表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

EP2. 【弱虫キングは運も敵⁉】


獣と化したマクーストと、傷を負ったライアンは互いに睨み合って動かなかった。

ライアンの傷を見た長髪の生徒は、振り返って、マクーストとその後ろのオズたちを睨んだ。

「お前っ!一体何のつもりだっ‼」

長髪の生徒はマクーストに怒鳴った。だが、マクーストは未だ警戒するように、四つん()いで彼らの動きをうかがっている。

長髪の生徒は、今のマクーストには何を言っても無駄だろうと、オズの方に目を向けた。

「……っ⁉」

オズはそれにハッと気づいたが、本人にも理解できない状況のため、なにも言い返すことが出来なかった。

「…随分と厄介な者が王に選ばれたようだねぇ。白月(はくげつ)の方は……」

黒陽(こくよう)側のもう一人、髪をオールバックにした生徒が、腕を組んでジロリとマクーストに目を向けた。

「……な…、なんて邪悪な目をしているの……」

その場にいたシスター姿の副校長【リヨンド】は、恐れを()して、怯えた様子でマクーストを見ている。

その様子を見た黒陽の二人の生徒は、互いに顔を見合わせると頷いた。

長髪の生徒とオールバックの生徒は、ライアンから離れ、マクーストの方に歩み寄った。

「これ以上、わたしたちの王に手出しはさせないぞ!」

「悪いけど、出て行ってもらえるかな?」

マクーストの耳がピクッと動いた。オズはそれに気づき、近づいて来る二人に言った。

「こいつに近づくな!」

黒陽の二人は、オズの言葉にピタッと足を止めた。

マクーストは先ほどよりも警戒心を強め、二人がそれ以上近づくと、今にも飛びかかりそうだ。

二人はそれ以上近づくことが出来ず、冷や汗をかいて、マクーストの動きに警戒した。

「………っ」

オズや後ろの三人も、身動きが取れず、ただ黙ってマクーストに目を向けていた。

みんなが警戒する中、これでは(らち)が明かないと思った黒陽の二人は、再び目で合図を送ってマクーストをこの場から追い出そうとした。

だが、その時だった。

「待って!」

みんなはその声の方へ顔を向けた。

声の主は、傷を負ったライアンだった。

ライアンは、負傷した右腕を抑えながら、静かに立ち上がった。

黒陽の長髪の生徒が、心配してライアンに駆け寄った。

「…大丈夫だよ、テン」

ライアンは、駆け寄って来た【テン】という生徒に笑顔を見せると、ゆっくりとマクーストの方に歩いた。

みんなはそれを、ハラハラした様子で見ている。

近づいて来るライアンに対し、マクーストは警戒しながら、ずっと「グルルル」っと(うな)っている。

ライアンは構わず歩み寄り、立膝をついて、手を差し出した。

ライアンの軽率な行動に、みんなはとっさに一歩前に踏み出た。

「大丈夫。大丈夫だよ。…怯えなくていい」

ライアンは、牙を向けるマクーストに優しく言った。マクーストはまだ警戒の体制をとっている。

「…大丈夫…」

すると、ライアンはニコッと笑って、左手でマクーストの頬にそっと触れた。

その瞬間、マクーストは乗り移っていた何かが消えるかのように、フッと意識を失った。

その場で倒れるマクーストを守るように、ライアンは彼を抱きかかえた。

みんなが何が起こったのか分からない状況の中、オズは、黙って二人を見つめていた。

マクーストは、先ほどの形相(ぎょうそう)が嘘かのように、安心した表情で、ライアンの胸に抱かれて眠っている。

ライアンは、そんなマクーストを見ながら、彼の頭を優しく撫でた。

オズは、ハッとチャペルのステンドグラスに目を向けた。

ステンドグラスには、一人の歳いった祭司の姿と、その隣には、彼に(なつ)く愛犬の様子が(かたど)られていた。

オズは不思議にも今の状況と重なって見えるそのステンドグラスに、妙に気がそそられていたのだった。


王と守護者たちは、校内に部屋が用意されており、最上階の左のつき当りは、白月の王座であるマクーストの部屋となっていた。

白月の守護者たち四人は、気を失ったマクーストをとりあえず部屋のベッドに寝かせた。

部屋の中央に置かれた天蓋ベッドを囲むように、四人は立っていた。

「……王って、何か特殊な能力を持つ奴が選ばれるのか?」

オズが口を開き、ティオラとネルの方を見て聞いた。

「そんなわけないじゃない。王は無作為に選ばれるのよ。……こんなの、初めてだわ…」

ティオラはオズに言うと、静かに眠っているマクーストに目を向けた。

ネルは眉を(しか)めてマクーストを見た。

「…コイツ、一体なんなの?あんな野生の狼みたいになっちゃって…。なんか…不気味…」

「………」

四人は、眠るマクーストに、神妙な面持ちで目をやった。

「けどよ、アイツはコイツの事、(なだ)められるみてーだな」

ビーゼルの言葉に、三人は「?」を浮かべて彼を見た。

「敵の王だぜ。あの金髪ぱっつんの」

ビーゼルは、指をはさみのように動かし、おでこの辺りで切る素振りを見せた。

「…ライアンって呼ばれてたな」

オズは思い出しながら言った。

「マクーストがこうなること、知ってたのかしら…?」

ティオラは指を(あご)に当て、考えながら言った。

「……金髪ぱっつんて……」

その中でネルは、先ほどのビーゼルの発言にツボったようで、身体を震わせながら笑いを(こら)えていた。

「…………」

オズとティオラは、そんな彼女に呆れた顔を向けた。


保健室。

傷を負ったライアンは、椅子に座り、処置室で手当を受けていた。

右の二の腕の傷は、広範囲に血が(にじ)み、見るからに痛々しかった。

「ひどい傷だわ。応急処置はしたけど、一度病院で診てもらった方がいいわね」

白衣を着た保健の先生は、心配そうに傷の処置をしながらライアンに言った。

「…はい。ありがとうございます」

ライアンは、包帯が巻かれた二の腕を確認すると、シャツを戻し、破れたジャケットを羽織った。

「けど、こんな傷、一体どうして…?なにか動物に噛まれたような跡だけど、この辺りにそんな凶暴なのがいたかしら…?」

歯型の跡から、鋭い牙を持った生物だと察した先生が不安そうに言うと、処置室のカーテンを開けた。

