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第八十四話 誰も使えなかった札


 晴真たち。


そして神門深月、西御門紫月。


二人の公安部員と三人の一年生。


だが相手は十人近い覆面の集団だった。


学生を守りながらでは圧倒的に不利だった。


「くっ……」


深月が舌打ちする。


その一瞬の隙を狙い一人のフードの男が晴真へ斬りかかった。


「晴真君!」


凛が叫ぶ。


しかし――。


剣が振り切られるより早く。


晴真は男の手首を掴んだ。


「えっ?」


男が目を見開く。


そのまま身体を捻り重心を崩す。


「はっ!」


男は地面へ叩きつけられ腕を極められていた。


「合気術……」


深月が思わず呟く。


晴真は相手を押さえたまま言う。


「危ないですよ」


「いきなり斬りかかったら」


男は呆然としていた。


その隙に。


「小夜ちゃん!」


「うん」


凛と小夜が同時に印を結ぶ。


「複合術――水龍乱舞!」


二人の霊力が一つになり水龍がフードの集団へ襲い掛かる。


「結界!」


敵は一斉に結界を展開。


水龍を受け止めた。


その瞬間。


「今です!」


紫月が結界を展開する。


幾重もの光の壁が晴真たちを包み込んだ。


敵は一斉に結界へ攻撃を始める。


だが。


「硬い……!」


「破れない!」


紫月は静かに笑う。


「西御門の結界です」


「そう簡単には壊せません」


凛が皆へ言った。


「与一君たちが正臣先生を呼びに行っています」


「先生はもう近くまで来ているはずです」


皆に少しだけ希望が戻る。


その時だった。


晴真たちへ話しかけていたあの男が前へ出る。


「さすが」


「西御門の結界だ」


男は一枚の札を取り出した。


「だが」


「これならどうかな」


札を放り投げる。


「散」


その一言だけだった。


バリン――!!


紫月の結界が音を立てて消えた。


「なっ!」


紫月が目を見開く。


深月も絶句する。


「結界を……」


「一瞬で……」


敵も味方も驚愕していた。


その時。


小夜が何かを思い出した。


「晴真君!」


「道具屋さんで貰った札!」


「おまけでもらった札です!」


「封印術の札と同じ人が作ったものだと思います!」


「爆裂の術って書いてありました!」


「誰も発動できない札です!」


晴真はすぐに懐から札を取り出した。


凛が叫ぶ。


「公安部のお姉さん達!」


「小夜ちゃん!」


「結界を何重にも張ってください!」


深月が驚く。


「学生の術一つだぞ?」


「そんな必要あるか?」


「お願いします!」


凛は強い口調で言った。


その表情を見た二人は何も言わず頷く。


「結界展開!」


「重ねます!」


何重もの結界が晴真を包む。


晴真は札を両手で持つ。


ゆっくりと霊力を流し始めた。


札が――。


黄金色に輝く。


同時に。


晴真の金桜眼も共鳴するように光を放った。


術式が完成する。


小さな金色の玉。


拳ほどの大きさだった。


それが敵へ向かって飛んでいく。


「……?」


敵は首を傾げる。


だが。


結界を消した男だけは表情を変えた。


「全員!」


「早く結界を張れ!」


叫んだ瞬間だった。


金色の玉が一気に膨れ上がる。


「しまっ――!」


ドォォォォォン!!!


轟音が辺りを揺るがした。


眩い金色の爆炎が一帯を飲み込む。


衝撃波が木々を薙ぎ倒し土煙が空高く舞い上がる。


やがて煙が晴れる。


周囲は焼け焦げた大地へ変わっていた。


男の指示で素早く結界を張った者だけが辛うじて立っている。


他のフードの者たちは結界ごと吹き飛ばされ全身傷だらけだった。


一人が震えながら呟く。


「な……」


「なんだ……あれは……」


結界を消した男が晴真を見つめる。


そして小さく呟いた。


「……金桜眼か」


男はすぐに仲間たちへ命じた。


「撤退する」


「ここは引くぞ」


傷付いた仲間を連れフードの集団は森の奥へ消えていった。


敵の姿が見えなくなった瞬間。


晴真は力が抜ける。


「……あ」


そのまま前へ倒れた。


「晴真君!」


凛と小夜が駆け寄る。


その時だった。


「晴真!」


「皆!」


正臣、沙羅、ミヅチたちが森へ飛び込んできた。


その姿を見た瞬間。


張り詰めていた緊張が切れる。


凛と小夜はその場に座り込み涙を流した。


「よかった……」


「本当に……よかった……」


正臣たちは晴真の無事を確認すると大きく安堵の息をついた。

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