表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/100

第八十八話 今できること


 医務室に重い空気が流れる。


しばらく沈黙が続いたあと、道満が静かに口を開いた。


「ミヅチ様」


「その災厄とは、いったい何だったのですか」


「話せる部分だけでも お願いします」


ミヅチはゆっくりと頷く。


「あまり深くは、話せないが‥‥」


「四百年前のことじゃ」


「禍津喰羅の分体に乗っ取られた一人の巫女がおった」


「その巫女は依代となり、裏佐倉中へ瘴気の種を撒き散らした」


部屋の空気がさらに重くなる。


「瘴気の種に侵された者たちは理性を失った」


「妖だけではない」


「霊獣も」


「神獣も」


「神の眷属までもが暴れ始めた」


晴真たちは息をのむ。


ミヅチは静かに続ける。


「龍姫」


「夜叉丸」


「そして妾たち眷属は」


「暴走した者たちを浄化し」


「封印して回った」


「裏佐倉中が戦場となったのじゃ」


誰も言葉を発することができなかった。


その時、凛が意を決して尋ねる。


「私たちは」


「何をすればいいのでしょうか」


「七宝玉を探すべきですか」


その瞬間だった。


「その必要はない」


突然聞こえた声に全員が振り向く。


いつの間にか部屋の隅に、腕を組んだクシナダが立っていた。


「ク、クシナダ様!」


驚く生徒たちを見ながら、クシナダは首を横に振る。


「七宝玉は探すものではない」


「必要な時が来れば、自ら持ち主を選ぶ」


「今のお主たちが探しても見つからぬ」


道満がさらに尋ねる。


「では」


「銀桜眼を一刻も早く咲かせるべきですか」


「それも違うの」


今度は優しい声が響く。


振り返ると、チヨヒメが穏やかな笑みを浮かべて立っていた。


「焦らなくてもよい」


「花は無理に咲かせようとしても咲かぬ」


「時が来れば自然と花開くものじゃ」


道満は静かに頷いた。


「……はい」


今度は小夜がおずおずと手を挙げる。


「それなら」


「私たちは、どうすればいいんですか」


ミヅチは全員を見渡し、ふっと笑った。


「簡単じゃ」


「お主たちは学生生活を思いきり楽しめばよい」


「え?」


晴真たちは思わず顔を見合わせる。


「今は友と学び」


「笑い」


「悩み」


「競い合い」


「たくさん成長することじゃ」


「将来」


「晴真が困難に立ち向かう時」


「その時に導き、支えられる仲間になればよい」


生徒たちは静かに聞き入る。


ミヅチは力強く笑った。


「その間は」


「妾たち眷属がおる」


「沙羅も」


「正臣も」


「大人たちがお主を絶対に守る」


沙羅が腕を組み、にやりと笑う。


「そういうことだ」


正臣も優しく頷く。


「皆さんは皆さんにしかできない時間を大切にしてください」


ミヅチは最後に悪戯っぽく笑った。


「それに」


「妾たちも暇では困る」


「お主たちの成長を見守るのが、今一番の楽しみじゃ」


「暇つぶしには、ちょうどよいからの」


その言葉に部屋の空気が一気に和らぐ。


晴真が首をかしげた。


「それって」


「結局、僕たちはいつも通りでいいってこと?」


一瞬の静寂。


そして――


「あはははは!」


「はっはっは!」


部屋中に笑い声が響いた。


張り詰めていた空気はすっかり消え、晴真たちの表情にも笑顔が戻る。


戦いは終わっていない。


背負う宿命も変わらない。


それでも今は――


仲間と共に笑い、学び、成長していく。


それこそが、未来へつながる一番大切な一歩なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