北山くんも偽れない
放課後──部活動を終えた俺は真っ直ぐ自転車置き場に向かうことなく、南雲さんと一緒に一年二組の教室へ向かっていた。
時刻は午後六時を少しすぎた頃。
だというのに、空はまだ昼間のような明るさだ。
夕焼け効果を失った階段くんには、高貴な印象などどこにも見当たらない。
どこにでもある平凡な階段に成り下がってしまっている。
南雲さんはあの時と同じように、両の手を大きく広げて平凡な階段を登っていく。
今日は楽しそうにアニメの主題歌を口ずさみながら。
本日もうちの部長は楽しそうでなによりです。
午後六時をすぎてもまだまだ元気一杯の部長の背中を見つめて笑みをこぼしながら、俺も階段を鼻歌まじりに上がっていく。
二階にたどり着いた途端、ピタッと歌うことをやめて、我が二組へと駆けていく南雲さん。
本日は端まで行って人がいるかどうかの確認は行わないようだ。
まぁ人の気配を感じないし、もうみんな知ってしまったからな、放課後南雲のことを。確認する意味ないか。
「いやぁ〜やっぱちょっとあっついね〜! 夏だ、夏ぅ〜!」
わー! 声を上げながら窓際一番後ろの自席へと駆けていく南雲さん。
カバンを床に雑に置いて、近くの窓をフルオープン。勢いよく開け放たれた窓の外から、南雲さんの勢いに負けずと強い風が教室内に吹き込んでくる。
「ぎゃぁぁぁ⁉︎ 髪がぁぁぁ⁉︎」
特に抵抗することなく、されるがままに乱れていく髪。
改めて見ると、南雲さんほんと髪長いよな。手入れすごく大変そうだ。
南雲さんは頭をブンブン大きく振って乱れた髪を整えると、お行儀悪く机に腰下ろした。
「さぁさぁ、北山くんもこちらへどうぞ」
机端ギリギリまで座る位置を微調整し終えた南雲さんは、トントン軽く机を手で叩く。
「いやいや、さすがに一つの机に二人は狭すぎますって」
「いけるいける! さぁ、こい!」
机を叩く速度が速くなる。音も次第に大きくなっていく。
このままでは爆音にまで成長してご近所迷惑になってしまう。
観念して南雲さんの指示に従い、俺も南雲さんの机に腰下ろす。
座る前からわかっていたが、やはり狭い。
南雲さんとピッタリくっついている状態であっても、少し横へズレたら床へ真っ逆様。俺の残機が減ることは間違いない。
「北山くんも成長したねぇ〜。前はこんなに接近したら『ピエェ⁉︎ な、南雲しゃん……!』とか言って顔真っ赤にしてたのに」
「言っておきますが、今も恥ずかしいですからね? まぁ、出会った当初に比べたら慣れましたけど。どこかの誰かさんがやたらとボディタッチが多いので」
「ちょっと、私のことおさわり星人みたいに言うのやめて」
「実際そうじゃないですか、おさわり星人」
「そしてこの言い返し。『そ、そんなこと言ってませんよ南雲殿!』って言ってきてた頃が懐かしいわ〜」
「南雲さんの回想に出てくる俺、キャラブレすぎてません?」
「そう? 北山くんって常にこんな感じよ?」
「自信持って言います。それはないです」
肘で軽く南雲さんの脇腹を突くと、南雲さんはケラケラと笑って見せた。
「で、なんで教室に来たんですか? そろそろ教えてくださいよ」
「なんでって、今日終業式でしょ? だから」
「……つまり、特に理由はないと?」
「失礼ね! ちゃんとありますぅ〜!」
今度は南雲さんが肘で俺に攻撃。二度、三度、四度、連続攻撃。
場外に落とされそうになったが、グッと腹に力を込めて攻撃を耐え抜いた俺は「では、理由を教えてください」と発しながら左手をマイクに見立てて、南雲さんの口元にあてる。
「私たち、南雲美月と北山晴臣は、ゴールデンウィーク前に教室で運命的な出会いを果たしたわけじゃないですか?」
「運命的って言われるとなんか恥ずかしいですが、まぁそうですね」
「それでそこから友達になって、部活創って、仲間も増えて、強大な敵と出会い、バラバラになりかけたけど、力を合わせて見事大魔王を倒したわけじゃない?」
「なんか途中からおかしな方向行っちゃってますけど、まぁニュアンスは間違ってないと思うんでそのまま進めてください」
「そうしたら次にやることって言ったら、原点に戻って『俺たちの旅は、ここから始まったんだよな』をやるのがお決まりでしょ?」
「どこの世界のお決まりですか、それ? 振り返りは大事ですけど」
「ってことで、ちょっくら振り返っていきましょうよ」
小さく笑みを溢しながら、南雲さんは俺の肩にもたれかかってきた。
あの頃の俺がこの攻撃を受けてしまったら、今頃泡吹いて倒れてるだろうな。『な、なぐ、南雲、しゃん……⁉︎』とか情けない声出しながら。
「なんというか、あっという間でしたね」
「ね。これだと、夏休みも高校生活もあっという間に終わっちゃうんだろうなぁ」
「そう言われると、なんかすごく寂しい気持ちになっちゃうんですけど」
「ごめんごめん」
笑いながら謝罪をした南雲さん、太ももの上に重ねていた右手をだらりと身体の横に垂れ下げる。
互いの手の甲が軽くぶつかって、改めて距離の近さを実感した。
いつもであれば、どちらかがスッと手を動かして、ぶつかったことも気にすることなく会話を進めるんだろう。
でも、なんでだろう?
