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第七十八話 霊馬に選ばれる生徒達


 「次」


「鏑木与一君」


牧人に呼ばれ、与一が静かに前へ出る。


その表情は、これまでになく硬かった。


晴真が不思議そうに尋ねる。


「与一、緊張してるの?」


与一は小さく頷く。


「ああ」


「鏑木家は代々、流鏑馬を受け継ぐ家系だからね」


「霊馬との出会いは、一生を共にする相棒との出会いなんだ」


「だから……少し緊張している」


その言葉に、皆も自然と静かになった。


草原を風が吹き抜ける。


やがて――


一頭の霊馬が、ゆっくりと歩いてきた。


「……!」


生徒たちが息をのむ。


全身を艶やかな漆黒の毛並みに包まれた、一際大きな霊馬。


黒曜毛。


希少種として知られる名馬だった。


長身の与一の前で立ち止まる。


与一は静かに頭を下げる。


「よろしく頼む」


黒曜毛は優しく鼻先を与一の肩へ寄せた。


「選ばれましたね」


牧人が微笑む。


「しかも黒曜毛とは……」


丘の上の野点席からも歓声が上がる。


「ほぉ!」


沙羅が口笛を吹く。


「鏑木の坊主」


「とんでもない霊馬を手に入れたのう」


クシナダも腕を組んで頷く。


「さすがは流鏑馬の名門じゃ」


与一は静かに黒曜毛の首を撫でる。


その姿は、まるで昔からの相棒のようだった。


続いて。


草原の奥から二頭の霊馬が並んで歩いてくる。


美しい銀色の毛並み。


月明かりをまとったような輝き。


「月銀毛……」


牧人が目を見開く。


「こちらも滅多に姿を見せない希少種です」


二頭は迷うことなく歩き続ける。


真っ直ぐ向かった先は――


凛と紅葉だった。


二人は顔を見合わせ、小さく頷く。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたします」


二人が丁寧に頭を下げると、月銀毛たちも静かに鼻先を寄せた。


まるで互いを認め合ったかのようだった。


野点席では、また賑やかな声が上がる。


「ほほぅ」


「麻賀多の小娘たちが月銀毛とは」


ミヅチが楽しそうに笑う。


「やはり今年の一年一組は面白いのう」


チヨヒメも優しく微笑む。


「皆、それぞれ良い縁に恵まれていますね」


そして。


クシナダが視線を移す。


「さて」


「道満はどうかな」


その瞬間だった。


一葉、二葉、三葉が驚いたように声を上げる。


「まさか……」


「正臣様以来ですね」


「名前を覚えています」


クシナダは苦笑する。


「そんなことはない」


「晴真や小夜も凛も、ちゃんと覚えておるぞ」


銀花がくすりと笑う。


「あらあら」


「クシナダ様のお眼鏡にかなうとは」


「四人とも本当に素晴らしい子ですね」


外野はすっかり盛り上がっていた。


その時。


草原の奥から、一頭の霊馬がゆっくりと姿を現した。


薄紫のたてがみ。


雲のように淡く美しい毛並み。


気高く、それでいて穏やかな瞳。


牧人が思わず息をのむ。


「紫雲毛……」


「陰陽術を志す者なら誰もが一度は憧れる超希少種です」


紫雲毛は迷うことなく道満の前まで歩み寄る。


そして静かに頭を垂れた。


道満は優しい笑みを浮かべる。


ゆっくりと、その首を撫でる。


「……私を選んでくれるのか」


「ありがとう」


紫雲毛は嬉しそうに鼻を鳴らし、道満の肩へ静かに顔を寄せた。


その光景を見た誰もが、美しい主従の始まりを感じていた。


沙羅は満足そうに腕を組んだ。


「残るは――」


「小夜と晴真か」


にやりと笑う。


「こりゃ見ものだな」


ミヅチも頷く。


「小夜は森羅聴で霊獣とも心を通わせる娘じゃ」


「いったいどんな霊馬が現れるやら」


皆が期待して見守る中――。


丘の上から一頭の霊馬がゆっくりと姿を現した。


真っ白な馬体。


風になびく純白のたてがみ。


歩くだけで周囲の空気が清められるような神々しさをまとっている。


牧人が目を見開く。


「白桜毛……」


「神聖な霊馬」


「神の使いとも伝えられる最高位の霊馬です」


その言葉に、生徒たちは息をのんだ。


白桜毛は迷うことなく小夜の前まで歩く。


そして静かに頭を下げた。


小夜も嬉しそうに微笑み、そっと首を撫でる。


「よろしくね」


白桜毛は気持ちよさそうに目を細めた。


丘の上ではクシナダが思わず笑う。


「まさか」


「私と同じ白桜毛とはのう」


その隣で銀花も微笑む。


「さすがは小夜さんですね」


チヨヒメも優しく頷く。


「白桜毛も小夜さんの優しい心を感じたのでしょう」


沙羅が感心したように腕を組む。


「森羅聴の娘らしい結果だな」


だが――。


当の小夜は周囲の会話などまったく耳に入っていなかった。


「……」


嬉しそうに白桜毛を撫で続けている。


その幸せそうな笑顔に、皆も思わず微笑んだ。


そして。


牧人が最後の名前を呼ぶ。


「桜晴真君」


その瞬間。


野点席がざわつく。


「さて」


沙羅が身を乗り出す。


「最後は晴真だ」


ミヅチが肩を震わせる。


「今度は何をやらかすのじゃ?」


珠代は苦笑しながらも期待に満ちた目を向ける。


「普通では終わりませんよね」


クシナダも腕を組む。


「規格外なのは今さらじゃ」


「どんな霊馬が選ぶのか……」


生徒たちも教師たちも、そして神の眷属たちまでもが晴真へ視線を集める。


「また何か起きるぞ」


「絶対に普通じゃない」


「今度は何だ?」


期待と不安が入り混じる中――。


晴真だけは首を傾げていた。


「みんな」


「どうしてそんなに見てるの?」


その一言に、放牧地は思わず笑いに包まれた。


しかし。


誰もが心の中では同じことを思っていた。


――ここからが、本番だ。

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