「………」

ライアンは黙った。

処置を終えたライアンの様子を確認したテンも、視線を背けて黙った。

「白月の奴らの飼い犬ですよ」

少し離れたところで壁にもたれている、オールバックの生徒がそちらに顔を向け、妙な笑みを浮かべて言った。

「ファ、ファウス!」

テンは慌てて止めた。

「飼い犬⁉ここでは許可なく動物を飼ってはいけないはずよ!学長に報告しないと…」

先生は急いで電話が置いてある机に向かった。

「でも、もう逃げてしまいましたよ。しつけが悪かったんでしょう」

【ファウス】と呼ばれるその生徒は、やれやれと首を横に振って先生を止めた。

「…そう…。でも、危険ね…」

先生は不安そうに呟くと、ライアンの方に顔を向けた。

「ライアン、すぐに病院に行きましょう。今、事務室で手配して来るから、少し待っていて」

「はい…」

ライアンは先生の方に顔を向け、返事をした。

先生が出て行くと、ライアンは顔を下に向けた。

「………」

テンとファウスは、そんなライアンに声をかけようとするも、どう切り出していいかわからず、妙な沈黙が三人の間で流れた。

「……あ…」

テンが気を使ってライアンに話しかけようとした時、勢いよく部屋の扉が開いた。

「ライアンっ‼」

飛び込むように入って来たのは、黒陽の制服を着た少年だった。

癖っけの肩まである髪を後ろで束ね、その髪を揺らしながらライアンの元まで走った。

「白月の王にやられたって?大丈夫なのか?」

少年はライアンの所まで来ると、彼の破れたジャケットを見て、心配そうに膝をついて聞いた。

「エンジー、大丈夫だよ。…あ、でもやっぱり痛いかな…」

ライアンは、笑って返した。

【エンジー】と呼ばれる少年は、心配そうな表情のままだったが、ライアンの笑顔を見て、少し安心したようだった。

すると、後ろにいたテンが、ライアンの前に立ち、エンジーに詰め寄った。

「お前、一体どこへ行っていた⁉大事な贈呈式にも顔を出さないで!挙句(あげく)に王がこんな目に()ったんだぞ!」

物凄い剣幕(けんまく)で詰め寄られ、エンジーはテンの顔を見ることが出来ずに萎縮(いしゅく)した。

「…わ、悪かった…。気を付けるよ…」

「まったく…!それでもオルマンダ家の血を引いてるのか⁉お前の兄さんに知れてみろ!いい恥さらしだ!」

「……っ」

テンの説教はヒートアップする一方だった。テンに言いたいことを言われ、エンジーは拳を強く握りしめたが、何も言い返さず、黙って耐えた。

そんなエンジーをライアンは心配そうに見つめている。

感情的になるテンと、うつむいているエンジーを見て、ファウスは「フッ」とほくそ笑んだ。

「お前の父親も聞いて呆れるだろうな…」

「待って、テンさん」

テンの怒りが収まらない中、部屋に入って来た少女がテンに声をかけた。

テンはハッとして、そちらへ振り返った。

他の者もそちらに顔を向けた。

「そんなに怒らないで。…彼は…、エンジーは、私のせいで式に出るのが遅れてしまったのよ…」

部屋の入り口には、腰まで伸びたカールがかった薄紅色の髪に髪飾りを付けた、いかにもお嬢様らしい女の子が、不安そうに壁に頼るように手をついて立っていた。

「ココルル!」

テンは、その【ココルル】という少女を驚いて見ると、すぐに彼女のところへ駆け寄った。

「部屋まで迎えに行ったのにいないから、とても心配しましたよ」

「…ごめんなさい…。チャペルに向かう途中で気分が悪くなってしまって…。教室で休んでいたら、通りがかったエンジーが気付いてくれて、少しの間、介抱してくれていたの…」

ココルルはテンに向けて話しているのだが、どこか焦点が合っていない。

ココルルの話を聞いたテンは、振り返ってエンジーを睨んだ。

「………」

エンジーはバツが悪そうに、うつむいたまま視線を反らせた。

テンはココルルに顔を戻した。

「そうでしたか…」

「だから、彼を責めないであげてね?」

ココルルはテンに念押しした。

テンは、キリッとした表情をココルルに向けて言った。

「わかりました。それよりココルル?具合はどうですか?よくなりました?」

テンは心配そうにココルルの様子をうかがった。

テンが執拗(しつよう)にココルルを気にかけることに、ファウスはクスッと笑って顔を背けた。

「ええ。大丈夫よ。…それよりも、ライアンは大丈夫なの?」

ココルルはテンに返すと、ライアンがいるであろう場所へと歩み寄った。

怪我人はライアンなのだが、彼はココルルに話しかけられると、すぐに立ち上がり、彼女を心配するようにそちらへ歩み寄った。

「僕なら大丈夫。でも、一応今から病院へ行ってきます」

ココルルはライアンの声を聞くと、安心して微笑んだ。

「ええ。そうした方がいいわ……」

すると、一瞬意識が遠のいたのか、ココルルは足をふらつかせた。

その場の全員が驚いたが、中でも、慌てて一番に彼女に駆け寄ったのはテンだった。

「ココルルっ‼」

テンはとっさにココルルの肩を抱きとめた。ココルルはハッとした。

「…あ…。ご、ごめんなさい…。少し、貧血気味で…」

ココルルは、支えてくれているテンに言った。

「まだ、良くなっていないようですね。部屋へ戻りましょう。無理をしては駄目です!」

「…ありがとう。…ごめんなさい…」

しんどそうに顔を青白くさせたココルルは、テンに頷いて返した。

「…あとは頼んだぞ」

テンは振り返り、キリッとした目つきをエンジーとファウスに向けて言うと、ココルルの肩を両手で支えながら、部屋を出て行った。

「………」

その様子を、三人は黙って見ていた。

「……本当なのかい?」

少し間をおいてから、ファウスが口を開いた。

「…え…?」

エンジーはハッとして、ファウスの方へ振り返った。

「ココルルの介抱をしていたって話だよ」

ファウスは疑り深い目でエンジーを見ている。

「……彼女が、僕をかばっているとでも言いたそうだな」

エンジーはキッとファウスを睨んだ。

「別にそうじゃないけどね…。キミは妙にあの優等生ぶったテンに目を付けられているみたいだから、ヤツの嫌味から逃れるために、ココルルと話を合わせたのかと思っただけだよ」

