第八十話 陰陽術道具店 おたから屋
待ちに待った土曜日。
朝の修練を終えた一同は、正臣から外出の許可をもらい、宮小路町へ向かっていた。
目的は――陰陽術道具店。
「やっと行けるな!」
刀也が嬉しそうに歩く。
迅も負けじと笑う。
「新作の木刀、楽しみだ!」
しかし、その後ろから凛の冷たい声が飛んだ。
「二人とも。」
「今日は変なことをしないでくださいね。」
「しないって!」
「本当だって!」
二人が慌てて答える。
凛は腕を組んだ。
「信用しません。」
「そんなぁ~!」
皆が思わず笑った。
その横では、晴真、道満、与一、小夜の四人が霊馬について話している。
「月桜、元気だった?」
与一が尋ねる。
「うん!」
「朝も会ってきたよ。」
晴真は嬉しそうに頷く。
「僕が近付くと鼻を擦り寄せてくれるんだ。」
「黒曜も少しずつ慣れてきた。」
与一も優しく微笑む。
小夜も静かに話す。
「白桜毛も……とても優しい。」
その会話を聞きながら、道満も穏やかに頷いていた。
その隣には紅葉がぴったり。
一歩も離れない。
「道満様。」
「紫雲毛、本当に美しい霊馬でしたね。」
「ああ。」
「穏やかな性格だった。」
それだけの会話でも、紅葉はとても嬉しそうだった。
その様子を見た綾女と美鈴が小声で笑う。
「分かりやすいね。」
「うん。」
紅葉は顔を赤くした。
「な、何を笑っているんですか!」
再び皆が笑う。
そして。
一行は宮小路町にある陰陽術道具店へ到着した。
店へ入るなり、紅葉が道満の袖を引く。
「道満様。」
「こちらです。」
一直線に案内した先には、霊木で作られた居合用の木刀が並んでいた。
晴真が首を傾げる。
「紅葉さん。」
「なんで場所知ってるの?」
美鈴が苦笑した。
「紅葉ね。」
「放課後にちゃんと外出許可を取って、一人で下見に来たの。」
「道満さんに良いところを見せたかったみたい。」
「えっ。」
晴真は思わず紅葉を見る。
紅葉は真っ赤になった。
「ち、違います!」
「偶然です!」
綾女と美鈴はまた笑う。
その頃。
店の奥では、小夜が一枚の札をじっと見つめていた。
晴真が近付く。
「どうしたの?」
小夜は札を手に取りながら言う。
「この札……。」
「すごく古いみたい。」
「なのに、とても安いです。」
さらに札を裏返す。
「術式も書いてあります。」
「でも古い文字で読めなくて……。」
少し首を傾げる。
「それに。」
「字が少し下手で……面白いです。」
その言葉に店主が笑った。
「その札か。」
「あれは誰がやっても発動しないんだ。」
「術式は残ってる。」
「でも発動容量を変えてるみたいでな。」
その話を聞いていた道満が木刀を置き、近付いてきた。
「店主。」
「つまり。」
「今まで誰も必要な霊力量を満たせなかったということですか?」
店主は頷く。
「その通り。」
「一度も発動したことがない。」
「店主さん。」
晴真が札を見ながら言う。
「この札が発動するところ、見てみたいですか?」
「ああ。」
店主は笑った。
「もし発動できる奴がいたら。」
「残ってる札も全部やるよ。」
道満は迷わず晴真を見る。
「晴真。」
「やってみろ。」
「ただし。」
「新しい術式ではない。」
「基本通り。」
「霊力だけを込めるんだ。」
「うん。」
晴真は頷いた。
店主は皆を店の奥へ案内する。
「試し打ちの部屋だ。」
「ここは昔、チヨヒメ様に結界を張っていただいた。」
「ちょっとやそっとじゃ壊れん。」
「安心して試してくれ。」
その言葉を聞き、晴真はほっと胸をなで下ろした。
その様子を見た店主は首を傾げる。
「……。」
(この子。)
(建物の心配をしていたのか。)
思わず苦笑する。
皆も試し打ちの部屋へ集まった。
晴真は札を一枚持つ。
深呼吸。
そして。
ゆっくり霊力を流し込んだ。
次の瞬間――。
札が眩い金色に輝く。
同時に。
晴真の金桜眼も共鳴するように黄金の光を放った。
「!」
術式が完成する。
札は空へ舞い上がり――。
無数の金色の桜吹雪となって部屋中を舞う。
やがて。
桜吹雪は一つに集まり、的へ向かって飛ぶ。
渦を巻きながら、標的へ絡み付く。
「封印術……。」
静かに術が完成した。
誰も声を出せない。
店主だけが震える声で呟いた。
「それは……。」
「金桜封印術。」
皆が驚いて店主を見る。
店主は晴真を見つめた。
「君……もしかして――」
そこまで言った時。
道満が静かに店主へ目配せした。
店主は一瞬で察する。
「……。」
「なるほど。」
すぐに笑顔へ戻った。
「いやぁ!」
「良いものを見せてもらった!」
店主は棚の奥へ向かう。
古い札を何枚も抱えて戻ってきた。
「約束だ。」
「残りも全部あげる。」
晴真は驚いた。
「えっ?」
「いいんですか?」
店主は豪快に笑う。
「どうせ。」
「君しか使えないからな!」
皆が笑う。
さらに店主は言った。
「今日は気分がいい!」
「皆、好きな物を安くしてやる!」
「本当ですか!」
刀也と迅が真っ先に叫ぶ。
「ありがとうございます!」
店の中は一気に歓声と笑顔に包まれた




