Let me hear “I love you”.
遠ざかるにつれ歩みはのろくなっていく。ウィロウは二人の声が聞こえない場所まで来るのでやっとだった。
ビリージョーはクィアンナが好きなのだ。もし告白でもされたのなら、受け入れてしまうだろう。彼はずっとそれを夢見てきた。クィアンナがビリージョーを振り向かない前提でしか、ウィロウとの婚約そして結婚など成り立たない。ただの友情で繋がった女の存在なんて長年育んだ愛の前には吹き飛んでしまうもの。
あの男女問わず虜にしてしまう瞳で、可愛らしい声で愛をささやかれれば抗う術はない。
ーー『私はきみに救われた。
今度はきみの優しさを私が守りたい。
どうか私の妻となってほしい。』
求婚だって、土台は堅い友情でしかなくて「好き」も「愛してる」もなかった。でも、花束も指輪もちゃんと用意してくれて、片膝までついてウィロウに尽くしてくれた。
「私には過ぎたプロポーズだったわ」
「そんなわけあるか。まだ足りない……言っていなかったことがある」
後ろから抱きしめられて、びくりとした。ビリージョーの温もりだった。
デート後。偶然顔を合わせた日。別れ際にはビリージョーは必ず抱擁と額か頬へのキスをくれる。これがないと、もう寂しくて夜も眠れない。
「愛してる、ウィロウ」
体温が一気に上がる。
「それ、私の目を見て言えますか……?」
一度体を離し、ダンスのようにくるりと体を回された。
青い瞳にはウィロウしか入っていない。
「きみだけを愛してる、ウィロウ。だから俺と結婚してくれないか。きみが友情を望んでいるのは知っている。きみからの愛を求めることができないのでも、俺が与えるぶんにはいいだろう?」
手を握られるままに、見つめ合う。ビリージョーの表情が弱々しいものに変わった。
「……だめか?」
「クィアンナさまは……?」
「俺の人生にもう必要ない。ウィロウ、女の名前はきみしか呼びたくないんだ」
「わた、し、……ビリージョーさまを好きって、言っていいんですか……?」
「ああ。いつか『愛してる』と言わせてみせる」
ウィロウの両頬がすっぽり大きな手に包まれる。落ちてくるキスを、迷うことなく唇で受け止めた。
「大好きです」
ビリージョーによってぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
「『好き』が返ってくるって、すごいな……」
「ビリージョーさま、私、背骨折れちゃいますっ」
「柳の木はたおやかなんじゃない、しなやかなんだから耐えられるだろう。俺の愛を受け止めてくれ」
この息苦しさは愛での窒息か。
それも、悪くない。
結婚式についての話し合いでも、ウィロウのためらいは消えた。照れながらも、にこにこでこれをしたい、あれはどうかと意見を述べてくれる。ビリージョーは締まりのない顔で彼女の要望をなんでも取り入れた。
ある一点を残して。
「結婚の披露宴では」
わざと区切って、ビリージョーはにっこりとする。
「ファースト・ダンスはこなしてもらう」
ひっ、とウィロウの喉が鳴った。苦手だとわかっているから、ダンスの特訓を盛り込まれるのだろうか。
「わ、かりました」
夫に恥をかかせるわけにはいかない。
「やってみよう」
ところが彼はダンスの構えを無視した。抱きしめるように、ウィロウの腰の後ろ側で両の指を組む。そしてゆっくり、右に一歩、左に一歩とそれだけを繰り返す。引っ張られてウィロウもステップらしきものを踏む。
「本番もこうして左右に揺れてるだけでいいから」
ウィロウにもできる動きだが、これでは踊りとは程遠い。
「ビリージョーさま、私を甘やかしすぎでは……?」
「要は俺たちが幸せそうにしている姿を見せつけるのが目的なのだからこれでいい。きみが笑っていてくれなければ俺も楽しくない」
ビリージョーの肩口に頭をつけて、上半身もぴったりと寄り添った。ただ二人で揺れながらその場でゆったり回転する。
「大好きです……」
「俺も愛してる」
つむじにちゅ、とキスされた。
The End of the Story.
(おしまい。)
Let me hear “I love you”.
(「愛してる」を聞かせて。)
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
当て馬令息書いてみたかっ……あれれー??
当て馬は公爵令嬢のほうかもしれない。
ツンが書けません。すぐデレるうちの子!!
情けないヒーローは得意です。そっち方面でやっていこうかしら。
全年齢向け書けたと思ったら酔っ払いジェロームを書いてしまってたのでR15に。うっかり。
クィアンナは一回り以上歳の離れた寡夫(子持ち)と結婚する気がします。すーごく、穏やか〜に友情寄りの恋愛でじわじわ幸せになって欲しいです。
ハーベイは、こういう奴が世の中図太く生きていくんだよなぁ……。うっすら当て馬おつかれ!
ざまぁとして途中まで書いたんですが、どうにも納得できなかったんでやめました。人によってはスッキリしないかもしれません。
クィアンナはデートはたくさんしてたけど、ひとりと向き合って終わってから次へ行ってたり貞操は守ってたし、公爵令嬢として馬鹿になりきれない教育は受けていたと思うので。
告白で好きも言わせてもらえないのは、なかなか辛いと思うのです。
ビリージョーも「聞かないもんプンッ」と子ども対応ですが(クィアンナ相手だったため)。
ふたりは恋をするには近すぎたんですよね。
ウィロウを幸せにできて作者は嬉しいです。
ちょっとダンスシーン弱いのはタイトル詐欺にならないように内容を合わせたからです……。
当初踊りの要素は一切ありませんでした。
これにて本編は終了です。
後日の小話を投稿しますが、ほんのり甘いくらいです。
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