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Their fresh start.

 男同士で集まるから、と結婚後初めて夫が夜に出かけた。


 兄にビリージョーを見ていてくれるよう頼んではいたが、はらはらとしながら帰りを待って深夜。


 あらかた友人たちを泥酔させてそうそうに帰宅したビリージョーはかわいい新婚の妻にまとわりつかれてにやにやが止まらない。


「どうでした? 飲んだんですか?」


 肯定すると、ウィロウは口を尖らせる。そこに唇をつけて尖りを取った。しっかり酒の味がする。


「お酒が苦手っておっしゃってたじゃないですか」


「付き合いもあるし飲むさ。特別美味いとは感じないし自分から飲もうとは思わないだけで」


 その程度の苦手な気持ち。


「具合悪くなってませんか?」


「父に潰されたことはあれど、友人の誰にも負けたことはない。ジェロームだけは馬車に乗せてきたから」


 あとは床に転がしておいた、とは感謝していいのかどうか。


「それ、強いっていうのでは……?」


 友人たちがよっぽど下戸でない限り、ビリージョーのアルコール許容量は大きいということになる。ジェロームだって平均より飲む。


「きみよりは強い自信はあるな。試してみるか」


 いまならビリージョーは酒を入れてきたばかりだしウィロウにとって有利な条件下ではある。


「し、しません。心配したんですよ」


「わかってる。ありがとう。愛してる」


 ぐいぐいと新妻を押して、ついにはベッドに転がった。


「酔ってるんですか? 酔ってますね?!」


「どうかな。早く帰ってきみに会いたくて切り上げてきたから。新婚生活はどうだと聞かれたからたくさん話をしてきた。きみがどれだけかわいくて優しくて自慢の妻かということを」


 顔から火が出そう。


「なぁ。こんな素晴らしい女性がどうして俺と結婚してくれたんだろうな?」


 切なげにも見える青い瞳が、ウィロウの鼓動を早める。


「あ、愛してる、から、です……」


 定期的に繰り返される同じ質問と答え。ビリージョーは歓喜に目を細める。


 キスの雨に降られた。





****




 

  結婚してすぐ届いたクィアンナからの手紙にドキリとした。


 開くと「お二人の幸せを心から願う」という内容を丁寧に綴ってある。だからウィロウは彼女をお茶に誘いたくなった。


「ウィロウさま。お呼びくださりありがとうございます」


「こちらこそ、来ていただけて嬉しいです」


「結婚したてで落ち着かないのではなくて?」


「私がクィアンナさまにお会いしたかったんです。お気持ちのこもったお言葉をありがとうございました」


「あなたのウェディングドレス姿が見れてわたくしも幸せになったの」


 じんとする胸を押さえて、クィアンナは笑みで隠し通す。


「ビリージョーさまとお話していかれますか?」


「いいえ。わたくしに会う気があるのなら、はじめからこの席にいらしているのではないかしら」


 ウィロウは恐縮して目を伏せた。


「たくさん考えたの。考えなければわからなかったなんてほんとダメね。これまでどれだけホーガンさまへ無礼を働いて迷惑をかけてきたのか。申し訳なくて謝りたいけれど、彼は謝罪を受けてはくださらないわね」

 

「……優しさに気づけてよかったですね」


「ほんとうに。これをきっかけにわたくしの病気(エモフィリア)もよくなるといいのだけれど」


「クィアンナさまは、人の長所に目がいきがちなのでしょう。だから好きになるまでが早いのでは」


「そうかしら……。ありがとう」


 ビリージョーの快挙はこれほど寛容で親切気な女性を選んだことだ。人を見る目がある。クィアンナにはなかった。


「これからは陰ながら、お二人を見守らせてもらえたら、と思うわ」


「嬉しいです。よろしくお願いします」


 クィアンナは、穏やかな顔で一人で帰って行った。




 本物の恋を自覚してからの失恋を経験して、クィアンナは学ぶことがあり大人になったのだと思う。ウィロウの心を乱すようなことは一切言わずにいた。ビリージョーを好きなことも、思いを伝えそうになったことも。ただ、彼に悪いことをしたから反省しているとだけ語った。


 ビリージョーのような素敵な人がそばにいたのでは感覚が麻痺するだろう。男に求める最低基準が跳ね上がるのは理解できる。価値に気づくには近すぎた。



 執務室にやってきた妻に、ビリージョーは口付けを落とす。


「会うことを許してくださって、ありがとうございます」


 クィアンナを家に呼んでいいか訊いたとき、ビリージョーは同席できないが来てもらうといいと言ってくれた。


「公爵家と繋がりができるのは、きみにとって悪くはないだろう。何か言われたか?」


「私たちをたくさん祝福してくれました」


「……そうか」


 たった三文字だけで、それきりクィアンナについては質問もなかった。




****




 社交界を騒がせた恋多き蝶(エモフィリア)も鳴りをひそめ、数年経った。

ウィロウはひとつの結婚式の招待状を手に、屋敷にいるはずの夫を探している。


 新婦はクィアンナ・ドーガティ。


「あなた」


 男の子を肩車している夫を見つけた。片言から抜け出ておしゃべりの止まらなくなった息子は、夫を日々圧倒している。


「こちらをご覧になって」


 ウィロウが指差す先に幼馴染の名前を見つけて、ビリージョーは微笑む。


「お祝いの品を探しに行こう。何がいいだろうか?」



Their fresh start.

(新しい門出。)


Apr 21st, 2023

全話通して誤字脱字報告感謝します。


最後の最後までお読みくださった方、ありがとうございます!!


これからもあなたがわくわくできる作品に出会えますように。


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