなるマクーストの背中をバシバシ叩きながら、ビーゼルも嬉しそうに言った。

「ほーんと、信じられないけど。現実なんだよね…」

ネルは、未だ驚いた表情だった。

「み、みんなのおかげだよ…」

みんなから褒められ、赤くなって萎縮するマクーストに、オズが近寄って声をかけた。

「ほら、みんなに応えてやれよ!マクースト!」

マクーストは顔を上げ、自分に拍手を送る白月の生徒達を見渡した。

守護者たちは笑顔でマクースト見ている。

マクーストは頷いて、舞台の前に出ると、拍手に応えるように深々とお辞儀をした。

白月の守護者もマクーストに拍手を送った。

「へーえ。思っていたより露骨な結果が出たもんだねぇ」

何が起こったのか理解が出来ないエンジーの隣で、ファウスは呟いた。

テンは、辛そうにうつむくライアンを見ると、キッとエンジーを睨んだ。

「…あ、ありえない…っ」

エンジーは拳を震わせた。

すると、みんなに応えるマクーストに向かって叫んだ。


「何かの間違いだっ‼ライアンが…、ライアンがお前なんかに負けるわけがないだろっ‼」


辺りの雰囲気は一転し、シンッと静まり返ると同時に、全員エンジーに目を向けた。

「お前ら、何か仕込んだな!でなきゃ、こんな結果はあり得ない!」

エンジーは白月の守護者たちを睨んで言った。

「なっ!どういう意味よ……」

ティオラが言い返そうとするのをオズが止め、エンジーと対立するように前に立って腕を組んだ。

「……何言いがかりつけてんだよ?見苦しいぞ、オルマンダ家の末裔さんがよぉ」

「汚い手を使ったことぐらい分かってるんだ。今吐いておかないと、後に後悔することになるぞ」

エンジーはオズに言うと、ジロッとマクーストを睨んだ。

マクーストはビクッと驚いて、みんなの後ろに隠れた。

「言えよ!投票箱に細工でもしたか?それとも教員を買収したのか?」

エンジーの言葉に、何かが切れたオズは、すかさず言い返した。

「汚い手を使ってきたのはそっちじゃねーか!マクーストの呪いのこと、言いふらしやがって!」

「そーだぜ!こっちが不利になることするのは、フェアじゃねーんじゃねーか?」

ビーゼルもたまらず言い返した。

「そーだそーだ!」

ヒョコッと顔を出したネルも参戦した。

「この結果は妥当なものよ!みんなマクーストを理解してくれてるの!私たちが彼の事をめいっぱいアピールしたんだから!」

ティオラは、オズの横に立ってエンジーに言った。

「理解だと…っ⁉」

エンジーは顔をひきつらせてティオラを睨んだ。

「そっちは王のために何か力になったのか?自信だけあったって、何もしなけりゃ結果はついてこねーぞ!」

オズの言葉に、エンジーはカッと目を見開いた。

「ライアンは完璧だ!こっちは彼を熟知した上での判断なんだ!浅はかなお前らなんかと一緒にするなっ‼」

「っ⁉」

白月と黒陽の守護者たちは、全員その言葉に反応した。

身体を震わせるライアンを見兼ね、テンは静かに歩いた。

「ハッ!熟知した上だって?完璧だって?浅はかなのはお前の方だろっ‼」

オズは半分呆れた様子で、エンジーを見下した。

オズに馬鹿にされたエンジーは、怒りを抑えきれなくなった。

「お前……っ!」

その瞬間、テンがエンジーの前に立った。


  ーー パンッ ーー


頬を叩く音がその場に鳴り響いた。

「………っっ⁉」

全員が驚いた表情でその光景に目をやった。

テンに平手打ちされたエンジーは、一瞬体制を崩したが、叩かれた頬を抑えながら、目の前にいるテンに驚いた表情を向けた。

テンは鋭く光った目をまっすぐに向けて、エンジーを睨んでいる。

「きさま…っ!自分が何をしたか分かっているのか?勝手な行動ばかり起こして、挙句にこのざまだ!白月の挑発に乗るなんてもってのほかだ!」

「……っ!」

エンジーは何も言い返せず、テンから視線を反らせた。

後ろでは、ファウスが黙って目を閉じ、ココルルは不安そうに目をキョロキョロさせている。

「………」

入る隙の無いオズは、テンとエンジーの様子を黙って見ていた。

「……お前はもう何もするな!家の事を思うのなら、その方が利口だろう」

目を閉じたテンは「ふぅ」と息を吐いて、エンジーに言い放った。

エンジーは黙ってうつむいている。

「……王のこともだ。あとは、わたしに任せていればいい」

去り際にテンに言われ、エンジーは顔を上げてテンの方に振り返った。

「ま、待て!…それは…っ」

「黒陽のためだ!わきまえろ!」

「っ⁉」

改めて自分のした失態に気付いたエンジーは、失望感に襲われてその場に(たたず)んだ。

テンは、その場にいる黒陽の他の三人を連れて、舞台袖へと下がって行った。

「………」

ライアンはその場に(たたず)むエンジーに目を向けた。

エンジーはライアンに気が付きハッとした。

「っ⁉」

エンジーが見たライアンの表情は、とても寂しそうな、何とも言えない複雑なものだった。

ライアンはエンジーから顔を背け、そのまま舞台袖へと消えて行った。

その場に一人残されたエンジーは、うつむいてしばらく動かなかった。

そんなエンジーをオズは黙って見ている。

「…何?仲間割れ?」

意外な黒陽の守護者たちの一面を見て、ティオラは少し動揺した様子を見せた。

「一体どうしたっていうんだぁ?…今回の投票は、もしかしたらアイツが一人で暴走した上でのことだったんか?」

ビーゼルはあっけにとられた様子で、一人残されたエンジーに目を向けた。

「あっちの守護者って仲悪そーだもんね。みんな独り歩きしてるっていうかさ」

ネルが腕を組んで言うと、ティオラとビーゼルは、「お前が言うか」といった顔で彼女にジロッと目を向けた。

エンジーを黙って見ているオズの横に、マクーストが歩み寄った。

「……オズさん…。僕、これで良かったのかな…?なんだか、向こうに悪いことしたみたい…」

オズはハッとして、マクーストに顔を向けた。

「何言ってんだよ⁉お前が罪悪感抱くことないだろ?お前は正々堂々戦って、勝負に勝ったんだ!自信持てよ!」

オズは、マクーストの肩に手をポンッと置くと、笑顔で言った。

「……!うんっ!」

マクーストは、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

そんなマクーストを見つめると、オズはゆっくり振り返って、ずっとうつむいているエンジーに再び目をやった。

「………っ」

うつむくエンジーは、悔しそうに唇を噛みしめ、握った拳を震わせたのだった。


次回へつづく

今回も大変遅くなりました。

第四話、最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

残酷な表現があること、お詫び申し上げます。

次回「黒陽の闇」も、ぜひ、よろしくお願いいたします!!

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