第九十五話 夏休み前夜
夏休み前日
佐倉陰陽学園では全校集会が開かれていた。
壇上に立つ学園長・御堂若陽が、生徒たちを穏やかな眼差しで見渡す。
「皆さん」
「明日から夏休みです」
「羽目を外しすぎず 健康と安全に気を付け 有意義な夏休みを過ごしてください」
「そして夏休み明けには 一回り成長した皆さんと会えることを楽しみにしています」
大きな拍手が体育館に響いた。
⸻
集会後。
一年一組の教室。
正臣は黒板の前に立ち、夏休みの注意事項を説明していた。
「宿題は忘れないこと」
「危険な場所へ勝手に入らないこと」
「無茶な修練をしないこと」
生徒たちは元気よく返事をする。
「はーい!」
正臣は教室を見回して苦笑した。
「特に」
「晴真」
「刀也」
「迅」
「与一」
「……それと道満」
五人が同時に顔を上げる。
「お前たちは特に気を付けるように」
「はい……」
五人は揃って返事をした。
正臣は笑う。
「俺も御堂家の修練には顔を出すからな」
その瞬間。
美鈴がにやりと笑った。
「先生」
「本当は沙羅さんに会いに来るんでしょう?」
教室が一瞬静まり――
次の瞬間、大爆笑に包まれた。
「はははは!」
正臣は額に手を当て、大きくため息をつく。
「……美鈴」
「お前だけ宿題追加な」
「えぇぇぇーーっ!」
美鈴が悲鳴を上げる。
「そんなぁ~!」
また笑いが起こる。
すると正臣は教室を見渡した。
「……ついでに」
「刀也」
「迅」
「お前らも追加」
「えぇっ!?」
二人が同時に立ち上がる。
「なんで俺たちまで!」
正臣は苦笑する。
「お前ら」
「笑いすぎだ」
「横暴だよ先生!」
教室中が笑いに包まれた。
正臣も笑いながら言う。
「……冗談だ」
そして表情を引き締める。
「気を引き締めて夏休みを過ごせ」
「夏休み明け」
「また元気な姿で会えることを楽しみにしている」
「もっと成長した皆を見せてくれ」
「はい!」
一年一組の返事が教室に響いた。
⸻
その夜。
黒桜寮では夏休み前恒例の食事会が開かれていた。
食堂には豪華な料理がずらりと並んでいる。
腕を振るったのは寮母・鍋山摩季。
その横では銀花、一葉、二葉、三葉が忙しそうに料理を運んでいた。
一方、その反対側では――
「かんぱーい!」
沙羅、ミヅチ、クシナダ、チヨヒメ、珠代が、すでに酒盛りを始めていた。
笑い声が響き、盃が次々と交わされる。
その光景を見た新入生たちも、もう誰も驚かない。
最早、黒桜寮では当たり前の光景になりつつあった。
やがて監督生・刀姫と副監督生・刀優が前へ出る。
刀姫が静かに口を開いた。
「今日は摩季さんが皆さんのために腕によりをかけて料理を作ってくださいました」
「明日から夏休みです」
「黒桜寮の名を汚すことのないよう 節度ある生活をしてください」
少し間を置き、
「特に」
「刀也」
「晴真」
「迅」
「与一」
「この四人は気を付けるように」
「えっ?」
晴真と与一は顔を見合わせる。
「僕たちもですか?」
晴真がおそるおそる尋ねた。
刀優は真面目な顔で答える。
「君たち」
「いつの間にか」
「黒桜の四馬鹿と呼ばれている」
「えぇぇぇぇっ!?」
晴真と与一は大きな衝撃を受けた。
「ぼ 僕そんなことしたかな……」
「僕も覚えがない……」
二人は肩を落とす。
その横では――
「四馬鹿か!」
「俺たちも二つ名を名乗れるようになったな!」
刀也と迅が大笑いしている。
「喜ぶところじゃないでしょ!」
凛が呆れた声を上げた。
周囲の皆も苦笑しながら、晴真と与一へ同情の視線を送っていた。
⸻
食事も進み、話題は自然と夏休みの予定へ移る。
晴真たちは草笛の丘や御堂家での修練、花火大会の計画を話していた。
すると沙羅が豪快に笑う。
「じゃあよ」
「あたしも教えに行ってやるからな」
「よろしくお願いします!」
刀也たちが嬉しそうに頭を下げた。
その時、ミヅチが晴真を見る。
「そういえば晴真」
「夏休みは表佐倉へ帰らぬのじゃろ?」
「……ということは」
「蔵六餅のお土産はないのかぁ」
ミヅチが本気で残念そうに肩を落とす。
クシナダも腕を組んだまま頷いた。
「それは残念じゃ」
チヨヒメまでしょんぼりしている。
晴真は苦笑した。
「大丈夫です」
「表佐倉からお母さんが来るので」
「蔵六餅をお願いしてあります」
一瞬の静寂。
「おおっ!」
「流石じゃ 晴真!」
「分かっておるのう!」
ミヅチが満面の笑みを浮かべる。
クシナダも珍しく口元を緩めた。
「抜かりない」
チヨヒメも珠代も嬉しそうに笑う。
その様子を見て、食堂中が笑いに包まれた。
笑い声が絶えない黒桜寮。
こうして一年一組の賑やかな夏休みが、いよいよ始まろうとしていた。




