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第九十三話 第三班 ――忍びたちの


 第三班。


教室の中でも、最も周囲の視線を集めていた班だった。


麻倉迅。


青菅隼人。


犬猿の仲として知られる二人が同じ班。


「あそこ、大丈夫かな」


「またケンカになるぞ」


誰もがそう思って見守っていた。


そんな空気をよそに、七曲茜と七曲桔梗の双子が同時に口を開く。


「綾女ちゃんがリーダーだよね」


「うん、それが一番」


七曲一族。


七曲の森を根城とする忍びの一族であり、根郷衆と肩を並べる存在。


そして根郷衆から枝分かれしたのが、青菅衆と麻倉衆である。


忍びの家系を知る二人にとって、根郷宗家の綾女が最も適任に思えた。


綾女も小さく息を吐く。


(そうなるよね)


受けようと口を開きかけた、その時だった。


「ダメだ」


迅だった。


全員が迅を見る。


「綾女は確かにすごい忍びだ」


「でもリーダーは隼人だ」


「……は?」


隼人は目を丸くする。


「さっきから何言ってんだ?」


迅は真っ直ぐ隼人を見る。


「この中で一番、状況判断が良くて的確に動けるのは隼人だ」


「だからリーダーはお前だ」


「そんなこと言ったって、俺はお前と仲良くするつもりはないぞ」


しかし迅は、その言葉を気にも留めず続ける。


「補佐は綾女」


「綾女ならリーダーをきちんと支えられる」


隼人は苛立ったように腕を組む。


「じゃあ、お前は何するんだよ」


迅は迷わず答えた。


「お前らの指示に従う」


その瞬間だった。


「……はぁ!?」


隼人が声を荒げる。


「なんなんだよ、お前」


「調子狂うんだよ」


「そういうの!」


教室が静まり返る。


誰も言葉を発せない。


迅は静かに尋ねた。


「隼人」


「お前から見て、俺はどういう奴だ?」


「……うざい奴」


即答だった。


教室のあちこちで苦笑いが漏れる。


迅も少しだけ笑う。


「そうじゃない」


「能力の話だ」


隼人は腕を組み直し、少し考えた。


「武術なら学年でもトップクラスの速さだ」


「立身流も使える」


「まともに相手できるのは刀也、道満、与一くらいだろ」


迅は黙って聞いている。


隼人は続けた。


「この前、道満に負けたのは」


「速さで勝てない相手だからって、隙を作って誘ってたところへ」


「お前が馬鹿正直に突っ込んだからだ」


教室中が息をのむ。


「今の道満の居合じゃ、本来お前の速さには対応できない」


教壇の正臣は静かに聞いていた。


(すごい)


(ここまで戦いを分析していたのか)


隼人の洞察力に、心の中で深く感服する。


迅は静かに口を開く。


「じゃあ」


「俺が今までで一番速い技で本気で突っ込んで」


「相手は片足を泥に取られて身動きも取れない状態だったのに」


「刀を鞘から抜きもせずに、いなされたと言ったら」


「信じるか?」


隼人の表情が変わる。


「……は?」


迅は一歩近づく。


「俺は」


「自分が弱かったせいで」


「大事な人が傷つく姿はもう見たくない」


その言葉には、あの日の悔しさが滲んでいた。


「みんなを守るために」


「霊力が空になるような術を」


「平気で撃つ親友に」


「もう無理をさせたくない」


教室は静まり返っている。


「だから」


「お前が俺をどう思おうと関係ない」


「お前がリーダーにふさわしいと思った」


「だから俺は、お前の指示通り動く」


迅は真っ直ぐ頭を下げた。


「頼む、隼人」


しばらく沈黙が流れる。


隼人は頭をかきながら、大きくため息をつく。


「……わかった」


「勝手にしろ」


ぶっきらぼうな返事だった。


だが、それは隼人なりの了承だった。


迅は静かに頷く。


その横で隼人は考えていた。


(こいつを)


(こんな化け物みたいな速さのこいつを)


(簡単にいなした奴がいる?)


(しかも刀を抜かずに?)


(こいつの速さは大人顔負けのはずだ)


(いったいどんな奴と戦ったんだ)


ふと周囲を見ると、茜も桔梗も綾女も、どこか話についていけないような表情をしていた。


(なんか)


(俺たちだけ置いてけぼりにされたみたいだな)


そう思う隼人に、綾女たちは思わず苦笑いを浮かべるのだった。

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