今日は、動かしたくなかった。
放課後、夏の教室。
触れ合う手の甲。
動かない手と手。
お互いに暑いのはわかってる。
窓の外から吹き込む風だけじゃ、身体の熱を下げるには不十分だとわかってる。
身体を離して、教室から出て、クーラーの効いた家に帰らないと。
わかっているのに、動かない。
わかっていても、動けない。
「……ありがとね、北山くん」
「え? な、なんですか、急に?」
「私さ、あの時あなたと出会えてなかったら、今もきっと一人だったと思う。一人でずっと自分を偽り続けて、つまんない学校生活送ってたと思う。あなたがゴールデンウィークの課題を忘れてくれたおかげで、私今、すごく楽しい学校生活が送れてるよ」
「南雲さん、一気にダサくなってしまうので、できれば課題忘れたって部分は言わないでもらえますか?」
「それは無理。だって本当のことですから」
「そうですけど……。まぁでも、あれがなかったら俺たちはこんな関係になってなかっただろうし……課題忘れてくれてありがとう、俺」
「課題忘れてくれて本当にありがとう、あの時の北山くん」
「いやでも、俺が課題忘れただけだったら、こんな関係になってませんよ。南雲さんの『女の勘』という謎のスキルが発動してなかったら、もしかしたら気まずくて目も合わせられないような関係性になってたかもしれません」
「た、確かに……! ありがとう、女の勘……!」
「本当にありがとうございます、女の勘様」
課題を忘れた北山晴臣、女の勘を発動させた南雲美月……感謝の対象がちょっぴりとダサい。
漫画やラノベだったら、もっとカッコいい、運命を感じてしまう出会いをするだろうに。
やっぱり人生というものは、そう上手いこといかないようだ。
「あっ、そうだ。南雲さん、俺ずっと聞きたかったことがあるんですけど、いいですか?」
「うん。なに?」
「あの、南雲美月パンツ事件の件なんですけど」
「あ、はい……。あの、できればあの件は触れないでいただけると嬉しいんだけど……」
「すみません。でも、どうしても聞いておきたくて」
「わかりましたわかりました。で、なんですか?」
「あの時、西宮さんから『巻き込みたくないからしばらく距離置いてほしい』ってLINEが来たって話を聞きまして」
「あー……そ、そういえばそんなこと……」
「それ、東海林さんにも同じようなLINE送りました?」
「……はい。送りました」
「俺、送られてないんですけど」
「……」
「どうして西宮さんと東海林さんには送ったのに、俺には送ってくれなかったんですか?」
「……言わないと、ダメ?」
「どうしても言いたくないんだったら、無理には聞き出しませんけど」
「……誰にも言わないって、約束できる?」
「もちろん」
「かなたんやももねんにも言っちゃダメだからね?」
「わかってますよ」
軽く笑って了承すると、南雲さんは恥ずかしそうに俺から目を逸らした。
なかなかレアなシーンだぞ、これは。
南雲さんは一度大きく息を吐き出し、ちらっと俺を見て、また視線を外し。
そこから十秒ほど言葉を吐き出すことなくジッとしていたが、ようやく話す決心がついたのか、こほんと小さく咳払いをして、小さく口を開けた。
「も、もちろん、北山くんにも送るつもりだったよ。実際に文字打ち込んで、あとは送信するだけだったし。でもさ、もしこれを送ってしまったら、私は明日から一人になっちゃうんだって思ったら……急に怖くなって……」
「……結局、距離置いてって言われましたけどね」
「そ、それは……! し、仕方ないじゃん! だって日に日に揶揄ってくる人多くなってたし、ただでさえ北山くんは私と話してて、その……て、敵視と言いますか、されてたし!」
「男子からの視線は今も結構痛いですけどね。今この場面を誰かに見られでもしたら、俺は喉元噛みちぎられるかもしれません」
「はぁ……南雲美月ちゃん、自分の可愛さが怖いです……!」
「そういうのいいですから、続けてください」
「ぐっ……! で、その、だから……これ以上一緒にいたら、北山くんにも被害が出るのは、目に見えてわかってたから……」
「心配かけまいと無理して笑って、一人は慣れてると強がった、と」
「もぉぉぉやめてぇぇぇ! あの時のことは掘り返さないでぇぇぇ!」
顔を真っ赤にして頭を掻きむしる南雲さん。
先ほどから、クールとは程遠い行為を繰り返し行なっている。
教室にいるとは思えない暴れっぷりだ。
