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英雄誕生編9 軍部最高幹部会議

 講和条約の締結に先立ち、軍部最高幹部会議が開かれた。


 出席者は、中将以上。

 そして今回の戦功により特例として列席を命じられた、レオンハルト・ド・ヴァイス少将。


 豪奢な会議室には、王国軍を動かす最高首脳たちが顔を揃えている。


 大将。

 中将。

 王弟殿下。

 参謀本部総長。

 軍部省次官。


 王国の命運を左右する男たちばかりだった。


 少将になったばかりのレオンは、終始居心地の悪さを感じていた。

(場違いだな)

 それが率直な感想だった。


 議事は淡々と進む。


 国境線の確定。

 賠償問題。

 捕虜交換。

 講和後の国境警備。


 どれも国家の未来を左右する重要案件ばかりである。


 必要な説明だけを求められ、レオンはそれに答える。

 終われば再び沈黙。


 早く終わってくれ。

 それだけを願っていた。


 やがて。

 王弟殿下が資料を閉じた。


「次の議題だ」


 その声で、会議室の空気がわずかに変わる。

 嫌な予感がした。


「ヴァイス少将の婚礼について」


 ……来た。

 レオンは心の中だけでため息をつく。


 王弟殿下が書類をめくる。

「グランヴァール王国より正式な申し入れが――」

「お断りします」

 言い終わる前に答えていた。


 一瞬。

 会議室から音が消えた。


 王弟殿下がゆっくり顔を上げる。

「理由は」

「すでに進めているご縁談があります」


 はっきりと言い切った。

 曖昧な返事をする気はなかった。


 また沈黙。


 レオンは覚悟を決める。

 ここからだ。


 外交。

 国益。

 講和の象徴。

 そんな話が延々と続くはずだった。


 しかし――。

 誰も口を開かなかった。


(……?)


 参謀本部総長は、資料をめくるふりをしている。

 軍部省次官は、冷めきった紅茶を飲んだ。

 ロシュフォール中将は、急に天井の装飾が気になり始めたらしい。

 クレルモン大将だけは腕を組み、

「うむ」

 と満足そうに一つ頷いている。


(何だ、この空気……)


 すると。

 王弟殿下が小さく笑った。


「……どうやら」


 一度、周囲を見回す。


「本会議に先立って、軍人夫人たちのお茶会があったらしい」


 誰も返事をしない。

 参謀本部総長が咳払いを一つ。

 軍部省次官は視線を逸らす。

 ロシュフォール中将は額の汗を拭いた。

 クレルモン大将だけが堂々と腕を組んだままだ。


 王弟殿下は肩をすくめる。

「夫人方のお茶会は、実に実り多かったようだ」


 今度は完全な沈黙だった。

 その沈黙だけで、レオンにはすべて理解できた。


(……ああ)

(全員、奥方に何か言われたんだな)


 軍部最高幹部会議。

 王国最強の軍人たちが集う場所。


 ――しかし、その誰一人として、自宅では最強ではなかった。


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