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第九十六話 夏休みの始まり


 夏休み初日


朝から澄み切った青空が広がっていた。


晴真と凛は、裏佐倉・田町のバス停へ来ていた。


二人が待っているのは、表佐倉からやって来る家族である。


「もうすぐ着く頃かな」


晴真が時刻表を見ながらつぶやく。


凛も頷いた。


「そろそろですね」


田町は、裏佐倉と表佐倉を結ぶ交通の玄関口。


大きな式神バスの車庫があり、毎日何台もの式神バスが発着している。


この式神バスは、すべてミヅチが生み出したもの。


霊力で動く不思議な乗り物であり、今では裏佐倉の人々にとって欠かせない交通手段となっていた。


晴真は車庫へ並ぶバスを眺めながら微笑む。


「なんだか不思議だね」


「四か月前までは僕も表佐倉で暮らしてたのに」


「今は裏佐倉にいるのが当たり前になってる」


凛も穏やかに笑う。


「私もです」


「最初は全部が不思議でしたけど」


「もうこの景色が普通になりました」


二人がそんな話をしていると――


リーン……


鈴の音とともに、一台の式神バスがゆっくりと停留所へ入ってきた。


扉が開く。


次々と乗客が降りてくる。


その中に見慣れた顔を見つけた。


「あっ!」


「お母さん!」


晴真が思わず駆け出す。


「晴真!」


美咲も嬉しそうに手を振る。


そのまま晴真をぎゅっと抱きしめた。


「久しぶり……!」


「元気だった?」


目にはうっすら涙が浮かんでいる。


晴真は少し照れくさそうに笑った。


「う うん」


「元気だよ」


「もう お母さん」


「みんな見てるから……」


そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


ふと隣を見ると――


「凛!」


「お母さん!」


千桜も凛を優しく抱きしめていた。


「会いたかった」


「ちゃんとご飯食べてる?」


「無理してない?」


矢継ぎ早の質問に、凛は少し困ったように笑う。


「大丈夫 お母さん」


「ちゃんと元気に過ごしてるよ」


その光景を見た晴真と凛は、そっと顔を見合わせる。


「……」


「……」


そして同時に苦笑した。


「やっぱり」


「お母さんって同じだね」


「うん」


二人は小さく笑い合う。


その後ろから、ゆっくりと晴臣と道清も降りてきた。


晴臣は笑顔で手を振る。


「待たせたな 晴真」


道清も穏やかに微笑む。


「凛も迎えに来てくれてありがとう」


「お父さん!」


「おじさん!」


晴真と凛は嬉しそうに駆け寄る。


こうして家族が揃うと、夏休みが始まったことを改めて実感するのだった。


裏佐倉で迎える初めての夏。


晴真たちにとって、忘れられない夏休みが、いよいよ始まろうとしていた。

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