でも、それがいい。
これがいいんだ。
もちろん、クールな南雲さんも好きだ。
凛とした美しさで、カッコよくて、頼りになるオーラ全開というか、近くにいてくれるだけでものすごい安心感を与えてくれる。
でもそれは、仮面を被っていない今の南雲さんにもある。
そして、今の南雲さんには、仮面を被っていた時以上の魅力が、たくさんある。
だから、改めてはっきりと伝えよう。
俺の思いを。
「南雲さん」
「なによ⁉︎ 言っとくけど、もうこの話は終わりだから! もうこれ以上はやめてください!」
「……俺、あの時めちゃくちゃ傷つきました」
「……え?」
「俺、あの時、南雲さんには『助けて』って言ってほしかったんです。もちろん、俺が頼りないってのは俺自身が一番わかってます。入学当初に比べたら成長したとはいえ、まだまだちっぽけなやつだって自覚はあります。それでも、南雲さんは俺と友達になってくれた時『何かあったら頼るから』って言ってくれたんです。部活を始める時も『支えてほしい』って」
「……」
「そう言ってくれたのに、南雲さんは自分の気持ち押し殺して、俺に無理して笑って、強がって言葉吐き出して……。俺、また無理させちゃったって……俺なんかじゃ、まだ頼ろうって思えないんだ、支えてもらおうって思えないんだ……南雲さんが俺に言ってくれた成長してるって言葉も、ただ俺を気分良くさせるための言葉だったんじゃないかって」
「そ、そんなわけ──」
「わかってます。南雲さんはそんなこと思ってないってことくらい。あの行為が、俺を傷つけないための、守るための行為だったってことも。でも、南雲さんのあの行為は、俺に不安を与えた。苦しみを、悲しみを、たくさんの負の感情を与えてきた。何でもかんでも一人で背負い込むことで、みんなを守れると思わないでくれ。それで傷つく人もいるってこと、ちゃんと知ってくれ」
「……うん」
元気を失い、小さく言葉を吐き出して顔を俯かせる南雲さん。
落ち込む彼女を目にした気弱ヒーローは、再度思いをハッキリぶつける決意を固めて、彼女の両肩に手を置き、上半身を俺に向けさせ、真っ直ぐ、真っ直ぐ、彼女の目を見つめた。
「え、き、きた、北山、くん……⁉︎」
「南雲さん。俺、自信持って言うよ。俺は、君と友達になった時よりも成長してる。強くなってる。もう、ちょっとやそっとのことじゃ挫けない。立ち止まらない。だから、思ったことはハッキリと俺にぶつけてくれ。頼りないならハッキリと頼りないって言ってくれ。俺、南雲さんに支えられっぱなしは嫌だ。頼りっぱなしは嫌なんだ。俺も、君を支えたい。頼りにされたい。そのためにも、俺はこれからも立ち止まることなく歩き続けるよ」
「もう君に、自分自身を偽らせないために」
ヒーローの決意を受け止めた少女は、恥ずかしそうに目を逸らして、言葉を吐き出すことなく、こくんと小さく頷いた。
開け放たれた窓から強い風が吹き込んで、艶めく黒の髪が大きく靡く。
放課後、二人きりの教室内。
お行儀悪く机に座って、話して、時々強く風が吹き込んで。
あの頃と変わらない。
あの頃と一緒の景色。
でも違う。
ハッキリと言える。
あの頃とは違うって。
「南雲さん、目を閉じてもらってもいいですか?」
「へ……? な、なんで……?」
「いいから。目を閉じてください」
「え、えぇ……⁉︎ そ、そんな、急に言われても……!」
「俺、いつもいつも南雲さんの急なお願い聞いてきてるんですけど。俺の急なお願いは聞いてくれないんですね」
「そ、それを言われると……! あぁもぉぉ! わ、わかった! わかったって!」
目の前の少女は、ギュッと力強く目を閉じる。
あの頃の俺は、こんな強気なこと言えなかった。
でも、今の俺は言えてしまう。
あの頃の俺は、今からやろうとしてることはできなかった。
でも、今の俺はできてしまう。
彼女に、俺の成長を伝えるために。
知ってほしいから、もっともっと俺のことを。
南雲さん、あなたのおかげで、俺はこんなにも成長したんだよ。
南雲さんの肩に置いた右手を上げて──南雲さんの頬を、軽く叩いた。
「……へ?」
「約束破ったら平手打ち、でしょ?」
「……」
「頼るって言ってくれたのに、頼ってくれなかった罰です。反省してください」
「……」
南雲さんは大きく目を開いて、パチパチ二回瞬きを繰り返した。
もしかして、指切りしたの覚えてないのかな?