ファウスは妙な笑みを浮かべ、エンジーに歩み寄った。

「彼女は、本当に教室で具合が悪そうにしてたんだ!」

エンジーは、それ以上ファウスを近づけさせないように怒鳴った。

そんなエンジーを面白がるかのように、ファウスはフフッと笑って言った。

「まぁ、そうだろうね。実際貧血を起こしていたから。…そもそも、彼女がキミのことをかばうほど、信頼関係があるとも思えないしね」

ファウスはエンジーに近づくと、ぐっと顔を近づけて、彼に耳打ちした。

「…彼女たちの間に入ると、説教だけじゃ済まなくなるよ……」

「……っ」

エンジーは、じっとファウスを睨んだまま、何も返さなかった。

二人の会話を聞いているライアンは、ずっとうつむいて黙っている。

「まぁ、僕には関係のないことだけどね」

そう言って、エンジーから身体を離したファウスは、ライアンに顔を向けた。

「ライアン。あとのことは、エンジーに任せてもいいかい?」

ライアンはハッと顔を上げて、ファウスに目を向けた。

「…えっ…、あ…、うん……」

「今回のことは気の毒だったね。けど、次からちゃんと守護するつもりだから、安心してよ」

ファウスはライアンに笑顔を向けて言うと、スッと真顔に戻って部屋から出て行った。

「………」

ライアンとエンジーは、ファウスが出て行くのを黙って見届けた。

エンジーはクルッと身体を戻して、ライアンの方を向いた。

「その傷、白月の王にやられたって副校長から聞いたけど…、本当に?」

エンジーは、破れたジャケットの下の包帯を見て聞いた。ライアンは頷いた。

「……うん。驚いたよ。赤い目で僕を睨んで…。まるで、狼が乗り移ったみたいに、僕に襲い掛かって来たんだ…」

ライアンはうつむいて、目を閉じて言った。

「向こうの王は、人じゃないのか?白月に、そんな凶暴な生徒がいたかな…?」

エンジーは、とても信じられないと言った顔で考えた。

「白月の生徒も知らないみたいだったよ。向こうの守護者たちもみんな驚いていた」

ライアンの話を聞いて、エンジーは驚いた。

「守護者たちもいたのか⁉……どんな奴らだった?」

エンジーは身をかがめ、ライアンの顔を覗くように聞いた。

ライアンは顔を上げると、少し考えた。

「……あんまり覚えてないけど…。そんなに悪そうな人たちじゃなかったかな…」

ライアンの答えに、エンジーはガクッと膝を崩した。

「悪いとか悪くないとかじゃない!…どんなヤツであろうと、白月は敵なんだ!」

キッと顔を強張らせるエンジーを、ライアンはじっと見つめた。

「……クロスアルドの跡継ぎが気になってるの?」

ライアンの言葉に、エンジーはハッとしてライアンを見た。

「校長先生、クロスアルド家の血を引く者がこの学園に入ったって言ってたよね?…なら、きっと向こうの守護者に選ばれているはず…。あの中にいたはずだ…」

ライアンは、チャペルにいた、白月の生徒を思い出しながら呟いた。

「………」

視線を落として考え込むライアンを、エンジーは黙って見つめた。

「…ま、嫌でもいずれ顔を合わせることになる。とりあえずは、傷を早く直さないとな」

エンジーは、ライアンの座っている椅子の背もたれに手を置いて、身をかがめて言った。

「うん…。そうだね!」

ライアンは顔を上げて、エンジーと目を合わせると、笑顔で返した。


夜明けは少し早かった。

穏やかに時が進む田舎の町で暮らしてきたオズにとって、クアトロ・コートで過ごす時間が、せわしなく感じるせいかもしれない。

まだ薄暗い中で目を覚ましたオズは、ベッドに入ったまま、天井を見つめて考えていた。

やはり、頭の中で思い返すのは、昨日の出来事だ。

(…アイツ…。マクーストっていったっけな…。…あの赤い目…。それに、あの牙…。人間じゃないぞ…。アイツ自身はそれに気づいているのか…?)

オズは寝返りを打った。

(……あんなにオドオドして、小心者に見せているのも、正体を隠すためなのか?…みんなを襲うこと、初めから分かっていて、あんなにかしこまった態度をとっていたのかも…)

オズは目を閉じて考えた。

(…いや。…アイツの狙いはただ一人に定まっていた。…あのライアンとかいう黒陽の王だ…。マクーストは、あのライアンを……、ライアンだけをずっと睨んでいた)

オズは眉間に(しわ)を寄せて、あのチャペルでの出来事を再度思い出した。

(………。ライアンの両脇にいた、あの黒陽(こくよう)の生徒…。アイツらがきっと、黒陽(あっち)の守護者だろうな)

すると、オズは、ネルに言われた言葉をふと思い出した。

 ‐ クロスアルド家とオルマンダ家は犬猿の仲なんだから。目を付けられるわよ ‐

「………」

オズは目を開いた。

(あの二人のどっちかが、ネルの言うオルマンダ家のヤツなのか…?)

オズは瞳を閉じて、二人の顔を思い出そうとした。

だが、そのうちに、ウトウトと眠りに落ちていった。


ハッと目が覚めた時には、もう日が昇り、辺りは明るくなって、カーテンの隙間からは、太陽の光が差し込んでいた。

オズは慌てて飛び起きた。

「いっけね!柄にもなく考え込んでたら二度寝しちまった!」

急いで支度し始めたオズは、着ているパジャマをベッドの上に脱ぎ捨てた。

「今日から授業が始まるってのに、転校初日から遅刻じゃねーか!」

すると、いきなり部屋の扉が開いた。

「おーっす!オズ!起きてっかー⁉」

豪快な登場を見せたのは、ビーゼルだった。

「……あ」

「~~~~~っ⁉」

下着姿をまともに見られたオズは、かぁ~っと顔を赤くして、言葉を詰まらせた。

「…お…、おっとぉ…。す、すまねーな!なんだ、着替え中だったか…」


「とっとと出てけっ!この変態野郎――っ!!!」


オズはその場にあった枕を鷲掴(わしづか)んで、ビーゼルめがけて思いきり投げつけた。

「のわっ⁉」

ビーゼルは慌てて扉を閉めた。

間一髪でオズの枕大砲を逃れたビーゼルは、「はぁ」っと、扉の前でホッとしたように胸をなでおろした。

「駄目じゃないか、人の部屋にノックもせず入ったら」

少し離れたところで立っている青年が、ビーゼルに忠告した。

「へへ。長年の付き合いでも、アイツが女だってこと忘れてたぜ。…朝からいいもん見たな…」

ビーゼルは、向かいに立った青年に笑って返すと、ボソッと呟いた。

「……へ?」

青年は、頬を少し赤く染めるビーゼルを、不思議そうに見た。


部屋の扉からノックの音が聞こえて来た。着替えを終えたオズは、支度を急ぎながらそちらへ顔を向けた。

「ビーゼルか?まだいたのかよ!先に食堂行ってていーぞ」

オズは、扉の向こうの人物に向けて言うと、カバンに目を戻した。

白月(はくげつ)のペイジのオズだろ?僕は食堂で雇われてるカウシュだ。ビーゼルに頼まれて、朝食のデリバリーに来たよ」

外にいるのがビーゼルではないと分かり、オズはハッと顔を上げて、慌てて扉の方へ向かった。

「……」

オズは、うかがうように、静かに扉を開けた。

「おはよう!転校初日から朝寝坊だなんて、君も結構肝(きも)()わってるね」

カウシュは、オズの顔を見るなり、にっこり笑って言った。

「……あ…」

オズは、赤い顔でカウシュを見ると、その後ろで、ニヤニヤ笑っているビーゼルに目を向けた。

オズはキッとビーゼルを睨んだ。

「はい!朝食だよ!中に運んでもいいかい?」

カウシュは、お盆に乗せた、布巾が被せてある朝食をオズに見せて聞いた。

オズは慌ててカウシュを中へ案内した。

「あっ!はいっ!…どうぞ」

「失礼」

カウシュは笑顔で返すと、中に入った。

「俺って結構気が利くだろ?」

カウシュに続いて部屋に入ったビーゼルがオズに声をかけた。

「気が利く奴は勝手に部屋に入ったりしねーよ!」

オズは腕を組んで、赤い顔でビーゼルを睨み、そっけない態度を見せた。

「……なんだよ…。あ!着替え見られて、いっちょ前に恥ずかしがってんのか、お前⁉」

「なっ…⁉」

ビーゼルに言われ、核心をつかれたオズは、尚更(なおさら)顔を赤くしてビーゼルに言い返そうとした。

「そんなこと気にすんなよ!あんのかないのか分からねー身体してんだから」

その瞬間、強烈な右フックがビーゼルの顎にヒットし、一発KOのゴングが鳴った。

「……あー。ここに置いてもいいかな?オズ」

一連の流れを見ていたカウシュは、冷や汗をかいて、オズに聞いた。

オズは、その場で倒れるビーゼルをよそに、慌ててカウシュに返した。

「あ!は、はい!お願いします!」

オズは、ベッドの上の脱ぎ捨てたパジャマに気付き、慌ててそちらへ駆け寄って、それを片付けた。

「す、すみません、散らかってて…」

「え?ああ、気にしなくていいよ。僕の部屋はもっと散らかってるからね」

カウシュは笑いながら、朝食をテーブルの上に置くと、被せてある布巾をとった。

「…うわっ!すご…」

目の前に用意された朝食に、オズは目を奪われた。

「な!ここの朝飯、スゲーだろ⁉俺、いつもは米派だけどよ、パンもなかなかいけるんだよな!」

いつの間にか回復していたビーゼルが、オズの隣に来て言った。

「食堂で食べるのなら、パンは二十種類から選べるんだ。ビーゼルは今朝早くに来て、半分はたいらげてたかな」

カウシュはビーゼルに笑顔を向けて言った。

ビーゼルは、「ああ!」と頷いて返した。

「ここの料理長は、僕の母なんだ。昔、一流ホテルの厨房で働いていて、腕はかなりいい方だよ。センスもなかなかだろう?」

カウシュは得意気な顔で言った。

ワンプレートの朝食は、色鮮やかな食材で彩られていた。

サラダは、レタスの上に千切りキャベツとコーン、そして、赤と黄色のパプリカを輪切りにしたものにドレッシングが和えられ、赤、緑、黄色のミニトマトが添えられている。

主菜は火を通したパストラミとふっくらとしたオムレツ。その上には海老のビスクソースがかけられている。

そして、主食は二種類のパン。クロワッサンと、オーソドックスな白パンだった。

オズはそれをじっと見つめたまま、ソファに座った。

「デリバリーもするけど、出来れば前の日に言っておいて欲しいかな。さっきも言ったけど、直接食堂に来てくれた方が、パンが食べ放題だから、そっちの方がお得だし、僕はおススメするよ」

