第八十二話 追跡
刀也と迅は同時に巡らせを発動した。
霊力が全身を巡り、一気に速度が上がる。
「行くぞ!」
「ああ!」
二人は風を切るように駆け出した。
その後ろを道満も巡らせを使って追い掛ける。
だが。
「ま……待ってください!」
紅葉だけが少し遅れていた。
「皆さん早すぎます!」
道満が振り返る。
「紅葉」
「金剛力で身体強化をしろ」
「速度も上がる」
紅葉はすぐに頷く。
「分かりました」
「金剛力」
霊力が全身を包み込み、脚力が一気に高まる。
「これなら!」
ようやく三人へ追いついた。
その時。
迅が前方を指差す。
「あいつだ」
「晴真が言ってたフードの奴だ」
全員が視線を向ける。
黒いフードを深く被った人物が、一人の女性を追うように歩いていた。
刀也が身構える。
「どうする?」
道満は静かに首を振る。
「近付きすぎるな」
「まず様子を見る」
四人は距離を保ちながら追跡を続けた。
すると。
「駄目だぞ」
穏やかな男の声が背後から聞こえた。
「人をこっそり追いかけては」
「!!」
四人が一斉に振り向く。
そこにはいつの間に現れたのか。
見覚えのない男が立っていた。
柔らかな笑みを浮かべながら四人を見つめている。
⸻
一方その頃。
晴真、凛、小夜は小桜を追って路地を抜けて森へ入っていた。
「キュイン!」
森の中の開けた場所で、小桜は一人の男の前で止まる。
男は三人を見ると優しく微笑んだ。
「君たちは学園の一年生かい?」
凛が一歩前へ出る。
「はい」
「友達の式神が逃げてしまって探していました」
男は穏やかに頷く。
「それは大変だったね」
凛は小桜を抱き上げた。
「でも見つかりました」
「すみません」
「失礼します」
三人がその場を離れようとした。
その時だった。
「見つけたぞ!」
女性の声が響く。
晴真が振り返る。
「あっ!」
「さっき見た人!」
そこには二人の女性が立っていた。
一瞬沙羅かと思った。
だが違う。
特攻服と制服を合わせたような服装はよく似ている。
しかし顔も雰囲気も別人だった。
二人は鋭い視線で男を見据えている。
男の笑みがわずかに消えた。
(公安部か)
二人は裏佐倉公安部の陰陽師だった。
学生たちの姿に気付き一瞬だけ表情を曇らせる。
(まずい)
本来なら一般生徒を巻き込む状況ではない。
しかし。
目の前の男を逃がすわけにもいかなかった。
男は穏やかな笑みを浮かべたまま静かに二人へ向き直る。
その正体はまだ誰も知らない。
禍津喰羅教の幹部――。
公安部は長くその行方を追い続けようやくここで追い詰めていた。