南雲さんから言ってきたのに、忘れたは酷すぎるぞ。ここはビシッと言ってやらね──
「ふっ……ふふふっ……! あははははは!」
「え? な、南雲さん? なんで笑って……?」
「いや、だって……だってぇ……!」
「な、なんですか? 俺、そんな笑われるようなことしてないですよ!」
「いやいや、だって北山くん……! さっきの……さっきのさぁ……! さっきのは、どう考えても、チュッってしてくる流れだったじゃん……!」
「……はい?」
腹を抱えて笑い声を上げて、涙まで流す目の前の少女。
今この子はなんと言った? 俺の聞き間違いか? そうだ、きっとそうに違いない。
「え? あ、え? な、南雲さん、今なんと……?」
「だからぁ、今のは確実にチュッてしてくる流れだったでしょって……! アニメだったら絶対そうだし、私だって覚悟決めて、う、受け入れようと……! ふ、ふふふっ……!」
「は、はいぃぃぃ⁉︎ あ、あなたはなにを言ってるんですか⁉︎ お、お、おおお俺が、南雲さんに、チュゥなんてするわけがないでしょうが!」
「うんうん、そうだね。北山くんが私にチュッてしてくる度胸があるわけないよね。あーあ、私知ってたのに、どうしてそんなこと考えちゃったんだろ? これが、夏の力……⁉︎」
「なんかその言い方は腹が立つと言いますか! 素直に受け止めたくないんですけど!」
「じゃあ、します?」
「できるかぁ! ないですよ、そんな度胸!」
「あっ、そっかそっか! そういうことか! 北山くんが頑なに火山くんたちにほっぺにチュゥを許可しなかったのはそういうことですか! 『南雲美月のファーストキスは俺のもんに決まってんだろ! テメェらは母ちゃんの乳でもしゃぶって羨ましそうに眺めてやがれ!』と、そういうことですね? 北山くんったら〜! このこの〜!」
「変な勘違いしないでもらえます⁉︎ 違いますから!」
「高校生にしてはお堅いこと言ってるなと思っていたら、まさかそういうことだったとは。ごめんね、気づいてあげられなくて」
「違いますし仮にそのような考えがあったとしたら気づいてもらわない方がありがたいです!」
「ねぇねぇ、お堅い北山くん。ちなみに、間接キスもお付き合いしてからですか?」
「お堅いって呼び方やめてくださいよ! 間接キスは、その……なんか違くないですか⁉︎」
「じゃあ、ありってこと?」
「ありと言うか、それはだってその、な、なんと言いますか……!」
「んじゃ、ありってことで」
ふふっ……! 小悪魔の笑みを浮かべた少女は、一度俺から顔を背けると、自身の右人差し指を唇に軽く押し付ける。
一体何をしてるんだ……?