カウシュはオズの向かいのソファに座り、さりげなく自分の仕事を減らすように仕向けた。

「それと、デリバリーを頼んだら、食器は自分で下げに来なきゃいけないからね。面倒だろう?今日は特別に僕が下げてあげるけどね」

そう言って、カウシュは、オズが食べ終わるのを見届けようとした。

「……オレ、こんな朝ごはん食べたことない…。オレが、守護者に選ばれたから…、クロスアルド家の人間だから、こんな待遇受けてるのか?」

オズは、険しい顔をカウシュに向けた。

「…へ…っ?」

カウシュは驚いてオズを見た。

「………」

ビーゼルは黙ってオズに目を向けた。

「…い、いや、そんなことはないよ。確かに、普通の学校じゃ、こんなことはしないけど。ここは確かに富裕層の家の子たちが通う学校だから、それなりの待遇はしなくちゃいけないんだ。……それなりに…その…、費用をもらっているからね…」

カウシュは、手を口に当てて、オズにコソッと言った。

「………けど、その中でも特に…、守護者に選ばれたヤツには、待遇がいいじゃないか…。こんな風に、学校の中に部屋まで用意してもらって…。朝ごはんまで運んできてもらうなんて…」

オズは、()に落ちない様子で、視線を落として言った。

カウシュは視線を反らした。

「確かにそうだね。部屋を用意するのは、校長の計らいだけど…」

カウシュはオズの方に視線を戻した。

「食堂は、ここの生徒みんな利用出来るんだよ。お昼だけじゃなく、朝食も夕食も。もちろんカフェにもね。…母さんは、引き抜かれてここに来たけど、自分の作った料理を、ここの生徒みんなに食べてもらいたい気持ちで、校長の考えを押し切って、そうしたんだ。そのおかげで、毎日大忙しだよ」

カウシュは笑いながらオズに言った。

「………」

カウシュの笑顔を、オズはじっと見つめると、目の前の朝食に目を向けた。

「…食べてくれるかな?…温かいうちに食べてくれないと、母さんも、作った甲斐がなくなってしまう…」

カウシュの言葉に、オズはハッと顔を上げた。

「も、もちろん!せっかく作ってくれたんだ!」

オズは慌てて言うと、掌を合わせた。

「いただきます」

「どうぞ。………」

カウシュは安心したように返事をすると、朝食を食べるオズをじっと見つめた。


食堂「コメドール」に戻って来たカウシュは、厨房に入り、シンクにお皿を置いて水を流した。

「あ、どうだった?新しい白月のペイジさんは。クロスアルド家の血筋の子なんでしょう?」

料理長であり、カウシュの母である【ノスティモ】が、興味津々な様子でカウシュに歩み寄った。

「見てよ。凄く綺麗に食べてくれた」

カウシュは、下げて来たお皿をノスティモに見せた。

「まぁ!良かったわ‼」

ノスティモは、嬉しそうにそれを見た。

「とてもいい子だ。……だから…余計にこの学園にはふさわしくない…」

カウシュは、どこか寂しそうにお皿を洗いながら言った。

「カウシュ…」

ノスティモは、そんなカウシュに何も言わず、黙って見つめた。

「…けど、どこかあの子に似ている気がしたよ。…やっぱり、遠くても血がつながっているからかな…」

「………そう」

ノスティモは、お皿を洗うカウシュから視線を離してうつむいた。


三年一組の教室では、転校生の紹介が行われていた。

教壇には、担任を受け持つシスター姿の教師が立ち、その横には緊張した様子のオズが立っている。

担任の教師は、どこか頼りなさそうな印象で、オズの様子をうかがいながら、説明を始めた。

「と…いうわけで、今日からこの三年一組の一員となる、オズ・クロスアルドさんです」

その教師がオズの紹介をすると、教室内はざわついた。

「………」

オズは、その様子を黙って見ている。

「あ…、し、静かにしてね。…名前の通り、彼女はクロスアルド家の子孫にあたります」

今更隠すこともないため、教師は正直に打ち明けた。教師の言葉を聞き、教室内は、またもざわついた

一人の生徒が手を上げた。

「せんせーい!“彼女”って、どういうことですか?」

その質問に、オズはムッとして、聞いた男子生徒を睨んだ。

「あ…。オズは、女性ですよ。制服はズボンを履いていますが…。この学校では、どちらも着用していいことになってるので、許可しています。…ね?オズ…」

慌てて理由を説明する教師は、オズに同意を求めた。

オズは黙って頷いた。

教室内のざわつきは収まらず、みんなはオズをジロジロ見ている。

まるで珍しいものを見るような目で見られ、オズは嫌気をさして顔をフイっと反らせた。

「みんな静かにしてね。…さ、オズ、挨拶をどうぞ」

教師は、オズを少し前に来させるように、手を差し出した。

オズは仕方なしそうにしぶしぶ前を向いた。すると、ハッと目を見開いた。

ふと目にした窓側の後ろの方の席に、マクーストが座っている。

マクーストは、オズと目が合うと、ペコッと会釈をした。

「………」

オズはじっとマクーストを見つめた。

「…?オズ?どうしたの?」

なかなか挨拶をしないオズに、教師がオロオロしながら言った。

オズはハッとした。

「…あ…。はい。…オズ・クロスアルドです。よろしく…」

オズは、頭を下げて挨拶をした。

「彼女は白月のペイジを担っています。このクラスには、王に選ばれたマクーストもいて、なんだか特別なクラスになりそうですね」

教師は満足そうにニコニコ笑って言った。

「オズの席は、真ん中の一番後ろよ。早くクラスに馴染めるといいのだけど…」

教室の一番後ろを指さして、教師は笑顔でオズに言った。

「……はい」

オズは返事をすると、そそくさと後ろの席へ移動した。

席に座り、教科書をそろえると、オズは斜め前に座るマクーストに目をやった。

(…アイツと一緒のクラスか…。平然としてるけど、昨日のこと、覚えてないのか…?このクラスの奴らも疑った様子もないし…)

