元妻対決編9 前線からの手紙
王都からヴァレブランの我が家に帰ると。
お母様が出迎えてくれた。
晴れやかな私の顔を見て。
安心したように笑った。
そして言う。
「留守のうちに、手紙来てたわよ」
私は飛び付いた。
差出人。
レオン・ド・ヴァイス中佐。
心臓が跳ねる。
そういえば。
マリアンヌさんが言っていた。
『最初は手紙すら書かなかったのよ』
『怒ったら書くようになったけど』
『あの男、自分のこと後回しにしすぎなの』
思い出して、思わずフフッと笑ってしまう。
元奥様の厳しい教育の賜物が、今こうして私の手元に届いているのだ。
そして封を開く。
ドキドキしながら。
◇◇◇
『■■を初めて食べました』
私は固まった。
「何でこれが軍事機密になるの!?」
思わず叫ぶ。
お父様が覗き込んだ。
「それが特産品だったら居場所が分かる」
「なるほど」
なるほどじゃない。
軍機は思っていたより強敵だった。
続きを読む。
『■■■■が出ました』
うん。
『私は■■しました』
うん?
『■■■■になりました』
……。
私は手紙を見つめた。
何も分からない。
本当に何も分からない。
すると。
ルシアンが横から覗き込んだ。
「わかった!」
えっ!?
「ドラゴンが出ました」
出ない。
「私はたおしました」
たおせない。
「ヒーローになりました」
「いつからこの世界はファンタジー世界になったの!?」
ルシアンは満足そうだった。
続いてクロエが覗く。
「わたしもわかった!」
嫌な予感。
「夢にキミが出ました」
違う。絶対違う。
「私はキスしました」
ぶふっ!!
「しあわせになりました」
「恥ずかしいからやめてーーー!!」
私は悲鳴を上げた。
クロエはきゃっきゃと笑う。
そのあとも。
「ゴキブリが出ました!」
「妖精が出ました!」
二人は解読ごっこで大盛り上がりだった。
すると。
今まで静かに聞いていたお母様まで加わった。
「分かったわ」
お母様は妙に真剣な顔だった。
「新型自転車が出ました」
何ですかそれ。
「私は購入しました」
中佐さんが前線で?
「一陣の風になりました」
お父様が新聞から顔を上げた。
「欲しいのか?」
お母様はハッとした顔になった。
しまった。
そんな顔だった。
「お母様?」
「いえ」
目を逸らす。
怪しい。
とても怪しい。
「いや、その……」
しどろもどろになる。
「王都では流行っているらしいのよ」
ああ。
欲しいんだ。
「貴族の奥様方の間でも話題らしいわ」
「乗るんですか?」
「さあ……」
お母様は咳払いした。
「ただ便利そうだなと」
ルシアンは目を輝かせていた。
「買おう!」
「買おう!」
クロエも便乗する。
「ダメです」
お母様は即答した。
「えー!」
「我が家にそんな贅沢品を買う余裕はありません」
しかし。
お父様がぼそりと言った。
「一陣の風になりたいのか?」
お母様は、耳まで真っ赤にして怒った。
「あ、あなた、からかわないで頂戴……!」
私は耐えきれずに、ブハッと吹き出してしまった。
その後しばらく。
我が家の話題は自転車一色だった。
ルシアンはどれくらい速いのか熱弁し。
クロエは籠を付けたいと言い出し。
お父様は値段の話をし。
お母様は必死に興味がないふりをしていた。
私は笑いながら。
もう一度手紙を開く。
黒塗りだらけ。
相変わらず何も分からない。
でも。
最後の一文だけは読めた。
『あなたとご家族の平穏を願っています』
私はその一文をそっとなぞった。
目の前では。
弟と妹が自転車で盛り上がっている。
お母様は欲しくないふりをしている。
お父様は呆れながら新聞を読んでいる。
いつもの我が家だった。
思わず笑みがこぼれる。
遠く離れた場所から。
この騒がしい光景を願ってくれている人がいる。
それが。
なんだかとても嬉しかった。
また裏話です。
ChatGPTさんに怒られました。
レオン不在が長い!
手紙でも回想でもいいから出せ!
そしてもう一つ。
黒塗りの手紙なんてネタふりしたんだから、ちゃんと書け!
それだけでは芸がないので。
クライマックスでの重大な伏線を仕込んであります。
完結まで書いた後に付け加えたエピソードでした。
短いですが、1章分くらい悩みました。
この後は、番外編を1話挟んで、いよいよクライマックスです。




