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第七十六話 朝の修練場


 実技試験が終わった次の日の朝。


まだ朝日も昇りきらない修練場には、二つの人影があった。


桜晴真。


麻賀多道満。


いつもの朝の修練である。


だが、その日だけは違った。


「おはよう!」


凛が元気よくやって来る。


続いて小夜。


刀也。


迅。


与一。


紅葉。


綾女。


そして――


「……ふぁぁ」


大きな欠伸をしながら歩いてくる美鈴。


明らかに眠そうだ。


しかも腕を引っ張っているのは紅葉だった。


「ほら美鈴」


「朝の修練です」


「帰って寝たい……」


「駄目です」


「うぅ……」


誰が見ても、無理やり連れて来られたのが分かった。


晴真は苦笑する。


「今日は賑やかだね」


道満も静かに微笑む。


「せっかくだ」


「皆でやろう」


全員が輪になって座る。


晴真が説明を始めた。


「まずは瞑想」


「焦らず呼吸を整えて」


「霊力を安定させることが目的だよ」


皆が静かに目を閉じる。


深く息を吸い。


ゆっくり吐く。


紅葉。


綾女。


与一。


三人は難しそうな表情を浮かべながらも、少しずつ霊力を落ち着かせていく。


一方。


刀也と迅は苦戦していた。


「ぐぬぬ……」


「じっとしてるのって苦手だ……」


性格にはまったく合わない。


それでも。


武術試験での敗北を経験した二人は、一切文句を言わなかった。


歯を食いしばりながら集中し続ける。


そんな中。


「……すぅ」


「……すぅ」


美鈴だけは違った。


完全に寝ていた。


パシーン!


「いたっ!」


桜花の特製ハリセンが美鈴の頭へ炸裂する。


「修練中です!」


「寝ちゃ駄目です!」


「ご、ごめん……」


しかし。


五分後。


「……すぅ」


パシーン!


「いたぁ!」


「また寝た!」


「美鈴さんらしいね」


修練場に笑いが広がる。


結局その日だけで、美鈴は何度もハリセンを受けることになった。


やがて朝の修練が終わる。


刀也が晴真へ近寄った。


「なぁ晴真」


「日曜日に御堂家でやってる修練」


「俺たちも連れて行ってくれよ」


迅も勢いよく頷く。


「俺も頼む!」


凛、小夜、紅葉、綾女、与一も期待した表情で晴真を見る。


晴真は少し困ったように笑う。


「うーん」


「分かった」


「お爺ちゃんに聞いてみるよ」


「やったー!」


皆が一斉に喜んだ。


実技試験を終えてからというもの。


一年一組は皆、以前よりも修練へ取り組む姿勢が熱くなっていた。


その帰り道。


刀也が思い出したように声を上げる。


「そうだ晴真!」


「土曜日の午前中さ」


「陰陽術道具店へ行こうぜ!」


迅も目を輝かせる。


「新しい道具を見たい!」


その言葉を聞いた道満と凛が、同時にため息をついた。


「今回は」


「ちゃんと許可を取ってから行け」


二人の声がぴったり重なる。


刀也と迅は苦笑した。


「分かってるって」


迅は道満へ顔を向ける。


「そういえば」


「霊木で作った居合用の木刀」


「新作が出たらしいぜ」


その瞬間。


普段は冷静な道満の表情がわずかに動いた。


「……それは本当か」


「おう」


「職人の新作らしい」


道満は少し考え込む。


そして静かに口を開いた。


「それなら」


「私も行く」


「お前たちだけでは何をするか分からないからな」


その一言に。


晴真と与一は顔を見合わせる。


(本当は木刀が気になるんだよね)


(珍しいな)


二人は思わず笑った。


すると凛が腕を組む。


「五人は前科がありますから」


「私も行きます」


その隣で小夜が小さく手を挙げる。


「……私も」


「それなら」


紅葉も胸を張る。


「ワタクシもご一緒します」


綾女と美鈴は顔を見合わせた。


「分かりやすいね」


「うん」


二人はくすくす笑う。


「な、何がですか!」


紅葉は顔を真っ赤にして抗議する。


「別に!」


「道満様が心配だからではありません!」


その言葉に。


一瞬静まり返り――


次の瞬間。


「あはははは!」


「紅葉!」


「それ言っちゃってる!」


皆が一斉に吹き出した。


紅葉はさらに顔を真っ赤にしながらうつむく。


笑い声が朝の校庭へ響き渡る。


こうして、次の土曜日。


陰陽術道具店へ向かうメンバーは、朝の修練組全員に決まったのだった。

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