何事もなかったように、授業を受けるマクーストに、オズは何度も目をやった。


鐘が校舎に鳴り響き、一限目が終わった。

レベルの高い授業に、オズは「はぁ」っとため息をつくと、机にうつぶせになった。

「……オズさん」

声をかけられ、オズはハッとして顔を上げた。

目の前には、マクーストが立っていた。

「…よ、よう」

オズは、少し警戒して、マクーストに挨拶をした。

「一緒のクラスになったね。よろしく」

マクーストは、ニコッと笑って、照れくさそうに言った。

「………」

彼の様子を見ると、やはり昨日のことは覚えていないのか…。オズはそう思って、何事もなかったように返した。

「あ、ああ!こちらこそよろしくな!この学園のこと、いろいろ教えてくれよな!」

「うん!……」

マクーストは頷いて返すと、視線を落として、躊躇する様子を見せた。

「…?どうした?」

オズは疑問に思って聞いた。

「…あ…あの…。今日、授業が終わった後に、贈呈式があるでしょ?…その前に、少し話したいことがあるんだけど…」

マクーストは赤い顔をして、モジモジしながら言った。

「ああ…。別にいいけど…。二人でか?」

オズは、守護者のみんなも入れての話ではないのかと、マクーストに聞いた。

マクーストはコクンと頷いた。

「………」

オズは、何の疑いも抱かず、マクーストの言葉に従った。


放課後。

今日の授業は、午前までとなっており、午後を迎えた食堂は、白月と黒陽の生徒で混雑していた。

ビーゼルは、昼食をとるため食堂に来ており、キョロキョロと辺りを見渡した。

「おっかしいなぁ…。オズのヤツ、まだ来てねーのか?これから贈呈式があるってーのに、一体どこ行っちまったんだよ」

ビーゼルは、仕方なく探すのを諦め、列に並んだ。

オズとマクーストはというと、二人並んで庭園を歩いていた。

晴れた午後の庭園は、葉の緑が綺麗に太陽に照らされ、水色や白の花の色も鮮やかに映えている。

「話ってなんだよ?マクースト」

オズは、少し前を歩くマクーストに話しかけた。

「………うん…。…あの…。ぼ、僕、最近なんか変なんだ…」

まさか、自分が獣のようになってしまうことに気付いているのかと、オズはマクーストに目を向けた。

「変って?」

オズは探りを入れるように聞いた。

「…う…ん…。なんだか…、時々胸が苦しくて…。そうすると、急に記憶がなくなるんだ…」

うつむいて話すマクーストを見ていたオズは、ハッとした。

(コイツ…。やっぱり気付いているのか…)

オズは、話しにくそうにしているマクーストの気持ちを察し、彼にそれ以上言わせないように呼び掛けた。

「な、なぁ、マクースト…」

「ねぇ、…オズさん」

すると、マクーストがそれを遮った。マクーストは、思いたったように、オズの方へ、くるっと身体を向けた。

「ぼ、僕……っ。僕っ、オズさんのことが、好きみたいなんだ‼」

思いもよらないマクーストの突然の告白に、オズは目を丸くした。

「……は…?」

オズは、訳が分からず固まったまま、マクーストに目を向けていた。

マクーストはオズから身体を反らすと、恥ずかしそうに赤い顔で下を向いた。

「…昨日、チャペルに向かう途中、僕、気分が悪くなったでしょ?あの時、鼓動が凄く早く動いていたんだ…。あの時は、何が起こったのか分からなかったけど…」

マクーストは、赤い顔のまま、オズの方へチラッと目を向けた。

「っ⁉」

オズは、ハッとして、その目を見た。

「…今朝気が付いた時、その理由が分かったんだ。……僕、夢だと思っていたけど、きっと違う。…オズさん、気を失った僕のこと、優しく抱きしめてくれたよね…?」

「………っ」

オズは、言葉を失って黙った。マクーストは続けた。

「気を失っていても、ぬくもりは感じた。それに、オズさんが僕を呼ぶ声も…。これはきっと夢じゃないって。……これが、恋なんだって…。僕は、オズさんに恋をしているんだって!」

