元妻対決編2 離婚したから降格になった?
少将夫人のお屋敷。
私は応接室に通されていた。
落ち着かない。
理由は明白。
元奥様からの招待状。
家族会議もした。
結論は、誰も分からない。
ならば。
分かりそうな人に聞くしかない。
そうして私は藁にもすがる思いで、少将夫人の元へとやってきたのだ。
◇◇◇
応接室の重厚な扉が開く。
現れた少将夫人は、なぜか最初からとても嬉しそうに両手を頬に当てていた。
……嫌な予感。
「聞いたわよ、聞いたわよーー!」
ほら来た。
絶対ろくでもない話だ。
私の直感がそう告げている。
「この作戦が終わったら婚約発表するんですってね!」
私は固まった。
「なんでそんな話になってるんですかーーー!!」
思わず立ち上がった。
夫人が目を丸くする。
「違うの?」
「違います!」
「中佐さんとは、まだ、たったの三回しかお会いしてません!」
そうだ。冷静に数えてみても三回だ。
最初のお見合い。
王都でのオペラ鑑賞。
そして、この前のあの町のお茶屋さん。
すると、夫人はさらに不思議そうな顔になって、小首を傾げた。
「……三回『も』よ、リアンヌちゃん」
私は再び固まった。
「……え?」
「三回も」
夫人は念を押すように繰り返した。
「しかも、その三回ともが、全部楽しく和やかに終わっているのでしょう?」
……言い返せない。
「貴族のお見合いなんて、破談になるなら一回目でとっくになるわ」
言い返せない。それは確かにその通りだ。
「二回目がある時点で、お互いに好感を持っているから順調」
言い返せない。
「三回目も会って、しかも遠くへ離れた後も手紙のやり取りをしてる」
言い返せない。
「順調じゃない」
夫人はこれ以上ないというくらい、力強く断言した。
「まして、彼は軍人よ」
うっ
「長くは待っていられないの」
「それは…」
言葉が出なかった。
「だから作戦終了後に婚約発表なのでしょう?」
少将夫人は少し考えた。
「軍人はよくそうするわよ?」
私は骨抜きにされたように、力なくソファへ沈んだ。
なんか。
この戦闘力の高い少将夫人にそう言われると。
本当にそういうものなのかもしれない。
という気がしてくるから恐ろしい。
◇◇◇
私は我に返って、ぶんぶんと激しく首を振った。
危ないところだった。
完全にこの人の暴走ペースに巻き込まれていた。
今日は、中佐さんとの婚約がどうのという話をしに来たのではない。
私は小さく咳払いをして、姿勢を正した。
私は招待状を差し出した。
少将夫人は目を通す。
そして。
難しい顔になった。
珍しい。
この人は大抵楽しそうなのに。
しばらく考え込む。
私はおそるおそる口を開いた。
「元奥様って」
夫人が顔を上げる。
「はい?」
「中佐さんが降格されて」
私は言葉を選ぶ。
「幻滅して出て行った方ですよね?」
沈黙。
夫人が瞬きする。
もう一回瞬きする。
そして。
大真面目な顔で聞いた。
「誰からそんな話聞いたの?」
私は固まる。
誰だろう。
えっと。
「聞いたというか……」
嫌な予感。
「家族で話してて」
夫人の眉が上がる。
「たぶんそうだろうって」
夫人が額を押さえた。
「あのね」
声が低い。
怒られる時の声だ。
「勝手に話作らないで」
私は縮こまった。
「ごめんなさい」
夫人は大きくため息をつく。
「順番が逆よ」
私は首を傾げた。
逆?
夫人は静かに言った。
「離婚したから」
一拍。
「降格になったの」
私は停止した。
「はい?」
理解できない。
離婚。
降格。
どうつながるの?
私の顔を見て、夫人は苦笑した。
「……まあ、そういう反応になるわよね」
「なります! なりますとも!」
即答だった。
「事情を知らない普通の人なら、みんな貴女と同じように思うわ」
夫人は冷めかけた紅茶を一口すする。
そして。
窓の外の遠い空を見るように、少しだけ寂しげな目をした。
「でもね、……」
今までで一番大きな、嫌な予感がした。
この話。
たぶん。
私が思っていたような、よくある貴族の痴話喧嘩なんかより。
――ずっと、ずっと、重くて深い。




