第八十三話 襲撃
「おやおや」
「公安部の犬ですか」
男が皮肉交じりに笑う。
「何だと!」
神門深月が怒鳴る。
だが隣で西御門紫月が腕を組んだ。
「深月」
「そんな安い挑発に乗らないで」
「……ちっ」
深月は舌打ちしながらも口を閉じた。
「おやおや」
「つまらないですね」
男が肩をすくめる。
「本当にそうですね」
今度は晴真たちの後ろから声が響いた。
振り返ると――。
十人近いフードを深く被った者たちがいつの間にか立っていた。
「さて」
「どうしたものですかね」
全員がいやらしい笑みを浮かべている。
⸻
一方。
道満たちの前。
道満は男を見つめる。
「知り合いですか?」
男は笑った。
「そういうやり取りはいらない」
「かかって来な」
刀也が木刀を構える。
「分かりやすくていい!」
迅も巡らせを発動。
さらに風遁で身体を加速させる。
「行くぞ!」
刀也が真っ先に飛び出した。
買ったばかりの霊木の木刀を振り下ろす。
「試し斬りにしてやる!」
男は笑う。
「立身流か」
鞘に納めたままの刀で軽く受け流し――。
裏拳。
ドゴッ!
「がっ!」
刀也は吹き飛ばされ地面を転がった。
さらに追撃しようとした瞬間。
シュッ!
迅のクナイが飛ぶ。
男は刀で簡単に払い落とした。
道満が叫ぶ。
「駄目だ!」
「ばらばらに攻撃するな!」
紅葉も薙刀を構える。
刀也が立ち上がる。
「道満!」
「指示してくれ!」
「任せた!」
迅と紅葉も頷く。
男は刀を肩に担ぎゆっくり歩いてくる。
「迅」
「水遁で牽制」
「紅葉」
「震地波だ」
「はい!」
「承知しました!」
迅の水遁が地面を濡らす。
続けて紅葉が震地波を放つ。
男は笑う。
「そんなもの」
足で似たような波動を放ち打ち消そうとした。
だが。
ズボッ。
「……!」
濡れた地面が泥濘となり男の足が深く沈む。
「ちっ」
男が舌打ちした。
その一瞬。
「紫電疾風一閃!」
迅が雷をまとい突撃する。
男は刀で受け流しそのまま鞘で殴りつけた。
迅は後ろへ飛び退く。
「へぇ」
「なかなかだな」
その隙を逃さない。
「立身流一刀術――烈風斬!」
刀也が霊力を乗せた斬撃を飛ばす。
男は刀へ霊力をまとわせ防ぎ切った。
「ガキにしちゃよくやる」
そう言うと。
同じ構え。
同じ踏み込み。
同じ技。
「立身流一刀術――烈風斬」
男は刀也の技を完全に真似し斬撃を放った。
「!」
その前へ紅葉が飛び出す。
「斬空の術!」
風刃が飛び二つの斬撃が激突する。
轟音と共に相殺された。
男は感心したように笑った。
「これはこれは」
「薙刀だけじゃない」
「札術も立派だ」
紅葉は薙刀を構えたまま答える。
「あなたに褒められても」
「少しも嬉しくありませんわ」
「連れないな」
男は肩をすくめる。
その瞬間。
「複合術――火炎旋風!」
道満の炎と風が渦を巻く。
男は思わず笑った。
「おいおい」
「まだ初等部くらいの年で複合術かよ」
「なんなんだ お前ら」
そう言いながら印を結ぶ。
「複合術――水龍乱舞」
巨大な水龍が炎を飲み込み相殺した。
その直後。
道満が叫ぶ。
「皆!」
「俺の後ろへ!」
全員が集まる。
「桜花結界術――重ね桜」
幾重もの桜色の結界が重なり合う。
チヨヒメ直伝。
複合結界術。
男は刀で何度も斬りつける。
しかし。
傷一つ付かない。
「こりゃ駄目だ」
男は笑う。
「最初からこれが狙いか」
「だが」
「お前の霊力がいつまで持つかな」
道満も笑う。
「そんなには持たない」
「だが」
「それで十分だ」
その時。
凄まじい速度で一人の人影が飛び込んできた。
勝田正臣だった。
「先生!」
生徒たちが声を上げる。
正臣は道満を見る。
「道満」
「よく皆を守ったな」
道満は静かに首を振る。
「いえ」
「皆の力です」
男は苦笑した。
「なんだ」
「正臣の生徒か」
「どうりで桁外れだ」
「……直弥先輩」
正臣が静かに名を呼ぶ。
その瞬間――。
「直弥ぁぁぁ〜!!」
怒号と共に規格外の巨大な火炎の矢が空を裂いた。
直弥は慌てて飛び退く。
「久しぶりに会ったのに」
「ちょっと酷くねぇか?」
「うるせぇ!」
「ぶっ殺す!」
沙羅が鬼の形相で睨みつける。
正臣も一歩前へ出た。
「あなただけは」
「許しません」
「正臣までそんなこと言うなよ」
そこへ。
ミヅチと銀花も到着した。
ミヅチが笑う。
「おやおや」
「直弥元彦ではないか」
「ミヅチまで来たのか」
「こりゃ退散だわ」
沙羅が一歩踏み出す。
「逃がすわけないだろ!」
直弥はニヤリと笑った。
「悪いな」
生徒たちへ向かって火球を放つ。
「危ない!」
ミヅチが結界を展開。
火球はすべて防がれた。
しかし。
煙が晴れた時には――。
直弥の姿は消えていた。
「くそっ!」
沙羅が悔しそうに拳を握る。
その時。
道満が思い出したように叫んだ。
「先生!」
「晴真たちが小桜を追って別行動しています!」
正臣たちの表情が変わる。
その直後――。
ドォォォン!!
森の奥からとてつもない爆発音が響いた。
「!」
正臣。
沙羅。
ミヅチ。
三人は同時に爆発の方向へ駆け出した。
銀花が生徒たちへ微笑む。
「皆さんは」
「わたしにお任せください」
その言葉を聞いても。
誰一人安心することはできなかった。
皆の胸には不安だけが大きく広がっていた。