マクーストは、オズに歩み寄り、彼女に迫った。

頬を赤く染めたマクーストに迫られ、オズは動揺を隠せず、彼から視線を反らして、本当のことを言うべきか迷った。

「オ、オズさん…。ぼ、僕じゃ駄目…かな…?」

マクーストは、恐る恐るオズに聞いた。

「……マクースト」

じっと見つめるマクーストの目を見ると、オズは「はぁ」っと深いため息をついた。

すると、決意した目をマクーストに向けた。

「オレもお前に話したいことがある」

「…え…?」

マクーストは、疑問に思ってオズに返した。オズは、辺りをキョロキョロ見渡した。

周りには、白月の生徒が何人か庭園に出てきている。

「…ここじゃなんだから…。あっちへ行こう」

オズはスタスタと歩き、チャペルの方に向かった。

「……?」

マクーストは、オズをじっと見つめると、急いで彼女の後に付いて行った。

オズは、チャペルの扉を「ギィィ」っと開けた。

今日は贈呈式の予定しか入っていないようで、チャペルの中には誰もいなかった。

「…まだ、式の時間じゃないよ?」

オズの後ろで、マクーストが言った。

「わかってる。だからだよ」

オズはそう返すと、中へと足を踏み入れた。

閉まりそうになった扉を、マクーストは慌てて抑え、彼も中へと入った。

オズは、祭壇の上方のステンドグラスにじっと目をやった。

「………」

マクーストも、それを見上げた。

すると、オズは、くるっと身体の向きを変えて、マクーストを見つめた。

マクーストはドキッとして、オズを黙って見つめた。

「…こ、こんなところまで来て…。ぼ、僕に話したいことって何?オズさん…」

わざわざ二人きりになるところを選び、ましてやここは教会だ。マクーストは、期待に胸膨らませて、オズの言葉を待った。

オズは黙ってマクーストの元へと歩み寄った。

「っ⁉」

鼓動を高鳴らせたマクーストは、今になって、チャペルの扉をあけっぱなしにしたことを後悔した。

マクーストの前まで来たオズは、彼の手をとった。

「えっ⁉」

マクーストはかぁっと顔を真っ赤にさせた。

「昨日の事、お前に話してやる。…こっちへ来い」

「え?」

そう言うと、オズは、マクースト一列目の長椅子へと連れて行った。

「座れ」

オズは、通路から右側の椅子を指して、マクーストを座らせた。

マクーストは、真剣な眼差しのオズを不安そうに見た。

「……昨日、お前を抱きしめたのは、…オレじゃない」

オズの言葉に、マクーストは驚いて彼女を見つめた。

オズは、マクーストと目線が合うように、立膝をついた。

「お前を抱きしめたのは、黒陽の王だ」

「えっ⁉」

マクーストはすぐには理解が出来ず、ただ困惑してオズの目をじっと見ている。

「いいか?オレが今から話すこと、驚かないで聞けよ?」

じっと見つめる視線から逃れられずに、マクーストは黙ってオズに頷いて返した。


オズが話をする最中、マクーストは信じられない様子で何度も首を横に振った。

一通りを話し終えると、マクーストはうなだれてしばらく動かなくなった。

オズは辛そうな顔で、そんな彼の様子を見ると、ため息をついた。

しばらく動かなかったマクーストだったが、しばらくしてガタガタと震え出し、両手で自分の腕を抱いた。

「っ⁉」

オズはハッとしてマクーストに駆け寄った。

「だ、大丈夫か?」

すると、オズはハッとして、マクーストから距離をとった。

また昨日のような獣へと豹変することを恐れたからだった。

「…っく…、…僕っ…、一体なんなんだ…っ⁉」

マクーストは震えながら声を発した。

「…自分が…自分じゃないみたいだ…っ!…オズさん…、今の話…、本当に…本当?」

マクーストはうつむいたままオズに聞いた。

オズは、マクーストを哀れむように見つめると、視線を反らして答えた。

「オレだって…、こんなこと言いたくなかった…。…オレも、信じられねぇんだよ…」

「助けてよっ!オズさんっ!助けてっ‼」

マクーストはその場で叫んだ。

驚いたオズは、どうすることも出来ずに、うなだれて震えるマクーストを見つめる事しか出来なかった。

マクーストは、ピタッと震えを止めた。

異変に気が付いたオズは、彼に話しかけようとすると、マクーストはバッと顔を上げた。

「黒陽の王の人…。傷は大丈夫だったのかな…?」

自分のせいで大けがを負わせたことに、マクーストは今になって罪の意識を感じた。

オズは、マクーストがこれ以上自分を責めないよう、慌てて彼の隣に座って言い聞かせた。

「だ、大丈夫だって!そんなに重症なら、いくらなんでもこっちに報告が来るだろうし。第一、黒陽の奴らが黙ってるなんてことないだろ?」

マクーストは、黙ってうつむいた。

「…それに、あのライアンってヤツ。お前の事、全く恐れてない様子だったぜ」

オズの言葉に、マクーストは顔を上げた。

オズはその時の光景を思い出し、立ち上がって、ステンドグラスを見上げた。

「なんだか、信頼し合ってるように見えた…。お前も、アイツの手に安心しているようだった…」

「………」

マクーストは、ステンドグラスの前まで歩くオズを、黙って見つめた。

「オレ…。あの時、不思議とこのステンドグラスが目に入ったんだ…。なんだか、お前とアイツがこれに重なって見えて…」

一人の歳いった祭司の姿と、その隣の愛犬がじゃれる様子が模られているステンドグラスに、マクーストもじっと目を奪われた。

オズは、マクーストの方へ振り返った。

「なぁ、この人、一体誰なんだ?実在する人物か?」

オズに聞かれ、マクーストは我に返った。

「えっ⁉…あ…、ここへ入学した時に教わったな…。確か…えっと……」

「ワンダーソン祭司だ」

突然、チャペルの入り口から声が聞こえて来た。

オズとマクーストは、そちらへ振り返った。

二人の視線の先には、黒陽の制服を着た二人の生徒が立っていた。

エンジーとライアンだ。

オズは、腕を組んでこちらを見るエンジーに目を向けると、その横のライアンに気付いてハッとした。

マクーストは、黒陽の生徒に、少し動揺した様子を見せた。

「ワンダーソン・メンデン祭司。ここへ来た時、教わらなかったか?」

エンジーは中央の通路を歩いて、オズの前まで来ると、チラッとマクーストに目をやった。

(コイツがライアンを襲ったって王か…。冴えない顔してるけど、獣のようになるって本当なのか…?)

エンジーに睨まれたマクーストはビクッとして、椅子に座ったままうつむいた。

いきなり威圧的な態度をとるエンジーに、オズは嫌悪感を抱いた。

「黒陽の王と一緒にいるってことは、お前も守護者か?昨日は見なかったけど」

オズは、負けじと腰に手を置いて、エンジーにジロッと目を向けた。

「黒陽の王」という言葉を聞き、マクーストは、とっさにエンジーの後ろにいるライアンに目を向けた。

ライアンはそれに気が付くと、マクーストに笑顔を向けた。

「………」

マクーストはライアンをじっと見つめた。

「黒陽のペイジ、エンジー・オルマンダだ。こっちは王座のライアン・サルーカラ」

エンジーは自己紹介をすると、後ろにいるライアンに身体を向けて、彼を紹介した。

ライアンはペコッとお辞儀をした。

「オルマンダ」と聞いて、オズはハッとした。

「オルマンダ…。お前が…?」

「そちらも、自己紹介願えるか?」

エンジーに言われ、オズは我に返り、マクーストも椅子から立ち上がった。

「オ、オレは…、オレは白月のペイジのオズ・クロスアルドだ。…こっちは王座のマクースト・ゼイル」

オズに紹介され、マクーストは慌てて頭を下げた。

「クロスアルド」と聞いて、エンジーはフッと笑った。

「やっぱりクロスアルド家の人間だったか。王と一緒にいるからそうだと思った」

エンジーにジロジロ見られ、オズは馬鹿にされた気がした。

「お前…っ!さっきから偉そーにしやがって!家が対立してるからって、オレには関係ねーことだ。第一オレはお前なんか相手にしねーからな!」

オズはエンジーを指さして怒鳴った。

「お生憎様。僕だって、キミみたいな無知なヤツをライバルだなんて思ってないさ」

エンジーはフンッとオズから顔を背けた。

あしらわれたオズは、かぁ~っと頭に血を登らせた。

「誰が無知だってぇ⁉お前こそ所詮、家柄だけで中身空っぽなんじゃねーの⁉どーせ、なにも出来ないお坊ちゃまのくせしやがって‼」

言われたエンジーは、カチンと来てオズに顔を向けた。

「な…っ、なにぃ…⁉クロスアルドは、こんな口の悪い男を迎え入れたのか…?」

「まだ言うか!てめぇ…っ!」

オズがエンジーに詰め寄ろうとしたと時、隣で二人の言い合いをオロオロと見ていたマクーストが、口を挟んだ。

「…あ…、あの…。オ、オズさんは女性です…」

「…えっ⁉」

エンジーとライアンは、驚いてオズに目をやった。

オズは両手を腰に当て、威勢よく二人を睨んでいる。…どう見ても、小柄で生意気な男子生徒なのだが、エンジーは、それ以上詮索することはしなかった。

「…あ…そう…。それは失礼した…」

(…いくら後釜とはいえ、クロスアルドがこんなヤツを…?)

