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第九十九話 武神の一太刀


 修練場は静まり返っていた。


向かい合うのは――


武術の神・クシナダ。


そして学園最強の剣士・立身刀姫。


刀姫は深く一礼する。


「ご指導 よろしくお願いいたします」


「うむ」


クシナダも静かに頷いた。


刀姫はまず胸を借りるつもりで、一気に間合いを詰めようとした。


しかし、その瞬間――。


(……っ)


全身が総毛立つ。


クシナダから放たれる圧倒的な”気”。


ほんの一歩踏み込めば、その先には底知れない世界が広がっている。


刀姫は迷わず足を止め、すっと間合いを取り直した。


その判断を見たクシナダは嬉しそうに頷く。


「よい」


「敵を見ておる」


刀姫は静かに息を整える。


そして丹田から霊力を巡らせる。


全身へ。


さらにもう一度。


もう一度――。


霊力が幾重にも身体を巡る。


それを見た生徒たちが思わず声を漏らした。


「三重の巡らせ……」


「すごい……」


「三回も重ねてる」


刀也は目を丸くする。


晴真もその姿をじっと見つめていた。


(三回……)


(霊力を重ねて巡らせる……)


何かが胸に引っ掛かる。


頭の中で何かが繋がりそうになる。


しかし、その考えはまだ形にならなかった。


その時だった。


刀姫の姿が消えた。


「速っ!」


誰かが叫ぶ。


迅の「紫電一閃」すら霞むほどの神速。


一歩の踏み込みから放たれる鋭い突き。


「立身流――疾風突き!」


立身流の基本技。


だが、刀姫ほどの剣士が放てば、その威力はまるで別物だった。


空気を裂く音だけが遅れて響く。


刀也は思わず息をのむ。


「姉ちゃん……」


その隣で刀優が静かに話し始める。


「刀也」


「相手が自分より明らかに格上なら 派手な技より基本技を選ぶ」


「隙を作らず 相手の反応を見る」


「それも立身流の大切な戦い方だ」


刀也は真剣な表情で頷いた。


(俺だったら……)


(きっと大技を使ってた)


その違いを痛感していた。


一方――。


クシナダは微動だにしない。


疾風突きが届く寸前。


たった一歩。


前へ踏み込む。


刀を滑らせるように受け流し、そのまま肩を軽く刀姫へ当てた。


「っ!」


体勢が崩れる。


その一瞬を逃さず。


「引き胴」


美しい一閃。


だが刀姫もさすがだった。


咄嗟に刀を返し、胴を受け止める。


「見事」


クシナダが小さく笑う。


そのまま離れようとした瞬間――。


刀姫は追撃に移ろうと踏み込んだ。


しかし。


「……」


ピタリと止まる。


すぐに後退し、再び間合いを取った。


クシナダが楽しそうに笑う。


「ほほう」


「せっかく返し技をお見舞いしようと思っておったのに」


刀姫も苦笑する。


「やはり読まれていましたか」


「行きます!」


刀姫の目が鋭くなる。


全身の霊力がさらに高まる。


「立身流――神風斬!」


刀姫が現在到達している最高峰の一太刀。


全霊を込めた斬撃が真正面からクシナダへ迫る。


しかし――。


クシナダは一歩も退かない。


「よい太刀じゃ」


そう呟くと。


真正面から受け止めた。


ギィィンッ!!


修練場中に鋼の音が響き渡る。


次の瞬間。


刀姫の木刀が高々と弾き上げられた。


「……!」


気づけば。


クシナダの木刀が刀姫の喉元へ静かに添えられていた。


勝負あり。


刀姫はゆっくりと頭を下げる。


「……参りました」


クシナダは満足そうに頷いた。


「よう修練しておる」


「技も 心も見事じゃ」


そして優しく笑う。


「いずれ……刀斎を超える日が来るかもしれんな」


刀姫の瞳が大きく開く。


「はい!」


「その日を目指して これからも精進いたします!」


深く頭を下げた。


周囲から自然と大きな拍手が起こる。


刀也は姉の姿を食い入るように見つめていた。


(すごい……)


(剣の強さだけじゃない)


(相手を見て技を選び 間合いを読み 攻めるべき時と引くべき時を判断してる)


(これが本当の剣士なんだ)


刀優はそんな弟の頭を優しく撫でた。


「俺たちも頑張ろう」


刀也は力強く頷く。


「おう!」


その瞳には、新たな目標へ向かう強い決意が宿っていた。

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