行動の意図がわからずただ見守り続ける俺。
人差し指を唇から離した南雲さんは、顔を俺に向け、もう一度小悪魔の笑みを浮かべ……
俺の唇に、右人差し指を、軽く押し付けた。
「私、やられっぱなしは嫌いなの。覚えておいてね、北山くん」
見慣れた笑顔を浮かべて、俺に警告。
その警告を受けて、脳内の小さな俺たちは大パニックだ。
「な、なぐ、な、ななななぐ、南雲、さんっ……! あ、あんた、あんた何やって……⁉︎」
みるみる顔を真っ赤にして、顔だけじゃなく身体中赤くして、熱を上げて、手で唇を隠して、南雲さんから目を離したくて、でも離せなくて、もうどうしていいのかわかんなくなって。
「……うん。流石に私も、恥ずかしい」
そう言って俺から顔を背ける小悪魔やろう。
「自分からやっておいてなんですかそれは⁉︎」
「あー、あっついな〜。これだから夏は嫌になる。あっつぅ〜」
「夏のせいじゃないわ! ま、マジで、マジでその、絶対にやっちゃダメですからね! こんなこと、絶対に他の男子にやっちゃダメですよ! 絶対に勘違いしますから! 男って単純な生き物なんですからっ! ご褒美とかでもダメですからねっ!」
「言われなくてもわかってるよ、それくらい。私だって、ちゃんとする相手くらい選びますぅ。それに、他の男の子にこんなことしちゃったら、北山くんが嫉妬しちゃうもんね〜?」
「そ、そんなこと……! ……そ、それは、その……」
「……北山くん、ここは勢いよく『な、何言ってんだよ⁉︎ ばっかじゃねぇの⁉︎』って言ってくるところだよ? ねぇ? 北山くん?」
「いや、だってその……たぶん、すると、思うし……」
「……」
「……」
びゅうっ!
強い風がまた教室内に吹き込んでくる。
先ほどまでの勢いが風に吹き飛ばされてしまったようで、口を開かず見つめ合う二人。
もちろんお互い、顔は真っ赤っかである。
ダメだ、もう耐えられない……!
恥ずかしさに支配された俺が、南雲さんから顔を背けようとした瞬間──俺の太ももが、力任せに引っ叩かれた。
「いったぁぁ⁉︎ ちょっ、何するんですか⁉︎」
「ば、バカじゃないの⁉︎ バカ! バーカ! そういうの、思っても言わないのが普通でしょ!」
「だ、だって俺、本当にしそうなんですもん!」
「仮に言うとしても、もっと堂々と自信持ってさ! 『嫉妬するよ、俺は』くらいサラッと言ってドキッとさせるところでしょうが! あんな中途半端に言うなぁ! こっちの恥ずかしさが倍増するでしょうが!」
「す、すみません! すみませんんん!」
「なんだお前⁉︎ 私のこと好きすぎか⁉︎ 好きすぎだろ! なによ、しそうなんですもんって! 恋する乙女か、あんたはぁ!」
「ちょっ、違います違います! あの、好きです! 好きですよ⁉︎ でも、そのあの、れ、れれれ恋愛というよりはその、と、友達として! なんかこう、烏滸がましいかもしれないですけど、南雲さんとは相棒みたいな関係性と言うかなんと言いますか! ですから、あの、も、もちろん南雲さんが大切なパートナーを見つけて、その方にするのであれば俺は全然気にしないというか、お幸せになってくださいと言いますか! と、とにかくその──」
「そんなの私だって一緒よ! 私だって北山くんのこと相棒みたいに思ってるというか、なんというか! そもそもまだ私たち出会ってそんな経ってないしそういう関係性になるにはもうちょっと時間をかけてお互いを知らないといけないと思うし! わ、私だってその、き、ききき北山くんが恋人でもない人にあんなことしたら嫉妬するから! 嫉妬する! だから絶対にしないで! わかった⁉︎」
「し、しないですよ! する度胸ないし! できるわけないじゃないですか!」
「じゃあ約束して! 絶対にしないって! 今ここで!」
「じゃ、じゃあ南雲さんも約束してください! 絶対にしないって! 誓ってください!」
「やっちゃダメだからね! やったら怒るからね!」
「お、おおお俺だって! 怒りますよ! 怒りますからね!」
お互い顔真っ赤にして、小指を出して、絡め合う。
おかしいな? 俺の計画では、
『改めて……南雲さん、俺の前では偽らないって約束してください』
『北山くんも、私のこと支えるんだから、隣からいなくならないでよ』
みたいなラブコメの締めでありそうなやりとりをして、一学期を締めくくるはずだったのに。
やっぱり俺は、まだまだ南雲さんのようにうまく立ち回ることができないようだ。
まだまだ足りないところがいっぱいで、情けなくて、中途半端に思いを伝えて、相手を困らせて……。
目を背けたくなる欠点が、いっぱい山ほど盛りだくさんだけど、俺はあの頃のように立ち止まらず、眺め続けるだけじゃなく、ちゃんと前向いて、小さくても、一歩、一歩、しっかり地に足つけて歩き続けるよ。
大好きな相棒の隣で、自分を偽ることなく、笑い続けたいから。
「「指切りげんまん、嘘吐いたら──」」
一体何をされてしまうのか? それは……
俺と南雲さん、二人だけの秘密だ。