エンジーは目を伏せて考えた。

「…あ、あの…」

マクーストは、恐る恐るライアンに話しかけた。

「き、傷…、大丈夫ですか?」

聞かれたライアンは、昨日噛まれた二の腕に目をやった。ジャケットは、昨日の破れたものとは別のものを着ている。

「大丈夫なわけないだろっ!突然襲いかかるなんて、何を考えてるんだ!こっちとコンタクトをとるなら、他にやり方があるだろう⁉」

すかさずライアンの前に立ったエンジーが、マクーストを責め立てた。

マクーストは驚いてたじろぐと、彼の前にオズが立ちはだかった。

「お前ら、やっぱり昨日のことを責め立てに来たんだなっ!コイツだって記憶を失くしてやったことなんだ!」

オズの言葉を聞き、ライアンは怯えるマクーストに目をやった。

「それはどうだろうな。記憶を失くしているフリをしているってこともある。臆病なフリして、見方まで(あざむ)こうとしているのかもな…」

エンジーが言うと、オズはキッと彼を睨んで掴みかかった。

「っ⁉」

「マクーストはそんな奴じゃねぇっ‼」

場は、一度シンッと静まり返った。

すると、ライアンが口を開いた。

「僕なら平気だよ。昨日、病院に行って診てもらったから。しばらく傷に触らず、安静にしていたら、すぐ良くなるって」

ライアンは、マクーストにニコッと笑顔を向けて言った。

「あ……。そ、それなら良かった…。昨日は急に襲いかかったみたいで…。ごめんなさい」

マクーストは安心して、記憶にない昨日のことを素直に謝った。

「…いや。…本当に覚えてない?」

ライアンは一歩前に出て、神妙な面持ちでマクーストに聞いた。

「…うん。…ごめんなさい…」

マクーストはライアンと目を合わすことが出来ず、うつむいたまま謝った。

「………」

ライアンは、申し訳なさそうに(たたず)むマクーストをじっと見つめた。

マクーストは、少し顔を上げ、チラッとライアンに目を向けた。

「あ…の…、僕を(なだ)めてくれたんだって…?」

「あ、…うん。…なんだか放っておけなくて…。何かに怯えているようだったから」

「………」

優しく言うライアンの顔を、マクーストは頬を赤く染めて見つめた。

「…………」

「…………」

王同士が和やかな雰囲気の中、いがみ合っていたオズとエンジーは、互いに目が合うと、罰が悪そうに目を反らせた。

「あーら、黒陽の生徒さんたちが一体何の用かしら?これから白月の王への勲章贈呈式なのだけど?」

耳を刺すような高い声が、チャペル内に響いた。

四人は、声のする入り口の方へ目を向けた。

そこにはティオラを先頭に、ビーゼルとネルが立っていた。

ティオラは、腰に右手を当て、左手で髪を(ひるがえ)し、堂々とした姿勢でエンジーに目をやった。

「………っ、…行くぞ、ライアン」

露骨に嫌そうな顔をしたエンジーは、ライアンを連れて、その場から去ろうと入り口の方へと歩いた。

「待ちなさいよ!私たちに挨拶もなしに出て行く気なの?」

三人の前を通り過ぎようとした時、ティオラがエンジーを呼び止めた。

「…あんた、オルマンダ家の人間でしょ?見たことある」

ネルが、エンジーの顔を見て言った。

「へー、コイツが…。ってことは、オズのライバルなんだな?」

ビーゼルが言うと、エンジーとオズは声をそろえて怒鳴った。

「そんなヤツ、ライバルじゃないっ‼」

息の合った二人の発言に、全員きょとんとした。

「なんだよ。息ぴったりじゃねーか!」

そう言うと、ビーゼルは「ガハハ」と声を上げて笑った。

「~~~~~っ⁉」

二人はかぁ~っと顔を赤くして、互いに目が合うと、フイっと反らせた。

「で、お前、名前なんていうんだ?そっちの金髪ぱっつんも」

「…き、きん……っ」

聞かれたライアンは、自分に変なあだ名がついていることに驚き、言葉を詰まらせた。

ネルはとっさに噴き出すと、慌てて後ろに隠れて笑いを(こら)えた。

レベルの低い白月の守護者たちに、エンジーは、「はぁ」っとため息をつき、仕方なしそうに自分とライアンの紹介をした。

「ペイジのエンジー・オルマンダだ。…こっちはライアン・サルーカラ。黒陽の王だ」

ティオラは、眉をぴくっと反応させた。

「エンジーとライアンだな!俺は…」

ビーゼルが自己紹介をしようとすると、ティオラが彼を押しのけ、前に出た。

「私はティオラ・メーメル!白月のエースよ!どうぞよろしく」

「………」

エンジーは、自信満々に自己紹介をするティオラの意図を悟り、彼女を睨んだ。

「こっちはプリンセスのネル・クレハモニア。…で、この図体のでかいのが、ナイトのビーゼル・トロウよ」

ティオラは代表して、ついでにみんなを紹介した。

ネルは「どーも」と会釈し、ビーゼルは「よろしくな」と手を軽く振った。

「……それじゃ…」

エンジーは軽く頭を下げると、その場から出て行こうとした。

「あんた、オルマンダ家の人間なのに、ペイジなのね。…オルマンダ家も落ちぶれたわねぇ。お兄さんが優秀すぎたのかしら?」

ティオラは、出て行こうとするエンジーに向かって、嫌味のように吐いた。

「っ⁉」

エンジーは、顔をこわばらせて立ち止まった。

手を引かれているライアンは、彼を心配そうに見つめた。

「ま、せいぜいエースの下で精を尽くして、家の人に認めてもらうことね」

ティオラは、「キャハハ」と声高らかに笑った。

エンジーはくるっと身体を返して、ティオラをキッと睨んだ。

「だ、駄目だよっ!エンジー」

ライアンは、慌てて止めた。

すると、エンジーはフッとほくそ笑んでティオラに言った。

「そっちだって同じじゃないか。名の通るクロスアルド家の末裔(まつえい)が、僕と同じペイジに落ちぶれているんだから」

言い返して来るエンジーに、ティオラはぐっとたじろいだが、負けじと言い返した。

「オズは、転校生なんだもの!仕方がないじゃないっ!」

「関係ないことだ!転校生でも、優秀で素質があるなら、エースに選ばれるはずだ!校長は、名が通っているだけで、なんの取り得もない彼女に妥当な評価をしたまでだ!」

「………っ」

オズは、強い眼差しを向けるエンジーの目を黙って見つめた。

なぜか、不思議と自分に向けられている言葉ではないと、その時直感した。

エンジーはくるっと背を向け、ライアンの手を引いた。

「……行こう。ライアン」

二人は、そのままチャペルを出て行った。

「なによ…!アイツ…」

ティオラは、何も言い返せなかったことを悔やみ、面白くなさそうに呟いた。

オズは、エンジーが去って行った扉の方を、じっと見つめた。


チャペルでは、白月の王への勲章贈呈式が行われていた。

カトデラの前には、副校長であるリヨンドが、そして、その向かいにはマクーストが立っている。

願いが書かれたピンク色の小さな紙を、リヨンドに手渡すと、彼女は、それを勲章の中に入れ、そっと蓋を閉じた。

「………」

リヨンドは、少し疑いの目でマクーストに目を向けた。

「……?」

マクーストは、リヨンドの表情の意図が分からず、「?」を浮かべた。

一度目を伏せ、気を取り直したリヨンドが口を開いた。

「己の願いを守り通すことを、ここに誓いなさい」

そう言うと、金色の(ふち)に銀色の月の紋章が彫られた勲章を、丁寧に両手で持ち、マクーストに差し出した。

「は、はい!」

マクーストは緊張した様子で返事をし、両手でそれを受け取った。

「………」

マクーストは、勲章に彫られた月の紋章をじっと見つめた。

マクーストの後ろでは、四人の守護者が、彼を見守っていた。

みんながマクーストの姿を見つめる中、オズは、リヨンドの上のステンドグラスに目をやっていた。

「……ワンダーソン祭司……」

オズが呟いた。オズは、先ほどのエンジーの去り際の言葉を、ふと思い出した。

「………」

ステンドグラスから視線を離すと、オズは遠くを見つめた。

「おめでとう!マクースト!」

王への勲章贈呈を無事に終え、ティオラはマクーストに歩み寄って声を掛けた。

「ど、どうも…」

マクーストは照れながら返した。

「貸して!私が付けてあげるわ!」

ティオラは、マクーストの手から勲章を取り、彼の胸ポケットにそれを付けた。

マクーストは胸に付いた勲章を見ると、慌ててティオラに礼を述べた。

「あ、ありがとう」

ティオラは得意げに笑顔を見せた。

「けどよー。大事なのはこれからなんだろ?これから一年、コイツの願いを守り通さなきゃなんねーんだから」

ビーゼルが二人の元に歩み寄って言った。

「そうよ!私たちで、あのいけ好かない黒陽の奴らから、マクーストを守らないと!」

ティオラは、ビーゼルの方へ振り返った。

「…だけど、その前に、私たちが襲われるってこともあるんじゃない…?」

ネルは、マクーストにジロッと目を向けて、ボソッと呟いた。

ティオラとビーゼルは、その言葉にハッとして、マクーストを見た。

マクーストは、うつむいてみんなから目を背けた。

「……僕、昨日、みんなに迷惑かけたみたいだね…」

「えっ⁉あ、あなた、気付いてるの⁉」

ティオラと、ビーゼル、ネルは、驚いてマクーストを見た。マクーストは、首を横に振った。

「ううん。昨日のこと、オズさんから教えてもらった…」

三人は驚いてオズの方へ顔を向けた。

「コイツ、何も覚えてないみたいだ。…言おうか迷ったけど、この際、話しておいた方がいいと思って」

「………」

オズは、うつむくマクーストに目を向けた。他の三人も、彼を哀れむようにそちらへ目を向けた。

「どうしてあんな風になるのか、心当たりはないの?」

ティオラがマクーストに歩み寄って聞いた。マクーストは、少し考えたが、首を横に振って返した。

「記憶が無くなるのは前から?」

今度は、ネルが腕を組んで聞いた。

「ううん。昨日が初めて」

マクーストは、依然としてうつむいたままだった。

「一体どういうことなんだろーなぁ」

ビーゼルが、そんなマクーストを見かね、彼の肩に手を置いて言った。

五人の会話を聞いていたリヨンドが、彼らの元に歩み寄った。

「そのことで、あなたたちにお話があります」

リヨンドは、細身の高身長のスラッとした体に、髪をアップにさせていた。

横長のレンズの眼鏡をキラッと光らせたその奥の、生徒を威圧するほどのきりっとした瞳がこちらを見ている。

五人は、リヨンドに圧倒されたように、背筋を伸ばした。

「昨日の出来事を、校長に話したところ、何か思い当たる(ふし)があるようで、今朝から資料庫に(こも)られていました。…校長は、一つの古い本を見つけました。それは昔の学長が書き残した、この学園の過去帳。ここで起こった数々の出来事を記載しているものでした」

リヨンドの話を、五人は黙って聞いている。

「校長は、あるページを開いて、私に読み聞かせました。…今から約百年ほど前にも、どうやら同じ事件が起こったようなのです」

「えっ⁉」

五人は驚いて声を発した。

「せ、生徒が狼のようになったんですか⁉」

すかさず、ティオラがリヨンドに聞いた。リヨンドは首を横に振った。

「いいえ。ある人物が乗り移ったのです」

「…ある…人物…?」

オズが口を開いた。

「それは、一体誰なんですか?」

ティオラが聞くと、リヨンドは身体をゆっくりと返して、上方のステンドグラスを見上げた。

「……ワンダーソン祭司です」

「っ⁉」

五人は驚いてステンドグラスに目を向けた。

「その生徒も、マクーストと同じように、乗り移られている間は、記憶がなかったと証言しています。…そして、あなたと同じ王座に選ばれた者だった…」

マクーストは驚いたまま、リヨンドに目を向けた。リヨンドは振り返ってマクーストを見た。

「…後に聞くと、その生徒は、王に選ばれた洗礼の儀の際、ワンダーソン祭司に直接話しかけられたと証言しています」

「ちょ、直接って…、ワンダーソン祭司は、ここの創立者で、百年前はとっくに亡くなられていたはずです!」

ティオラは、慌ててリヨンドに意を唱えた。

「……っ」

オズはその言葉に驚いて、リヨンドに目を向けた。

「…そうです…。ですが不思議なことに、彼らには祭司の言葉が聞こえた。そして、彼の言葉を直接話すことが出来た…」

リヨンドの言葉に、ネルが引っかかった。

「彼ら…?」

「一人じゃねーのか⁉」

ビーゼルは、慌ててリヨンドに聞いた。

「今と同じように、王はソードとワンド、それぞれで存在していました。その二人の王に、ワンダーソン祭司が乗り移ったそうです」

「………」

リヨンドの話を聞いて、全員が信じられない様子で言葉を失っていた。

オズは、再度ステンドグラスに目をやると、ハッとした。

「…ってことは、マクーストに乗り移っているのは…、祭司の隣の犬か…?」

オズの言葉に、全員ハッとした。

「…今朝、校長と話をして、その結論に至りました。…祭司の隣にいるのは、彼の愛犬「ジルファ」。村の者を悩ます山の狂犬だったのですが、何者でも受け入れる、心穏やかな祭司の手に触れて、邪心を消し去ったと言い伝えられています。……マクースト」

リヨンドは、眉間に皺を寄せて、少し言い辛そうにマクーストに顔を向けた。

「は、はいっ」

マクーストは慌てて返事をした。

「あなたは、このジルファに取りつかれる、何か心当たりのようなものはありませんか?」

「…え…?」

マクーストはうつむいて考えた。

「以前の取りつかれた生徒は、洗礼の際、祭司の言葉を聞いたと言ったそうです。洗礼の時に、何か気が付いたことは、なかったですか?」

リヨンドの発言に、マクーストは何かを思い出し、ハッと顔を上げた。

「そ、そういえば…っ!」

「な、なに⁉」

ティオラが驚いて、マクーストに言葉を促した。

「コインの入った聖杯を受け取る時、僕、なんとなく気になって、ステンドグラスのあの犬に目を向けました!…そしたら、あの犬の目が一瞬赤く光ったような…」

「ほ、本当かっ⁉」

オズがマクーストに駆け寄って聞いた。

「た、たぶん…。僕、王に選ばれたことで緊張していて、あんまりよく覚えてないんだけど…」

確信を得たリヨンドは、マクーストの元へツカツカと歩いた。

「わかりました。マクースト、私はこれから校長へそのことをお話してきます」

「………」

マクーストは不安そうにリヨンドの顔を見た。リヨンドは、少し微笑むと、マクーストの肩に手を添えた。

「マクースト。どうか安心して。過去にも同じようなことがあったけれど、問題は解決しています。校長も私もついています。…それに…」

リヨンドは、周りにいる四人に目を向けた。

「あなたには、頼もしい守護者がついています。だから、どうか、安心して」

リヨンドに言われ、マクーストはハッとして、みんなに目を向けた。

「今年のエースがこの私で良かったわね!」

「力になってやるよ!なんたって、棒術の腕はピカイチだからな!」

「…仕方ないなぁ…」

「任せておけ!マクースト!」

ティオラ、ビーゼル、ネル、オズの四人の守護者は、笑顔でマクーストに言った。

「……みんな…っ!」

マクーストは、リヨンドに再び目を向け、安心したように大きく頷いた。

「………」

だが、リヨンドは、上手く笑顔を返すことが出来ず、意味深な目でマクーストを見つめた。


リヨンドが出て行き、チャペルには、五人がまだ残っていた。

「にしても、とんだ貧乏くじを引いたものね」

ティオラは腕を組んで、少し疲れた様子で長椅子に座っているマクーストに言った。

マクーストはうつむいて黙っている。

「百年に一度起こることなの?運が悪いにも程があるって…」

ネルは、はぁっとため息をつくと、マクーストとは反対側の長椅子に座って足を組んだ。

「犬に取りつかれるとはねぇ…。信じられねぇ話だなぁ」

ビーゼルは、マクーストとステンドグラスのジルファを交互に見ながら言った。

「俺たちに対する、祭司からの試練なのか…?」

オズは、ステンドグラスの祭司をじっと見つめて言った。

みんなはオズの言葉に顔を上げた。

「わ、私たちが、一体何をしたっていうのよっ!」

ティオラは、オズに詰め寄った。

「い、いや…。ただ思っただけだって…」

オズは、たじたじになってティオラに返した。

だが、ティオラの怒りは収まらないようだった。ティオラは、腑に落ちない顔で、ステンドグラスを見上げた。

「私たちだけこんな目に遭うなんて…不公平よ…。あっちだって…、黒陽の奴らにだって同じ目に遭ってもらわないと……」

「………」

全員は、ステンドグラスに目を向けた。

オズは、太陽の光を通して、穏やかに映るワンダーソン祭司の目を、じっと見つめた。


時同じくして、黒陽の校舎では、エンジーと別れたライアンが、廊下を一人で歩いていた。

いつもの穏やかな表情を消し、何かを思いつめたような顔で、長く続く廊下をスタスタ歩いている。

廊下にいた黒陽の女子生徒達は、ライアンを見ると、怯えたような表情で、教室に逃げ込んだり、身体を抱き合ったりして彼を避けた。

周りの様子に気が付いているライアンだったが、慣れたように、ただ前を向いて廊下を歩き続けた。


次回へつづく

第二回目、読んでくださってありがとうございます!

多分、間違えてるところが多々あると思います…。毎度読み辛くて申し訳ありません。

次回「黒陽と白月 戦いの始まり」もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